敵か味方かナニモノか?
4章
9月2日
ピヨピヨ、ピヨピヨピ、ピヨピヨ。
あー、眩しい。窓から差し込む光が顔に当たってる。何かで窓を覆っておくべきだったな、と後悔しつつ左手首についた腕時計を見る。針は5時を指していた。キルは起きてるだろうか。起き上がって、キルが寝ているはずのベッドを見る。寝る前は皺一つなくて綺麗だった布団が、ぐしゃぐしゃになっている。なんていう寝相だ。
「キル、起きて……。朝だよ。」
布団の上をポンポンと叩いてみるが、全く応答がない。
「キル、おい、起きろ。」
布団を少しめくってみた。
あれ、もしかして…
僕は慌てて、布団をバサっと剥がした。
いない!どこに行ってしまったんだ。まさか一人で冒険に行ったんじゃ、いやいや、もしかして逃げたのか。ヘルに連れ去られたのかもしれない。突然の出来事に頭の中がぐるぐると回り出す。なんで居ないんだよー。
ガチャンッ。
突然背後で扉が開く音がした。驚いて振り返ると、そこにはキルが立っていた。
「お、起きた?おはよう。」
何事もなかったかのように、普通に部屋に入ってくる。
「突然いなくなるなよ。心配したじゃないか。」
「ごめんごめん。朝の散歩に行ってただけ。スヤスヤ寝てるから起こしたら悪いなと思って。ごめんね。」
そう言いながらも笑っている。可愛らしいなー。はっ!いけない、何でそんな風に思うんだ、こいつは悪者だぞ。自分にそう言い聞かせ、頭を横に振った。
支度を済ませると僕たちは早速村を出た。出発時刻は6時30分頃だった。小道は狭く、草木が生い茂っている。まるで獣道である。村では、からっとしていた空気が、ここでは湿気を帯びているせい重たい感じがする。ジメジメして、服が体にくっついて気持ち悪い。背の高い木は、葉がよく茂っているため日光を遮り、地面を薄暗くしている。薄暗いのは嫌いだが、暑くないという点ではありがたい。
しばらく進むと小川に出た。
「この辺で一休みしない?」
「賛成!」
二人で近くの岩に腰掛ける。時計を見ると8時を指していた。朝食は家で済ませてきたからお腹は空いてない。そういえば、ヘルについて、ほとんど知らないな。
「ねぇ、ここまで何も問題なく来てるけどさ。ヘルをどうやって倒すの?そもそもヘルってどんなやつなの?」
「ヘルの倒し方かー。このゲーム内には穴があって、そこからヘルは入って来たの。だから、そこからヘルを追い出せば解決するはず。」
「穴がどこにあるかは知ってるの?」
「うん。最終ステージのお城の真上にあるよ。あと、ヘルがどんなやつなのか、だよね。どこから話そうかな…。話すと長くなりそうなんだよね。まぁ、いいや。ヘルは元々…。」
キルが説明を始めた時、右の方から砂利を踏む音が聞こえた。音はどんどんこちらに近づいてくる。
「しっ、何か来る。右の方からだ。違う、左の方からも聞こえるぞ。」
どこだ。何がいるんだ。
やがて音が止み、高い声と低い声が聞こえて来た。誰かが喋ってるみたいだ。
「誰この人〜。」
「この辺では見ない顔だな。」
「あら、ワタシタチが見えてないようね。」
「そのようだな。」
会話は聞こえているのに姿は見えない。
「誰だ!」
どこにいるか分からないので、辺りを見回しながら尋ねた。
「何なのこの人。口悪いわね。早くダマル茸を食べて喋れなくなってしまうがいいわ!」高い声が怒っている。キルはそんなの気にする様子もなく丁寧に質問した。
「あなたたちは誰ですか?」すると再び、
「あんたには関係ないわ!」と高い声が怒った。
「まあまあ、落ち着きなさい、マイノルよ。すまんな、失礼なことを言ってしまって、こういうやつなんだ。許してやってくれ。」
今度はお爺さんのような声が聞こえた。
一体何なんだ、この生き物は。姿が見えないなんて。どうやら、高い声の主はマイノルというらしい。この変な生き物の正体が気になるが、僕たちには時間がない。
「姿も見えないんだ。もう放っておいて先を急ごう。」そう言ってキルを促す。
「ちょっと待ちなさいな。君たちはワタシタチの道案内がないと森から出ることはできない。」再びお爺さんのような声が聞こえた。
え、どういうことだ?道は目の前にあるじゃないか。
「その道を歩いて行っても、元いた場所に戻るだけなのじゃよ。」
「何か証拠でもあるの?姿も見えないようなやつを信用するわけないだろ。」でも、もしこれが事実だとすれば、僕たちは先に進めない。ゲームオーバーだ。どうする、信用するべきか。
「まず、姿を見せてくれないかな。そしたら信用するか考えるよ。そちらについて、知らないことが多すぎる。」
あんな風に言われたのに、キルは冷静だなぁと思う。数秒の沈黙が流れた。すると、高い声のやつが痺れをきらしたのか突然喋りだした。
「ワタシタチが見えるかどうかは、あなたたち次第よ!!」
どういうことなんだ。僕たち次第って。
「あなたたちがワタシタチを信じなければ姿を見ることはできない。道案内もできない。」
どういうことだよ、全然意味がわからない。腕時計をチラッと見た。あぁ、もうすぐ9時だ。
「なるほどね。それで、私たちはどうしたらいいの?」
何がなるほどなのか。まさか、キルが信じるだなんて。
「え、キル、こいつらを信じるの?」
僕はまだ、このよく分からない生き物を疑っている。
「仕方ないでしょ。私たちには時間がないの。信じるより他にない。」
すると、お爺さん声の主が喋り出した。
「よろしい。ワタシタチが今から3つのことを要求する。それを揃えることができたら、姿が見えるようになるだろう。」
はぁ、僕は深いため息をついた。仕方ない、要求に従うか。
「…わかった。一つ目の要求は何?」
そう聞きつつ、変な要求が来ないことを全力で祈る。
「一つ目の要求は…。“君たちが今持っている荷物を全てワタシタチに渡すこと”じゃ。」
…。はい?




