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ゲームの中の物語  作者: 石川リョク
17/18

決着の時

17章



目を開けると、石畳が広がっている。どうやら抜け出せたみたいだ。

「何ボッーと突っ立てんの、こっちを手伝って!…グハッ。」キルのお腹にヘルの蹴りが入る。

「クソっ。抜けられたか。誰かの体が無いと思うように動けないってのに。」

そう言うとヘルは僕の方に向かって走ってきた。急いで攻撃態勢に入る。手の動きからしておそらく右フックが来るだろう。左手でガードしようとすると、突然目の前からヘルの姿が消えた。

え、うゎ!

背中から地面に落ちる。どうやら右フックと見せかけて、しゃがんで足を払ったらしい。地面に叩きつけれてギャフンとなる。その隙に顔面に向かってパンチが繰り出された。僕は首を傾けてかろうじて避ける。動きたいが、馬乗りされてるため動けない。

まずい、またパンチが…。

当たると思った瞬間、反射的に目を閉じる。だが、顔に何か当たった感触はない。おかしい。恐る恐る目を開けてみると、ヘルの右腕が消えたり、波打ったりしている。

「何でこんな時に、バグが発生するんだよ。」

何とか腕の状態を安定させようとしている。右に視線をやると、剣が落ちていた。腕を伸ばしてもギリギリ届かない、あと1センチぐらい腕が長ければ届くのに。それに気づいたヘルが剣を遠くにスライドさせた。

しまった、これじゃあどうにもできない。どうすればいいんだ。

そうこうしてるうちにヘルは状態を安定させたらしい。今度は全力で振りかぶって殴ろうとしている。もうダメだ。


あ!

ヘルの後ろにキルが立っている。殴られる、と思った瞬間、キルが後ろからヘルの首を絞め上げた。取り押さえられたヘルがジタバタしている。

「早く!剣を!」

キルにそう言われて急いで剣を取る。とどめを。

「どりゃーーー!」


叫びながらヘルの体に突き刺した。ちゃんと真ん中に刺さっただろうか。するとヘルの動きがコマ送りのようになった。そして顔がボロボロと崩れ始めた。

「下がって!」

キルが叫ぶ。僕は何が起きているのかわからないまま、その場から離れた。

すると、キルはヘルを抱えて飛んだ。天井に空いた大きな穴から外へ出すのだろう。飛行能力が無い僕にはキルが無事に帰って来るよう、祈ることしかできない。


しばらく上を見上げていた。まだ、帰って来ない。結局、僕は役立たずだった。キルに助けられるばかりで、大して何もできなかった。このまま戻らなかったらどうしよう。そんなことを考えていると天井一面に広がっていた大きな穴が一瞬にして消えた。普通の天井に戻ってる…これは、ヘルを追い出せたということなのだろうか。じっと天井を見つめる。

「ん?何か降ってくる。」

空から棒のようなものが降ってきた。剣だ。さしたままになっていたから、抜けたのだろう。今度は黒いものが降ってくる。人っぽい形をしてる。

「キル!」

飛んでない、落ちてる。気を失ってるんだ、どうしよう、地面に落下したら死んでしまう、考えろ考えろ。何かクッションになるものはないのか?そんなことを考えてる間にもキルは落ち続けている。まずい、落ちる!僕は全速力で走った。落下地点に着くと両手を大きく広げた。受け止めようと考えたのだ。僕も死ぬのか?

心臓が口から出そうなほどバクバクしている。来る!

僕は見事にキルを受け止めた。落下した勢いで二人とも死ぬんじゃないかと思っていたけど、思ったよりもキルは軽くて、全然衝撃がこなかった。剣よりも圧倒的にキルの方が軽い。

キルは目を閉じて、穏やかな表情をしている。寝てるみたいだ。

「キル?」

声をかけると、目を覚ました。そっと地面におろすと、辺りをキョロキョロと見た。

そして、天井を見て、ぼーっとしている。

「キル、大丈夫?」

僕が話しかけると目をパチクリさせながらこちらを見た。

「私、死んでない?生きてる?」

「生きてるよ。ねぇ、天井が塞がってるってことは…。」

「うん、倒したよ。ちゃんと追い出せたよ!!」

そう言うと、思いっきり抱きついてきた。なんか、何故だか分からないけど、心臓がドキドキしてる。

「く、苦しいよ、キル。」

そう言うと「ごめんごめん。」と言いながら放してくれた。

腕時計を見ると、針が0時に差し掛かっていた。

「これでお別れだね。そして、次会うときにはあなたは私の敵なんだよね。」

そう言われると、なんだかとても切ない気がする。

「うん…、そうだね。」

「私、あなたに負ける気しないや。」

そう言うと、キルはニッと笑って見せた。僕もぎこちなく笑ってみせる。キルは僕のことをどう思ってるんだろう。何とも思ってないんだろうか。

「僕は…。」

一瞬、言いかけたことが本当に言ってことなのか迷った。でも、言わなかったら後悔する気がした。

「ん?何?なんか言った?」

「僕は、君を殺したくなんかない。例え、無意識だったとしても、僕の意識じゃなくてユーザーの意識だったとしても、僕は君を殺したくない。」

そう言うと、頭の中のモヤモヤしたものが消えていった。キルは俯いてしまった。

やがてキルが口を開いた。

「そっか。殺したくないか…。」

「うん。」

「私もあなたとは戦いたくない。」

キルの目がウルウルしてるように見える。これは僕の気のせいかもしれない。

「あのね、あなたと私が戦わなくても済むことは、まずない。でも、このゲーム、実は特別なゲームなの。だから、もしかしたら私たちが殺し合いをしなくてもいい場合が出てくると思う。少しでも多くのユーザーが、戦わないという考えに至ることを祈りましょ。一緒に。」

そう言うと、キルは僕の手をとった。時刻はまもなく0時になる。

「僅かな時間だったけど、あなたと一緒に居ることができて嬉しかった。絶対にあなたのことは忘れない。」

握っている手に力が入る。

「僕もだよ。絶対に君のことを忘れたりはしない。」

その言葉を最後に、僕の意識は遠のいていった。


最後に見たキルの笑顔はとても優しくて温かかった。




(エピローグへ)

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