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魔界闘士の性(サガ)

――PPPテレビ 魔王城特設スタジオ


 我は即座に異世界転生小説で蓄えた豊富な知識と、ばーちゃんにつき合わされた古典的RPGの経験を組み合わせて、ジャック・オー・ランタンの性質を思い出した。


 ジャック・オー・ランタン_それは……

 ……って、なんで我が下等生物共に説明しなきゃならんのか。

 それは望月トオルの仕事だろっ。我はしないからな。

 知りたきゃ勝手に調べろっ。アイルランドの悪霊とだけ教えてやる。


「しかし、どうしてそんな奴が真の黒幕になったのだ。答えよ、小娘」


 あのカボチャ頭は元人間の悪霊。

 そんな下級の存在が神や魔王を欺けるのだろうか?

 ……まあ、あのゼウスなら簡単に騙されそうだが。オレオレ詐欺とか引っかかりそうな神だもの。


「奴が神と魔王を言いくるめたのよ。そして戦争の引き金が引かれたの」

「……まて、小娘。そもそもなぜお前がそんな事を知っているんだ?」


 いくら彼女が望月と同じ転生者リインカーネーションだったとしても、黒幕の存在など知る余地など無いはずだ。やっぱり彼女は出任せを言っているだけではないだろうか?


「それは簡単な話よ。私は真の黒幕にあっているからだわ」

「黒幕にあった? にわかには信じがたいな」


 黒幕は黒い幕の向こう側にいるから黒幕であるのだ。

 そんな人前にホイホイ姿を現す訳ないだろっ!


「そう? 私、『夏目メグ』の前には出てきたけれど」

「夏目メグ――それがお前の転生前の、いや、本当の名か」


 随分と可愛らしい名前だな。名は体を表すというがこの小娘の場合は別の様だ。

 どちらかというと、”私失敗しませんので”とか平気で言っちゃうタイプだな。

 勿論そう言って失敗するまでがセットな奴だが……。


「そうよ。私の名は夏目メグ。劇団色彩の主演女優だわ」

「えっ……、マジで!?」


 これは本当に驚きだ。まさかまだそんな秘密を隠し持っていたとは……。


 色彩を知らない下等生物の為に一応説明しておくと、古典的なストーリーから現代向きのオリジナルまでこなす演劇スタイルから若年層から年配層まで幅広い支持を獲得している劇団のことだ。


 特にオリジナルの『色彩』は名作だった。

 世界を旅しながら共に絆を育んだ先輩と後輩の絶妙な関係性や、敵だけどどこか憎めない伯爵。ビジネスライクな傭兵たち。どこをとっても素晴らしいストーリーだった。


「あら、私のファンでしたか。サインしましょうか? ヨルムンガンド様」

「ええい、思いあがるなッ。小娘が」


 でもチョットだけ欲しかったな。サイン。


「そんな充実した日々を送っていたお前が何故こんな世界に転生したのか?」


 転生する奴なんて、冴えない学生かニートと相場が決まっているのに。

 ソース? それはもちろん今まで読んできた異世界転生小説だ。


「”充実した日々”ねぇ。そんなこと無いけれど」


 そうなのか? 何もない俺と違ってお前は立ち位置があるでは無いか。


「それで私が転生した理由だけど、全て黒幕のせいよ」

「ジャック・オー・ランタンか」

「そう。私は彼によって転生させられたの」


 夏目メグの話によると、公演終了後の楽屋に現れたジャック・オー・ランタンに妖術を掛けられて目が覚めたらこの世界に転生してしまったと言う。

 悪質な奴だな。流石、悪魔を騙した男と言ったところか。


「しかしなぜ黒幕の存在と意図を知っているのだッ」


 夏目メグはあくまで奴の手によって転生してしまっただけ。黒幕がいきなり一人語りでもしない限り、その真意をくみ取る事など出来ないと思うのだが。


「それは全て『ブリュンヒルデ』のお陰よ」


 ……どういう事だ? 彼女、夏目メグが戦乙女ブリュンヒルデに転生したものでは無いのか。


「説明せよ。小娘」

「私の転生は特殊で、憑依転生だったの。だから私の意識とブリュンヒルデの意識が混在しているわ」


 なんだと!? 憑依転生だと。そんな転生の方法があるのか。

 しかし、そう言われれば納得できることがある。


 例えば彼女の口調である。

 最初、ミリノの街で会った時は「アハハ、イイね、ぼく。イイ目をしているよ。特別に勝負してアげる。1対1のサシでヤろう」とか平気で言ってしまう様なイタイ……いや、グーデレ系の戦乙女の様な口調で話していた。

