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十一話 あいつは俺の幼馴染ってやつだ



 とりあえずウォルフとキリリの謝罪と土下座を受け入れた。

 だけど、その後が面倒だった。


 土下座したウォルフがまったく動かないから、キリリが揺すってみても反応がなかった。頭が地面にめり込んだままだ。もしかして傷がまた開いてしまったのかと嫌な空気になってキリリがまた泣き出してしまった。


「嘘っ、ウォルフ! ちょっと、ねえってば!」


 一応、念のために脈を確認してみると普通に動いているのを確認できた。

 土下座しまたま動かない……つまり、これは……。


「あのさ、ちゃんと脈はあるから。たぶんまた気絶しているだけだと思う」


 その状態で気絶しないでよ。まったく人騒がせだなぁ。


「……そうですね。カイトはウォルフを仰向けにしてあげてください。わたしは回復の続きをします」


 巨体のウォルフを寝かせるのは大変かと思ったけど、意外とすんなりと横にできた。しかし、本当に巨体だ。こんなのに殴られたら本当に即死だよ。たぶん、神からもらったこの装備で軽減されたんだと思うけど、一瞬死んだと思ったからね。


 キリリが何か言いたそうな顔で俺のほうを見ていた。

 うーん、でもなぁって何やら悩んでいるようだけど……。


「ね、ねえ。あんたさ、ウォルフに女の子みたいとか言うのやめなよ」


「ああ、それで怒ったのか。あれは意識が途絶えたらまずいと思って言っただけで、本当にそんな事言うつもりなかったんだよ」


「だったらいいけどね。ウォルフは小さい頃、病弱だったんだのよ。それで女の子言われすぎてね。本当に久しぶりにキレる所を見たわ」


 いきなり殴られたのが哀れだと思ったんだろうけど……。でもウォルフ相手に女の子のおの字の欠片もない男に、そんな単語すらでないと思うけどね。


 ちょっと荷馬車のほうを見ると、ルリが助けた三人が荷物をまとめ直していて、大変そうだった。俺の視線を見て、キリリは話して来る。


「そこで荷物まとめている人がうちらの依頼主のハースさん。あとは奥さんと娘さんだよ。分かっていると思うけど、護衛の依頼を受けたってことさ」


「一台しか荷馬車がないから、まとめているのか。あれって手伝ったほうがいいのかな」


「やめときなって。必要だったら向こうから声をかけてくるからね。あの作業、結構大変なんだよ。中身知ってるやつじゃないと、どうまとめるのかも分からないから邪魔になるだけだよ」


 荷馬車の奥の付近を見ると、ちょっと大き目な大木に盗賊達がまとめてロープで縛られていた。あれ結構大変だったんじゃないかな、十七人もいるよ。


「そういえば、あの盗賊達はどうなるのかな?」


「ああ、あいつらは、ロープで縛ってあのままだよ。街で守衛に連絡すれば連れて行くと思うから。その後は牢屋行きだろうね」


「あれで数日って下手したら……」


「人を襲って好き勝手に命や物を奪っているんだ。あんた、勘違いしているようだけど、あたしら殺されるところだったんだからね。捕まった後は、どうなるか分かっているだろうさ」


「参考までに聞きたいんだけど、どうなるの?」


「奴隷だね。容姿が良けりゃ誰かが拾うだろうし。残れば開拓や炭坑の労働力として死ぬまで働かされて終わりだね」


 盗賊は捕まったら、もう終わりって事か。改心しろって言った所で無駄なんだろうなぁ。狙われたら、追い払う……いや、徹底的に潰したほうがいいってことか。

 ルリも危ない目にあったし、気楽に旅もできやしないなぁ。


 しばらくしてルリが戻ってきた。


「……回復が終わりました。もう大丈夫ですよ、キリリさん」


 ルリが回復魔術であるリカバーをかけたおかげで、今度は完全に回復したようだ。特に回復が早い事に驚いた様子だった。

 弱っていた自然治癒力が回復したおかげで問題なく全快できたらしい。

 無理して起き上がれたくらいだから、ルリが思うよりも回復していたって事なんだろう。


「「申しわけありませんでした!!」」


「あ、あのね、もういいから」


 ウォルフがキリリと一緒になって、また土下座の謝罪がくるのでやめさせたけど、地形が変形しそうな事はやめてほしい。こっちが逆に悪く見えるじゃないか。


「……回復はしましたけど……無理はしないでくださいね」


「くぅぅーっ! 旦那を殴ったってのに回復までしてもらって、どれだけ慈悲深いんだ! 神官ってのは強欲な奴ばっかりだと思っていたんだがな」


「ほんとよ。あいつらお金にうるさいからねえ。ルリには感謝してもしきれないわ」


 そこにウォルフとキリリの雇い主のハースさんがやってきた。

 ルリが神官ってどういう事なんだろう。

 やっぱりここでは知らない常識が多い気がするな、ちょっとキリリと話しただけでも盗賊がどうなるかについてもそうだった。ルリが神官と言うのもどこかに理由があるのだろう。


