事情と探索
2章
キルは噴水の端に腰かけつつ、説明を続ける。
「現ラスボスを倒して、私がその座に戻れば完了。でも、私一人では倒せない。君の協力が必要なんだよ。どうして君の協力が必要なのか、今は話せない。でも、信じてほしい。」
再び真っ直ぐな眼で見てくる。
「分かった。協力するよ。いつまでに倒さなくちゃならないの?」
「今日が確か9月1日だから、発売日の9月2日までに倒さないといけない。」
2日!全然時間がないじゃないか。
「じゃあ、早急に出発しよう。」
そう言うと、キルは勢い良く立ち上がった。
それから僕はラスボスとは何か、クリエーターが作るゲームとは何か、についてキルから説明を受けた。その時、ついでに現ラスボスをヘルと呼ぶことにした。そういえば、村長はキルにさらわれてなかったんだよな。じゃあ、この村のどこかにいるはず、もしかしたらヘルについて何か知っているかもしれない。
「ねぇ、キル。村長がどこにいるか知ってる?」
「村長か。確かヘルに連れ去られそうになってたからな。村の境界線を越えてからはどうなったか知らない。」
「境界線超えちゃったの!?じゃあ、村長は。」
「死んじゃっただろうね。」
「それってもうすでに、どうにもならない“問題”なんじゃないの?あと、村は滅びないの?」
「村は、元々滅びないようにプログラムされてるから大丈夫。滅びるっていうのは、あくまでゲームの設定上、そういうことにしてあるだけ。村長に関しては案外何とかなるかもしれない。とにかく、今はヘルを倒すことだけを考えよう。」
「そ、そうかな…。じゃあ、とりあえず、掲示板の続きを読むよ。」
掲示物2
この村は人口420人、戸数160戸。基本的な建物はその所有者じゃないと入ることが出来ないが、例外として、村の北に位置するお店にはだれでも入ることが出来る。
掲示物3
ほかの村への移動は村長の許可が得られないと出来ない。しかし、村の南にある小道からなら、この村から出ることが出来る。
「なるほど。小規模な村なんだなー。何か他にも情報があるかもしれない。もう少し調べるか。」
「そうだね。お店の方に行ってみる?何か使えそうなものがあるかもしれないよ。」
グ〜、ギュルギュル。しまった、しばらく何も食べてなかったせいで、盛大にお腹が鳴ってしまった。
「ねぇ、お店行く前に、僕の家に行って何か食べ物とか武器とか食べ物とかないか調べない?」なぜかキルが呆れた顔をしている。
「いいけど、時間ないんだから…。もっと危機感持ったら。」そう言って、僕の家に向かって歩き出した。
キー、ガチャン。
「ただいまー。」
「誰もいないよ。」
「分かってるよ。言ってみただけだって。」なんか、キルって悪役だからなのか、棘のある話し方なんだよな。そんなことを考えながら部屋の中を見渡す。どうやら僕の家には、今いる一部屋しか無いみたいだ。目の前にはボロっちいベッド、向かって右側には何も置かれていない机、椅子、数冊の本と、くしゃくしゃになって重ねられた紙がある本棚。左側にはクローゼット、僕の腰ぐらいの高さまである引き出しがおかれていた。壁の時計は14時を指していた。
「じゃあ、キルは部屋の左を探索してみて、僕は右を探索するから。」
「自分の部屋なのに探索って変なの〜。」
「仕方ないだろ、記憶が無いんだから。」
そうなのだ、僕にはほとんど記憶というものがない。幼少期の思い出も、友達との思い出も、何も覚えてない。覚えてるのは8月3日の出来事と、ここが自分の部屋だということだけ。あとは何も覚えてない。キル曰く、創造主が入れたデータ以外、僕たちには記憶がないらしい。ちなみに僕の名前はこのゲームで遊ぶ人が勝手につけるそうだ。
「そういえばさ。キルは最初変な話し方してなかった?偉そうというか。」
「ボスっぽくしてみただけ。本来のゲームならあの話し方だから。おそらく。」
「変なの。」
