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勇者望月と天空の花嫁


ナレーター〖ついにここが異世界と知ることなく、残機を一つ減らした望月トオル。医神アスクレピオスにチョコレートを捧げ、ビキニ戦士ブリュンヒルデの攻略法を獲得し蘇生した。果たして贋作勇者は本物をねじ伏せる事が出来るのか〗


柿本「さて、本物の勇者に殺された望月くんですがどうなっているのでしょう? 贋作勇者に視点を移しましょう!ミニモニターにチェンジ!」


――PPPテレビ ドラマスタジオ


「はっ、ここは何処だ」


 目を覚ますとそこには見知らぬ天井が広がっていた。

 どうやら俺は質素な木材で作られた小屋の中に寝転んでいたらしい。


「いてて、体が全身くまなく悲鳴を上げているみたいだ。特に頭が痛い」


 いくら不死身の身体といっても残念ながら痛覚は遮断できないようだ。

 さっき死んだときに強く打撲したと思われる俺の頭部はたんこぶが出来ていた。


 しかし、ここはいったいどこなのだろうか。

 早いところメグミやヒロシのおっさんと合流しなければ。

 彼らは今頃勇者の後継者であるブリュンヒルデに歯向かった者として魔女裁判にかけられていてもおかしくない。

 

 えっ、異世界にも魔女裁判はあるのかだって? 

 そんなのあるに決まっている。ソースは今まで読んできた異世界転生小説だ。

 だからきっとこの異世界にもエルフの森はあるし、獣人娘の奴隷市もあるだろう。


 やっとの思いで身体を起こし、小屋の内部を見て回る。

 小屋は簡素だった。前世でいうところのダンボールで出来た小屋みたいだった。もろく、力をかけたら壊れてしまいそうだった。


 内装についても“なにも内装”なんて言いたくなるほど何もな――


 あった。いいや、この表現は正しくない。あってはならないものがそこにあったのだ。

 聖剣“エクスカリバー”。この世界では勇者制定の剣でもある。

 それがこんな質素な小屋の壁に立てかけてあった。なぜか傘と一緒にだ。


 普通の高校生だったらここで思考停止。脳がオーバーヒートし哀れにも爆発四散してしまうだろう。

 しかしアキレウスのごとき屈強な肉体と精神を持つこの俺、望月トオルは違った。俺はシャーロック=ホームズのごとき灰色の脳細―― 

 

 え、灰色の脳細胞はホームズじゃなくて名探偵エルキュール=ボアロが自身の脳細胞を指していった言葉だって!?

 ……もちろん知っていたさ。本当だよ。それに名探偵なんてどれも似た様なものじゃないか。


 まあいい。それで俺の東の高校生探偵顔負けの名推理によると、この小屋の持ち主は伝説の勇者の後継者“ブリュンヒルデ”だということだ。ふっ、あまりにあっけない事件だったな。簡単すぎ――


「……って、えええぇぇ。ここ敵陣だ。ブリュンヒルデの拠点だよ、ここ。コンテニューしたら敵陣ど真ん中かよ」


 俺は思わず絶叫する。

 アスクレピオス。あなたはなんてことをしてくれたのでしょう。

 せめて町にリスポーンさせてくれよ、神なんだからそのぐらい出来るだろう。


 しかし、これはこれで好都合。

 なぜならば勇者兼家主のブリュンヒルデはいまここにいない。

 さらに勇者の剣“エクスカリバー”はここにある。

 

 西の高校生探偵顔負けの頭脳を持つ俺が導き出した答えは――


「エクスカリバーを持って逃げるのだよぉ。そしたら晴れて俺が勇者だ。へへっ、ちょろいもんだぜ」


 数時間前に盗賊に対して改心するように迫っていた望月トオルもいたような気がしたが、それは平行世界の俺であってこの俺ではないのでまったく問題ない。


 俺はエクスカリバーを小脇に抱え、小屋から勢い良く飛び出した。

 しかし、その試みは扉の向こうから突如として現れた壁に阻まれた。


「うぎゅっ。いたたたた。なんだ、このやわらかい壁は」


 やわらかき壁は、俺の頭部を包み込む。

 熱量と質量があるソレが女性の胸部と気づいたのは、ひとしきりその感覚を味わいつくした後だった。


「いかんいかん。まずは状況を整理しなければ」


 俺はヘラクレスのような屈強な肉体と精神を持つ健全な男子高校生。この程度の事態では動じたりしない。

 胸部から何とか顔を引き抜き、女性の顔を見上げる。

 しかし俺の視界に入ったのは勇者様ことブリュンヒルデだった。

 なんということだろう。俺は敵の胸に顔をうずめていたのか。しかも堪能してしまったというのか。


 ヤバイ、絶対にコロされる。流石にアスクレピオス様に頂いた戦術もこんな状況では機能しない。

 ああ、俺の二機目はたった5分で死んでしまうというのか。最後に神に祈らせてくれ。“ラーメン”と

 俺は信仰する神、“空飛ぶスパゲッティ・モンスター神”に祈りを捧げると目をつぶった。


 次の瞬間、俺を襲ったのは聖剣“エクスカリバー“の刃ではなく、さっきまで味わいつくしていた胸の感触だった。


「アハハ、目を覚ましたのネ。良かった。お帰りなさい。ア・ナ・タ」


 彼女はそう言い、俺を力強く抱きしめた。いや、ちょっといた―― ギブ、ギブ。マジで死んじゃう。


「どういうことだ。ブリュンヒルデ。それに俺のこと“アナタ”って」


 俺は最後の力を振り絞り彼女に尋ねた。


「あら、ワスれちゃったの。“シグルド”。ワタシはあなたの“妻”ブリュンヒルデよ」


 彼女は満面の笑みを浮かべそうつげた。


「なんじゃそりゃぁぁ」


 俺の叫びが質素な小屋に響く。

 その時俺が落としたメモ紙にはこう書かれていた。


「貴様が演技でブリュンヒルデを騙せ。自分はシグルドであると信じ込ませろ。そうすれば何とかなろう。駄目だったらその時だ。頑張りたまえ、人間の若造よ。 医神アスクレピオス」


ナレーター〖なんとまさかの急展開。望月トオルはブリュンヒルデの夫、シグルドになってしまっていた。しかしどうやらブリュンヒルデ役の夏目メグの心境は複雑なようで。真の勇者は誰になるのやら。怒涛の展開に目が離せない。気になる続きは……〗

 

ナレーター〖CMのあとに〗

 

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