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勇者望月と傾国の美女

ナレーター〘ついに姿を表した四天王が一人にして、最強の九尾狐である『ヒミコ』。果たしてこの魔物の真の正体とは? そして望月トオルは、四天王を倒し、エンディングまでたどり着くことはできるのか?〙


ナレーター〘真の勇者に視点を移すとしよう! ミニモニターにチェンジ!〙


 ――PPPテレビ ドラマスタジオ

 

 紅白の巫女装束に身を包んだ狐耳の美少女。

 彼女はコスプレ巫女っ子でも無ければ、俺の好きなけも耳っ”子”でも無い。


 俺は彼女に剣を向けながら、即座に異世界転生小説で蓄えた豊富な知識と、ばーちゃんにつき合わされた古典的RPGの経験を組み合わせて、ヒミコについて思い出した。


卑弥呼ヒミコ_3世紀前半頃、古代日本にて、邪馬台国を統治したと伝えられる女王だ。

その当時、乱世であった日本列島において、小国家連合が彼女を君主にしたところ戦乱が途絶えたという逸話が残っている。

そりゃ、こんな美少女が女王だったら、争ってる場合じゃないだろう。

昔から日本人は日本人だったのだな】


 そして彼女の格好と獣耳から、もう一人心当たりのある人物を思い出した。


【玉藻前_平安時代後期、鳥羽上皇の院政時に活躍した九尾の狐。

妖艷で博識な女性に化け、鳥羽上皇に溺愛されていたと言う。

一説によると唐の玄宗皇帝の嫁である楊貴妃でもあるらしい。

しかし、鳥羽上皇が病気に伏せた時は月に聖杯を探しに行ったそうで献身的な側面も……。

いや、そんな事は無いだろう。そもそも月の裏側に聖杯があるのか?】


 しかし、彼女がどちらの性質を持っていたとしても、かなり厄介な敵であることには間違えない。

 どちらの人物も『感情を操る呪術』を用いて、国を牛耳った『魔女ウィッチ』である事には違いがないのだから。


 俺はまず彼女を観察し、そこからどちらの側面が大きいのか判断することにした。

 吸い込まれるような黒目に、小さくも形が整ったくちびるは美しく、艶やかで張りのある黒髪は、腰まで届くストレート。そんな頭からひょっこりと顔をのぞかせる狐の耳が、俺の心をかき乱す。


