覇王ヨルムンガンドと最後の幻想
ナレーター〘ついに魔王軍に寝返り、覇王ヨルムンガンドとなった望月トオルッ! 彼の痛すぎる中二病精神はとどまることを知らないッ。果たして彼はもとに戻るときが来るのかッ〙
ナレーター〘ここで覇王ヨルムンガンドに視点を移すとしよう! ミニモニターにチェンジ!〙
――PPPテレビ 魔王城特設スタジオ
我こそが無限混沌ヨルムンガンド。
望月トオルの右腕に封印されていた全てをカオスに包み込む闇の権化だ。
我の力は全てを破滅に導く闇の光。
え? 『光と闇は交わること無きカオスではないのか』だって?
知らぬのか。影には光という意味を持つ。
つまりはそう言う事だ。分かったら二度と聞くな。
さらに勇者望月の異能チートを取り込み『魔界転生』という力も得た。
これは不死身性に死ぬたびに強くなる能力もついているのだ。
この力を生かして巫女殿下と共に異世界を支配するのだッ。
わっはははは!
「グハハッ、なかなか楽しめたぞ。娘ッ。だが次で勝負を決めるとしよう」
我は黒聖剣エクスカリバーを構える。湖乙女の光と我の無限の闇が両方そなわり最強に見える剣だ。
しかし、ヒロシが暗黒を持つと逆に頭がおかしくなって死ぬ。
「待って、シグルド、いや望月トオル。まだ貴方に伝えていない事があるのよ」
望月トオルの仲間、ブリュンヒルデがそう叫ぶ。
いい台詞だ。感動的だな。だが無意味だ。
我は無限混沌ヨルムンガンド。
故にこの肉体の主である望月トオルの記憶は持ち合わせていない
「ほう、面白い。三分間待ってやる。その間に好きに語ると良い」
我は強大な力を持ち合わせる以上に愉悦を求めているのだ。
なに、つまらなければ叩き潰せば良い。
それに今の我は望月トオルではない。
どんな事を言われたとしても関係ない。
プライドの高いあのブリュンヒルデがなんていうか見ものだな。
「聞いて、シグルド。実は……」
どうせ大したこと無いからとっとと言え。
ここでCMなんて挟もうものなら我はキレてチャンネル変えるぞ。
「――実は私もあなたと同じ異世界転生者なのよ」
ふっ、その程度か。くだらな……
…………えっ? 今なんて? マジで?
ブリュンヒルデも異世界転生者なの? そんな面白い真実を隠していたの?
それこそ、お前どこぞのキリト君の恋人みたいなポジションだったのか。
何それ、そういうのが一番好みなんですけど。
うわあ~、マジかよ。それならそうと早く言ってくれよ。そしたら……。
――いや、冷静になれ。俺、じゃなくて我。
そんな事を感じさせる台詞なんて無かったぞ。そんな都合のいい話に騙されるな。
「み、見苦しいぞ、小娘よ。お、追い詰められたからって出任せを言うのものではないぞ」
「あら、望月君とっても動揺してるじゃない。やっぱり気になるの? 私のコ・ト」
「ち、ちげーし、今更そんな事言われても知らないし。 ……っていうか我はヨルムンガンドだしっ」
そうだ、今の我はヨルムンガンドだ。
決して望月トオルではない。
だから小娘がなんて言おうと関係ないね。
「……しかし我は偉大なる覇王。そのおとぎ話に付き合わない事もない。存分に語ると良い」
「やっぱり気になっているじゃない。望月君。いや、『無限混沌ヨルムンガンド』さんでしたっけ? クスクスッ」
ブリュンヒルデは小さな手を腕に添えながら失笑する。
うるさいッ。勝手に笑うんじゃないッ。
あと『無限混沌ヨルムンガンド』を軽蔑の意を込めながら言うな。
こんなことしてるのが恥ずかしくなるだろう。
「まあ、あなたが聞いていようがいまいが勝手に話をするわ。あれは……」
「おい、な、ブリュンヒルデ。何を口走っているのか分かって……」
ヒミコと戦っていたヒロシが声を荒らげて彼女の発言を遮ろうとする。
どうやら彼女が異世界転生者であることは不利益であるようだ。
「いいの、ヒロシは黙ってて。こうでもしないと分からず屋とは分かり合えないわ」
誰が分からず屋だ。この野郎。
我は理解できないのでは無く理解しないのだ。
そこら辺を勘違いするな。
「お姉さま。お姉様のことは私から話しましょう。だから……」
メグミはそこで言葉を詰まらせ、黙り込んでしまう。
そこまでして隠す必要がある事実なのか。
我はますます興味が沸いた。
「メグミ、ありがとね。だけどこれは私の戦いなの。新たな境地に立つために必要なことなのよ」
「ほう? そんなに大切な話なのか。それこそ『勇者シグルド』にさえ話せないほどにか」
我はそう言って様子をうかがう。
仲間だった俺にも話さなかった秘密。
何故今頃になって話そうとするのか。もう全てが遅すぎたというのに……。
「ええ、このタイミングでしか話せな事だったの。だって今は真の黒幕がいないのだから」
「真の黒幕だと……? また突拍子もない事を言うぞな。それは魔王クロノスか? それとも全能神ゼウスか? はたまたこの我の事か?」
疑い始まればキリがない。
はっきり言えば今まで出てきたすべての人物が怪しく見える。
「いいえ、そんな奴らではないわ。それにあなたが知っている人物では無いのよ」
「はぁっ? そんなのあり得ないだろっ。じゃあこの異世界に首を突っ込んでいる黒幕がいるというのか?」
我は思わず声を荒らげて、彼女に聞き返す。あり得ない。物語に登場しない黒幕など……。
「ええ、いるわ。そして真の黒幕は私たちの世界と双子の世界を巻き込んだ神々の戦乱『ラグナレク』に便乗し神の国への帰還を果たそうとしているの」
彼女はそう説明する。
一応この世界の史実に即したものの様に聞こえるが実はおかしい。
なんたってラグナロクは俺が考えたイタイ中二病設定に過ぎないからだ。
しかし、我はあえて目をつむった。何故なら今重要な事は『ラグナロク』の真偽ではなく、我が知らぬ黒幕の方が重要だからだ。
「まさか、これまでの物語を影で操っているのが真の黒幕なのかっ」
「そうよ、この物語は真の黒幕『ジャック・オー・ランタン』によって仕組まれていたのよ」
「な、なんだってぇぇぇぇぇぇ!」
ナレーター〘ついに明かされた夏目メグの秘密。それは異世界転生者だという衝撃の事実だった。それと同時に明らかになったにはこの物語を裏で操る真の黒幕『ジャック・オー・ランタン』の存在! ……まさかあれってあの人の事なのかッ。そしてついに一連の物語を彼女が語る!? 段々と真相に向かって加速を始めたヱ世界転生! 気になる続きは……〙
ナレーター〘CMの後に〙
――CM
女神「皆さん! どうもこんにちは! 私、VR新興大使のフレイヤで~す」
女神「皆~! VRってどんなものか知っていますか?」
女神「VRっていろんな事が出来る革新的な技術なんですよぉ~」
女神「実は私もARとVRを組み合わせたヴァーチャルな動画配信者なんですよ!」
女神「さあ、私と一緒に新たな世界を作りましょ❤」
<玉藻トミー社>




