表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/38

魔王城で自己紹介するのは間違っているのだろうか?

「わぁはっは、望月よ。お疲れだな」

「うふふ、よくやりましたね! 望月さん」


 いつの間にか三又愴を持っていたヒロシと、パーティーいちの物理アタッカーのメグミが祝福の言葉を述べながらこちらへ向かってきた。


「あ……、うん、そうだな。ありがとうございます」


 後ずさりしながらも、二人に返答する。


「うん? そうしたのだ。やけによそよそしいじゃないか。望月よ」

「ですよ。どうしちゃったんですか?」


 僕は曖昧な返事をしながら、もう一歩、後方に下がる。

 なぜこんな事をしているのかと言うと、『ある事』が心の中で引っかかってしまったのだ。


 今まで接してきた二人、すなわち『メグミ』と『ヒロシ』はあくまで、この物語の中の登場人物で、彼らがいったい何者なのか全く分からないという事だ。

 これはこの物語の性質上仕方ない事なのだが、こちらが本性を全て明かしてしまった今、相手の事が一切分からないとなると、こう言った態度になってしまうのもまた仕方がない事だと思う。


「はぁ~、相変わらずまどろっこしい性格してるわね、あんた。だからこんなところでこんな事しているのか」


 後方でやりとりを見ていた夏目メグは大きなため息をつき、肩をすくませる。


「なんだとっ、べ、別に今まで旅してきた仲間の素性が分からなくなったから警戒している訳じゃないんだからな。本当だぞ」

「……というわけ。二人とも本当の自己紹介をしてあげて」


 心底呆れた顔をこちらに向けた後、二人に自己紹介を仰ぐ夏目メグ。

 ……まさか、初めからこうするつもりで、あんなことを言ったのか。

 完全に読まれちゃってるよ。僕の思考判断。


「ふふっ、全て顔に書いているから。あんたの思考」


 むかっ、そこはあえて言わなくてもいいだろっ。

 余計な事ばっか言いやがって。


「うふふ、そう言う事でしたか。基本的に図太いのに変なところだけ神経質なのですから」

「わぁはっは、……まあ、その気持ち、分かるぜ。俺もあんたの事気になって仕方なかったんだ。だから今度はこっちの番ってやつだな」


 二人は妙に納得した様な顔を見せ、頷いた。


「では、私から。私は白石しらいしアリスですわ。そして夏目お姉さまの妹ですの」

「僕は望月トオル。普通の高校生です。よろしくおね――、へっ? 妹?」


 メグミ役の彼女が実は夏目メグの妹!?

 でも、苗字も違うし――


 いや、待てよ。魔術師の家系はその才能を発揮するために養子に出される事があると聞いた。

 そんな感じで彼女ら姉妹のどちらから泣く泣く養子に出されてしまったのではないだろうか?

 だから、メグミはブリュンヒルデの事を異常なまでに慕っていたのか!

 まさかこんな茶番劇の裏に本当のドラマが隠されていたのかっ!


「何、本気になって信じているのよっ! しかも変な設定まで付け足して」

「……ですよねぇ」


 流石に調子に乗り過ぎた。中二病患者の悪い癖だ。


「でもなんで白石さんは夏目メグの事を『お姉さま』と呼んでいるんだ?」

「そんなのお姉さまの演技に惚れ込んでしまったからに決まってますわ」

「……まあ、演技面で面倒見てやったのはホントだし、アリスとは二つ違いで妹みたいな存在なのも確かよ。でも血縁関係は無いわ。そこんところしっかりと覚えておいてッ」


 ……彼女がここまで念押すという事は、僕が思うより複雑な関係性であるのだろう。これ以上首を突っ込むべきでは無いかもな。


「あ~ん、お姉さまのいけずぅ~」


 ……いや、単純に白石さんがお姉様を病的なまでに愛しているだけか?


