夢のぶっちゃけヱ世界転生
ナレーター〖ついに本物の勇者となった望月トオル。さらに幸運なことに美しい嫁ことブリュンヒルデも仲間入り。人生絶好調な彼を祝うべく三人の賢者が姿を現した。一体彼らは何者なのか。ここで時間軸を巻き戻し、ヘリコプターの内部を覗くとしよう〗
――ヘリコプター内部――
柿本「それで最後に確認なのですけれど本当に夏目メグさんには手をだしていないのですね。酒井プロデューサー」
酒井「ええ、本当ですとも。私の身は潔白であると神に誓えるほどオブ・ホワイトですし、一線は越えていませんよ」
岡崎「懐かしいフレーズを使うことで注意を逸らそうとしていませんかな? “一線は越えていない”ならば一線ぎりぎりまでは大丈夫と言っているように聞こえますぞ」
酒井「もう僕がなんと言っても信じては貰えそうにないので、本人にでも聞いてみてください。まあ彼女の場合、僕に復讐するためならば嘘の一つや二つ、すんなりと吐きそうですが」
岡崎「あなたの肩書きが“プロデューサー”でなければもう少し信頼できるのですがな。“プロデューサー”ってキャバクラにいくかアイドルをたべるのが仕事みたいなところあるですぞ」
酒井「ひどいなぁ、確かに僕らの先輩たちは“そういう人”は少なくなかったですが…… 今のテレビ局には権威がありませんので“そんな事”出来ませんよ。もし僕が“そんな事”していたらここにいませんよ。首が飛んでいます」
柿本「残念ながら今やテレビ局はネットに敗北した斜陽産業ですしね…… 悲しいながら酒井プロデューサーは潔白でしょう。同じくテレビに携わるものとして確信できます。それほどに今日のテレビ局は社員の不祥事に怯えているのです」
岡崎「世知辛いですな。プロデューサーぐらいならばソレ相応に“ゆうべは おたのしみでしたね。”だと思っていたですぞ……」
☆
酒井「ようやく例の件についての釈明が済んだところで、本題へいきましょうか」
柿本「本題とは?」
岡崎「なんなのですかな」
酒井「岡崎さん、異世界転生小説の序盤の見所はどこですか?」
岡崎「え、ソレは…… やはり“異能チート”を得たときですかな?」
酒井「流石、伊達に第一人者を名乗っていませんね。正解です」
柿本「ソレぐらいならば異世界転生小説に詳しくないワタクシでも想像できたのですが」
柿本「それでその“異能チート”がどうしたのですか」
酒井「それは僕たちがなぜこのヘリコプターに乗り込んでいるか覚えていますか」
柿本「それは確か……」
岡崎「私たちはこの劇に飛び入り参加するってことですよな?」
酒井「その通り。つまりは“双子の世界”に異世界転生する訳ですよ。だから僕たちも“異能チート”を獲得しましょうというのが本題です」
岡崎「ほうほう。興味深いですな。“異能チート”を考えようということですかな。ドキドキしますな」
柿本「そういえば肝心の我々が演じる役はどんな役なのですか?」
酒井「“東方の三賢者“のような役ですね。勇者の誕生に際し、贈り物を与える役ですね」
岡崎「東方の三賢者。イエス・キリストの誕生を祝福した人物たちですな」
酒井「わざわざ解説ありがとうございます。まあ僕らはそんな感じの役ですね」
酒井「まあ、私たちの役柄について理解してもらったところで早速ですがお楽しみの“異能チート”決定と参りましょうか」
岡崎「ワクワクいたしますな。酒井殿。異能チートを決定する上で何か気を付けることはありますかな?」
酒井「ああ、そうですね。我々の“神様”であるスポンサーの方からこれを有効活用して宣伝してほしいといわれていましてね。誰か一人は”コレ”を“異能チート”にしてほしいのです」
柿本「これは…… デジタル端末機器ですか。どこかグランドフォンのような形状をしていますが……」
岡崎「そ……そんな、柿本殿は“スマホ”はご存じないのですかな」
酒井「いやぁー、ジェネレーションギャップをヒシヒシと感じますね。スマホことスマートフォンは10年代から20年代前半まで広く普及していた携帯電話の俗称ですよ。現代こと30年代に普及しているグランドフォンの前身みたいなものです」
柿本「そんな旧時代の電話を持ち出してスポンサー企業の玉藻トミー社はどうしようというのですかね?」
