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勇者望月と空と海と大地が呪われし異世界

 

ナレーター〘ちょっとした手違いから異世界へと転生してしまった望月トオル。食堂家族の故郷ミリノに向かう道中もそう簡単にはいかないようで〙

 

柿本「さて、ミリノの町に向かう望月くんですがどうなっているのでしょう? 勇者に視点を移しましょう!ミニモニターにチェンジ!」

 

 ――PPPテレビ ドラマスタジオ

 

 俺、普通の不死者、望月トオル。

 

 ゼウス様のちょっとした手違いで死んでしまった代わりにこの異世界に転生した。

 そのときに獲得したのはこの不死身性。たとえどんなモンスターに襲われ、傷をおっても死なないというスグレモノ!

 

 鍛冶の神、サイクロプスを倒し、助けた元盗賊のヒロシとその娘のメグミ。彼らはお礼に俺を彼らの故郷ミリノに招待してくれた。

 

 そう! これだよ、これ。ミリノの町までは多分距離がある。そこまでたどり着くまでにはいくつの村々を越え、魔物の群れを倒さないといけないだろう。

 異世界転生っていったらこういう冒険こそ醍醐味だ。

 間違っても親子の家庭事情を隠れ聞くことではない。

 

「ここからそのミリノの町はどのくらいの距離があるのか?」

「うふふっ、望月さんって本当に面白い方ですね」

「うん? メグミ、俺は何かおかしいことを言ったかい?」

「うふふっ、だってここからミリノまでは徒歩5分なんですから」

 

 そんな、バカな。と思いながら腰に下げている革袋を漁り、この世界の地図を取り出した。

 この地図はサイクロプスから得た戦利品だ。仮にも神が使っていた地図なのだから、高い精度が期待できる。

 

 しかし、地図にはたった4つの都市しか乗っていない。

 最初は主要都市だけの地図と思ったがミラノの町も載っていた。

 しかしメグミはミリノの町はそれほど大きくないと言う。よって主要都市である可能性は低いだろう。

 

 もしこの地図が正しいとなるとこの世界はどれだけ狭いのか。

 感覚的に東京ドーム5個分ぐらいの大きさな気がする。

 世界の端から端まで歩いても15分ぐらいかぁ…… それは徒歩5分でミリノの町に着くだろう。

 

「わぁはっはどうしたのだ? 望月よ」

「なあ、ヒロシのおっさん。この地図は本当に正しい世界地図なのか?」

「え〜と、どれどれ。うわっ、どこで手に入れたんだこの地図」

「この地図はやはり間違っていたか……」

「いや、こんなにも正確な世界地図はめったに手に入るものではないぞ。なあ、あとで模写させてくれよ。一儲けできるぜ」

 

 最悪だ。ヒロシのおっさんはこの地図を見て世界地図といったぞ。

 まさかこの世界が『千葉県にあるけれども東京を名乗る遊園地』の半分のサイズしかなかったなんて……。 

 しかし、さっき丘から見渡したときは草原しか見えなかったのだが。

 いろいろおかしい世界だ。

 でもあのゼウス様が用意した異世界だから仕方が無い気がする。

 

「なあ、メグミ。この世界のことについて詳しく教えてくれ。自分の今までの教養が大きく間違っている気がしてきた」

「ふふふっ、やはり変わった方ですね。望月さんは。しかし、わからないことを素直に聞く事は好感がもてますわ」

 

 メグミはそういい、この世界についてのことを教えてくれた。


 この世界は神の庇護を受けた人間と魔王の配下である魔物がいる。

 人間は魔物ほどの力がないため追い詰められ、次々と拠点を放棄。今は4都市しか機能していないという。


 その一つのミリノの町はその中でも魔物の戦線に近くいつ襲われてもおかしくないため、人はあまり残っていないらしい。

 しかしミリノの町には300年前に魔王を撃退した伝説の勇者の剣が残されている。人類はこの剣を抜き、世界を救う救世主を待ち望んでいるという。

 

 伝説の剣かぁ。俺がばーちゃんによく付き合わされた古典的なRPGではよくあるお約束みたいなものだったな。だけどそれゆえに強力な剣であろう。

 多分だが、この世界の主人公たる俺は伝説の剣を抜くことができる。

 そしてこの世界でも最終目標は世界を救う勇者となり魔王を打ち倒すことであろう。燃えてきたぜ。

 

「ふふふっ、そんな選ばれし勇者にしか抜けない剣を盗もうとした不埒者もいたようですが」

「わぁはっは、なんのことだから全くわからないぞ。我が娘よ」

 

