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夏目メグの憂鬱

 

ナレーター〖ついにここが異世界と知ることなく、残機を一つ減らした望月トオル。医神アスクレピオスにチョコレートを捧げ、ビキニ戦士ブリュンヒルデの攻略法を獲得し蘇生した。ここで一方時間軸を巻き戻し、ブリュンヒルデの中の人に焦点を当てる。彼女とは何なのか。どうしてこうなったのか。その全てがここに〗

 

柿本「さて、望月くんを殺したブリュンヒルデさんですがどうなっているのでしょう? 本物の勇者に視点を移しましょう!ミニモニターにチェンジ!」

 

――PPPテレビ ドラマスタジオ

 

 私は夏目メグ。

 

 国際的な演劇集団”色彩”の主演女優だ。

 

 今は戦乙女であり伝説の勇者の再来”ブリュンヒルデ”という役をやっている。

 

 私は自分で言うのもなんだがいわゆる”天才少女”だ。

 

 5歳でこの仕事を始めた私はその才能を前団長に見込まれ、7歳で劇団色彩に入団。

 その後、アクションに力を入れ12歳で準主役に抜擢。

 そこからもメディア露出も増え、私個人を応援してくるファンを獲得。

 しばらく、準主役を繰り返し演技力に磨きをかける。

 そしてついに一昨年からオリジナル演劇”色彩”の主役である”先輩”役に大抜擢。

 海外メディアから取材を受け、独立も視野に入れつつ演劇に邁進する花のJK18歳こそ私だ。

 

 当然の事ながら私は自分の容姿には自信がある。

 ”色彩”の公演のために染めた橙色の髪は毛先までキューティクルが残っているし、アクションの為に絞り上げた肉体美には相当の自信がある。

 たとえ身体のラインがあらわになってもなんの問題もない。

 

 昨日は自分の容姿の素晴らしさを英語ではなんと表現するのか考えていると団長が仕事を持ってきた。ものすごいクセ者の仕事だった。

 

 団長から渡された台本にはキャラクターの詳細な設定のみしか書かれていなかった。

 設定しか存在しない即興劇に参加しろなど意味が分からない。

 この企画を持ってきたというテレビ局のプロデューサーは後で必ずぶん殴る。

 しかし私は超高校級の女優だ。どんな仕事であれ完璧にこなす事が出来る。

 そう思い、嫌々ながら撮影現場とやらに向かった。

 

 ――着いた現場はツッコミどころ満載だった。


 まず”撮影スタジオ”とかかれたセットは段ボールで作られていた。

 というかなんでも段ボールだった。伝説の剣から傘まで精巧に作られていた。段ボールで。

 傘に至っては段ボールでできていたらダメだろう。

 

「おい、酒井プロデューサーといったな。作品セットが全て段ボールだぞ。この美しい私をおちょくっているのか」

「ハハハッ、血の気の多い上自惚れが過ぎるお嬢様ですね。これをつければ、全て分かりますよ」

 

 プロデューサーは胸元を掴まれているというのにヘラヘラとした態度を改めようとせず、そのままポケットから小さなコンタクトレンズを取り出した。

 

「これは……」

「VRコンタクトレンズですよ。なかなかこれが面白いのです。つけてみてください」

 

 私はヘラヘラしているプロデューサーからコンタクトレンズを奪い取ると早速目にはめた。

 するとさっきまで、段ボールだったセットは美しく町並みに変化し、伝説の剣らしきものが伝説の剣になった。段ボールの傘も傘に変化した。

 

「おお、これは凄いな。酒井プロデューサー」

 

 振り返るとそこにいたのはカボチャのバケモノだった。

 ハロウィンの時に町でよく見る奴だ。

 確か、名前をジャック・オー・ランタンとかいったっけ?

 

「ぎゃっああぁ。ば、バケモノがでたぞ」

 

 思わず悲鳴を上げながら化け物の溝内に正拳突きを叩きつけた。

 

「うぎゅう」

 

 バケモノは情けない声を上げながら悶絶し、その場に力なく倒れた。

 物理攻撃が通用するんだ。この手のモンスターにも。

 

「夏目のお嬢様。どうかコンタクトを取ってくれませんか」

 

 バケモノは聞き覚えのある声を上げて懇願した。

 どうやら人間の言語を使えるだけの知性と命乞いをする能力は長けている様だ。

 しかしこういった時に気を許してはいけない。化け物は常に好機を伺っているのだ。

 私はバケモノに追撃の蹴りを入れつつ、コンタクトレンズを外した。

 

 そこには青タイツを身に待い、ボロボロ状態のボロ雑巾になった三十代男性の姿が。

 

