第6話 最初は仕事探しだよね
翌日は、よく晴れ上がっていた。
パウとポウに呼びかけたんだが、返事無し。
呼んでも来ない。
従者なのに、何やってんだか・・。
朝食をすますと、さっそく言われた開拓者ギルドへ行ってみる。
宿屋とよく似た作りで、入り口ダッチドアの奥にはホールがあって、
椅子と机が並んでいる。
横には掲示板があり、メモ用紙がペタペタ貼ってある。
奥には受付らしいカウンターがあって、人がいた。
オレは、掲示板に近づいて、張り出してあるメモ用紙を読んでみる。
書いてある文字は・・読める。
この世界の知識は喪失しなかったらしい。
良かった♪
『道路の清掃』
『ゴミの片付け』
『荷物運び』
一人でもできそうな仕事が並んでいる。
横にズレると、
『急募! ゴブリン討伐。レイド。人数・・・』
『ウォーム討伐。』
『サンドスコーピオンより毒液の採取。』
他、色々とある。
それぞれ区分けして貼ってあるので、レベルによって分けているんだろうなと思う。
メモ用紙をボーッと見ていて、ハッと気が付く。
おっといけない。まずは登録しないと。
受付らしい窓口へ行って、
「すいません。開拓者ギルドの受付って、ここですか?」
と訪ねてみた。
窓口には、キリッとした感じのお姉さんがいて、「新規の方ですか?」と尋ねられた。
「はい。初めてです。」
「どこの開拓者ギルドからの移転ですか?」
「いいえ。ここが初めてです。」
お姉さんは少しビックリして、まじまじとオレを見る。
「アラアラ、珍しい。じゃ、開拓者ギルドに参加するのは、初めてなんですね?」
「はい。」
「ふ~ん。」
いかん。ちょっとドキドキしてきた。
お姉さんは、オレをチラチラ見て、少し考えて、
「んんっ。まぁ、いいや。・・じゃ、この用紙に記入ください。
あ、読み書きできますか?」
「一応できると思います。」
「できなかったら代筆もします。解らない所があったら、言ってくださいね。」
申請用紙を渡され、最初の『名前』のところで止まった。
名前考えてなかった。
どうしよう?
少し考えて『ケンター・スカイランナー』にした。
「ケンターさんね。」
お姉さんは、見て言う。
自分でも思うけど、安直だねw
健太郎だから、ケンター。
自分の名前、忘れなくていいけど。
その後、お姉さんに教えてもらいながら、用紙の必要事項を埋めていく。
オレが申請用紙に記入している間に、段々人が増えていく。
受付のお姉さんも、1人2人と、どんどん増えて、
5人くらいが一斉にリクエストを処理している。
「ケンターさん、遺言はありますか?」
お姉さんが突然訪ねる。
「遺言ですか?」
「そう。こちらに滞在中、何等かの事情でお亡くなりになった場合に、
財産を渡す相続人ってあります?」
「うーん。」と考えて、
「ありません。」
と答える。
「遺言および相続人無しと。・・。」
お姉さんは、一通り申請用紙をチェックした後、
「ここにサインしてください。」
オレは所定の場所にサインする。
続いて、お姉さんが横にサインした。
「これでOK。」
「遺言がある場合、あるいは相続人ができた場合は、受付にて、その旨言ってください。変更の手続きをします。」
さて、と言う感じで、
「それでは、ケンターさん、こちらへどうぞ。」
お姉さんと一緒に奥の部屋へ移動する。
そこには結構大きな機械があって、横に椅子が置いてある。
「ケンターさん、ここに座って。」
指示通りに座ると、両腕・両脚をまくり上げてベルトで縛り、
頭に何かカゴみたいなものをかぶせられた。
イカン! これって、電気処刑される囚人みたいだ。
「すいません! これってなんですか?」
慌てて尋ねると、
「これはケンターさんの強さのレベルを測る機械です。
ちなみに、詳しいことは知りません。」
