第90話 カンディプルへ逃避
夜になった。
闘いが済んだ後、オレは左腕の整備を行った。
武王の震脚を伴った一撃は凄まじく、
左腕のあちこちで、ビスが飛んだり部品が破壊されたりしていた。
生身だったら、全治1か月くらいにはなっていただろう。
昼間の熱い喧騒が止んで、夜のひと時は快適だ。
淡い月の光の下、オレは涼しい屋外で、座禅を組んでいた。
そこにラーヴァがやって来て、
「なぁ、ケン。」
「ん?」
モジモジして言った。
「獣人の『王』にならないか?」
「ハァ?」
「私、考えたんだ。『赤い牙』のことや、ケン技研のこと、
今やっている色々な計画のこと。」
「うん。」
「昼間、ケン、王と戦っただろ?
見てて、ドキドキした。
あれだけ武王と戦える者は、人間、獣人も含めて、私は初めて見た。
あとは武術の修業すれば、王に勝てると思うんだ。」
「・・・。」
「ケンが王になれば、今以上にウッタ・プラデシュも豊かになって、強固になると思う。そうすれば、5大国とも対等に渡り合えるし、問題解決だろ?」
「・・・。 そんな簡単に『王』なんて、なれる訳が無いw」
「いや! ケンならなれる!」
目が『♡』マークだぞ。ラーヴァ。
「なんたって、婆様がこれだけ『ベタ』にくっ付いた相手は、始祖様以外知らん。
婆様、あれで利益には、メチャ厳しい人だから。」
いや、最初から利益優先だぞ。あの人w
「それに、・・私達『結婚』しただろ?
やっぱり旦那様は、『強い男』が良いんだ♡」
赤い顔をして、ペターッと寄りかかり、ラーヴァが言った。
「魔法で強いはダメなのか?」
「やっぱり、武術で強いのがサイコーだよ♡」
腕を首に回して、抱きついてくる。
獣人は、肉体的な強さを賛美する傾向が強い。
オレが武術で武王と拮抗した姿を見て、
いきなりラーヴァは、今までの強い態度を捨てて、全身で甘えに来ていた。
もう、メロメロ♡である。
そういえば以前、始祖の『手記』を呼んだ時、武術を教えたって書いてあった。
何処で教えていたかは、書いてなかった。
「なぁ、1つ聞きたい。」
「なぁに?」
「『始祖』は、何処で武術教えていた?」
「その質問に、答えよう。」
ナイスなタイミングで、婆様がやってきた。
・・どこかに隠れて見てたな。
「『始祖様』は、元々は武人だったことは、知っているな。」
婆様は言う。
「最初、もっとずっと北の『カンディプル』というところにいて、
獣人相手に武術を教えておったのよ。」
「それ、私は知らないぞ。」
ラーヴァが言う。
「そもそも『武術』は、始祖様『達』が始めたものだ。」
婆様は、話を続ける。
「縁あって夫婦になって、ワシは始祖様の『チャクラ』を開いた。
それからの始祖様は、無敵じゃったな。」
婆様は、ニヤニヤしながら言った。
「いいなぁ、それ♡」
うっとりして、ラーヴァが言う。
「さて、婿殿。 どうする?」
突然、婆様が言う。
「王は、お前様の強さを知った。
お前様とワシ、当然『赤い牙』との関係も把握済みじゃろう。
当然、破竹の勢いである、今の工場の状況も解っておる。」
一呼吸おいて、
「お前様を全力で潰しにかかるぞ!」
「一緒に仲良く利益を分配ってことにはならないのか?」
一応、聞いてみる。
「あの王が、そんなこと考えるか!
全部頂くか、全部潰して、元のように戻すかしか、考えておらん。」
オレは、しばし考える。
武王は『心・気・体』が一致した拳を使う。
生中なことでは、勝てないだろう。
一番の欠点は、オレは王に比べて、圧倒的に、踏んだ場数が足りないことだ。
見透かしたように、婆様が、
「如何せん、婿殿は、実戦の場数は少ないようじゃの。」
実戦が殺し合いを指すなら、そんなもの一部専門職以外やらないのが前の世界だ。
「今の状態じゃ、婿殿は勝てんな。」
何、当たり前のこと言ってるんだか。
「そもそも、何でオレが『王』相手に、拳で勝たないといけないんです?」
婆様は、いきなり座禅棒を、オレの頭に『スパーン☆』と当てて、
『アホタレ! このままだと、国が亡ぶじゃろが!!』
鼻に『チーン☆』と来る一撃だった。
・・あれ? そのうち大騒ぎになること、婆様知ってるのか?
「今からしばらくすると、
世界が未曽有の危機になることを知っているのは、お主だけではない!
ただでさえ国力の弱い獣人の国だ。
いい様に蹂躙されて、すぐに国が消えちまう。
ワシはそれを防がねばならん!」
婆様は、すっくと立って、
「そのための、お主じゃ。
お主が嫌だろうが嫁が泣こうが、こればかりはやってもらわんといかん。覚悟せい!」
「・・・。 でも、実際問題、今のままだと勝てないぞ。」
ニヤッと婆様は笑って、
「『逃げる』のよ。」
「は?」
「今から始祖様の故郷に『逃げる』。
隠密裏に逃げる為、最小限の人数を選んで、急ぎ支度せよ!!」
婆様は、そう言うと、さっさと奥に引っ込んだ。
オレは急いで全メンバーに、今の状況を説明する。
メルは「ケンは絶対何かやる! 私は絶対に行く!」と言うし、
ラーヴァは、「私はケンの奥さんだから、絶対に行く!」と言い張る。
マリー、イヴは言うに及ばず、
マドレーヌもマオも、ヤン、ソニア、エレオノーラまで『行く!』と言う。
・・ああ、やっぱりモメた。
遊びに行くんじゃ、ないんだぞw
オレは、メル・マオ・ヤン・ソニア・エレオノーラを選び、急ぎ準備をさせる。
残るメンバーは、文句たらたらだったが、そんなこと知らん!
オレ達パーティと婆様は、
その夜、カーンプルを出て、 カンディプルへ向かった。
空には傾いた月がかかり、もう少しすると夜明けであることを示していた。
校正できましたので、もう1つ投稿します。
あと1コで、ウッタ・プラデシュ編終了。
次いくぞ!




