勇者望月と狂気の山脈
ナレーター〘ついに姿を現した四天王。その一人、スライムロード『ショゴス』。果たしてこの魔物の真の正体とは? そしてそろそろ違和感が隠し切れなくなってきたヱ世界! エンディングまで気づかれずに行くことはできるのか?〙
ナレーター〘真の勇者に視点を移すとしよう! ミニモニターにチェンジ!〙
――PPPテレビ ドラマスタジオ――
怪しく触手を蠢かす美少女。彼女はただの雑魚スライムでは無い。
俺はショゴスと剣を交えながら、即座に異世界転生小説で蓄えた豊富な知識と、ばーちゃんにつき合わされた古典的RPGの経験を組み合わせて、ショゴスの性質を思い出した。
【ショゴス_それは神話無き国アメリカに現れた人造神話、『クトゥルフ神話』に登場する神造生命体の事である。
その外見は、俗に言うスライムのような不定形の体に目や牙が無数ある様なものである。
そして、最大の特徴は姿形を自由自在に変えることができる事である。
一説によるとすべてのスライムの原型とも呼ばれており、いわば『すべてのスライムの母』である魔物だ】
しかし、コイツは強いぞ。
先程から聖剣エクスカリバーで触手を振り払うのが精いっぱいだ。
どうやらショゴスには物理攻撃がほとんど通じないようだ。
その証拠に聖剣エクスカリバーでの剣撃もポヨンと弾かれてしまっている。
「テケテケ・リ。脳波でコントロールできるこの触手に攻撃は効かないであります。分かったらとっとと手をあげ、速やかに投降せよであります。そうしたら、私のペットぐらいにはしてあげるでありますよ」
ショゴスはそう言って高笑いする。クソッ。このまま為す術もなく、俺達はショゴスのペットになってしまうのか。
――いや、『逆に考えるんだ。ペットになっちゃってもいいさ』理論でいくと敗北してもいいのか。
あのすけべスライムのペットか……。
グヘヘッ。それもありっちゃありだな。
「フッ、ショゴスよ。一応聞いておくが、もしお前が俺たちをペットにしたらどうするのか?」
「テケテケテケ。もうあきらめたでありますか? そうですなぁ、お前らをペットにしたら『穴を掘らせた後、それを埋めさせる作業』をさせるでありますかな」
クソッ。ガチ物の精神的拷問じゃないか。驚くこと全然嬉しくない。ホントにそういうのは求めていない。
「あらぁ~、シグルド。こんな状況でエッチな妄想した挙句、命乞いしてるのよ。あなたホントに勇者な――きゃあ」
「ブリュンヒルデッ!」
クソッ、油断したスキにブリュンヒルデがショゴスに捕らわれてしまった。
「テケテケ・リ。戦乙女を討ち取ったりであります。さあ彼女の命が惜しくば武器を置けでありますよ」
ショゴスはそう言い高笑いして、ブリュンヒルデを触手で拘束する。
やったぜ。こりゃ、ゆりゆりサービスシーンだ。こりゃ目の保養になるぜ! どんな感じだったのかは勝手に想像していてくれ。
……じゃなかった。思わず本音が。間違えた。
クソッ。流石に身内が捕らわれてしまった以上、うかつに武器を向けられない。
「フッ、仕方がない。これでいいかい?」
俺はそう言って、聖剣エクスカリバーを地面に置く。
「テケテケ・リ。聞き分けのいい勇者でありますな。気に入った。殺すのは最後にしてやろうであります。先にこの女を始末するであります」
まさか勇者の俺がスライムなんかに追い詰められ、絶体絶命に陥るとは……。
何か策は無いのか。
俺はそう言って革袋を漁る。クソッ。ゴブリンの帽子とサイクロプスの写真ぐらいしか――。
いや、あった。『ぼうけんのしょ』が無造作に放り入れられていた。
エルフの酒井様が入れておいてくれたのだろう。
もしかしたらショゴスに有効な手段が記されているかもしれん。
「お願いだから何か攻略情報が記されていてくれッ」
俺は早速『ぼうけんのしょ』を起動した。
《おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました》
デロデロとした不気味な効果音と共に、真っ黒な背景に突如現れたメッセージウインドウ。
「ぐああああぁぁぁ」
俺は脳裏にトラウマが蘇る。
ばーちゃんとやったDC3のセーブデータが吹き飛んだトラウマだ。
《嘘ですよ。勇者「ああああ」。ちゃんとセーブデータはあります》
『ぼうけんのしょ』は抑揚に欠ける機械音声でそう告げる。ブラックジョークも大概にしてほしいものだ。
それよりも俺の名前が、『トオル』でも『シグルド』でもなくて『ああああ』になっているのが地味に気になる。RTAかよ。
「フッ、『ぼうけんのしょ』よ。ショゴスの攻略情報を教えてくれ」
