勇者望月とスラ☆ストライク
ナレーター〘三賢者の揺動のお陰で包囲網を脱出した勇者一行。ついに魔王城にたどり着いた! しかし裏では魔王軍四天王が勇者を倒すべく動き出していた! その魔族の正体とは? そして勇者望月は四天王の一人を倒せるのか?〙
ナレーター〘真の勇者に視点を移すとしよう! ミニモニターにチェンジ!〙
――PPPテレビ ドラマスタジオ――
俺達、勇者一行はついに魔王城にたどり着いた。
魔王城は中世ヨーロッパの吸血鬼城のような建造物だった。
正直言って、なんの面白みのない魔王城で心底がっかりした。
俺は、この城の上にピラミッドが乗っかり、さらにおまけと言わんばかりに姫路城が鎮座している様なパラダイス魔王城を期待していたのだ。
「あらぁ~、シグルド。そんな城あるわけ無いじゃない? ココは特異点でないのだから」
ブリュンヒルデは俺の思想を勝手に覗き見してそう答える。いやさりげなくえげつない事するなよ。
……いや、待てよ。なぜ彼女は俺の前世で流行っていたゲームのネタを知っているのだろうか?
ニヤリ。ココは一つカマをかけてみるか。
「フッ、ブリュンヒルデよ。ヘラクレスといえば何を想像するかい?」
「あらぁ~、シグルド。愚問じゃない。それは『残機が十二機ある狂戦士』ってところかしら」
彼女は得意気な顔でそう答える。
クククッ、バカめ。引っかかったな! このにわか神話好きがッ! それは『某人気運命ゲーム』のみの設定だ。
ギリシア神話のヘラクレスにそんなチート能力は無いし、狂ってもない。そしたら最後あんな悲惨な死に方をしていない。
……というか戦乙女が他の神話の事を知っていること自体がおかしいのだ。
「フッ、ブリュンヒルデよ。お前は随分と俺の前世のサブカルに詳しいな。お前まさか……」
俺が真相を突きつけようとするとメグミが会話に割り込んできた。
「お姉様。しっかりとしてください。それは”ペルセウス”の能力ですよ」
メグミよ。そのフォローはおかしい。ペルセウスはそんな能力では……
いや、これ以上ツッコむのは野暮だろう。
この異世界ではそうなのかもしれないしな。
それにメグミとブリュンヒルデが般若の様な表情を浮かべて睨んできているからこれ以上追及したくない。
流石に敵陣前に味方に殺されてアスクレピオス道場に送られるのは避けたいしな。
「わぁはっは、望月よ。お願いだからあまりその辺りに触れないでやってくれ。男としての一生のお願いだ」
何故か全く関係ないヒロシまでも頭を下げた。よほど触れてはいけない世界の根幹なのだろう。
今回の件はこれ以上突っつくのはやめよう。
「フッ、俺はそんな無粋な真似をする英雄だと思ったか」
「あらぁ~、シグルドぉ。優しいのね。グスン……」
彼女はそう言って俺に抱きついてきた。俺は突然の出来事に困惑し彼女を引き離そうとするが、彼女の目には大粒の涙が浮かんでいた。
乙女を泣かすのは勇者の役目でない。彼女を抱きしめそっと髪を撫でた。
そしたら今度はメグミが鬼の様な形相をしながら足にローキックをかましてくる。
痛い。イタイって。いや、弁慶の泣き所とアキレス腱を交互に集中攻撃はホント駄目だって。そこは英雄でも死ねるからね。
「おい、糞蟲。何薄汚い手でお姉様の髪触ってやがるんだ。しかも戦場のど真ん中で。アタマ沸いているんか? この万年発情期ヤロウッ!」
ありがとうございますッ! ……じゃなくて。メグミは何か別人格が取り憑いた如く恐ろしいまでに不浄な言葉を吐きかけてきた。なんでさぁーー!
