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ぼくたちのゆうしゃ

「さて、『自己紹介』も済んだ事だし、残りの四天王を倒しに行きましょ」

「そうだな。ヒミコに時間を使い過ぎたから急がねば……」


 四天王の名に偽りが無いのなら、残る魔族は二体。

 第二の四天王でさえあれほど強かったのだから、警戒していかなければならないな。


「そう言えば、エルフの酒井様と愉快な賢者たちはどうなったのだろうか?」

「さあ? 案外そこらへんでくたばっているかもね」


 縁起でもない事言うなよ。

 まあ、5000を超える魔物を殲滅させられる程の力がある彼女たちがやられているとは考えづらいけれどな。


「ふ~ん、彼らを随分信頼しているみたいね。シグルド。やっぱりああいう色気がある女性の方が好みなの?」

「別にそうじゃないぞ。嫉妬するなよ、ブリュンヒルデ。一番好きなのはお前だ」


 確かに僕がエルフ族が好きなのは事実であるし、色気のあるお姉さんが嫌いというわけでは無い。

 だが、それでも今の僕は『勇者望月』だ。だから『妻』である『ブリュンヒルデ』を裏切ることはしない。

 それにアスクレピオス様からいただいた『天啓』の事もある。 


「そう。それならばいいのよ」


 どうやら納得してくれた様だ。

 彼女の平手打ちは死ぬほど痛いから、くらう破目にならなくて良かった。

 代わりにメグミこと、白石アリスからの視線が痛いが。


「で、シグルドはどうするつもりなの?」

「なにがだ」

「あのエルフ、三賢者たちとの合流はどうするのよ?」

「それか。少し待とうと思う」


 彼らは生きている。このまま置いていくのも忍びない。

 それに『物語』の展開を考えたら、そろそろやってくるはずだ。

 扉を突き破って三賢者たちが。


「おっ、勇者の。……という事はなんとかなったちゅーことやな!」


 不意に前の部屋に続く巨大な扉が開け放たれ、大きい人影が映し出された。


「ナッ、お前はいったい誰だ! 名を名乗れ、四天王よ」


 即座に聖剣を引き抜き、振り返る。


 そうして視界に入ってきたのは――

 全身が玉鋼の鎧と鱗に包まれ、巨大な顎を持ち合わせる巨躯の怪物だった。

 更にその怪物の背には、黄金の髪を持つエルフの女性、賢者酒井の姿があった。


 なんという事だろう。

 5000もの魔物を殲滅させるほどの力を持つ賢者のひとり、エルフの酒井様が謎の魔族に捕らわれてしまっていたのだ。

 ……という事はこの魔族は、恐らくは四天王の一人であり、三賢者以上の力を持ち合わせるというのか。

 こいつはヤバい奴だ。警戒を怠るな。俺。

 

「四天王? ワイが? それは勘違いやな。ワイは通りすがりの黒……、クロコダイルや」

「クロコダイルだと……」


 俺は剣を向けながら、即座に異世界転生小説で蓄えた豊富な知識と、ばーちゃんにつき合わされた古典的RPGの経験を組み合わせて、クロコダイルについて思い出した。


【クロコダイル_ワニ目クロコダイル科の爬虫類(はちゅうるい)の総称。「人食いワニ」として有名なイリエワニやナイルワニなどの獰猛な種類が多い】


 ……思い出してみたが有益な情報は何一つ得られなかった。

 と言うか、今までの登場キャラクターは神話や伝承、歴史から引用されたヤツだったが、今回はなぜかワニの種族名。

 自己紹介で「人間です」と言われた様なものだ。

 さて、どうしたものか。


「お前は四天王でないならば、一体なんだというのか?」

「……あっ、せや。ワイはそこの賢者セージに召喚された召喚獣や」

「な、なんやてっ、くど――クロコダイルぅ」


 なんと彼は酒井様に召喚された魔物だった様だ。

 それならば、この状況にも納得がいく。

 強力な召喚獣を飼いならしているならば、5000の魔族の殲滅も不思議ではないし、酒井様を背負っていても何ら問題は無い。


「とりあえず納得してくれたみたいやな。勇者の」

「ああ、お前が酒井さまの召喚獣なら俺の仲間だ。……なのに、剣を向けて悪かったな。謝罪する」

「別にええんで。これからよろしゅう頼むわ」


 そうして俺たちは握手を交わし、共に魔王討伐を誓ったのだった。

 