 か、彼女のこれ以上の観察は、青少年の心身に多大なる悪影響を及ぼしてしまう。

 俺はそう体感し、彼女から視線を逸らすがその先に彼女は先回り。

 そしてとぼけたふりをして顔を傾け、ふふっと微笑んできた。

 クッソオ、こんなの惚れてしまうやろぉぉぉ。


「くすくすくす、勇者、いやトオルよ。余はおぬしの事が大層気に入ったぞ。余の伴侶となるがいいッ!」


 俺の心の中でひそかな思いに勘づいた為か、いきなりこんな発言をぶつけてくる。

 なかなか鋭いな。魔族のくせに生意気な。


「フッ、たわけが。そうやって星の数だけ、男を落としてきたのだろう?」


 俺は内心を悟られないように、顔の表情に気をつけながらそう言い放つ。


「そんな男とお主は格が違うのじゃ。そうじゃな。一つ約束をしよう」


 ヒミコは舌なめずりをしながら俺の方に近づいてくる。

 俺は、そこで握っていた聖剣を振りかざすことはできなかった。

 そうして、自身の眼前まで魔族の接近を許してしまい、挙句その魔族の言葉を素直に聞き入ってしまう。


「余と添い遂げるというならば、この世界を二人だけのものにしようぞ」


 彼女はとても恐ろしい事を平然とした表情で口走った。

 おいおい、『この世界を二人だけのものに』という事は『神も魔王も敵に回す』と宣言したも同じ。

 すなわち、自身の全てを捨てる覚悟を持って、アプローチをかけに来たというのか。


 まさか、人生初の逆プロポーズが、『十八世紀生き、巫女装束を着た狐耳の美少女』からだとは思わなかったぞ。

 しかもすべての段階を『キングクリムゾン』して、いきなりガチプロポーズとは……。

 いやいや、歳の差が過ぎるだろう。また種族の壁がある。何より俺たちの関係性は勇者と魔族である。

 これは、まるで『ロミオとジュリエット』だ。


 なんてことを『勇者』である俺が考えていること自体がおかしい。

 ……ホント、考えれば考えるほど頭が痛くなってくるな。

 いや、俺は勇者だ。そもそも魔族の言葉に耳を傾ける必要などないのだ。


「フッ、ヒミコよ。お前は恐らく『人の感情を操る』事ができるのであろう。そんな見え透いた手には引っかかるバカはいないぞ」


 俺はそう言って聖剣を強く握りしめる。

 いくら異性の好みのストライクゾーン、ド直球なヤツでも敵は敵。勇者望月トオルよ。気を強く保つのだ。

 ――決して彼女と共にいたいと言うのは『勇者』が抱いてはならぬ感情なのだ。


「ふふっ、そうか。やっぱりおぬしも余の愛など『呪術』による『ツクリモノ』じゃと思うのじゃな」


 ヒミコはそう言って、巫女装束の裾から呪われし術式が書かれた札を取り出し宙に浮かべる。

 そして彼女は絶大な魔力を放ち、宙に浮かびあがる

 そうして着実に俺を倒す準備を進めて行く。


 しかし、彼女の顔から一粒のしずくが落ちていくのが見えた。



 ――もし彼女と共に魔王軍幹部になるのなら、恐らくココが最後のチャンスとなるだろう。

 ぶっちゃけた話、俺が持つ強大な力と魔道具ぼうけんのしょ、そしてヒミコの人身掌握能力をもってすれば、魔王軍をのっとってクーデターを起こすのはさほど難しくはないだろう。

 それどころか、魔王を秘密裏に暗殺することもできると思われる。


 そうして、彼女とこの世界の新たな王として君臨することは『アリ』だ。

 『王』としての世界統一も、この異世界を救う手段だ。

 それでより多くの者が救われるのならば、こちらを選ぶであろう。

 ああ、そうだな。こちらこそが……。



 ――もう少し落ち着いて冒険しよう。下心だけで行動するのは止めよう。お前の伴侶ブリュンヒルデをほっておかない様にしよう。


 突如、俺の脳裏にアスクレピオス様の天啓が浮かぶ。

 ああ、そうだった。下心だけで行動するのは止めた方が良かったのだっけ。


 フッ、おかげで目が覚めたぜ! アスクレピオス様!


「さあ、最後通告の時間じゃ。トオルよ、余と共に来るか。それともそこの者たちと余に殺されるか。選べッ!」


 彼女は俺に決断を迫る。俺は迷いなく決断を下す。


「フッ、簡単なことじゃないか。俺の伴侶はただ一人! 最高の嫁ブリュンヒルデに決まっているのさッ!」


 俺は魔王城内に響き渡る声で宣誓し、戦乙女を抱き寄せた。


「あ、ありゃ。じゃなくって。あらぁ~、シグルドぉ。大胆なことするのねぇ」


 ブリュンヒルデは頬をゆでダコの様に赤くして、後半小声でそう呟く。

 フッ『敵を欺くならまず味方から作戦』は見事成功したようだ。

 十八世紀生きた狐にもこの迫真の演技は見抜けなかったようだな。

 それもそのはず俺は『あえて』ヒミコの事を惚れこむことで欺いたのだからな。

 えッ、『途中、本気で惚れてなかったか』ですって?

 も、勿論。あれも演技だよ。ホントだよ。


「ひゃひゃひゃ、大傑作じゃな。まさか化け狐の余がまんまと騙されてしまうとは……。よかろう。その才能に敬意を払い、最高の必殺技を食らわせてやろうぞ」


 彼女は、そういうと人差し指と親指で拳銃を模したポーズをとる。

 そして人差し指の銃口を俺ではなくブリュンヒルデに向ける。まずいッ


「くらえ、『強制洗脳びーむ』じゃ! ビビビビビぃぃぃ――!」

「避けろぉ! ブリュンヒルデェェ!」


 俺はそう叫びながら、彼女を突き飛ばし謎のびーむから身を挺して守った。


「ぐおおおおおぉぉぉぉ」

「シグルドぉぉぉぉ」


 ――ブリュンヒルデの叫び声をどこか遠くで聞き、意識はそこで途切れた。



ナレーター〘最強の九尾の攻撃をもろに食らってしまった望月トオル。果たしてどうなってしまうのか?そして残された勇者一行はいったいどうなってしまうのか? そして望月トオルは第二の四天王を倒し、魔王の下までたどり着くことはできるのか? ?だらけのヱ世界情勢! 気になる続きは……〙


ナレーター〘CMの後に〙

―CM


どうでもいいうんちくコーナー!


うんちくお姉さん「卑弥呼さんは中国人が発音を聞いて漢字を当てた為、高貴な身分のはずなのに『卑』なんか言う字が使われているんだぞ!」


ちびっこたち「へー、そうなんだ」


うんちくお姉さん「また近年になって卑弥呼の墓と思われる『箸墓古墳』が近畿で発見された為、邪馬台国『九州説』は絶望的な状態にあるんだ」


ちびっこたち「へー、しんそこどうでもいいね」


では、また来週!


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