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日向イツキが指揮する異世界鎮魂歌

 ボクは日向ひなたイツキ。

 ちょっと有能な十七歳セブンティーンさ。

 今はちょっとした幸運で『ヱ世界転生TV』の主役を演じている。

 ボクは自分で言うのは気が引けるが、いわゆる”有才少年”だ。


 五歳の頃、保育園の先生に『君はなんだって出来るね』と言われ、小学校に入る頃にはその意味をしっかりと自覚した。

 初めてのクラスメートはみな『足が速い』とか『顔がいい』などの長所、または『勉強が苦手』や『口が悪い』といった短所、いわば『個性』を持っていたさ。

 『個性』とは個人を決定づける特徴であり善し悪しこそあれど誰もが持ち合わせるものだ。

 しかし、ボクはその誰しもが持ち合わせる個性を多く持ち合わせていた。

 徒競走は六人中二位、くすんだブロンドに黒目。テストは82点で、悪口は叩かない。何でもこなせる才能を持った”有才”少年だった。


 自分には多いな才能を持ち合わせていると気がついたボクは大層気分が良かった。だってボクはなんだって出来るし、なんにでもなれると思うと心が躍ったさ。


 その才能を伸ばすためにボクは様々な習い事を始めた。この全てを極めることが出来れば『天才』に成れると信じていたのさ。ピアノに水泳、テニスに英会話。なんだって全力で挑んだ。


 しかしどの習い事も『有才』を突破できなかったんだ。

 ある程度までなら上手にこなせたボクはそれ以上は出来なかった。

 そうして『有才』にしかなれないボクの横を『稀代の天才』たちが通り過ぎていった。

 ボクはそんな『才能』に恵まれた『天才』たちに勝負を挑むも絶対に敵う事は無かったんだ。


 そうして憤る心に追い打ちをかけたのは『霊媒師 夏目メグ』の存在だ。

 ――はぁ~、彼女について話したくなんだけど話さないといけないか。

 端的に彼女を表すと「絶対に治らない目の上のタンコブ」といったところさ。

 ……これでいいだろ? 十分だろ? 駄目か。


 ……その当時小さな劇団の子役をやっていたボクはとあるオーディションで彼女と初めて出会った。

 その時のお題は『アーサー王』の一節だったっけか。 ……なんで彼女がアーサー王やっているんだ。まあどうでもいいか。

 それで彼女は類まれなる演技力でアーサー王になりきった。まさにどうしようもない程の天才少女だった。

 そして彼女はまるで本物のカリバーンがあるかのような演技を見せ、他の追随を許さない評価を得て合格した。

 ボクも全身全霊を持って彼女に挑んで演技したが、彼女には敵わずオーディションに落選した。

 その時に天才と有才の間には絶対に超えられない壁がある事を悟った。そして自分はどんなに頑張っても天才の経験値にしかなれないのだと気づいてしまったんだ。


 そしてその後演劇を辞め他の事を始めるも、その先においても『天才』には決して叶うことは無く、『有才』にしかなれないと知ったボクは『天才の経験値』へと落ちぶれていったのだった。


 そんな『天才の経験値』のボクが一番嫌いだったのは『ライトノベル』という世界だった。

 特に嫌いだったのは『異世界転生物』さ。

 こういった小説の主人公は現実世界では良い扱いを受けていないのだが、転生した先で神から貰ったチート能力を使い、現地人の努力を簡単に蹂躙していく。そう、どんなに現地人が有能であってもその小説の中では『主人公』を高めるための『経験値』という役割しか与えられないのだ。

 そういった現地人が自分と重なって読むと胸がズキズキと痛み、やるせない気持ちに陥った。

 どう考えてもズルした主人公を褒めるしかなかった。

 どう考えても頭がおかしな戦術に敗北させられた。

 なぜか肉を片面焼きをさせられ、金貨さえまともに数えられなくなった。

 盗みを働きオーバーキルされるゴブリンに男に媚びるしか能が無くなったエルフ。

 国家を乗っ取られ、ハーレムを形成させられた。

 みんなみんな『主人公さま』の快楽の為に『経験値』になり下がった。

 だからボクは異世界転生をぶっ潰して皆が『経験値』になり下がらない『物語』を夢見るしか無かった。


 そうして『天才の経験値』というどうしようもない烙印を押され、全てがそつなくこなせたが故に、天才にも凡人にもなれないまま、こんな歳まで成長してしまった十七歳こそ僕なんだ。


 そんな鬱憤を抱えながら生きてきたボクにも転機が訪れた。

 そう、この『ヱ世界転生TV』の主人公、『デウスエクスマキナ』役だ。


 うん? 「この物語の主人公は望月トオルなのでは?」だって?

