忍び寄る影2
13章
感覚の無い右脚を見るとそこには、先程足を切った影が何かに抱きつくようにして倒れていた。どうやら上半身だけで僕に近寄り、脚にまとわりついてきたようだ。さっき、僕の前にいた強い影が頷いていたのは、恐らくこの上半身のやつとコンタクトを取っていたからだろう。目の前にいる影にとらわれ過ぎて、足元に生き残っていたやつのことを忘れていた。強い影が真上から飛びかかってくる。ここで死ぬわけには。
素早く横に転がって、間一髪当たらずに済んだ。まずい、片脚無いと動きがかなり制限されるぞ。上半身の影は体力に限界がきたのか、地面を這いつくばっている。先程よりも、輪郭が滲んでいるように思う。強い影はこちらを見てゆっくりと近づいてくる。僕は座ったまま後ずさりした。
これで終わりなのか…。
上半身の方は力尽きたらしい。いつの間にか白い煙になっていた。
黒い影が僕の心臓に向かって手を伸ばす。殺されまいと剣を必死に振るが、そんな攻撃は簡単にかわされてしまう。
キル、僕はもうダメなのかもしれない。
目が無ければ涙も出ない。諦めてしまうのは悔しくて、悲しくて、申し訳なくて、無駄な抵抗だと思いながらも剣を振り回した。影が僕を見下ろしている。「何やってんの?無駄な抵抗なんてやめて、さっさとやられちゃえばいいのに。」とでも言いたげである。
剣を握る手にだんだん力が入らなくなってきた。もうダメか。そう思ったとき、前方から誰かが走ってくる足音が聞こえた。影もそれに気づいたらしく音がする方向に振り返った。この一瞬を僕は逃さなかった。最後の力を振り絞り、剣を影の体の中央部に突き刺した。
グオォォォ!
影は雄叫びのような、悲鳴ともいえそうな音を出して消えていった。
「っ–!何てこと。」
前から駆け寄ってきたのは声からしてキルである。僕の姿を見てとても驚いてるようだ。一体今の僕はどんな姿なのだろう。
キルが生きていたことが分かり、ほっ、と短く息を吐いた。安心したせいか、肩の力が一気に抜ける。声をかけたいのに、体力を消耗し過ぎたせいか呼吸するので精一杯だ。
「じきに失った部分は再生するから、大丈夫。目が見えるようになったら、恐らく楕円形の光が見えると思うからそこに向かって歩きましょ。そこが出口だから。感覚が戻ったら教えてね。」
そうやってキルが話しているうちにも僕の左手や右足には感覚が戻りつつあった。ものの数分で、失った部分は全て再生し元の自分に戻った。目を開けると前方に米粒ほどの大きさの楕円形の光が見えた。おそらくあそこが出口だろう。
「キル?感覚が戻ったよ。どこにいるの?」
「君の左隣に立ってるよ。一緒に出口まで行こう。」
そう言うと、僕の手首を掴んで起き上がらせ、そのまま出口に向かって歩き出した。キルは思いのほか力が強い。僕の手首は砕けそうだ。
「もう、手首を離してくれてもいいんじゃない?強く握りすぎだよ。痛いんだけど…。」
そんな僕の言葉は聞こえていなかったかのように無視して歩き続けた。
「着いたー!」
キルが僕の左手を離し、元気に外に向かって飛び出す。どこからそんな元気が湧いてくるのか。さっきまで握りしめられていた僕の左手はビリビリ痺れている。
外へ出ると、光が眩しくて、まともに目を開けられなかった。庇を作るようにしておでこに手を当てる。何度も瞬きをしているとその明るさに慣れてきた。どうやらここは室内のようである。地面は石畳で、突き当たりにある階段までレッドカーペットが敷かれていた。壁は長方形の石が、まるでレンガの壁のように積み重ねられていて、天井は僕らの数十メートル上にあり、巨大なシャンデリアが床を煌々と照らしていた。一体どうなっているんだ。
「ここは一体どこなんだ…。」
キルの方を見ると、この状況を説明してくれた。




