勇者望月と幻の大地
ナレーター〘何という事だろう。いきなり現れた銀髪ぺちゃぱいメイドは”魔王クロノス”だったのだ。しかも彼女によってミリノの町は魔物によって包囲され、戦場と化す。どうする!? ”導かれし者たち”。そして勇者望月は魔王を討つことが出来るのだろうか?】
ナレーター〘真の勇者に視点を移すとしよう! ミニモニターにチェンジ!〙
――PPPテレビ ドラマスタジオ
銀髪ぺちゃぱいメイドさん。まさか魔王だったなんて……。
アスクレピオス様はこのことを見越して、俺に天啓を授けたというのか。
クソッ、あんな天啓がなければ今すぐにでも魔王の右腕になるべく馳せ参じるというのに。
俺はすかさず異世界転生小説とばーちゃんに付き合わされたRPGの知識を用い、クロノスの特徴を思い出した。
【クロノス_ 農耕を司る神。妻、レアーとの間にゼウスをはじめ、ポセイドン、ハーデスという三界を支配する神々を含め六人の子に持つ。また”自身の子に王座を奪われる”という予言を受け、生まれた子を丸呑みにするというヤバいヤツ。母レアの策略でなんとか丸呑みを免れたゼウス様に倒されたと言うのがギリシャ神話には描かれていたのだが……】
しかし恐ろしいのは、クロノスはゼウスの”乳上” ――いや”父上”であるはずなのに”銀髪ぺちゃぱいメイド”の格好をしていたという事実だ。
考えても見てほしい。職場で部下に指示を与えている時に自身の親父がいきなり女装して現れた時のことを。
俺だったら、速攻で辞職届を提出する。
まあ、そういうゼウス様もガニュメデスという”人間の美青年”に一目惚れし、自身の給仕係にするなんてことをしているし、性欲を満たす為に牛や雨に変身している。
……なんていうか似たもの親子なんだな。
だから、正しくいうならば”父親の性癖が自分と同じだった”ぐらいの出来事だったのかもしれない。
……それにしては魔王クロノスは”豊穣神”にも関わらず”たわわ”の部分がぺちゃっとしていた。
まだ戦乙女ことブリュンヒルデの方が大きい。まあそれはそれで”あり”なのだが。
むしろドストライクだ。
クソッ、アスクレピオス様の”天啓”がなければ魔王様の右腕になるべく魔王軍に志願するのだが。
「あらぁ~、シグルド。この非常事態に何悠長に考え事しているのかしら? しかも今の状況を変えるとは到底思わない邪な妄想ばかりして」
うっ、邪な妄想しているのがバレた。
ホントどんな嗅覚しているのか? ブリュンヒルデは。
しかし、彼女が言うように現在の状況が好ましくないのは確かである。
ざっと見渡す限り視界に広がるのは、オーク、ゴブリン、ゴブリン、オーク、ゴブリン、ゴブリン、サイクロプス、スライム、ワーウルフ、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴーレム、オーク、オーク、ドラゴン。
ここ、ミリノの町外れは魔物の群れに囲まれていたのだ。しかもその数はおよそ数千(大半がオークとゴブリンではあるが)。それに対しこちらの戦力はわずか七人。
ぶっちゃけ魔王軍に寝返りたくもなるものだ。
しかし、俺はケイローンのような圧倒的な知識力をもってすればこの戦況を覆す戦術を考えることは造作もなかった。
しかもその戦術を用いての勝算はなんと九割を超えていた。
「俺にはこの魔物の軍勢を前に勝利のビジョンを描く力がある」
「あらぁ~、シグルド。勝算はあるのぉ?」
「俺の読み通りに戦況が動けば、九割をゆうに超す」
俺の戦闘教義はこうだ。
中央の戦乙女が防戦で持ちこたえている隙に、こちら側の精鋭部隊が左右に分かれ、魔王軍両翼を突破。
敵の陣営が崩れたと同時に中央の前後を付き、包囲網を形成する。
――包囲殲滅陣。
これが俺の描いた勝利のビジョンだった。
「うふふ、望月さんは面白いを言いますネ。現在の戦力差、我々7人。魔王軍、およそ5,000。勝てるはずがないですよ」
「フッ、案ずるな。メグミよ。この作戦は実際に勝利をおさめた有名な作戦から拝借したものだ。信用性は高い。(まあ、ソースは異世界転生小説の軍師ものなんだけど……)それに、史実でもスパルタ王ことレオノダス一世は300の兵で、100万の兵を迎え撃っている。何の問題もない」
「あらぁ~、シグルド。でもそれって、地形を生かした陣形あっての話じゃない。しかも結局その三百人じゃ勝てなかったじゃないの。せめて例を挙げるならフィンランドVSソ連とかの勝利を得たのにしなさいよ。いろいろあるじゃない」
「ふふふ、望月さんはもう少しましな案をひねり出してから発言してくださいね。それとお姉さまも発言に気をつけてください。今の立ち位置分かっているのですか?」
メグミは呆れかえったような顔をして俺に嫌味っぽく忠告する。
……それにブリュンヒルデも怒られていた。
そういえば、なぜそんな戦争の事を知っているのだろうか?
