第74話 鉄鋼部門開始
製薬部門が仕事を始めて1週間が経った。
問題も無く、製造が続いている。
カーンプルは、物流もイマイチで、出来たものを運ぶのも、
御者を探さないといけないとか、面倒くさい。
「輸送部門も作らないといけないかな。」
なんて考えていると、
「ケン。親方が来たよ。」とメルの声。
「了解。今行く。」
事務室に行くと、親方が、あたりをキョロキョロ見ながら立っている。
「随分、変わっちまったなぁ。」
オレは親方に、イスを勧めながら、
「娘さん、治ったみたいで、おめでとうございます。」
「あれ? 何で知ってるんです?」
オレは、治療院から連絡があった旨、伝える。
「まだ治療院で、妻が看病して養生してますが、後2週間もすると、戻ってきます。」
嬉しそうに親方が言う。
その後、真面目な顔になって、
「鉄鋼部門ができるって聞きました。俺を雇ってくれませんか?」
オレはニヤッと笑って、
「実は最初から、お願いしようと思ってました。」
親方はキョトンとして、
「最初から?」
「娘さんが病気だと、仕事に集中できないでしょ? だから、救護院紹介しました。」
「ああー!」
「ケンさんも、人が悪いなぁ。最初から言ってくれれば。」
「いやいや。娘さんを診ないと、治るかどうか、自信無かったですから。」
「あーw」
オレは、親方を誘って、鉄鋼部門へ行く。
「ここが、鉄鋼部門です。」
すっかり変わった鉄工所を見て、親方はビックリする。
「こんなの、見たことが無い。」
「基本は前のと一緒です。ただ、もう1段、良いものが作れます。」
一緒にいたラーヴァに、「剣貸して。」と言う。
「こういう物を作ります。」
親方に見せると、「何じゃコリャ!?」
オレはラーヴァに、「少し使ってみせて。」と頼む。
ラーヴァは、剣として使ったり、ムチとして使ってみせたりする。
「これは、バシレーア公国の、ドワーフの鍛冶屋に作らせたものです。」
途端に、親方の目が『キラーン☆』と光る。
「バシレーア公国の。」
「そう。」
「じゃ、私にも作れますな。」
「お願いしたいと思っています。」
親方には、鉄鋼部門の職長を頼むことにして、
支給額は、仕事見てから決めることにする。
ヤンに親方戻ってきたことを知らせると、
「オレも親方と働きたい。」と言う。
「了解。じゃ、鉄鋼部門で修業だな。」
ただし、オレの授業は受けさせることを話す。
親方が帰る際、オレは1つお願いをする。
「親方に、1つお願いがあります。」
「何でしょう?」
「実は親方に、弟子の教育をお願いしたいと思っています。」
「ハハ。いいですよ。」
「その時の、教え方についてです。」
「はい?」
オレは、叩いて教えることに反対はしないが、
個人的には、教えて伸ばすほうが良いと思っている。
「基本的に『叩いて教える』は、ヤメてください。
危険なこと、やってはいけないことをやった場合には、叱ってください。
その際も、『何でやってはいけないか』の説明は、キチンとしてください。」
「それだと、憶えの悪い奴は、中々憶えませんぜ?」
「憶えの悪い奴は、鉄鋼に適性が無いと思いますので、他の部門に回します。」
「あー。じゃ、無理して教えることはない。と?」
「そう。見込みのある者を伸ばしましょう。
ただ、進むのが遅くても、やる気がある奴は、残してください。
時間がかかっても、叱られても、がんばって憶えるでしょう。」
明日から来るということで、話がまとまった。
まずは剣を1つ作ってもらって、親方の腕を見てみよう。
翌日、鉄鋼部門の一番小さい竈に、火を入れる。
所定の温度まで上がるか、チェック。
問題無いので、親方に剣を1本、打ってもらうことにする。
助手はヤン。
期限は、1週間欲しいとのこと。
設備に慣れてもらうことも兼ねているので、それで了解する。
剣は、予定より早く、3日間で完成する。
親方は、今までのように人間が打って磨っての感覚でいたようだが、
動力ハンマーで打てるようにしてあるし、研ぎもグラインダーが使えるので、
遥かに早い時間で完成できる。
「すごい設備ですな。」親方は、感心しきりである。
まだまだこんなもんじゃないです。親方。
できた剣は、ダマスカス鋼で作ってある。
独特の帯状模様が美しい。
ドワーフのおっちゃんより丁寧に練ったので、まぁまぁの出来である。
仮の握りを付けて、少し振ってみる。
バランスも、まぁまぁか。
ラーヴァにチェックしてもらう。
「これならOK。」
ヤンを呼んで、「お前用だ。完成したら渡す。」
ヤンは、ビックリしている。
「1本やるから、練習しろ。」
目をキラキラして、「がんばる!」
横で見ていたマオが、うらやましそうな顔をしている。
「お前用は、後で別に1本、つくってやる。」
こっそり教えてやる。
しばらく経って、親方も仕事場に慣れる頃、女将さんと娘さんが帰ってきた。
女将さんが、お礼にやってくる。
「おかげ様で、娘も治りました。本当に、ありがとうございます。」
「いえいえ。良かったですね。」
女将さんに、
「実は女将さんに、お願いがありまして、工場の手伝い、やってくれませんか?」
幸い、了承してもらえた。
親方一家は3人。
居住棟の空いている部屋に越してきてもらう。
親方には求人募集した中から、モノになりそうな人間を選考してもらう。
製鉄未経験の13~16歳の、弟子にする者。
経験者で、親方と一緒に仕事ができそうな者。
人が余っているウッタ・プラデシュのこと、すぐに必要な数が集まった。
そうこうしているうちに、繊維部門の設備が完成する。
次、行くぞ!