「お礼が大変遅れて申し訳ありません。助けていただき、ありがとうございます。本当に助かりました」


 ハースさんはルリに向かって言う。

 ルリは俺を少し横目にチラリと見ながら応じている。


「……わたしが助けようと思っての事ですので」


「こうして生きていられたのです。銀貨10枚でどうでしょうか?」


「……その……」


 またルリがこっちを見ているけど、どうしたのかな。

 お礼が受け取りにくいってことなのだろうか。


「あの、俺たちも街に行く途中だったので、同行させてもらえませんか。あと、食事のほうもお願いしたいのですが、どうでしょうか」


「そうですか。それでよろしいのですか?」


 ハースさんはあくまでルリに聞いてくる。

 困っている様子ではないんだけど、ルリはどうしたんだろう。


「……はい。それでお願い致します」


「分かりました。こちらも助かります」


 横から割って入るようにウォルフとキリリが出てきた。

 ウォルフは頭をかいて、言いずらそうにしている。

 それにキリリが痺れを切らしたのか、ウォルフの足を思い切り踏みつける。


「あの、ハースさん。この度の件、雇用主を守れきれない失態を犯してしまい申し訳ありません!」


 ウォルフも一緒になって謝罪している。どうでもいい事だけど、土下座で地面を壊さないと気が済まないのだろうか。もの凄く力強過ぎるんだよなぁ。


「あんな数の盗賊、私も襲われたことがありません。しかし、私は無事でした。むしろ生きている事に感謝していますよ」


「いや、しかしですね。雇われた俺たちからしたら言い訳にもならないんですよ」


「雇用主の私がいいと言っているのです。無事だった結果もある。何も問題はありません」


「……分かりました。お言葉に甘えさせてもらいます」


 少しの沈黙のあと、ウォルフは引き下がった。

 納得していないようだったけど、さすがにハースさんの気持ちを無下にもできないと判断したのだろう。


「では準備もできたので街に向かいましょうか」


 ルリはハースさんの奥さんと娘さんにもお礼を言われた後、馬車には奥さんと娘さんが乗ることになった。

 俺はお辞儀されたくらいだったけど、ルリしか活躍していなかったからしょうがない。豪快にぶん殴られたおっさんという認識なんだろう。


 荷馬車はゆっくり進むことになった。

 もう一台の荷台の荷物分も詰め込んでいるから当然だろう。

 引いている馬もしんどそうだ。少し軋むような音をしているけど、あと少しで街だから何とかなるだろう。


「さて、ようやく移動できるようになりました。この速度だとあと一日と少しかかるくらいでしょうか。本当ならもう到着している予定だったのですけど、命も荷物も無事だったので贅沢は言えません」


 ハースさんは歩きながら皆に伝えた。

 早歩き程度の速度だから全然問題ないけど、このペースで一日ちょいか。

 もう割と近い場所に街があるのか。


 歩道が整備されている訳でもないけど、それなり人が往来しているからなんだろう。割と平坦な道になっている。


 ウォルフが俺とルリを交互にみて話してきた。


「改めて礼を言うぜ。俺はウォルフだ。一応ギルドに所属している。街までだけどよろしくな」


「あたしはキリリ。見ての通りの魔術使いね。ウォルフと同じギルド所属。よろしくね」


「俺は、カイト。えーっと、ただのおっさんですけど、ルリの夫です」


「……わたしはルリ。……カイトの妻です。ずっと東のほうの……カルレアからカイトと来ました」


 ルリがいきなり爆弾発言をしてきた! と思ったけどそういう風にするって話だったからいいのか。

 何だか慣れないけど、これを否定すれば「何なのあんたたちは」って話になりかねない。面倒な追及もありそうだし、このままにしておくしかないか。


 それにしてもカルレアって何だろう。


「カルレア? そんなのあったっけか?」


「あたしも聞いたことないわ。……って、あれ? いや、あるよウォルフ、ずーっと東の辺境の地じゃない? 前にどこかで聞いたことあるわ」


「ああ? 辺境の地? うーん……あったかぁ……あ! あった、あった。確かにキリリと一緒に聞いたことあるな! どこだか忘れたけど本当に何もない所なんだって思い出したぜ!」