「うふふ、こんな私ですが仲良くしましょ。でも……」

「でも?」

「お姉さまに手出ししようもんなら、コンクリで固めて博多湾に沈めたるけん、覚悟しーよ」


 怖ッ。この子めっちゃかわいい顔してエゲツナイ事口走っているぞ。

 完全にヤのつく自由業の人のセリフだ。

 ……これは夏目メグも塩対応をするよね。


「アリスッ。その辺にしときなさい。そんな事は無いから」

「え~、ホントですか? まあ、お姉さまがそう言うならば従いますけど。でもな~、割とノリノリで『約束ラブラーブされし婚約剣エクスカリバー』を使っちゃいますしね~」


 ……決めた。

 二度と『約束ラブラーブされし婚約剣エクスカリバー』は使わない。

 僕、まだ高校生。死んじゃうには早すぎる。マジで転生する事は避けたい。


「じゃあ次は俺の番かっ! よっとっ」


 三又槍を巧みに扱いひょいと立ち上がったヒロシ。


「俺の名は――」

「いや、別にいいッス。知らなくても。よろしくっ!」


 何かチャラいし、ウゼーし、苦手なタイプだし、別に知らなくてもいいような気がして来た。


「いや、なんでだよッ! またこんな扱いかよ。なんかデジャヴを感じるな」

(コイツ、普通にしてればいいのに自己紹介で張り切るタイプなんだよね。多分楽屋での紹介もカットされてそうだし)

(お姉さまの言う通りです。へたくそなんですよね、ヒロシさん。望月さんの判断も分かります)

「そこの二人っ、なにひそひそ悪口言ってるんだっ。……まあ、確かにそうだけどさ」


 認めるんだ。

 そこで認めちゃう辺り『ヒロシ』と同じで、性格も良いみたいだな。


「わりぃ。冗談だよ。ヒロシの人柄が良かったから試してみたくなっちゃたんだ」

「ちっ、舐めやがって。俺は大野、大野ヒロシだ。よろしくな。望月よ」


 彼、大野ヒロシはそう言って手を差し伸べる。

 僕は握手に応じ手を固く握りしめた。

 ……というか、本名もヒロシなんだ。

 自分で自分を演じているのは僕だけじゃなかったのか。


「魔王討伐までの短い契約期間ですが、よろしくお願いしますね」

「よそよそしいなッ。おい、俺は派遣社員かッ」


 ……あ、分かった。

 演技能力はあるがその他が残念なタイプの人だ。

 特にツッコミにセンスが無い。


「ね。全体的に残念なセンスしてるでしょ。ヒロシって」

「そうだね。君の言う通りだ。夏目メグ」

「うふふ、だから私より査定が下なんですよ。ヒロシさんは」


 その認識は『色彩』メンバー全員が感じていた事の様だ。


「クソッ、お前たち、俺より年下の癖に言いたい放題言いやがって……」

「あら、でもあなたのお陰でパーティーは一つになったみたいよ」


 確かに。

 先程まで存在した心の壁<通称ATフィールド>は無くなり、良い雰囲気に転じていた。


「そうだね。わざわざありがとう。夏目メグ!」

「べ、別にあんたの為じゃないわよ。ただ物語を円滑に進めるためだからね」


 なぜかこちらを呼び指しながら、宣言する夏目メグ。

 ――とその後ろで阿修羅の様な形相でこちらを睨む白石アリスの姿があった。

 本当に怖いな。……というか今回は俺、なんもしていないだろっ。


「うふふ、魚の餌になりたいならいつでも声をかけて下さいね。すぐに楽にしてあげますからね」

 

 彼女が言うと冗談なのか否か全く分からないな。

 でも気をつけないとゲームオーバーになってしまうかも知れないな。


「……ま、まあ、それでも心理的に楽になったよ。ありがとう」

「うふふ、この世界での付き合いは決して嘘じゃないですよ。そこだけは覚えていてくださいね」

「だな。水臭いぞ、望月よ。悩みがあるなら俺が相談に乗ってやるぞッ!」


 この世界、ヱ世界を構成する全ては贋作であっても、その中で僕と仲間たちが築き上げた『関係性』だけは本物だった。

 その事実が何よりも嬉しく、また、この物語を終わらせる決意を固めてくれた。

 あと二人の四天王と魔王を倒した先に見える世界を探して、僕は剣を振るう事に決めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング 『ヱ世界転生TV』の視聴率向上のため、是非クリックを!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