「う~ん、はっ、ここは……、魔王城っ。確か収録中に……、ああっ、闇落ちした勇者はどうなった!?」


 しばらくすると、エルフの酒井さまは不明瞭な言葉をぶつぶつと呟きながら、起き上がった。


「目を覚ましましたか、賢者さま」

「……ああ、勇者望月だっ! 良かった。とりあえずなんとかなったみたいだ」


 俺の姿を見た彼女は安堵の笑みを浮かべた。

 それにつられ、こちらも微笑んだ。


「……オッフォン、我々の事を忘れないで欲しいですぞ。勇者望月よ」

「そうですよね。これじゃあワタクシ達さながら背景ですね」

「あっ、生きてたんだ」


 ついでの賢者たち、柿本と岡崎が扉から入ってきた。

 てっきり酒井様以外は死んでしまったのかと思っていたが。

 出撃前、あれほど死亡フラグを立てておいて逆に死なないのは、どこかのエースパイロット以外知らない。

 ……でもギャグコメディー補正が無かったら死んでいたと思う。

 

「……失礼。取り乱しました」

「気にしないで下さい、エルフ様。それより今は合流できたことを喜びましょう」

「そうですね。ただいま。勇者よ」

「お帰りなさい。三賢者たちよ」


 様々な困難を乗り越えて、仲間が再び集う。

 それはなにより素晴らしい事では無いか。

 たとえ、この物語が仕組まれていたとしてもその事実は揺るがない。

 とにかく素直に嬉しいのだ。


「あらぁ~、あなたの言うとおりになったわね。シグルド」

「ああ、俺のわがままにつき合わせて悪かったな」

「ふふっ、これで『導かれし者たち』が揃いましたね」

「わぁはっは。さて、全員そろったところで次の部屋に進むとするか」


 ヒロシはそう言って、次の部屋に向かうように言う。

 すると突如として、前方の扉が開け放たれ、二つの影がこちらに伸びてきた。


「いい台詞だな」「ああ。感動的だな」

「「だが無意味だ」」

「「なぜならここで全滅バットエンドなのは確定的に明らかだからな」」


「お前たちは……、四天王かっ!?」

「「いかにも我らこそ四天王だ」」


 俺はエクスカリバーを引き抜き、二つの影を睨みつける。

 視線の先にいたのは――

 割烹着と武士の甲冑が織り交ざりし格好をした美青年と、テカテカと輝くアジサイ色の装甲に全身を包んだ騎士の姿があった。

 

「儂は第六天魔王にして、世界を統べるシェフ、織田信長じゃ」

「私は正義の執行者にして、聖剣アロンダイトの使い手、『ランスロット』だ」

「な、なんだってっ!?」


 俺は彼らに剣を向けながら、即座に異世界転生小説で蓄えた豊富な知識と、ばーちゃんにつき合わされた古典的RPGの経験を組み合わせて、織田信長について思い出した。


【織田信長_戦国・安土桃山時代の武将。説明不要の超有名な偉人。その人気ぶりからか、異世界転生小説にもその名が出てくることがある。……異世界なのに。何故か女体化されていることも多い。ぶっちゃけ久しぶりに男の方の信長を見た。今回はシェフだと……。ちなみにホトトギスは殺す模様】


 そして、もう一つの四天王、ランスロットについても思い出した。


【ランスロット_アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人。異名は湖の騎士。円卓の騎士の中では筆頭の戦力を持つが、仕える王にして親友であるアーサー王の妃を寝取るクズ。それか何処かの架空兵器の名。それかどこの国にも属さない紳士的な諜報機関の一人】