 ウォルフもキリリも思い出したって感じになっているけど、明らかにおかしい。後から取って付けたような思い出し方をしているけど、どういう事なんだろう。


 小声でルリに聞いてみる。


「なぁ、ルリ。今のってどういうこと?」


「……母様は、旅先での事も考えておられているのです。……転移者は辺境の地カルレアから来たという事で無用な詮索を避けるためでもあります」


「それがカルレアって場所のことなのか。そんなことできるんだ」


 そんな設定になっているなら最初から教えて欲しかったな。まあ、あの神様だと毎回伝え忘れているような気がしてならないけど。


「……母様に感謝を」


 歩きながら軽く祈るようにして神に感謝をしているみたいだ。

 どうでもいいけど歩きながらだとちょっと変だな。


「あんな辺境の地っていっちゃあ悪いが、それならこっちに来るのも分かるな。俺も名もないような村から飛び出してきたからな」


「そういう何もない所から飛び出しちゃうってのは、あたし分かるわー」


「そういう何もない村とかに食い物や道具を売りに来てくれるのが俺等の雇い主、ハースさんってワケだ。それに俺等みたいなギルドに邪険にされているようなやつを雇ってくれるんだからよ」


 ウォルフの声を聞いていたハースさんが話してきた。


「そんな大層なものではないですけどね。商品を届けることで感謝されるのが私の原動力みたいなものですよ。さすがにお金は取りますけど、村にはなるべく安い価格で提供していますよ。ウォルフさんキリリさんみたいな腕利きは中々みつからないのも確かです。まったく、最近の冒険者ギルドはどこかおかしいですね……」


「……まあ、俺も色々同感なんですがね。それをギルドには言わないほうがいいですよ」


「あっはっは。さすがに私も商人ですよ。そのあたりは心得ています」


 ハースさんは忠告されたのがおかしかったのか笑っていた。

 そりゃ商人相手に会話に気を付けろってそんな話もないか。

 そういう話の機微に長けていないと商人なんてできないよね。


「ウォルフはバカなんだからハースさんに何言ってるの! ハースさんこのバカには後でちゃんと教えておきますので」


 キリリはウォルフのお尻に蹴りを入れて、謝った。まあ、分からないでもないけど、ウォルフにキリリの攻撃なんてまったく意に介さないだろうに。


「いいんですよ。そういう何気ないことで、発見があるのが会話というものですからね」


 ウォルフの発言にも笑って返すし、ハースさんは優しい人だね。商品を村に回って販売しにいくのも、荷馬車使ったとしても結構大変だと思う。携帯もGPSも無い世界で、道を覚えておかないと迷ってどうなるか分からないし、そう考えるとこの世界は恐ろしいと思う。迷ったらある意味アウト的なところがあるし。


 そういや、ウォルフに関して気になった事があった。やっぱり冒険者ギルドの話だ。ウォルフの強さ的なものとかもそうだけど、邪険にされるって何したのさってのもある。


「そういえば、ウォルフって滅茶苦茶強いと思うんだけど、冒険者ギルドだと何番目とかあるの?」


「強さが何番目とかはねえよ。ランクの事を言ってるなら、俺は……B級……だよな、キリリ?」


 そこでキリリに話を振るのかよく分からないんだけど。

 それにウォルフが自分のランクを答えるのに、何でキリリに確認するのだろうか。

 話を振られたキリリは答えにくそうに話した。


「そ、そうだね。ウォルフはB級、あたしもB級って感じかな。あと、もう一人腐れ縁の男がいるんだけどねぇ……あいつはC級だったっけ?」


「あいつは特に暴れ過ぎたせいだなぁ。本当に戦闘狂は手に負えねえぜ」


「あんたも大して変わらない気もするけどねぇ」


「俺はあいつよりまだ冷静だと思うんだがなぁ」


「へぇ……()()ねぇ?」


 キリリがちらりと俺とルリのほうを見ると、ウォルフはまいったとばかりに頭をかいた。


「い、いやあ。アレはすまねえと思ってるんだ。だけどよ、あいつはそんなもんじゃ止まらないだろ」


「あんたが止めに行かないと面倒だからねぇ。どっちもどっち?」


「あのさ、あいつって誰なの?」


「戦闘狂のガレイム。あいつは俺の幼馴染ってやつだ」


 ウォルフがそう言うとその拳を強く握りしめた。




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