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夏目メグの動揺

 

ナレーター〖ついにここが異世界と知ることなく、残機を一つ減らした望月トオル。医神アスクレピオスにチョコレートを捧げ、ビキニ戦士ブリュンヒルデの攻略法を獲得し蘇生した。果たして贋作勇者は本物をねじ伏せる事が出来るのか〗

 

柿本「さて、望月くんを殺したブリュンヒルデさんですがどうなっているのでしょう? 本物の勇者に視点を移しましょう!ミニモニターにチェンジ!」

 

――PPPテレビ ドラマスタジオ

 

 私は夏目メグ。


 国際的な演劇集団”色彩”の主演女優だ。


 今は戦乙女であり伝説の勇者の再来”ブリュンヒルデ”という役をやっている。


 そんな演劇エリートたる私はいまどうしているかと言うと、頭をかきむしり悲痛な叫びをダンボール街に響かせていた。

 

「殺すつもりはなかったのよ〜。死んだあいつが悪いのよっ」

 

 まるで火曜サスペンス劇場の犯人の様なセリフを吐く。

 しかし、私は本当に殺してしまったのだ。この番組の主人公こと望月トオルを。

 

 事の経緯はこうだ。

 

 戦乙女であり伝説の勇者の再来”ブリュンヒルデ”たる私は勇者の権利を彼に渡す訳にはいかなかった。

 さらに彼は私を差し置いて主人公になったという大罪があった。

 また酒井プロデューサーへの恨みも彼にぶつけようと思っていた。

 

 そんな彼が自分から決闘を仕掛けてきたのだ。

 これはカモがネギを背負ってきたと同義である。

 もちろん私はその提案に乗った。

 今夜はカモ鍋だと思いながら。

 

「アハハ、これで彼をコロせるんだね」

 

 そんな危ない事を口走っていた様な気がする。

 しかし、実際に決闘と言ってもダンボールの剣を用いたものだ。

 だから私も全力で戦っても問題は無いと思ったのだ。

 

「この者は私を倒して真の後継者にナるんだって。いいじゃない。ヤラしてあげれば。アハハ、もちろんわたしをただの人間なんかが倒せるワケがないじゃナイ」

 

 私はこの辺りで本当に自我を捨て、ブリュンヒルデになっていたのかもしれない。

 そうでなければ5mはあろう演説台から飛び降り、無駄に空中で一回転を決めるなどという怪我のリスクしかない行動は慎むだろうからだ。

 まあ、演劇のシナリオによっては平気でることもあるが……

 

「アハハ、イイね、ぼく。イイ目をしているよ。特別にぼくと勝負してアげる。1対1のサシでヤろう」

 

 ……今更ながら、私の”ブリュンヒルデ”の性格設定はこれで良かったのだろうか?

 演じた時は酒井プロデューサーをぶん殴れるキャラクターと思って演じていたが、それにしたって”病んでるおネエさん”設定は戦乙女にはふさわしいなかったので無いだろうか。反省の限りである。

 まあ、それはそうとして、酒井プロデューサーはぶん殴るが。

 

 久々の新しい役を演じてテンションが上がっていた私は、彼を抱えて決闘現場まで跳躍してしまった。

 怪我出来ない大切な時期に。

 ただ”色彩”の劇団員ならば誰だってそのぐらいお茶の子さいさいではある。

 

「どちらかが降参スるまで勝負は続くよ。アハハ、愉しませてネ。望月クン」

 

 この時私は望月くんを倒した後どうやってこの番組の主人公になろうという事を考えていた。正直に言うと望月くんには絶対に負けないと思っていたのだ。

 だっていかにもひ弱そうな少年だったもの。

 

 そんな事ばかり考えていたせいで私は痛恨のミスをおかしてしまった。

 望月くんを名前で読んでしまったのだ。

 彼は”ブリュンヒルデ”に対して一度も名乗っていなかったのである。

 

「アハハ、戦場でよそ見するなんて、随分と余裕がアるじゃない。せめて苦しまぬよう一撃でキめてあげる」

 

 当時の私はそんな事に気づくはずもなく、聖剣ダンボールの柄を振り下ろした。

 エクスカリバーは運悪く彼の頭を直撃。気絶してしまったのだった。


 さらによくよく考えると私は芝居の為に習得した剣術があったし、鍛えている為見た目より筋肉もある。

 そんな私がもやしっ子望月に全力を叩きつければどうなるか。冷静になればすぐに分かる事だった。

 