 しかし今はどうだ。

 片言の語尾は無くなり、普通の女の子の様な口調となっている。

 これは単なるキャラぶれでは無く、人格の変化があったのだ。


 それに最初は望月トオルの事を『ぼく』と呼んでいたが、途中で『シグルド』に変化している。

 ここにも人格の変化が見られる。


 さらに極めつけに好きな食べ物を訪ねた時、彼女は『今川焼き』と答えた。

 これは『回転焼きでは無いのか』と言いたい訳ではない。

 これこそが戦乙女の主人格が夏目メグへ変化した証だったのだ。

 納得したぜ。


「しかし、そのブリュンヒルデと真の黒幕にどのような関係性があるのか。これが分からん」

「それは『本人』から解説してもらおうかしら」


 彼女はそう言って自身の首筋を親指で押す。すると彼女の顔つきが凛とした戦乙女のものに変化する。


「アハハ、久しぶりネ。闇落ちした姿もステキだわ。ぼく」


 そう、戦乙女ブリュンヒルデの再エントリーだ。

 クソッ、こいつは正直苦手だ。


「違う。我は無限混沌であり勇者望月では無い」

「ソウ、ま、ワタシには関係ナイけれどね。あのカボチャ頭について知りたいんだねぇ」

「ああ、我に存分に語るとよい。許可する」

「アハハ、アイツ、ジャック・オー・ランタンこそ『ラグナレク』を引き起こした者であり、ワタシがこの世界に派遣させた理由ヨ」


 またここでも『ラグナレク』が関わってくるのか。我は望月トオルの下らない妄想だと思っていたがどうやらそうでも無いらしい。


「奴とラグナレクはどのような関係性があるのか?」

「アイツは天界からも地獄からも追放された男だわぁ。だからその腹いせに天と地を揺るがす最終戦争『ラグナレク』を勃発させ、神の世を終わらせるのが彼の本当の目的よぉ」


 確かに伝承のジャック・オー・ランタンも現世をさまよう悪霊だったな。しかしそのような大掛かりな事をしている存在が黒幕とは気づかなかったぞ。


「ワタシは主神オーディンの命を受けて、この世界に潜むアイツをぶっ殺す為に派遣されたのよぉ~」

「そうか。では奴を倒せば万事解決と言いたいのか?」

「アハハ、流石元勇者ネ。鋭いわぁ~。けれどまずジャックに協力する魔王クロノスを討伐する必要があるわぁ」


 フム、まず大将の首を狙うのではなく、有能な部下から切り崩していこうという事か。実際のクーデターなどでも使われる手法であり一理あるな。


「ソウなのヨォ。ジャック自体は戦闘能力は無いわ。だから協力して魔王クロノスを討伐しましょ。そうすればこの世界は救われるわ。そしてこの物語は終わりを迎えるのよ」


 戦乙女ブリュンヒルデはそう言って我に手を差し伸べる。


「だから、戻ってきなさいよ。望月トオルッ。あんた伝説の勇者なんでしょ」


 それがブリュンヒルデ――いや、夏目メグの答えであるか。

 彼女らしい答えだ。

 ()()()()()()()()()()()()と言いたいのだろう。

 我を”勇者望月”に戻し、四天王や魔王を討伐させ、エンディングに向かわせるのが目的か。

 では自分の答えは決まっている。


「グハハハハハッ。魔王軍筆頭戦力の我、ヨルムンガンドが神の味方に堕ちる訳ないだろう」

「そんな……。もういいのよ。望月トオル」


 お前に我、いや、望月トオルの事が分かるか。

 お前みたいに日の当たるところにいたお前なんかに。

 そんな憐れみを帯びた目で僕を見るな。話しかけるな。


「うるさい。この物語の主人公は神でも魔王でも真の黒幕でもお前でも無く、僕の物語だッ。好きにさせろよ」


 僕は邪聖剣カオスカリバー、いや、段ボールで出来た剣を構える。

 たとえこの異世界が全て偽りであっても、テレビ局に仕組まれたものであっても構わない。

 海も空も大地もヒロインも、全てが呪われていても構わない。

 僕はただ『ヨルムンガンド』に『なりきる』だけだ。

 この物語を続けるために。

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