勇者望月と衝撃の死因
ナレーター〖三人の賢者と合流した望月トオル。しかも賢者のリーダー格が金髪エルフで大喜び! 望月トオルは喜びのあまり変身中の彼女にルパンダイブしたのだった。はたしてその後どうなったのか? そしてどうなる? 彼のヱ世界転生!?〗
ナレーター〖本物の勇者となった望月トオルはどうなっているのか? 彼に視点を移すとしよう! ミニモニターにチェンジ〗
――PPPテレビ ドラマスタジオ
俺、普通の勇者兼シグルドの望月トオル。
手違いにより死んでしまった俺は、代わりにこの異世界に転生した。
そこで手に入れた“異能チート”は不死身性。たとえどんな魔物に襲われて死んだとしても蘇れるスグレモノ!
おかげさまでブリュンヒルデに殺されても蘇生することが出来たのさ。
異能チートによって復活した俺を待っていたのはブリュンヒルデだった。
しかし彼女は俺をシグルドと勘違い。そして聖剣エクスカリバーを俺に託してくれたのだった。
ついに俺は勇者になった。
ここからようやく主人公として異世界転生物語の始まりだ。
そんな勇者になりし“最強チート高校生”たる俺はいまどうなっているかというと見覚えがある天井を眺めていた。
どうしてこうなった。俺の異世界転生。
☆
まあ、心当たりはある。この天井はつい1時間ほど前に見た。ゼウス様の神殿だ。
やはり俺は死んだのか。バイバイ、僕の二機目。まさか1時間で死んでしまうとは思ってもみなかったが。
「気分はいかがかね、クスッ。望月よ。ぷぷぷッ。くははははっ」
そのいかつく、彫りが深い顔をした知り合いはあなたしかいない。俺は異世界転生小説とばーちゃんに付き合わされたRPGによる知識に照らしあわせなくとも彼の事がわかる。
アスクレピオス_ ギリシア神話序列4位の”灼熱の太陽”アポロンを父に持ち、医術に優れ、死せる者を完全に生き返れせる”完全手術”という能力を持った医神。
なぜ彼を知っているかって?それはこの前読んだ異世界転生もので登場したからではなくつい1時間ほど前にここゼウス神殿で出会っているからだ。
しかし彼はこちらがビックリするほどゲラゲラと笑っていた。正直なところ何故彼が笑っていたのかおおよその予想はついている。
「ひぃー フハハ。ああ、人間って面白い。あっ、オッホォン。ようやく目を覚ましたか。望月トオルよ。ああ“しんでしまうとは なさけない”なぁ。ホントもう」
神様は今まで俺が起きていた事に気づいていなかった様だ。その証拠に目があった時に彼の表情筋が固まっていた。失礼な神様だな。
そして何事もなかったかの様に俺に説教しているのだからたまったものじゃない。
「アスクレピオスさま。チィース」
俺はわざとらしく挨拶する。これが俺なりの遺憾の意の表明である。
「望月よ。神にタメ口とは随分と偉くなったな」
アスクレピオスさまは低く重たい声で俺を皮肉る。
しかしまださっきの爆笑モードから切り替えられていないのだろうか。彼の口元はひくひくと動いていた。
全くこれでは威厳もなにもないじゃないか。
「ええ、実際本物の勇者となりさらに英雄“シグルド”にもなったわけですから。少しばかりは偉くなったと思いますが」
俺はここで果敢にも神を煽る。
このような経験は前世では絶対行えなかったことである。
優越感が全身を心地よく包む。
“ああ、勇者に生まれてよかった”俺は心の底からそう思った。
残念ながらこの世界には35億も女がいないし、俺がばらまいたゴールドを拾ってくれるwith Gもいないのだが。
「え、ええい。黙れ。大体今回のお前の死因は何だ!“変身中のエルフにルパンダイブして、彼女を包んでいた光に溶けて消滅”とはどういうことだ。このような死因は今まで見たことがない。それを見たならば呆れを通り越して笑うしかあるまい」
アスクレピオスは俺に向かってそう叫ぶ。ああ、やはり俺の今回の死因は“謎の光先輩”に敗北したことだったか。
そうして考えると、特撮テレビや魔法少女ものの敵役は正しかったと言えよう。あの謎の光は触れた相手を消滅させる効果があるようだ。
では敵さんもうかつには触れないだろう。
それはいくらヒーローの変身シーンに2分とかかかっても律儀に待っている訳だ。ひとつ賢くなった。
アスクレピオスはそんな俺の様子を見て呆れたのか。俺にこう問いかけてきた。
「一つ、聞いても良いか。望月よ。お前勇者になったのだよな?」
「はい、もちろん! まあ当然の事ですが。世界の因果律上、俺が勇者にならない時空線は存在しないですし」
「なぜお前が自分のことをそこまで過大評価できるのか不思議でならないのだが。まあ良い勇者望月よ。そんな行く末が不安でならないお前に私からお前に天啓を授けよう」