「アハハハハッ、これで私が主人公ネ」

「いや、あくまで主人公は望月くんなんだら。殺しちゃメですよ。夏目お嬢様」

 

 酒井プロデューサーからお叱りの電話はすぐにきた。

 

「ひくっ、えぐっ。だって酒井パパはコイツを殺せって言ったじゃん。ワタシはヤ・ク・ソ・クをちゃんと守ったいい子じゃん。パパはそんなワタシをいぢめるの?」

「はいそこ。今更新しいキャラ被ったって無駄ですよ。夏目お嬢様。それに僕はパパになった覚えはありません」

「チッ、流石にバレたか。それで何がまずかったの? 酒井プロデューサー」

「いちいち偉そーですね。お嬢様。まずかったのは主人公の物語なのに主人公をメッタ斬りにしたところですかね」

「なぜそれが駄目なんだ。別に主人公は一度ぐらいやられてもいいのではないだろうか」

「それもそうも行かないのですよ」

 

 酒井プロデューサーは数秒黙り込んだ後こういった。

 

「最近流行りの異世界転生小説では主人公は絶対に負けてはいけないのです」

「はぁ、なんじゃそりゃ。主人公だって負けるから感情を移入出来るってものだろう」

「まあ、僕もそう思いますけれど。しかしながら最近ウケるのは”俺tueee”な最強主人公なんですよ」

「そんなものなのか。しかしそれなら大丈夫だぞ。酒井プロデューサー。私が主人公になればよいだけでは無いか」

 

 私は胸を張って答える。どうだ。酒井プロデューサー。完璧な策であろう。

 芝居の為ならば剣術からカバディまでなんだってこなすJKだ。

 その”俺tueee”主人公ぐらい簡単にこなして見せよう。

 

「あ~、そうは言いましても… まあ主人公の件に関しては次回以降については考えておきますよ。だから青タイツのまま堂々と胸を張らないでください。現場から”目のやり場に困る”とさっき連絡がありましたし。現場の人たちはVRコンタクトレンズをしていないのですよ。もう少し自重してください。夏目お―」

 

 電話を切った。

 

 自身から湧いた怒りや恥の念。さらに酒井プロデューサーから容赦なく告げられた真実に耐えられなくなった為だ。

 現場の人たち、ごめんなさい。5mはあろう演説台から飛び降り、無駄に空中で一回転を決める時とかは特に目のやり場に困っただろう。


 しか~し、一番恥ずかしい思いをしたのは私だ。うぅ、もうお嫁に行けないよぉ〜。

 チッ、電話だ。酒井プロデューサーからだ。

 

「いきなり電話を切るなんてひどいなぁ〜。夏目お嬢様」

「ひくっ、えぐっ。だって酒井パパのせいでワタシカワイソウなナグサミものになっちゃたんだよ。セ・キ・ニ・ン、取ってよね」

 

 まずは手始め、キャラ被り攻撃。

 効果は相手がこの会話を周りに聞かれていると、社会的信頼がガタ落ちする。

 

「またすぐにネコならぬキャラを被る。大体そのような手が通用するとお思い――」

「にゃ~ん、ごろにゃ〜ん」

「ネコ被ったって無駄ですよ。夏目お嬢様」

「チッ、やっぱり無駄か。それでこれからはどうしたら良い。酒井」

「ついに敬称すら付けなくなりましたね。まあこれからしてもらうことは単純ですよ。”主人公”望月トオルにいい感じに敗北し、仲間になって頂きます」

「なあ、酒井。本気でそう言っているのか。ライバルだった奴がいきなり仲間になるわけ無いだろっ」

「ハハハッ、大丈夫ですよ。そんなのは”お決まりテンプレ展開”ですから。何の違和感もありませんよ」

「それにあなたはこの一言を聞いたらそうせざるをえなくなりますよ」

「どういう事か。酒井プロデューサー」

「いやなに、色彩の団長も元団長もこの劇に参加しているのですよ。さらに今後の主人公審査も兼ねているとか。それなら絶対に失敗できませんよねぇ。夏目お嬢様ぁ」

 