岡崎「柿本殿にバッサリ“旧時代の遺産”と言われてしまったスマートフォンですが、どうやら子供用の玩具として発売するらしいですな。いわゆる”枯れた技術の水平思考“というやつですぞ」
柿本「“枯れた技術の水平思考”っていい言葉ですね。誰かの名言ですか?」
岡崎「な、なんですと~。柿本殿。まさか横井軍平氏を知らないのですかな?」
柿本「はい、すみません。浅学なもので」
酒井「最近の子は岩田社長ですら知っているのか怪しいラインですしね。流石に横井さんは知らなくても仕方がないかと」
岡崎「これが若さか……」
酒井「おおっといけない。話題が逸れてしまいましたね。この際折角だから柿本さん。スマホもって異世界でチートしていただくことにしましょうか」
柿本「了解いたしました。全力で無双チートさせていただきます」
岡崎「異世界でスマホチートですかな。どこかで使われた題材のような気がしますが……」
酒井「さあ? まあそんなに気にする事はないでしょう。ちょっとこの番組の主人公が“望月”という苗字であり、ヒロインの名が“ブリュンヒルドならぬブリュンヒルデ”。そして異能チートが“スマートフォン”なだけですよ」
岡崎「そこが引っかかるような気もしますがな。まあ責任を取るのは私ではないですしな」
酒井「それで岡崎さんはどんな異能チートを獲得したいのですか?」
岡崎「やはり男が憧れるのは純粋で圧倒的な力ですぞ。それに異世界転生に欠かせないエッセンスを加えて……」
岡崎「軽トラックの荷台にガトリングを積んだものを持っていくことにいたしましょうかな」
酒井「おお、凄いですね。けれど番組にはもうそんな予算は無いのですよ」
岡崎「酒井殿。何の心配も要りませんぞ」
酒井「えっ、それはどういう訳でしょうか?」
岡崎「さっきこの劇に飛び入り参加すると聞いて部下に軽トラを撮影スタジオまで運ぶように指示したのですぞ」
酒井「岡崎さん、あなた一体何者なのですか?」
岡崎「ただのしがない作家兼研究職ですぞ」
柿本「酒井さんはどんな異能チートにするのですか?」
酒井「僕はスタンダードに召還魔術です。かっこいいですよね」
岡崎「やはり召還するのはドラゴンですかな? それとも屍兵ですかな?」
酒井「いいえ、僕が召還するのは金髪エルフです」
岡崎「な、なんですと~。うらやましいですぞ。酒井殿」
酒井「まあ劇団色彩の方を呼んでくるだけの簡単な異能チートですけれど」
岡崎「劇団色彩は演劇の中もアクションを得意とする集団ですから戦力にはなりそうですぞ」
柿本「まあ、そもそも敵は皆ダンボールなので負けることなど無いはずですがね」
☆
酒井「お、ようやく見えてきましたね。ここがドラマスタジオです」
岡崎「おお、これこそがあの“覆面セイバー”の最終決戦地ですぞ」
柿本「テンション上がりますね。胸の高まりが止まりません!」
酒井「さあ、それでは早速ですが“ヱ世界転生“するといたしましょうか」
ナレーター〖各々“異能チート”を獲得しドラマスタジオに“ヱ世界転生”したぶっちゃけ3人組。彼らはヱ世界ではどのように暴れてくれるのか。そして主人公望月トオルとブリュンヒルデこと夏目メグとの接触はヱ世界にどのような変化をもたらすのか。そしてついに“魔王”が動きだす!? 気になる続きは……〗
ナレーター〖CMのあとに〗
――CM――
俳優「祖父から貰ったジャガイモ…… 美味しいけれどこの量は持ち帰れない」
店員「そんな時にはニチタの軽トラック!」
店員「見た目以上に物が入る!しかし運転はラクラク!アラウンドビューモニターで事故を起こさない!」
店員「さらに軽トラックならばもし誤って高校生をひいたとしてもなんと“異世界転生”しないのです!」
俳優「いいこと尽くめじゃないか!」
店員「さらに万が一、運転中に異世界転生してもガトリングを搭載することで“異能チート”が発動!異世界であなたは英雄です」
俳優「買わなければ損ではないか。そのトラック買った!」
世界中―― いや異世界中走りまわれるのはニチタの“エルフ”だけ!
お求めは近くのショールームまで。
――ニチタジャパン――




