自由人、異世界に立つ
春人が目を覚ますとそこは大草原だった。
「ここは……草原? 」
春人は辺りを見回してそう判断すると、立ち上がり、歩き出した。
(とにかく人里へ行かなきゃなぁ……あれ? 言語って通じんのかな?)
「あ、待てよ」
春人じは地面を見渡す。
「…………ない」
そう、先程女神に貰った宝箱がないのだ。
「……俺もう死ぬかもな」
春人は不安になりだした。しかし、ふさぎ込んでいる訳にもいかないからしぶしぶ歩く。
しばらく歩くと……。
「あれ? あれは……」
春人が見つけたもの、それは、
「えっと……ゴブリン、か?」
その姿形からそう判断した。春人の背の三分の一くらいだろうか、醜悪な緑の小人である。
「…………逃げなきゃ」
そう判断した春人は反対へ走り出す。
走りながら後ろを見つつそういえば、と春人は思い出す。
(こういう系のってたしか鑑定とか着いてんだよな……)
そう思い春人はステータス! と叫ぶ。
すると、春人の眼前に……何も現れなかった。
「なんだよ……ま、ステータス概念がないだけだろ。近くの街でも見つけて、情報収集するか」
ハルトはすぐに切り替えられる性格なのであった。鼻歌を歌いながらしばらく走ると、
「ギギャア!」
真後ろから鳴き声がしたので春人は嫌な予感を覚えながらも振り返った。
「くぁwせdrftgyふじこlpふじこふじこ」
ゴブリンが飛びかかってきていたのだ。春人は悲鳴をあげながら、そのままゴブリンに押し倒されてしまう。
ゴブリンは腕を振り上げ、春人の頭へ拳を叩きつけた。
「ぎゃ!」
春人はたまらず頭を抱える。ゴブリンは追撃を掛けてきた。
「し、死ぬ! 死んじゃう!」
(な、なんとか……なにか )
春人は混乱して腕をがむしゃらに振り回す。が、
「あぎゃああ!」
ゴブリンの振り回す腕が運悪く春人の右腕をへし折った。
「アァアアアアア!! くそっ! 誰かっ! てかチート能力は!?」
春人は叫んだ。しかし周りには何もない。ただの草原である。
「オーバードライブと叫んでください!」
突如ハルトの耳に少女の声が木霊した。
「!? オーバードライブ!」
ハルトは叫ぶ。すると突如、ハルトの全身が淡く輝きだした。
「これはッ……。あれ? 痛く、ない?」
今もなおハルトに馬乗りをしているゴブリンの連撃。右腕が折られるほどに痛かったはずなのに、今もなお殴られているのに、
「痛く、ない……。痛くないぞ!」
ハルトは胸が高鳴った。オーバードライブと叫んだ瞬間、危機感が消え失せた。
ハルトは左腕を振り上げ、ついでの上体も上げる。ハルトの殴打が首に当たったゴブリンは吹き飛んだ。
「ギギャァ」
ハルトはよろりと立ち上がると、吹っ飛んで倒れたゴブリンを見る。
「くっはは、なんだこの高揚感、全能感は……」
ハルトは左手を握り締める。ちなみに折れた右腕はアドレナリンで痛みが和らいでいる。
「俺、強い」
ハルトはゴブリンをギラリと見据えると、疾駆。起き上がろうとしたゴブリンを光を帯びた右脚で蹴り上げた。
「ギャ……クッ」
高々と打ち上げられたゴブリンは地面に首から激突。絶命した。
「おぉ、すげぇ……って、死んだ、んだよな?」
ハルトは恐る恐る近づいていく。
「あれはもう死にました。おめでとうございましゅハルトしゃん。初勝利ですよ〜」
ハルトの真後ろから声がした。ハルトはギョッとして振り向く。
そこには1人の金髪美少女が立っていた。
「君は……」
金髪美少女はニヤリと笑う。キラリと見えた八重歯にハルトはドキッとした。
「ワタシはザスキア。女神様の命でハルトしゃんをサポートすることになった天使様デス! 困った時は頼ってくらさい☆」
そしてニコッと笑う。
「ザスキアさん……。あの女神様が遣わしてくれたのか。知ってるだろうけど、俺は神崎春人。よろしく頼む」
ハルトはぎこちなく笑む。
「ヒヒッ、そんな固苦しくしないでくださいよぅ。もっと快活開放的にいきましょぉ」
どうやら自由奔放な少女のようだ、とハルトは納得する。
「そういや、オーバードライブって囁いてくれたのも君だよな? あれって……」
「あい! ハルトさんの能力でふ! 名は『超越の加護』。敵と認識した対象よりちょっとばかし高い戦闘力を得て、敵をバッタバッタです☆」
ザスキアの解説にハルトは高揚した。
「つまり……世界最強ってことか!?」
「あい! ハルトさんとアタシが敵と認識すれば誰にでも勝てますデス」
そう言ってザスキアはハルトの両の手を取る。
本当だろうか、とハルトは一瞬思ったが、ザスキアの満面の笑みを見て、本当に違いないと信じ込んだ。
「つまり俺と君がいれば何も怖くない!」
「あい☆」
ハルトはザスキアと一緒に小躍りする。
こうして地球では根暗だった神崎春人と美少女天使(女神様)ザスキアの冒険譚が幕を開けた。