 酒井プロデューサーの言葉を聞いてからと言うもの私は冷や汗が止まらなくなった。

 

 団長と元団長がこの劇のキャストに紛れている。その事実がどれほど恐ろしい事か。

 演出した酒井プロデューサーは知らないのだろう。

 この二人が我が劇団に与える影響力を。


 しかも酒井プロデューサーは”今後の主人公審査”も兼ねていると言った。

 もしその言葉が本当であるならば、私が置かれている状況は非常にマズイ。

 なにせ、主人公を殺してしまったのだから。

 そんな脇役もまともにこなせない役者は”色彩”には必要ない。

 何とかして酒井プロデューサーが提示したシナリオにブリュンヒルデを合流させなければ私の首が宙を舞う事になるだろう。

 私はまだ役者生命を絶たれたくない。

 

 私は頭をかきむしり悲痛な叫びをダンボール街に響かせた。

 

「殺すつもりはなかったのよ〜。死んだあいつが悪いのよ」

 

 こうして無事に冒頭へと帰ってくる私だった。

 

 しかし、ちょうどよく負けろと言われても無理だ。私はそうは言っても強い。

 だがしかしここで手を抜き負けたら団長たちにバレてしまう。

 どうにかして戦わずに望月の味方につけるのだろうか。

 

「どうしたら良いか決めかねているみたいですね。夏目お嬢様。そんなお嬢様にアドバイスがあります。望月くんの設定に合わせてお芝居してやって下さい。そしたら何とかなるでしょう。では私はこれで」

 

「”これで”ってどこに行くのよ。ワタシを一人にしないでよ。酒井パパ」

 

 媚びたらもう少し情報が引き出せるだろうか。その甘い願いも叶わなかった。

 

「いやなに。僕達も今からそちらに向かうのですよ。この劇に参加するためにね」

「はあ、何言ってるの。そんな急な飛び入り参加だなんてありえな――」

「あ、ヘリコプターが来たので僕はこれで。後はよろしくお願いしますよ」

 

 酒井プロデューサーはそう言い残し、電話を切った。


「おのれっ、呪い殺してやる。酒井プロデューサーあぁぁ」

 

 私は人の気配はなくどこかに寂れている印象を受けるダンボール街の郊外に想いを響かせた。

 

――PPPテレビ局 ヘリポート

 

酒井「ふぅ、これでテコ入れは完了ですかね。後は我々があちらに向かうだけですね」

 

柿本「それはよかったですね。酒井プロデューサー」

 

岡崎「ウム、本当に良かったな」

 

柿本「それはそれとして」

 

岡崎「酒井殿」

 

二人「「いたいげな少女に対して”パパ”と呼ばせたり、秘密の約束を結んだり、いぢめたりしていたようではないですか」」

 

二人「「しっかりと説明責任を果たしてもらいますよ」」

 

酒井「もしかして電話の内容聞かれちゃいましたか」

 

二人「「はい、それはもう。しっかりと」」

 

酒井(ハハハッ、これは一本取られました。夏目お嬢様)

 

酒井「いいですよ。二人とも。ヘリコプターの中でしっかりと弁解させて頂きます」

  

ナレーター〘酒井プロデューサーと彼が選んだ主人公こと望月トオルに復讐を誓うブリュンヒルデこと夏目メグ。ついに真の勇者が決定する!? ドラマスタジオに乗り込んできたトリオ。食堂親子はどうなってしまうことやら。混迷を極める異世界。果たして望月トオルはいつ気づくことが出来るか。気になる続きは…〙

 

 

ナレーター〘CMのあとに〙

 

――CM


CIA「なあ、君。なぜ日本は核を持たないと思う?」

CIA「それはNINJAが居るからなんだ」

CIA「NINJAは陸、海、空。どれをとっても最高戦力。我が国の保有する戦力はNINJA一人の戦力の足下にも及ばない」

CIA「我が国はNINJAの手のひらで踊ら――ガハァ」


忍者「お主、我々忍者に興味を持ったでござるな」

忍者「持ってしまったと言うのなら――」


忍者「大日本忍者村に来るといいでござる」

忍者「忍者体験が出来るアトラクション多数!」

忍者「雨天でも楽しめる矢吹屋台もあるでござるぞ」

忍者「是非遊びに来るといいでござる」

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