「おい、メグミもブリュンヒルデもしっかりしろッ! ほんば――」
ヒロシがブリュンヒルデを引き離そうとすると、突如として魔王城の扉が開き、一匹の魔物が出てきた。
「テケ・テケリ。いやはや、最近の勇者は敵陣ど真ん中でラブコメをするでありますか。勇者が聞いて呆れるであります」
「ナッ、お前は一体誰だ! 名を名乗れ、魔族の者よ」
俺は即座にブリュンヒルデを引き離し、聖剣エクスカリバーを鞘から抜き、その魔物の方に振り向く。
振り向いた先にいたのは――
弾性を持った皮膚に雫の様な形をした魔物。俗に言うスライムだった。
「なんじゃそりゃァァァ、なんで勇者がスライムなんかに煽られているのだよぉォォ」
俺はそう絶叫しながら、即座に異世界転生小説で蓄えた豊富な知識とばーちゃんにつき合わされた古典的RPGの経験を組み合わせて、スライムの性質を思い出した。
【スライム_それはRPGに必ずと行って良いほど良く出てくる不定形の液状のモンスターのことである。
日本においては大概ザコモンスターである。
しかしながら元々はダンジョンに潜む危険なモンスターだったのだ。
そりゃゲル状で物理攻撃が効かない設定だったら強いだろう】
さてこのスライムはどちらの性質が強いのだろうか?
それより、この魔物の笑い方何処かで……。
俺がそんなことを考えていると、彼は自己紹介を始めてくれた。
「テケ・テケリ。吾輩はスライムの王、スライムロード。名をショゴスと言うであります。そして魔王さま直属の精鋭部隊『四天王』が一人であります」
な、なんだってェェェ。このスライムが四天王ですって?
聞きましたか? 奥さん。経験値が一しかないスライムなんかが四天王だったら世界を救うのも楽勝だ。
ただなんでか『ショゴス』という名前が妙に引っかかるのだよな……。
そんな事を思案していると、スライムは身体を引き延ばしそれをばねにして俺の腹をめがけてタックルをかましてきた。
「くらえ! 『スラ☆ストライク』でありまーーす」
痛い。痛すぎるぜ。スライムのタックル。見た目に反して全然柔らかくないし、なんか妙に角張っていて腹に刺さった感触がする。
この痛みを分かりやすく伝えると『読書中に突然ラグビー部員に全力タックルを食らった』様な痛みだ。
「スライムをなめるなぁでありますよ。スライムは異世界ファンタジーではザコから中ボス。しっかりと育成すれば魔王級の強さを持つであります」
確かにこのスライムが言っていることは一理ある。配合を繰り返せば最強魔法を平気で覚えるしな。こいつ。
「さらに勇者のペットから転生先の姿まで、なんでもこなせるエースでありますし。なんなら触手生やして女性に襲いかかる事でサービスカットなんかもこなせるでありますからな」
それは納得。ペットにはちょうどいいサイズだし、人語を理解できる知能もある。しかも触手が生えている種族は回復魔法を覚えるので便利だ。あと口癖の『ピキー』ってなんか可愛らしいし。
……もちろん、スライム先輩が作ってくれたちょいエロサービスにもお世話になっているしな。
「フッ、スライムって結構いい種族かもしれんな」
「ええ、ええ。そうでありましょう」
スライムはそう言って自身の身体を『触手を生やした美少女』に変質させる。
よくわかっているじゃん。スライム師匠。可憐な美少女に、不気味に蠢く触手が生えている事によって何とも言えない『宇宙的恐怖』が……。
ん、宇宙的恐怖?
「アッ、思い出したぞ。お前『ショゴス』と言ったな。クソッ、騙された。お前王道ファンタジーのスライムじゃなくて、『クトゥルフ神話』の……」
「テケ・テケリ。知らなければよかったものを、狂気の狭間に沈みやがれッ! でありますッ」
ショゴスはそう言い、触手を俺――ではなくブリュンヒルデにむけて放つ。
「このエロスライムがァァァ」
俺はブリュンヒルデを庇い、触手をエクスカリバーでぶった切った。
……本当にこんなので大丈夫なの?俺の異世界転生。
☆
ナレーター〘ついに姿を現した四天王。その一人、スライムロード『ショゴス』。果たしてこの魔物の真の正体とは? そしてそろそろ違和感が隠し切れなくなってきたヱ世界! エンディングまで気づかれずに行くことはできるのか? 気になる続きは……〙
ナレーター〘CMの後に〙
――CM――
団長「フッ、読書はいいな。……って、貴様は誰だ!」
部員「俺は、通りすがりのラグビー部員さ。覚えておけ!
喰らえ!『最強タックル』」
団長「ぐはぁ、俺は止まんねぇからよっ。お前らも止まるんじゃねえぞ」
読書中の友達にタックルを喰らわせるのは止めようね!
イジメ、かっこ悪いよ。
@cジャパン