 あっ、露骨に目を逸らしたぞ、ヒロシ。

 しかし仮にも盗めたとして一体誰が伝説の剣なんか買ってくれたのだろうか。

 

「わぁはっは、そうはそうと望月よ。この辺りはゴブリンやオークといった魔物が出てくる。その時は一切迷わず倒すのだ」

「ああ、分かった。もう迷わないさ」

 

 先ほどのサイクロプスの件があるから気にかけていてくれているのだろう。

 ヒロシはこんなにも気遣いが出来るのにどうして奥さんのところから逃げちゃったのだろうか。

 そもそもこんなにも狭い世界で10年間も逃げ切れたものだな。

 

 そんな会話をしていると、さっそく魔物があらわれた。

 小柄な体格に深緑の肌、耳は尖っていて、悪意を感じる赤目。

 手には棍棒を持ち、多少なりとも知性があるようにみられる。


 俺はすかさず異世界転生小説とばーちゃんに付き合わされたRPGによる知識によりこの怪物の名を推測した。

 

【ゴブリン_ 元ネタはイングランドに伝わる妖精。邪悪ではないが意地の悪いやつ。ゴブリンが笑うと牛乳が酸っぱくなるらしい。

しかし俺が読んだ異世界転生小説や古典的RPGではゴブリンは魔王軍団の尖兵として主人公たちの前に立ちふさがり敵対していた。いわゆる序盤のやられ役といったところだろう。

様々な作品に登場する定番の敵だ】

 

「お宝すべてここにおいていくゴブ」

「そしたら命だけは助けてやるリン」

 

 二匹のゴブリンは棍棒を振り回しながら俺たちに命令する。

 しかしそれにしても安易な語尾だ。もう少し考えようがあったのではないだろうか。

 

「わぁはっは、断る。お前らのようなこそ泥に差し出すものなど何もない。こそ泥はこの世で最低の職業だ。たとえどんな理由があったとしてもな。今すぐ俺たちの前から消えろ。そしたら命だけは助けてやる」

 

 そういい、ヒロシはゴブリンを挑発し、腰に携えた剣を抜く。

 ついさっきまで盗賊だったやつがこそ泥な魔物にこのようなセリフを堂々と語っているとは。世も末だな。

 

「なんだって、オイラたちを馬鹿にするゴブか!?」

「どうやら、そいつの頭じゃオイラたちの優しさが理解できなかったリン」

「それじゃあ、わかるように頭をボコボコにしてやるゴブ」

「いまさら泣いたって、許してあげないリン」


 ゴブリンはそういい、何故か俺に襲い掛かってきた。


 なあ、ゴブリンよ。お前らを挑発したのはそこの元盗賊だぞ。

 そっちを狙わないのか。

 えっ、そっちは強そうだからやめておいた? 

 じゃあそこのひ弱な町娘にすればいいじゃないか。

 えっ、おなごには手を出せないだって? 

 妙に可愛いこというな。悪の手先のくせしてよ。


 まあ残念ながら俺が一番強いんだけどな。

 

 ”三叉の矛”を一方のゴブリンの心臓に突き刺し倒す。

 もう一方のゴブリンは足元にへばりついてきたので、蹴り飛ばした。


 不思議なことにゴブリンは体の体積に見合わずとても軽くその証拠と言わんばかりに数十メートル先まで吹き飛んでいった。

 

 しかし飛んでいったのはゴブリンの上半身だけだった。

 下半身はと言うとそのまま走り続け、やがてどこかに行ってしまった。

 キモチワルっ。なんだこの生物は。下半身だけで走っていくなんて。低予算なホラー映画でも今時こんな映像は見ない。

 

 詳しく知る為に1匹目のゴブリンの死体を調べることにした。

 ゴブリンの亡骸を襲ったときと同じポーズをとっていた。

 死後硬直を疑ったが、硬直するにはあまりにも早すぎる。

 亡き骸を抱えてみると蹴り飛ばしたときに感じた軽さは間違いなかったようで、下半身を含めてもせいぜい700グラムぐらいだった。 

 

 次にゴブリンの顔を観察した。

 するとなんということだろう。”シロネコサガワの――”とか”アーツ引っ――”、果てには”――れもの注意”などといった文字が顔に書かれていた。


 なんだこりゃ。もっとしっかりと調べないと。

 

「わぁはっは、望月よ。それ以上そのゴブリンを調べるべきではないぞ。魔物というのは魔王の呪術によって構成されているのだ。だもしかすると呪われてしまうかもしれないぞ」

 