スイッチをバチンと上げると、何か電球みたいなのが明るく輝きだして、
ウィンウィン唸りだした。
「出力OK。では測ります。」
その瞬間、『ビリッ☆』とした感覚があって、体中が、こそばゆい感覚になる。
「しばらく我慢しててくださいね。」
おおよそ1分くらい待っただろうか、
「よし。計測完了。お疲れ様。」
ベルトと、頭のカゴをはずして、
「こちらへどうぞ。」
お姉さんは、結果を見て、
「ケンターさんのレベルは、オール・レベル『1』。ホントに初心者なんですね。」
「オレ、仕事できますか?」
お姉さんは、ニッコリ笑いながら、
「みなさん、『1』から始めますから心配ありません。
まぁ、中には測ると、もうレベル40とかっていう人もいますけど、
大体そういう人は、以前騎士様とか、僧侶様の場合が多いです。」
「よかった。」
部屋を出てホールに戻ってくると、ギルドカードを渡しながら、お姉さんは、
「では今よりケンターさんは、開拓者ギルドのメンバーです。
掲示板を見て、お好きなクエストをお取りください。」
「レベル1のケンターさんが、選べるのは右端の一群です。
他の選んでもいいですけど、失敗すると思います。
失敗すると違約金が発生するものもありますから、注意してください。」
一気に説明すると、もとの席に戻っていった。
気が付くと、もう昼近く。
登録が終わってホッとしてホールを歩いていたら、
靴を引っかけて、ガクッとつまづいた。
『あっ!』
横に座っていた人に当たって、
その人は、飲んでいたものをコップから少しこぼしたみたいだ。
「ごめんなさい。」
「もう。気をつけてよねw」
布巾あるかなって探していたら、店員がふき取ってくれた。
少し怒り顔でオレをじっと見ていたのは、エルフのお姉さんだった。
そう。エルフのお姉さん。
・・・エルフ!?
オレは今でもハッキリ憶えている。
あの時ハッキリ判った。
『オレが今まで生きてきた世界と、違う世界に来たんだ』って。
その娘は、やや黄味がかった、セミロングくらいのストレートな金髪を、
真ん中分けにして流している。
軽くウェーブのかかった髪の中に見える、少し怒った顔は、
『綺麗と可愛いの中間』。
東洋人っぽい卵型のフェイスライン。
目はクリッとして薄いブルー。
唇は桜色。
小振りな鼻が可愛い。
大人になったかどうかなという感じで、まだ顔に、少し幼さが残っている。
細身のスラッとしたボディに、チョッピリ小振りなバスト。
スラッとした肢体が、とっても魅力的。
八頭身のボディに、可愛い顔が、チョコンと乗っていた。
その娘の耳は、尖って長かった。
・・・。
そう、尖って長かった。
「妖精だ♡」思わずボソッと言ってしまった。
「?」
ジーッと見詰めてしまったオレに、彼女は怪訝な顔をしている。
おっと、いけない。
「すいません。ボーッとしていて。」
「あなた、ここ初めて?」
「はい。さっき入会したばかりです。」
「ふーん。」
エルフのお姉さんは、まだじっと見てる。
「何か?」
「うーん。どこかで会った?」
「全然。」
「だよねぇ。」
・・・会話が途切れた。
「・・・。 じゃ、私はこれで。」
「あ? ああ。じゃあ、また。」
オレが去った後でも、エルフのお姉さん、何か気になってたみたいだ。
「どこかで見た顔だと思うんだけどなぁ・・・。 まぁ、いいや。」
オレは掲示板の前で悩んでいた。
仕事の内容と報酬の関連が、全然わからないのだ。
どれを選んだらいいんだろう。
しばらく悩んで、今日中にできそうな仕事を2つ、選んでみる。
メモ用紙をはがして、受付に持っていく。
受付を済ませて戻ってくる頃には、エルフのお姉さんは消えていた。
多分、仕事に行ったんだろう。
人にはそれぞれ仕事があるのだ。
オレは自分の仕事にかかることにした。