 どちらも能力は申し分ない程に強い相手である事は明らかだ。

 それが同時に襲いかかってきたとなると、戦況はかなり苦しい。


「ふん、残りの四天王が揃ってお出ましか。案外見掛け倒しなんだな」

「逆に聞くが、何故そうしないと思っていたのじゃ?」


 ――確かに彼の言う通りだ。

 戦闘においては個々の実力と同じぐらい、数の力がものを言う。

 それに勇者たちは、今までの仲間たちを引き連れて襲いかかってくるのだ。

 それなのに、勇者が襲いかかって来るのを悠長に待ち、そして一人で戦うなんて馬鹿げている。

 本当は彼らの様に不意打ちや数で攻めてしかるべきなのだ。


「そうだな。間違っていたのは俺の常識の様だ。すまなかった」

「……なに敵の言う事を真に受けて、謝っているの、シグルド?」

「さて、戦う前に一応聞いておくが、投降の意思はあるかい?」


 ランスロットがそう尋ねてくるが、答えは決まっている。


「フッ、俺を誰だと思っているんだ。俺は不死身の勇者、シグルドだっ!」

「そして私は可憐な戦乙女、ブリュンヒルデよぉ」

「ふふっ、普通の村娘のメグミですわ」

「我ら、東方随一の英知、三賢者っ!」

「あっ、ええっと、クロコダイルだワニっ」

「つまり、俺たちは貴様らを打ち倒すッ」


 これこそが我らが『導かれし者たち』の意思であり、総意である。

 彼らこそが双子の世界、いや、虚構の異世界にて唯一の『本物』である。

 お前らの様な『贋物』には止められぬのだ。


「そうか。では一人ずつ楽にしてしてやろうッ。それが儂に出来る救済じゃからのッ!」


 信長は俺たちの答えに軽く頷き、懐から銃を取り出した。

 げっ、飛び兵器かよ。しかも色合いから察するにアレってデザートイーグルじゃないかッ。

 火縄銃ならまだわかるが……。史実設定ぐらいちゃんと守れよッ。

 というか、この位置じゃ避けきれ――


「ふう、全く世話が焼ける勇者ですね」

「酒井様!?」


 エルフの酒井様が俺の目の前に割り込み、銃弾を切り裂いた。


「チッ、余計な真似を」

「うつけと呼ばれたあなたが無粋ですね。さて今のうちです。魔王クロノスはこの先の玉座にいます。彼女を打ち倒せるのは、勇者望月よ、あなただけですから」

「やはり魔王クロノスを討伐出来るのは伝承に伝わる聖剣の使い手である俺でないといけないのかッ!」

「ですぞ。これぐらい格好をつけさせてほしいですぞ」

「それにこんな相手、ワタクシレベルのキャスターにとっては全く問題ありませんっ」

「ここはワイたちに任せて早く行くワニ」


 三賢者とクロコダイルは織田信長の前に立ちふさがる。


「お前たち……」

「邪魔をするなッ。このたわけ共ッ!」


 信長は俺に向かってくるが、三賢者の巧みなチームワークで阻止する。


「で、でも。残りのメンバーだけではとても……」


 奴らを打ち倒す事は出来ない。俺は本能的にそう直感した。

 敵は稀代の英雄が二人、一人は近代兵装、もう一つは聖剣を持っている。

 

「この期に及んで仲間割れかッ。その隙が命取りだッ。『湖の乙女よ。私に力をッ』」


 ランスロットはそう言い放ち、聖剣に込められた力を開放する。

 クソッ、ココはあの聖剣の姉妹剣であるエクスカリバーで対抗するほか無いのかッ。


「させるかよッ。輝き放てッ、三叉槍ッ」


 ヒロシが投げた三叉槍が聖剣アロンダイトにヒットし、解放を阻害する。


「ヒロシっ!?」

「ここは任せて、いいから行けよ。そして後でまた会おう。勇者、いや、望月トオルよッ」

「ですわ。ここは私たちの『劇場』です。あなたはアナタの舞台に向かってくださいッ。……巨人殺しの英雄さん」

「ヒロシとメグミ、すまんッ」


 俺は二人に背を向け、前方の扉に走り出した。


「……させるか。『人の子よ。自らの欲望に屈せよッ! ――強欲グリードなる天魔デビルッ』」


 信長は己が生前契約した天魔を魔弾にして、こちらに撃ち出してきた。

 アイツ、親玉である魔王クロノスの護衛の為に、必殺技を放ってきやがったッ。

 七つの死に至る罪、その一つである『強欲』全てが込められた魔弾を喰らえば、不死さえ殺すやも知れない。

 

「ここで朽ち果てろ。不死の勇者よッ」


 クソッ、躱しきれ――

 カキンと鈍い音がして、俺の目の前で魔弾が切断された。


「なにぼさっとしているの。シグルド」


 ブリュンヒルデがアスカロンで魔弾を切り裂いたのだ。


「助けてしまったな。ブリュンヒルデ」

「一緒に行きましょ。魔王クロノスを討伐しに」

「でも、あいつらが……」

「……いいのよ。これが勇者の仲間に出来ることだから」

「そうであっても……」

「あんたは勇者なの。だから自身の使命を全うなさい」

「……そうか。分かった。ついてこい。我が『妻』よ」

「了解よ。死が私たちを分断わかつまで」


 俺とブリュンヒルデは後ろ髪を引かれながら、この部屋を後にした。

 仲間たちの想いをこの背に受けて。

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