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最弱少女ユリ

 この大陸は5つの国によって分けられていて、それぞれの国が大陸の統一を目指し、戦争の絶えない日々が続いた。

 そのうちの国の1つ、アルノーラ王国の田舎の村に、

ユリ・ヒルデガードという、それはそれはひ弱な女の子が住んでいた。



 私の名前はユリ。

 私の住んでいる村には人身売買や臓器売買などから逃げてきた戦争孤児が多い。

 私も2年前にこの村に逃げてきた戦争孤児の一人である。 

 私は同い年の者達に比べると背も低く、周りから「痩せすぎ」と言われ続けている。

 親を戦争で亡くしたショックで、私は拒食症になってしまったが、村のみんなのお陰で症状を克服してきている。

 とは言っても、他の人の半分もご飯は食べられないし、周りの人たちとはまだまだ体格差がある。


「ぐぐぐ…こんのぉ…よいしょっ!!」


「ユリ姉ちゃん無理すんなって、今にも折れそうだよ」


 と、一人で米の入った大きな袋を運んでいると、アルトが軽々と袋を奪っていった。

 私が他の子どもたちと一緒になって農業を手伝っていると、いつもアルトが助けるのだ。

 私は他の人より痩せてるだけで「折れそう」って程じゃないと思ってる。

 まあ、アルトに比べれば全然細いのだろうが。


「もう…!あとちょっとで倉庫に着くとこだったのに。」


「だって運ぶのおせぇんだもん。ユリ姉ちゃんは大人しくしてろって。」


 そういってアルトはあっという間に倉庫へ行き、私の仕事を片付けた。

 アルトは私の2つ下の男の子で、同じときにこの村に来た、戦争孤児だ。

 アルトはぶっきらぼうでは在るものの、いつも文句を良いながら私を助けてくれて、私はそんなアルトを実の弟の様に可愛がっている。


 しかし、そんな日々は今日で終わり。

 戦争を続けているアルノーラ王国には徴兵制があり、男は13歳になると首都ネルダにあるアルノーラ軍学校へ入学することが義務付けられているのだ。

 アルトは明日から軍学校へ入学するためネルダへ旅立ってしまう。

 

「ねえ、アルト…無理しちゃ駄目よ。いじめられたら直ぐに言うのよ。私が助けにいってあげる。」


「いじめられないって、むしろ俺がこてんぱんにしてやるからな。ていうか、いじめられてもユリ姉ちゃんじゃ頼りにならないっつーの。」


 過去にこの村から軍人になった人が、もっとも活躍した軍人に与えられる戦士の称号をもらっていて、その後もこの村から優秀な軍人が輩出されている。

 そういう訳か、アルトも軍学校から目をつけられている期待の新人なのだ。

 事実、アルトはこの村で農業や狩り、魔物退治と色々やっているので、同じぐらいの年の者には負けないぐらい強いだろう。


「俺がいなくなったからって、一人で無理して倒れるんじゃねえぞ。」


「無理って、アルトが過保護すぎるだけよ。私は大丈夫なんだから。」


 次の日、アルトはネルダへと旅立った。

 アルトはこの村で一番と言って良いほどの強さがあった。

 そのアルトが居なくなってしまったので、今までより仕事の効率が下がることを懸念して、村人の仕事の割り振りももう一度やり直した。

 それほどアルトは村にとって大きな存在だったのだ。

 そんなアルトが居なくなって、ちょっとだけアルトの凄さを実感する。


「少しでも村の役に立たなきゃ。」


 周りの仕事量に比べれば全然かもしれないけど、毎日仕事を手伝った。

 そんな生活をしているある日の事。

 アルトから1通の手紙が届いた。


「村の皆へ

 軍学校に入学して1ヶ月が経ちました。先日行われた新入生の実技試験で1位をとりました。これは村のみんなと一緒に頑張っていたお陰だと思っています。まだまだ強くなって、活躍するので楽しみにしておいて下さい。

 アルトより」


 たったこれだけの短い手紙だったが、アルトが元気にしていることも、頑張っていることもわかる、アルトらしい手紙だった。

 村の小さい子どもたちは、

「アルト兄ちゃん実技試験1位だって!!」

「流石俺らのアルト兄ちゃんだ」

「アルト兄ちゃんよりも強くなるぞ!!」

とはしゃいでいた。

 口出していないだけで、村の大人たちだってアルトに負けないように頑張ろうときっと思っているはずだ。



 その夜、突然外が昼間のように明るくなった。

 村の者たちは「なんだなんだ、敵襲か?」「なんでこんなに明るいんだ」と騒ぎながら皆家から出て、空を見上げる。

 そこにはまるで太陽の様に眩しく輝いた月が浮かんでいた。


『こんな世界、弱いものが可哀想だわ。私が作り替えてあげる』


 という若い女の声が、空から聞こえてきた。

 どうやら皆も聞こえているらしい。

 少しずつ月の光が弱まって、元に戻った。

 私たちはこの言葉の意味が分からなかったが、なんとなく嫌な予感がした。

 私はなにも起こらないことを願いながら眠りについた。

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