 ヒロシはそういい、見事な手わざで俺からゴブリンを引き離し、地面に掘っておいた穴に埋葬する。

 そういったところを見ると元盗賊なのがよくわかる。

 盗賊になる前はコックだったそうだから手先は器用なのだろう。

 

「そうか… これからは気をつけるよ」

 

 素直にヒロシの忠告に従うことにした。

 しかし、あの文字をどこかで見聞きしていると思うんだよな……。

 なんだっけな。いや、ゼウス様の翻訳チートが誤作動を起こしただけかもしれないな。だってあんな神様だし。

 

 ヒロシがゴブリンを埋葬している間、あたりの景色を見渡した。近くから人の声がする。町だ。ミリノの町が近くにあるんだ。

 

「うふふっ、望月さん。もうすぐですよ。われわれの故郷ミリノまで」

「ああ、楽しみだ。先を急ごう、メグミ」

 

 先ほど抱いていた違和感をどこかに放り捨てこの世界を楽しむことにした。


「うふふっ、久しぶりの故郷ですわ」

「わぁはっは、望月よ。ここが我が故郷ミリノだ」

 

 メグミたちは嬉しそうにしていた。ひさびさの帰省であろう。

 それは感情が顔に出ても仕方が無い。


 しかしミリノの町は人があまり残っていないと聞いていたが、いざ町の中に入ってみると町の人々は肩を組みお酒を飲んだり、ダンスを踊ったりと、とても追い詰めらた町の普段の様子には見えない。

 

「わぁはっは、これはどうなっているのだ」

「うふふっ、お祭りはもっと先だったはずですが…」

 

 ヒロシもメグミも状況がつかめていないらしい。

 少なくともこれが普段のミリノの町ではないようだ。

 

「わぁはっは、望月よ。さっそくで悪いが町の広間に案内しよう。ここで何かが起こっているのならば、そこで何か情報が掴めるだろう」

「ああ、そうしよう。何が起こっているのならば俺も協力しよう」

 

 俺たちさっそく町の広間に向かった。

 すると町の広間には多くの人が歓声をあげていた。ヒロシはそこらにいた男を捕まえて説明を求めた。

 

「お前、ジェームズじゃないか。いったいこの騒ぎはなんだ」

「ああっ、お前は。店と奥さんと子供のこと放り捨て逃げたヒロシなのか?」

「ああ、そうだ。帰って来たんだよ。それはどうでもいい。そんなことよりこの騒ぎについて説明してくれ」

「これか? これはだな……」

 

 ジェームズが騒ぎの説明をしようとすると、広間の演説台に一人の少女があらわれた。その少女は古典的なRPGでいうとビキニアーマーを装備した女戦士のような格好だった。

 しかし注目すべきところは彼女のアーマーのサイズがあっていないことや、そのせいでいろいろと見えそうで男性諸君が目のやり場に困っていることではない。

 彼女が持っている剣だ。その剣は風をまとい、その姿を正確に目視できない。しかしその特徴故にその剣の名も容易に推測できる。


「アタシの名はブリュンヒルデぇ。300年前に魔王をゲキタイした伝説の勇者の剣、エクスカリバーを引き抜いた勇者の後継者だわぁ」

 

 なんということだろう。

 まさか俺がその伝説の勇者の剣を抜く前に忽然と現れた変態ビキニアーマーにその剣を抜かれ、勇者になってしまうとは。

 

 やはり、この異世界は何かがおかしい。

 神や魔王とは違う、もっと大いなるものの力によってこの世界は操られている。

 えっ、その根拠だって? そんなの異世界転生してきた主人公が勇者になれないはずがないからだ。


 なんとかして勇者の座を奪い返してやる。絶対にだ。 


 

ナレーター〘ここが異世界でなく、ドラマスタジオだと気づかないまま一生を終えてしまいそうな勢いがある望月トオル。まさかの勇者になれない急展開。果たして、望月トオルは勇者の座を得ることができるのか。そしてこれを見ている放送スタジオの反応は?気になる続きは…〙

 

 

ナレーター〘CMのあとに〙

 

――CM


組員「あ〜、ヤバいよ明日までに沖縄にいるお客さんのところまでに白い粉を届けないとアニキにボコボコにされちゃうよ」

シロ「大丈夫ですにゃ。僕達ならすぐに届けられるにゃ」

組員「本当かい。シロくん。ありがとう」

シロ「ただ、その前に渡すもんあるんじゃないかにゃ」

組員「最高級のカツオ節です。お納めください」

シロ「わかっているじゃないかにゃ。あ~、たまらんにゃ」


 ――どんなお荷物でも料金次第で迅速に運びます。

 シロネコサガワの宅急便。

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