「革命」の公表
朝アルトに起こされて目を覚ました私は早速王宮へと向かう。
王宮では公表に向けて、バタバタと忙しそうに準備をする騎士や使用人たちがいた。
入り口には騎士のレイが立っている。
レイは正式な英雄の護衛に決まり、式のエスコートと護衛を任されることになったらしい。
「衣装は用意しております。王様が仕切るため、ユリ様がやることはほとんどありませんが、念のため打ち合わせを行います。準備が済みましたらお呼びください。」
と言われ案内された部屋には、今まで見たこともないほどの綺麗な服と、やる気に満ち溢れたメイド達が待ち構えていた。
「いきますわよ」というメイド長の声で始まった準備、一体どれぐらい時間がたったのかはわからない。
いや、実はあまり経っていないのかもしれない。
髪も整えられ、メイクもばっちりで田舎村で育った私には初めての事だった。
初めは「すごーい」などと声をあげていたが、メイクをするので顔を動かさないようにと注意されてしまい、そこから後は退屈で仕方がなかったのだ。
「出来ました!!それでは、私たちはこれで失礼いたします。」
そういってメイドは意外にあっさりと帰っていってしまった。
メイドたちが出ていったのを見て、レイとアルトが部屋に入って来る。
「ユリ姉ちゃん…なのか?」
「失礼な。まあ、私も信じられないけど…」
でもそれは私が今までメイクとかしたことないだけで…大丈夫、私はまだ伸びしろがあるはず。
「ユリ様のその衣装は、王様がユリ様のために作らせたものです。」
「私のために?」
「はい。ドレスでは女性らしさが出過ぎて英雄という強さが無くなってしまう。しかし、戦士のように戦闘服では女性らしさがなくなってしまう。この服は戦闘服を極力軽量化し、女性らしいデザインに仕立てております。」
「戦闘服を軽量化っていいんですか…」
「まあ、今この世界でユリ様に怪我をさせることができる者はいませんのでご安心を。」
え、それ安心していいの大丈夫?
と聞き返そうとしたが時間が無いらしく、レイは打ち合わせを始めた。
…
王宮前の広場には大勢の人が集まっている。
私は王様に呼ばれたら表にでて、国民に手を振る。
ただそれだけなのだが、人の多さかとても緊張する。
まあ、それもそうか。
私が英雄として認められなければ、この場にいる人たちを敵に回してしまうのだから。
なんて考えているうちに王様の演説が始まった。
「本日は国民の皆様に報告しなければならないことがある。ここに集まった人の中にも気付いている者も居ると思うが、この国に起こった現象についてだ。先日、不思議な光が世界を照らした。我々は審議会を設置、そしてこの現象を「革命」と呼ぶ事にした。我々が「革命」について知っていることは、この世界の力の上下関係が反転した、ということだけで、誰が何のために行ったのか、まだわかっていない。王国周辺ではスライムやファングがドラゴンを追いやっている姿も確認できた。くれぐれも、今までにように魔物に接触しないようにして欲しい。」
王様が「革命」について説明すると、国民たちは不安そうな表情を浮かべ、「大丈夫なの?」「どうなってしまうの」と口々に呟いている。
「皆が不安に思う気持ちはわかっている。そこで我々審議会は、この国を救う新たな「英雄」を発見した。紹介しよう。ユリ・ヒルデガード殿だ。」
今だ。
国民に嫌われないように、不安に思われないように。
堂々と、そして謙虚に。
私は王様の隣へ立って手を振る。
「これより、ユリ・ヒルデガード殿に「英雄」の称号を捧げる。」
その言葉に国民はワアアアアアッという歓声をあげ、拍手をで迎えてくれている。
歓迎してくれているみたいでよかった。
私は絶対に世界を救ってみせる。
国民たちの姿を見て、私はそう心に誓った。
式が終了したあと、「革命」についての説明と、新たな英雄の誕生を祝う記事が街のあちらこちらに貼り出された。
遠くの町や村にも報告されることになる。
受け入れてもらえるか不安だった私だが、この街の騒ぎ様を見てだ、なんとなく大丈夫なんじゃないかと自信をもってきた。
式の後、早速今後の私の活動について王様と話し合っていると、
「大変です、王様!!」
と、一人の騎士が慌てて入ってきた。
「街の外れのタルバ村に、大量のファングが押し寄せたのことです。村にいた騎士たちの誘導によって別の村に避難しましたが、このままでは危険です!!」
「なんだと!?ファングが森から出てくるなんて…騎士団を向かわせろ!!ファングの処理と、被害状況の確認、原因の解明だ、急げ!!」
騎士が部屋を飛び出した。
騎士団が向かってもファングを倒せる保証はない。
ここはきっと、私にしか出来ないことだと直感で分かった。
「私が行きます。行かせてください。」
王様は一瞬驚いた顔をしたが、無言で頷き別の騎士にアルトとレイに準備をさせるようにと命令を出す。
私は急いで宿に戻り、必要最低限の荷物を詰めてアルトとレイと合流する。
「ユリ姉ちゃんの初仕事だな。」
「そんな簡単なものではありませんけどね…」
「そうね。けど、絶対に助けてみせる。」
「行きましょう」
騎士団よりも早く、それで被害を最低限に抑える。
私たちはタルバ村へ向かって馬を走らせた。




