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自由人、テンプレをやり遂げる

「で、どのクエストが良いんだ?」

依頼書がたくさん貼られた掲示板の前でハルトは腕を組み、ザスキアへ尋ねる。


「そぉですね、単体での戦闘はさっきヤりましたし、この辺のゴブリンの巣穴退治あたりが良いんでねぇでしょーか」

くひひ、とザスキアは笑む。


「たしか依頼はランク分けされてるんだっけ? 巣窟退治とやらは? ……は、Cランク? 肩慣らしにもならんだろ。ここは派手にAランクとか、せめてBランクにしね?」

ハルトは適当な紙をトントンと叩く。そこには『推定B。パーティ推奨』と書かれていた。


「ハルトさん、ランクの低い者は規則によって、あまりランクの高い仕事はできないのれす」

Eランクの冒険者は特例がない限りAランクの依頼を受けられない。その逆、Aランクの冒険者も原則としてDやEランクの仕事をすることが出来ない。ザスキアはふふんと笑う。



「そっか……ま、明日あたりにCランクとかになれば関係ないか。よし、受付に行ってくる」

ハルトは納得すると、ザスキアと共に先ほどの受付嬢の所へ向かった。


「ダメです。あなた方が受ける事は出来ません」

受付嬢はキッパリと言い放った。


「なんでだ」


「当たり前です。EランクがCランクの、しかも集団殲滅の任務? パーティも組まず? 無理です」

受付嬢は呆れたようでため息をついた。


「なぜだ、俺らは強いぞ」


「知りません。とにかくEランクは手始めに雑草毟りとか街の猫探し……武器を振り回したいなら鍛冶屋の手伝いや草原のスライム討伐とかをしてください」

断固拒否の意を示す受付嬢。

が、ザスキアが黙っていなかった。


「なんでれすか!? ハルトしゃんはツヨイです! ここらへんの奴らケチョンケチョンです。魔王も倒せます! ゴブリンなんて千切っては投げ……いいやウィンクで瞬殺デス!」

ザスキアがギャアギャアと騒ぐ。


「どれだけ強かろうと知りませんから。ランク上げてください。今日の英雄も草むしりから始めました」


ザスキアはむくっと頰を膨らますと、

「分からず屋デスねこのお役所のチキン。いーです、ハルトしゃん! さっき掻っ払った金です! 全部出してください!」

ザスキアはハルトへ手を向ける。


(意外と負けず嫌いというか……自己中なんだな)

いやただのクソガキかもしれないなどと考える。

「いいのか? 金だぞ?」


「イイノデス! どうせ金なんてすぐ稼げるです!」

そう言ってザスキアはハルトの取り出した小袋を受け取ると、受付嬢の手元へ持っていき、


「金貨18枚と銀貨4枚です。これやるから受けさせろ」

ザスキアはニヒルな笑みを浮かべる。


「……呆れた。金払って死にに行くなんて、頭イかれてますね」

受付嬢はまたもため息をつきつつ、小袋を受け取る。


「交渉成立デス☆」

「…………こんなんで良いんだ」

ハルトはしばし呆然としていた。


「さ、いきましょハルトさん。汚物の群れが金品抱えて待ってます」

ザスキアはキャハッと笑う。

ハルト達はギルドの出口へ向かう。


「おい待ちな兄ちゃん」

ハルトの背後から声がかかる。ハルトは振り返った。その瞬間、強烈な打撃がハルトの左頬にめり込み、そのままハルトは吹っ飛んだ。そしてテーブルに激突した。


「ごっふぁ、うべッ、おぉ……カハッ」

突然の事態にハルトは混乱した。

(痛い、頰が痛い。あぁああ、誰だ誰だ)


ハルトは殴ってきた相手を見据える。その者は筋骨隆々な男だった。仁王立ちでハルトを見据えている。

「て、てめぇ……ぐぅぅ」


「おうおう悪ぃな兄ちゃん。だが受付嬢のレイラさんに迷惑かける奴ぁ見過ごせないタチでね」

「ハルトしゃん!」

ザスキアはハルトの元へ駆け寄った。

ハルトはザスキアの手を借りて起きる。


「おらぁBランク冒険者のジャンってんだ」

ハルトを殴り飛ばした筋骨達磨がそう名乗る。


「ハルバートのジャンさん!」

「アビニョン1の冒険者ジャンさん!」

「レイラさんに密かな想いを寄せるジャンさん!」

「デートに誘ったら筋肉は無理と素気無く断られたジャンさん!」

「心痛めて以来筋肉落とすために菜食主義者になったジャンさん!」

周りでジャンの仲間と思われる者達がヤジを飛ばす。


「くそっ……この筋肉め」

「ハルトさん、イベントです!」

苦い顔をしたハルトに対してザスキアは嬉々とした表情を作った。


「これは俗に言う新人いびりをフルボッコにしてあのルーキーやべぇぜ、ってなるよくある展開です! ヤっちゃいましょう!」

ザスキアは握り拳を作った。

「……そうなのか! ハッ、遅れを取ったがまぁ俺らの敵じゃねぇ。てか俺ら2人に敵はいねぇ」

ハルトはクククと悪笑すると、立ち上がり、


「こういうイベントを待ってた! おい筋肉達磨! 命乞いは聞いてやるぜ?」

ハルトはジャンへ指を突き付ける。


「ぁあ? このガキ、舐めてんじゃねぇぞ!」

ジャンはハルトへ突っ込んで行った。


「それが遺言か! ザスキア、行くぞ。オーバードライブ!」

ハルトとザスキアはジャンを敵と認定した。そして、ハルトの身体が淡く輝き出す。


「うおっ、なんっぶべらっ」

突如輝き出したハルトに警戒し、止まろうとしたジャンはしかし、突っ込んできたハルトの右拳に左頬を打たれ、吹っ飛ぶ。


「……お、あんま強くないなこいつ。さっきの馬車護衛してる奴の方が強かったな」

ハルトは手をニギニギすると、吹っ飛んだジャンを見据える。どうやら『超越の加護』で上書きしたものの、パワーダウンしたらしい。さっき吹っ飛ばされたのは油断ゆえだったようだ。


「て、てめぇ……うぉおお!」

ジャンは怒りの吐息を吐くと、近くにあったイスをハルトへ向かって投げた。そして自身もハルトへ突っ込む。


「バカだなぁ。今の俺は」


ハルトは呆れ顔で飛んできたイスを押し退かすと、腰元へ右拳を溜め、


「お前より強い」


突っ込んできたジャンの鳩尾へ滑り込み、拳を叩き込んだ。


「がぁ……ぁ……」

ジャンはそのまま倒れ伏した。気絶である。


「はっ、雑魚め。ま、肩慣らしにはちょうど良かったな」

ハルトは高らかに笑った。


「しゅごいですハルトさん! まぢ感激です!」


「ハハハ、だろ? ま、お前のおかげでもあるけどな」


「それでもハルトしゃんが成し遂げた事です。まぢ濡れ濡れです!」


「ハハハ、え、どこが?」


「このまま討伐依頼もこなしに行きましょぉ!」


「おー!」


ハルト達の冒険は始まったばかり。


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