2つ目の要求
5章
「荷物を全て渡すって、そんなことできるわけないだろ。」
要求に従わなければならないのは分かっているが、荷物を渡してしまったら、僕たちは丸腰だ。
「では、ここまでだな。せいぜいスタート地点まで歩くと良い。」
「待って下さい。」
すかさずキルが呼び止める。
「渡した荷物はどうなるんですか?返してもらえるんですか?」
「もちろんだとも。」
はぁ、仕方ない、従うか。背負っていたリュックを下ろし、声がする方に投げる。
「これで全部だ。」
「まだ腕時計があるじゃないの。それも渡しなさい!」
マイノルの声だ。渋々身に付けていた腕時計を外しリュックの上に投げる。
「よかろう。では2つ目の要求へと移る。」彼らがそう言うと荷物が消えた。
再びマイノルが話し出す。
「2つ目はね、この道をもう少し進むと大きな崖があるの、そこから飛び降りて!」
「「はっ⁉︎」」
「何を言ってるんだ、そんなことしたら死ぬじゃないか!!」
さすがにキルも困惑している。
「大丈夫!死なないから!信じて!」
マイノルがとても元気な声で訴えてくる。どうする、キル。僕はキルの方を見た、彼女もこちらを見ている。
「あっ、言い忘れてた!飛び降りるのはどちらか片方だけにしてね。2人とも飛び降りると2人とも死んじゃうから。」
再びキルの方を見る。彼女は下を向いていて表情がわからない。数秒の沈黙が流れた。キルを飛ばせるわけにはいかない。
「僕が飛…。」
「分かった。私が飛び降りる。」
僕の言葉を遮るようにして、キルが申し出た。
「ダメだよ!君なら世界を救えるかもしれないのに、僕なんかよりもよっぽど…。」
「大丈夫。信じて。」
僕の両肩をがっしりと掴み、とても真っ直ぐな目でこちらを見てくる。でも、今回はキルの思い通りにはさせない。
「ごめん、君を信じてないわけじゃないんだ。でも、君を飛び降りさせる訳にはいくぅあ!」
ドシンッ。痛っ!キルは僕を思いっきり突き飛ばして、崖の方へ走り出した。油断していた僕は尻餅をついてしまった。急いで立ち上がって追いかける。背中の方から笑い声が聞こえる。
「キル−!」叫んでも止まる様子はない。まずい、すぐそこに崖が、ダメだ、間に合わない!!
キルは走り幅跳びをするかの如く何のためらいもなく飛んだ。次の瞬間、キルの姿は見えなくなった。崖っぷちに立って下を見るが、真っ白な霧で何も見えない。僕はショックで目眩がする。そんなことをよそに得体の知れない生き物はまた話し出す。
「はーい。では3つ目のリクエストでーす。3つ目のリクエストは、川の上流にあるワタシタチの住処まで来てね!さっきの川を辿れば着くよ。じゃあ住処で待ってるよ!」
その言葉を最後に話し声は聞こえなくなった。砂利を踏む音が遠ざかっていく。僕はショックのあまりその場から動けない。自分は何て軟弱者なんだ、最低なやつだ。ごちゃごちゃ考えなければ、彼女は飛び降りずに済んだのに。自分に腹がたつ。いけない、ここで立ち止まっていたら、キルの勇気が無駄になってしまう。いくら後悔しても時間を戻すことはできない。上を見上げると、太陽はもう真上まで来ていた。時間がない。キルだって、死んだわけではないのだから…。
それから僕は急いで川まで戻り、上流にある住処まで全速力で駆け上った。