《ええッ、流石にスライムぐらいは自力で倒してくださいよ。アイツHP5ぐらいしか無いですし》
「フッ、こいつはスライムじゃなくてショゴスなんだ。物理的な攻撃を受け付けない強い奴だ。何か攻略法は無いのか?」
俺は板状の魔導機器に頭を下げてお願いする。だいぶん滑稽な絵面だが仲間が助かるのならば、この際なんだって良い。
《仕方ないですね。ショゴスは電気によってひるみます。その時は物理攻撃が通ります。そして幸いなことにこの『ぼうけんのしょ』にMPを込めると電撃が放てます》
ぼうけんのしょはそう言って、自身の画面を切り替える。すると雷のアイコンが現れる。
説明によると、アイコンをタッチすると『ぼうけんのしょ』から電気玉が生成され、放たれる様だ。
「これでなんとかなるのか! やったぞ。――ってアレ?」
俺の手にしっかりと握られていたはずの『ぼうけんのしょ』はいつの間にか消えていた。なんでさ。
「あぁん。糞虫勇者がもたもたしてやがるから、代わりに私があのクソレズ触手をぶん殴って、お姉様を助けに行くんだよぉ」
いきなり性格が豹変したメグミは俺から奪った『ぼうけんのしょ』を持ってショゴスに攻撃を仕掛けようとする。
「無茶だ、メグミよ。気持ちは分かるが今は……」
彼女は俺がそう言い終える前にショゴスに向かって飛び込んでいった。
「テケテケ・リ。ぶっ殺されに来ましたか。所詮ただの町娘など、吾輩にかかれば『飛んで火にいる夏の虫』でありまーーす」
ショゴスはそう宣言すると、ブリュンヒルデを拘束していた触手をほどき、メグミめがけて攻撃する。
「め、メグミぃーーー!」
クッソォ。まさかスライムごときに俺の大切な仲間がやられてしまうとは。
「テケ・テケリ。『やったかッ!』でありますか」
ショゴスは勝利を確信し、ご丁寧にも死亡フラグを突き刺す。
……と言う事は。
「くたばるのはお前の方だ。クソレズ触手ぅ!」
やはりメグミは生きていた。しかも彼女に向けられていた触手を全て引きちぎっていたのだ。
「ギャアアアア、今のは痛かったぞぉであります」
ショゴスはそう言い、急いでファイティングポーズをとる。……がすでに時遅し。
メグミはショゴスの視界の外、すなわち真下に潜んでいたのだ。
その為にショゴスはメグミのアッパーをもろにくらい、よろけてしまう。
「これでゲームオーバーだド外道ーッ!」
メグミは質量のある残像で敵を惑わせ、その隙に最大級にチャージした電気玉をショゴスに放った。
「クソおおぉぉぉ。クロノス公国に栄光あれぇぇぇ」
ショゴスはそう言い残すと哀れにも爆発四散した。
つまりはメグミの勝利である。なんか勝っちゃったよ。町娘。
「うふふっ、大丈夫ですか? お姉さま」
彼女はそう言ってすぐにブリュンヒルデの下に駆け寄っていく。
「あ、うん。私なら大丈夫。なんかごめんね」
助け出されたブリュンヒルデも目を丸くして驚いている様だ。そりゃそうだ。勇者である俺も心底ビックリしているのだから。
「わぁはっは。我が娘よ。よくやったな。その、なんだ……。少し見ない間に成長したな」
そう口にする父親、ヒロシもこの結果には度肝を抜いている様だ。その顔は驚きと恐怖で青くなっている。
そりゃ、娘が何時の間にか狂戦士になっていたら、こうなるだろう。
「はい、『奉公先』で沢山修業しましたから! このぐらいなんてことはありません」
どんな奉公先なんだよとは思ったが、怖くて詳しくは聞き出せない。
「うふふっ、まだ四天王は残っています。どんどん倒していきましょう!」
彼女はそう言ってブリュッセルの手を引き、魔王城へと突入していった。
……ホントに大丈夫かな。俺の異世界転生。
☆
ナレーター〘四天王が一人『ショゴス』を撃破した勇者一行。しかし次の四天王は恐ろしいまでに強力な力を持っている? 果たしてその魔物の正体とは……。 そして望月トオルは、四天王を倒し、エンディングまでたどり着くことはできるのか? 気になる続きは……〙
ナレーター〘CMの後に〙
―PPPテレビ 魔王城特設スタジオ――
魔王「くくくっ、ついに我が城に入ったな。勇者望月よ。良いだろう。歓迎してやろう。おい、■■はいるか?」
■■「ひゃひゃひゃ、ここにおるのじゃ! 魔王様」
魔王「くくくっ、■■よ。魔王軍の四天王として勇者望月を向かい討て。遠慮はいらん。貴様の能力をもってすれば楽勝であろう」
■■「ひゃひゃひゃ、もちろんじゃ。魔王様。我が秘儀をもって、必ず勇者望月の首を持ち帰りますのじゃ」
魔王「くくくっ、頼んだぞ。■■」
(バタン)
魔王「くくくっ、さあ、■■を倒し、我にさらなる力を示してみろ。勇者望月よ」
魔王「……次はちゃんと勇者望月が倒すかな?」