 そんな事いつから決まっていたんだい。最初からボクが登場するまでの前座に過ぎないのさ。

 ただ、君たち視聴者には『裏事情』を知らないから勘違いするのも無理が無い。簡単に説明しようか。

 

 土曜の昼下がり、学校帰りに書店によって参考書を探していたボク。

 そこで不思議な女性に呼び止められた。

 まず目に映るのは、その黄金色のロングヘアー。それも市販のヘアカラーで雑に染め、プリンの様になっている不良の様なそれでは無く、正真正銘ナチュラルで艶やかで美しい金髪。推測であるが、両親のどちらかは外国人なのだろう。

 そんなブロンズの髪を持ち合わせるが、耳や鼻はモンゴロイドのそれであり、かろうじて僕と同じ日本人なのだと分かる。

 しかし、最も惹かれるのは茶色の瞳だ。暗く何も無い深海に似た瞳は現実味を感じさせず、何処かへ引きずり込まれる様な感触をいだかせる。

 肩の出たポロシャツの上にプロデューサー巻き、そして腰が見えちゃいそうなミニスカートという奇抜な格好。

 まさにゲームやアニメの世界から転生してきた様な女性だ。

 そんな奇抜な女性はボクが振り向くやいなや、こう言ったんだ。


「異世界転生をぶっ潰さない? そして君が主人公になるの」

「はい? ちょっと意味が分からないんですけど……」

「でも異世界転生はお嫌いなんでしょ」

「……ええ、そうですが。それより貴方は一体?」

「そうね。自己紹介がまだだったね。ボクはサカイ。PPPテレビのプロデューサーだよ。坊や」

「テレビ局のプロデューサーさまがこんなボクにどんなご用事で?」

「夏目メグを覚えているかしら」

「……っ!? いきなり何を」

「彼女、『ヱ世界転生』したの。もっと平たく言えば『天才を倒せるチャンス』といえば興味をそそられるかしら?」

「……詳しくお伺いいたしましょう。サカイさん」

「ふふっ、それじゃ詳しい事は現場に向かいながら話しましょ」


 ……といった具合に話が進み、トントン拍子でボクは『ヱ世界転生TV』に出演することとなり、全てを終わらせる者、「デウスエクスマキナ」となったんだ。


 ボクは天才を超えられるチャンス、そしてこんな狂ったヱ世界を終わらせ、新たな「物語」の主人公になる機会をくれたサカイプロデューサーには感謝している。それがボクを突き動かしているのだ。


 だって例え、全てが贋物で作られた『世界』と『物語』であっても天才を超えられるんだ。


 徒競走は六人中二位、くすんだブロンドに黒目。テストは82点で、悪口は叩かない。何でもこなせる才能しか無い”有才”少年だったのボクを選んでくれたという事実が嬉しかった。

 だってサカイプロデューサーはどんな事情であれ、所詮『天才の経験値』を主人公にしてくれたんだもの。


 だからボクは『天才の経験値』にしかなれない『日向イツキ』を捨てて、この物語を終わらせるにふさわしい『絶対神デウスエクスマキナ』になることを決意した。


 そして考え抜いた結果、とにかく強く、強い残酷性を持ち合わせ、不意打ちを多用する卑劣さや、軽口ばかり言うニヒルさ、そして世界を憎む強い憎悪を持ち合わせた『絶対神』が誕生した。


 それでこの役だけど、人生で一番面白かったな。

 だって何をしても許される役だったんだもの。

 勇者に四天王を二人同時にぶつけてみたり、魔王城にトラップを仕掛けてたりね。

 魔王クロノスを勝手に暗殺した時は喜びを禁じえなかったよ。


 これは傑作だったね。演じることの楽しさを思い出させてくれたよ。

 今まではつまらない”準主役”しかしてこなかったから忘れていたよ。


 さらに『天才少女』こと夏目メグを舞台から引きずりおろすことにも成功した。

 コレが本当に嬉しかった。ボクのような人間を叩き落としてきた彼女に復讐が出来たんだぜ。画面の前の視聴者の多くは共感してくれるんじゃないかな? だってこの世界の人間の九割は非凡な人間なのだから。


 そうして着実に『物語』を進めて行ったボク。

 最後にボクの前に残って居たのは『非才少年』望月トオルだ。

 

 やはり君は非才少年ね。自身が勇者望月であることにこだわったり、最後まで『主人公』であろうとしたりするんだもの。

 良くやるよ。ドッキリ番組に利用されていると気づきながらも、その役を捨てられないなんて本当に哀れだ。


 だけどもはや関係ないけどね。君は”非才少年”ゆえにボクの事なんて分からない。

 いや理解さえも出来ないだろうね。だから、絶対にボクが主人公になるんだよ。


 でもそんな君にも理解してもらう為に心苦しいが、君を実力でねじ伏せてやろう。

 さあ、君の物語のフィナーレだ。剣を交えよう。

 それが君に出来る最善だっ!


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