「さ、酒井プロデューサー。誰にやられたのですか。こんなひどい事をするなんで。いくら酒井プロデューサーがこの様にボコボコにされても仕方がない人物だったとしてもあんまりです」

 

 私は彼のために涙した。キャラクターも彼好みに変えた。

 もちろん自己保身の為だ。私ぐらいになると涙は自分でコントロール出来る。

 

「急にキャラクターを変えて、涙する事で自己保身する人のほうがあんまりじゃないですかね」

「チッ、バレたか。スマンな酒井プロデューサー」

「軽っ、謝罪が軽いぞ。このお嬢様」

「ぶっちゃけ途中から”あっ、これあのプロデューサーじゃないかな”と思ったけれど念のためにボコボコにした。悪い」

「災厄なお嬢様ですね。でもVRコンタクトって凄いですよね」

「ああ、凄いな」

 

 私はまじまじとコンタクトレンズを見つめる。

 こんな小さなレンズで人の見た目を変えられるというのは面白いな。

 しかし、演技力でお客を化かす我々にとってはある種の商売敵かも知れないが。


「では、早速ではありますが、あなたの役回りについて説明させていただきます」


 酒井プロデューサーは手元の資料を手渡してくる。

 

【ブリュンヒルデ_ 北欧神話に登場するワルキューレの一人である。ルーン文字による呪術に秀でており、アッティラ王の妹でもあるワルキューレの代表格だ】

 

 これが私のする役か。

 たしか、これはニーベルンゲンの指輪に登場するワルキューレだったはずだ。

 一回、芝居練習で演じた事がある。懐かしいな。

 まだあの頃の私は12歳のひよっこでなかなかうまくいかなかったのだ。

 しかし、一度演じた事があるキャラクターだと特徴を把握している為、多少演じやすいのは嬉しい。

 全く知らないキャラクターを掴んで、そのまま即興劇よりはまだ気が楽だ。

 

「あっ、それと今回お嬢様には聖剣エクスカリバーを引き抜き勇者なりそこないの主人公と戦っていただきます」

 

 へ~、エクスカリバーを引き抜き主人公を倒せってことか。

 なーるほど。うんうん。よく分かったよ。ニーベルングの指輪のお話通りに……

 

「っておい。酒井プロデューサー。スマンがお前が何を言っているのかまるっきり分からんぞ」

「何がですか。さっき説明した通りですよ。分かりませんか。夏目お嬢様」

「ああ、スマンが理解出来ない。一つずつ質問していいか」

 

 分からない事は素直に聞こう。これを怠るとあとあと大変なすれ違いを繰り返す事になるかもしれない。例え相手がイラつく笑みを浮かべていたとしても。

 

「まず聖剣エクスカリバーについてだが、これは”アーサー王伝説”に出てくる湖の乙女からアーサー王が得た伝説の剣の事ではないか。なぜブリュンヒルデの私が聖剣を得なくてはならない」

「そういう設定だからですよ。それに似たようなものですよ。魔剣グラムも聖剣エクスカリバーも」

 

 いや、全くもって説明になっていない。

 しかも魔剣グラムを持っていたのは私ことブリュンヒルデではなくその恋人シグルドだと言いたい。

 

「全くもって納得いかないが、次の質問に行くとしよう。私は勇者なのか」

「そうです。正確にいえば”300年前の伝説の勇者の後継者”という設定ですが」

「それをなぜワルキューレの代表格である”ブリュンヒルデ”たる私がなぜ勇者をしなければならない」

「いいじゃないですかね。バルムンクを振るい、魔竜ファフニールを倒し勇者になった人もいることですし」

 

 それは私ことブリュンヒルデではなく、その恋人シグルド…ではなく、ジークフリートか。

 ジークフリートじゃないか。すまないが一応関係性は無い。

 

「まあ、あなたにまともな返答なんて求めていないのだが。最後になぜ私が主人公では無いのか。流石におかしいだろう」

 

 私は気迫を込めて酒井プロデューサーに迫る。どうもここだけは納得がいかない。なぜ私ほどの人材が主人公に抜擢されないのか。そこだけはおかしいだろう。

 

「まあ、それはこの番組がそもそも演劇ではなくただの一般人にVRコンタクトレンズをつけて楽しんでやろうという番組ですし」

 

 酒井プロデューサーはそう言うがやはり納得がいかない。

 しかしその一般人はどんなやつなのだろうか。気になってきた。

 

「まあ、なんとか納得してもらえた所で早速着替えて準備してもらいます」

 

 酒井プロデューサーはそう言うと青タイツを私に押し付ける。

 えっ、私はこの青タイツを着なくちゃいけないの? この私が、青タイツ。

 

 私が呆然していると

 

「では、僕はここで。分からない事はスタッフに聞いてくださいね」

 

 酒井プロデューサーはその一言だけ吐き捨ててとっととヘリコプターに乗り込んで何処かに行ってしまった。

 

 私はそのまま立ち尽しても良かったが、仕事なのだから最後まで頑張ろうと思い、更衣室に入り青タイツに袖を通す。

 

 鏡で見ると身体のラインがあらわになり、とっても恥ずかしい。

 えっ、昨日は身体のラインぐらい問題ないと言っていた? 