探索を開始して30分が経過した。本棚にあった本はどれも白紙で何も書かれていない。くしゃくしゃになった紙も広げてみたが、ボロボロ過ぎて全然読めなかった。キルからも大した連絡はない。クローゼットには僕のものらしき服が3着とマッチ棒があっただけらしい。しかも全部の服が今僕が着ているのと同じデザインだったそうだ。ちなみに、今の僕の格好は、ちょっとザラザラするベージュのTシャツに紺色のハーフパンツである。
「何これ。」キルが何か見つけたらしい。慌ててそちらに駆け寄る。
「何かの鍵かな。」キルが持っていたのは掌サイズの錆びがついた鍵のようなものである。よくみると持ち手になりそうな部分に何やら文字が彫ってある。
“十五ノ時ニマワセ”
「何これ、僕には全然意味が分からないんだけど。」そう言いつつ鍵を受け取る。
「十五ノ時、十五ノ時…あ、これって時計のことじゃない?そこに掛かってる。」キルが壁に掛けられた時計を指差した。
「外してみるか。」
僕は椅子を引きずってきてその上に立ち、時計を取り外した。ひっくり返してみると鍵穴らしきものがあった。
「ビンゴ!15時にこの穴にさして回せばいいんじゃない?」
「あと、20分か。まだ結構時間あるな。先に他のところを探索しよう。」
「了解!」
再び探索に戻る。次は机の中を見るか。あれ?ここにも鍵がかかってる。どこかに鍵があるのか?
「キル、あとどこ探索してない?」
「引き出しの下段二つかな、そっちはどう?」
「机の引き出しは鍵がかかってて開けれなかったけど、他の探索は済んだ。そっち手伝うよ。」
下段二つを開けてみる。上の段にはタオル、懐中電灯、水筒、空のリュックがある。
下の引き出しには…
「パンだ!!水もあるぞ!やった、食事だー!」お腹が空いて、死にそうだった僕は見つけたパンを必死に頬張った。とても美味しい。幸せな気分だ。もっと食べれるかと思ったけど、1つで満腹になった。
「もうそろそろ15時だよ。」
「え?」僕は時計を見る。
30秒前、20秒前、10、9…
まずい、鍵、鍵、鍵はどこだ?
「鍵なら時計に刺さしたままでしょ。」
「本当だ!」慌てて時計に駆け寄る。何で僕が鍵を探してるのがわかったんだろう。
「今だよ、回して。」
キルの指示のもと鍵を回すと時計の裏側が、カチャッと軽い音を立てて開いた。中には小さく折りたたまれた紙が入っている。広げてみると、そこにはこの村周辺の地図が描かれていた。
「わー、地図だ。多分ここが、今僕たちがいる村だよな。」僕はそれらしき場所を指でトントン叩いた。ふと、地図の東の方に描かれた、真っ黒な部分が目にとまる。
「この村以外に7つの村が描かれてるみたいだ。この真っ黒なところは何だろう。」
「そこがワーストエンドが拠点としている村だよ。私の故郷だね。」
「へー、思ったより小さいな。」
「地図ではね。とりあえず、探索を再開しよう。」
「うん。そうだな。」
探索を再開して10分が経過した。キルが担当していた引き出しの上段からは再び小さいな鍵が発見された。先ほどの鍵よりは錆びが少なく、やや光沢がある。僕には心当たりのある場所が一つだけあった。
「これ、机の鍵かもしれない。ちょっと貸して。」
そう言って、鍵を受け取り、机の鍵穴に差し込んだ。左に90度回すと、カチャッという音と共に引き出しが僅かに前に飛び出した。早速開けてみる。
「ん?ノートとペンがある。他には何も入ってないのか?」せっかく開けたのに、それだけしか入ってないなんて、ちょっとガッカリだ。
「無さそうだね。ちなみに、そのノートとペンはこのゲームで遊ぶ人間、すなわちユーザーがどこまで遊んだか、何をしたかを記録し保存しておくためのものだよ。」
「へー、そうなのか。使えるかわからないけど、一応持っていくか。」
先ほど見つけたリュックに食糧と地図、ノートとペン、タオル、懐中電灯を入れる。そして、キルが引き出しの中から見つけた腕時計らしきものを左手首に装着した。この腕時計らしきものには数字が円形に0から24まで書かれていて、さらに、それぞれの数字の横に円がかかれていた。
「よしっ、準備は出来た。次は村の探索に行くぞ。」




