エピローグ
「暗いね、電気つけようか。」
桑子は落ち着いた声でそう言った。
「ごめん、私持ってない。」
「そっか。」
それにしても暗い。
時計も手元に無いので今が何時なのかわからないが、きっと夜ではない。もちろん朝でも、昼でも。
暗すぎて、桑子の顔も見えない。
しかし、声は聞こえるので問題はない。
桑子の撫でるように優しい声が、私に直接響くのだ。
「随分来たね、ここどこなんだろ。」
「早く帰らないと。明日学校行かないといけないじゃない。」
「明日はないでしょ。」
「ああ、そっか。」
しかし、ここは寒いのだろうか。
寒すぎて寒いという感覚を忘れてしまったのかもしれない。
なぜなら桑子がそっと私の手を握っていることに、今ようやく気がついたからだ。
手の感覚がないのだろうか。
暗すぎてその手も見えないが。
「桑子」
「な、なにかあったの?」
「もしかして、怖い?」
「いいえ、貴女が居るもの。」
「そっか。…そうだね。えへへ。」
ぽくぽくぽく。
りんりんりん。
しゃらんしゃらん。
ちりん。
おうどいろ
映えたつめたき泉より
からすのついばむ
赤糸見れど
ちりん。
しゃらんしゃらん。
りんりん。
ぽくぽくぽく。
ぽくぽくぽくぽく。
ちりん。
「朝だよ、アイビー。」
「本当だ。明るい。」
「電気、いらなかったね。」
「うん。でも、明るすぎて見えないや。」
ご読了ありがとうございます。
どうでしょう、お分かりいただけたでしょうか。
よくわからなかった、という読者様。
拙作は敢えて斜め読みでは読み取りにくい小さな設定や事実を幾つも組み込まれております。
是非注意深く読み返して、物語の真意を探してみて下さい。
また、これから二周目という方は、以下の六つの点について注意して読み返してみてはいかがでしょうか。
一、時間を表す情景や表現の矛盾とそれに関する色の表現
二、花言葉
三、台詞のかけあい
四、感覚表現
五、古事記において遥か西北にあるもの
六、擬音
感想や考察などお待ちしております。