 知るかよ、そんな事。

 私はこんな売れない3流芸能人みたいな事する人間じゃないのよ。

 

 青タイツは意外とピッタリサイズで、胸が押し潰され、キツい。

 うぅ、15の時の舞台で男性客の視線がここに集中したトラウマが思い起こされる。

 もし酒井プロデューサーがまだここにいたら全身全霊でボロ雑巾にしていた。

 

「着替え終わりましたか」

 

 女性スタッフが私に声をかけてくる。正直に言うと恥ずかしくて更衣室から出たくないがそうも行かない。私はカーテンに手を掛け段ボール街に出た。

 

「あの、私…… 流石に恥ずかしいのですがどうにかなりませんか」

 

 私は青タイツの端っこをねじねじしながらそういった。

 きっと今、私の頬は紅く熱を帯びているのだろう。うわ~ん、恥ずかしいよう。

 

「ああ、大丈夫ですよ。視聴者の人の大半はVRコンタクトモードでこの番組を見ますから。VRモードならアーマーを纏った女戦士に見えますから」

 

 女性スタッフはそう言って私をなだめる。なんだそうだったか。では問題ない。

 いやぁ~、良かった。私は女性スタッフに感謝を伝えてVRコンタクトレンズをはめる。

 

 するとなんという事でしょう。青タイツだった私の格好は凛々しい女騎士のビキニアーマーになったではありませんか。

 しかもビキニアーマーのサイズがあっていない為色々と見えそうになっているではありませんか。


 あっ、髪の毛の色が橙色から銀色に変化している。スゲー、さすがVR。

 それはそうとして、一つ決まった事がある。

 

「殺す。酒井プロデューサーを絶対殺す。後で覚えておけよ」

 

 私は酒井プロデューサーを本気で”ボッコボコにしてやんよ”しないと気がすまない。

 また彼が選んだ主人公もついでにボッコボコにしてやろうと思った。

 そうして私は伝説の剣エクスカリバーのある倉庫についた。

 

「では、勇者の後継者よ。聖剣エクスカリバーを引き抜きなさい」

 

 女性スタッフの言葉を背に受け聖剣を抜いた。

 

「ねえ、この番組の主人公の名前。なんていうの」

「ええっと、望月。望月トオルくんですね。17歳の男子高校生だそうです」

 

 17歳。私のひとつ下。そんな男が私を差し置いて主人公だなんて許せない。酒井と同じぐらい許せない。許せない。許せない。許せない。ユルセナイ。

 

「アハハ、殺してアげるわ。望月くん」

 

 私は聖剣エクスカリバーを掲げる。

 

「あははハハッハハハッはハッは」

 

 私は狂ったように笑う。いや、今の私は戦乙女であり、狂戦士バーサーカーであり復讐者アヴェンジャーである。狂っているから笑うのだ。

 

「やはり、あの異名は本当みたいだったわね」

 

 女性スタッフがナニカ言っているがもうこうなった私の耳には入らない。

 

「役に全力でなりきり、まるで本人のような演技をする様子からつけられた異名」

「その名は、”霊媒師 夏目メグ”」

 

 ☆

 

ナレーター〘酒井プロデューサーと彼が選んだ主人公こと望月トオルに復讐を誓うブリュンヒルデこと夏目メグ。ついに真の勇者が決定する!? ドラマスタジオに乗り込んできたトリオ。食堂親子はどうなってしまうことやら。混迷を極める異世界。果たして望月トオルはいつ気づくことが出来るか。気になる続きは…〙

 

 

ナレーター〘CMのあとに〙

 

――cm


信長「儂は第六天魔王こと織田信長じゃあ」

信長「明智光秀に本能寺を攻められ死んだはずの儂はどうゆう訳かこの時代に飛ばされてしもうた」

信長「しかし、いくら500年ほど前に全国支配しかけた儂でも経歴が無いんじゃ働けん!?」

信長「何とかして飲食店にバイトとして雇ってもらった儂は厨房を任され”しぇふ”になった」

信長「今度は武力ではなく食で全国を、いや全世界に儂の名を轟かそうぞ」

信長「新番組 信長がシェフ」

信長「来週日曜午後9時より出陣じゃ」


信長「絶対見てくれよな。ホトトギスども」


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