「あらぁ~、シグルド。誤解してほしくないから一応断っておくけれど、私はワルキュリーの一人。過去、現在、未来、そして異世界においても戦死者の魂をヴァルハラに連れていくのが使命なの。だからたまたまその戦争を知っていただけなんだからネ」
いや、彼女の弁論はおかしい。
なぜならブリュンヒルデは地上に落とされた時、ワルキューレから解任されている。
だから、シモヘイヘに撃ち殺されたソ連兵をヴァルハラに連れて行っているはずがない。――何かがおかしいな。まあ、凄い目つきで睨まれたから黙っておくか。
「フッ、しかし、どうしたら魔王軍を倒すことが出来るのか? このこう着状態は長くは続かないだろう。何か手を打たねば……」
「勇者望月よ。私にいい考えがある」
「フッ、酒井総司令官。それは死亡フラグなのでは?」
「いいえ、それはどこかの変形する総司令官の話です。私の場合は大丈夫です」
「フッ、ちなみにどんな作戦なのか? 酒井総司令官」
「簡単です。我々、三賢者が魔王軍を引きつけます。その間にあなたたち四人は正面から敵陣を突破し、魔王城に向かってください。作戦は以上です」
「そ、そんな。無茶だ。酒井総司令官。その作戦にはあなたたちの命が計算されていない。到底認めることが出来ない!」
ここでエルフの酒井様が死んでしまうことは許されない。
なぜなら、彼女は貴重なエルフだからだ。
それにまだ彼女のルートをきちんと攻略していない。
つまりハーレムエンドにたどり着けないのだ。
ついでに男どもも死なれると夢見が悪い。
「大丈夫ですぞ。勇者望月。わしには結婚を控えた娘がおる。その結婚式に出席し、孫の顔を見なくてはならんのじゃ」
「そうですよ。ワタクシもこの戦いが終わったら村の幼馴染に告白すると決めているんですよ」
男ども二人が高速で死亡フラグを立てていく。しかも最近目立たなくなったサブキャラがいきなり目立ちだしたとなるともう必ず死ぬ。120%死ぬ。
その法則が当てはまるのならば今回一言も喋っていないコックのヒロシが死ぬ。
しかし、他に方法がないのは確かである。
――彼らの命と世界。
そもそもテミスの天秤では測れぬものだが。仕方あるまい。
”エルフの屍超えて行け”しかない様だ。
「フッ、その作戦を受け入れよう。しかし、あくまで俺たちが魔王軍の陣営を突破するまでの時間稼ぎのみをしてくれ」
「ええ、時間を稼ぐのはいいですが――」
「「「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」」」
三賢者が返事が見事なハーモニーを響かせる。
「――ああ、遠慮はいらない。がつんと痛い目にあわせてやれ、賢者」
「そうですか。ならば、期待に応えるとしましょうか」
その言葉を合図に、三賢者は敵陣に攻撃を仕掛ける。すぐに魔王軍は攻撃に気づき、彼らに反撃を行う。そうして戦場に火ぶたが落とされた。
残った俺たちは三賢者しか見えていない敵の間をすり抜け、戦線を突破する。
クソッ、三賢者よ。お前たちの犠牲は忘れない。そして魔王クロノスよ。首を洗って待っているといい。この勇者望月が必ずお前の息の根を止めてやる!
☆
ナレーター〘三賢者の捨て身の作戦で何とか窮地を脱した望月トオル。魔王城にいざ行かん! そしてそこに魔王の恐るべし罠があるとも気づかずに……。また、勇者の為に5,000の敵を引き受けた三賢者の運命はいかに!? まだまだ続く”ヱ世界転生” 気になる続きは……】
ナレーター〘CMの後に〙
――CM
エルフ「森の大樹が呪われた!?」
天の声「エルフの大樹がダークセージによって呪われた」
天の声「その呪いはなんと永き時を生きるエルフの寿命を二年に縮めるものだった」
天の声「さらに、エルフは永遠に子を成せぬ体になってしまったのだ」
天の声「君に手でエルフを救え!」
天の声「オークを誓いを交わすことで世代を重ねろ!」
天の声「そして、森の大樹をダークセージから取り返せ」
天の声「天命堂SD専用ソフト”エルフの屍超えていけ”大好評発売中!」
エルフ「これが私たち一族30名の力! くらえ!”黄泉への道”」