「なんと有り難きお言葉。頂戴させていただきます。アスクレピオス様」
「全く、こういった時だけきちんとしやがって。まあ良い」
「勇者望月よ。“もう少し落ち着いて冒険しよう。下心だけで行動するのは止めよう。お前の伴侶ブリュンヒルデをほっておかない様にしよう”この三つを厚く敬うべし。これがわたしからお前に授ける“天啓”だ。よく覚えておくように」
えぇッ。こんなのが天啓? これって先生がいう事聞かない生徒に約束させるヤツだ。けれどそれぐらいきちんとこなせる。
三宝よりも厚く敬ってやるぜ。そもそも俺は飛鳥時代の役人でも無いし、ましてや仏教徒ではないが。
「確かに了承いたしました。アスクレピオス様。この勇者望月確かに心に留めました」
「本当にわかったのだな。たとえ、魔王が銀髪ぺちゃぱいメイドでも寝返ったりするんじゃないぞ」
「……。勿論ですとも」
「返答までかなりタイムラグがあったぞ。望月よ。本当に大丈夫か?」
「ええ、だ、大丈夫でし。間違っても後ろから嫁を刺し殺したりしないげす」
「私の胃が不安できりきりと痛むのだが。仮にも私は医神なのだ。“医者の不養生”ならぬ“医神の不摂生”などあってはならないのだが」
アスクレピオス様の額には脂汗がにじみ、彼の腕はしきりに胃をさすっていた。全く神様というのは冗談が通じないのだから。
えっ、“本当に裏切らない自信があるのか?”だって。もちろん。エルフ様にあんな態度をとるのはあくまで味方だからである。
まさか相手が敵、しかもその大将に“あんなこと”はしないさ。まあ“銀髪ぺちゃぱいメイド”は大好物ではあるが。
「もちろん大丈夫ですよ。信頼してください。僕のこの“バロール”の様な澄んだ目を見てください」
「バロールの目は“直死の魔眼”ではないか。神を殺す気かッ」
「いえいえ、その様な事は微塵も思っておりません。本当に殺意があるならば今頃“チェーンソー”を持っていますよ」
「“かみはバラバラになった”とウインドウに表示させる気かッ! まあ良い。蘇生準備は整ったからとっとと現世に戻ってくれ」
「言われなくともそうさせて頂きますよ。アスクレピオス様」
「最後に確認するが……。今後敵に“銀髪ぺちゃぱいメイド”や“もやしっ子魔女”。はたまた“ロリババア悪徳令嬢”や“後輩ぼくっ子武闘家”とどめに“スライム状の魔物っ子”が出てきても絶対裏切らないと誓えるか」
「……。も、勿論ですよ」
「そこぐらい即答しろやああぁぁ。もう現世に帰れやァァァァァアアア」
アスクレピオス様の吠えるような声を聞くと、俺の意識は暗転してだんだんと薄れていった。
ここでスパモン様に“俺は絶対に裏切らないぞ”と誓った。
さて、酒井さまに再会するとしますか!
☆
ナレーター〖金髪エルフとなった酒井プロデューサーに“ルパンダイブ”して消滅した望月トオル。見かねたアスクレピオス様に天啓をいただいた。しかし彼は本当に言いつけをきちんと守れるのか。そして魔王は本当に“銀髪ぺちゃぱいメイド”なのか。気になる続きは……〗
ナレーター〖CMの後に〗
――CM
学 生「もしかして」
エルフ「私たち」
学 生「入れ替わっているぅ!」
☆
エルフ「やべッ。こいつの姉ちゃん。めっちゃタイプや」
学 生「やだ。人の姉を勝手にそんな目でみないでよぉ」
エルフ「お前だってハンバーガーを食べたぐらいでいちいち驚くな!」
学 生「いやですぅ~。だって里にはこんなに美味しいもの食べられないもん」
エルフ「俺が後でへんな目でみられるんだよ」
学 生「それはお互いさまよ。エルフの里で弓が使えないのがバレたらどうなると思っているの?」
エルフ「へへーん、残念ですが俺は弓道部なんだ」
学 生「むきー!今度会ったら覚えてなさいよ」
☆
長 老「実はな、世界は”二つ”あるんじゃ。そしてお前さんは”あちらの世界”からきたんじゃろ」
エルフ「な、なんでわかったんだ」
長 老「長年の勘かのぅ。しかしそんな二つの世界は危機に瀕しているのじゃ」
エルフ「な、なんだってぇ」
☆
テレビ「大型の台風12号”ヨルムンガンド”は今晩未明に関東南部に上陸するとみられており……」
学 生「森が私を呼んでいる!”このままだとどちらの世界も滅びる”って」
母 親「どこへ行くつもりなの。この雨の中」
学 生「なに、ちょっと田んぼ見てくるだけよ」
母 親「あんた、田んぼなんてもってないでしょ」
☆
エルフ「守らなければ」
学 生「私たちの日常」
エルフ「この身体の主のためにも」
学 生「美味しいハンバーガーの為にも」
☆
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