第63話 ヴァーラーナシーに向かう道筋で(2)
馬車に乗っての旅も、何日か過ぎた。
「次の都市は、どこですか?」オレが尋ねる。
「次は『アーグラ』。獣人が統治する以前に、首都がおかれていた街です。」
ネーハさんが、オレにペターッと寄り添って言った。
一緒に乗っているネーハさんとは、ある意味、ラーヴァ以上に近しい関係になっていた。
最初に出会ったのが、始祖の目を通したネーハさんで、
現世に戻っても、始祖の記憶が一部残っていたらしく、
ネーハさんを見る目が、始祖が見ているようになってしまっていた。
彼女を呼ぶとき、「ネーハ」と呼んでしまう。
「そう言えば、あの時、」とか言ってしまう。
とにかく、『既視感』が多いのだ。
それに、毎日の『鍛錬』。
お互いの額を通して、心を1つにする。
彼女を通して観る世界は、とても美しかった。
始祖が愛した訳だ。
ネーハさんもオレに対しては『婿殿』以上に、『旦那様』的に扱い始めていた。
つまり、オレとネーハさんは、『ラブラブ♡』な関係になっちゃっていたのである。
ラーヴァは、非常にマズいという顔をしている。
メルも、「何でこうなるの?」と、驚きを隠せなかった。
「ラーヴァ。ケンとネーハさん、すっごくラブラブな感じだけど?」
「・・・感じじゃなくて、『ラブラブ』なんだw」
「えーーーーっ!!」
ラーヴァがメルに説明する。
「ケンの体は、最初に始祖の魂が体に入った。その次に魂が体に戻ったんだが、
始祖の意識が一部残っていたらしい。」
「じゃ、ネーハさんと夫婦の意識が残ってる?」
「みたいだな。」
「それ、マズいよねw」
「・・・。」
それ以上に信じられないのが、ネーハさんが『若返ってきた』ことだろう。
『常世』のエネルギーは、それはすごいらしい。
ネーハさん、徐々に肌に艶が出てきて、背筋が伸びてきていた。
年齢不詳の老婆の姿から、見た目が五十路くらいになっていた。
我々は、 アーグラに到着した。
ラーヴァによると、
ここには獣人国以前の王朝の城塞と、王が愛した王妃の墓があるとのこと。
宿泊所に着くと、さっそく見学に行ってみる。
城塞は、警備隊の防御用として使用されていた。
「なんで、こんな立派な城塞が残っているのに、本城として使わないんだろ?」
メルが不思議そうに言う。
「我々の美的感覚に合わないというのが、主な理由かな。」
ラーヴァが答えた。
私には分からないが、と断った上で、
「もっと金ピカな城が、ラクナウにある。」
「ふーん。」
少し離れた場所に、王妃の墓はあった。
非常に美しい白亜の霊廟で、随分時間とお金がかかったことだろう。
多宗教の国なので、異教として破壊されることも無く、公園として利用されていた。
宿に帰ってから、ネーハさんが、
「ヤロス、少し散歩しよう。」と、ラーヴァを連れ出した。
ネーハさんは、今では、ラーヴァの母親と言ってもいいくらいの若さに戻っている。
「婆様。ヴァーラーナシーに戻ったら、みんなにびっくりされるぞ。」
「フッフッ♪ 『また奇跡が起こった!』と、言われるじゃろうな。」
「・・・。いったい、何年生きる気なんだ?」
ラーヴァが呆れたように言う。
大きな川の畔を散歩しながら、ネーハさんは、ラーヴァに言う。
「のう、ヤロス。」
「ん?」
「お主、いい加減本気出せ。」
「?」
「このままで良しとするなら、ワシがケンをもらい受けるぞ。」
「婆様、それは!!」
「お主が選択に迷うのは良しとしよう。
だが、こと愛する人に関しては、見つけたら迷うな。」
「・・・。」
「ヤロス。ケンは良い旦那様になるぞ。
ケンは、お主が道を誤らない限り、いつもお主の味方になってくれる。
お主が悲しいとき、支えてくれる。
何よりも、あの『愛』の量♡」
「それにケンを狙っているのは、お主だけではない。
パーティの女共だけでもない。
色々な意味で、帝国も神聖王国も公国も、ケンを狙っておる。」
「帝国も!? 婆様。それは本当か!」
「だからじゃ。 お主も、いい加減決心せい。」
「・・・。」
二人は、しばらく川の畔の木の下で、佇んでいた。
黙ったままだったラーヴァが、
「ケンは、私のこと、愛してくれるかな?」
ポツンとつぶやいた。
「フッフッ♪ そう思うなら今晩からでもいい、ケンと『鍛錬』することじゃ。
婿殿は、心を尽くして『愛して』くれようぞ。」
「まったく見た目に反して、奥手な娘子が。」
と、ネーハは嘆いてみせた。
「元より、お主に渡す手はずを整えただけじゃ。愛する人は、始祖様一人で充分。」
カカカと、婆様はわらった。
夕食が終わって、寝る少し前、いつものように『鍛錬』の時間になった。
広間に行ってみると、ラーヴァが一人で待っていた。
「?」
「婆様は来ない。今晩から私が『鍛錬』を行う。」
「・・」
「嫌か?」
「いや。・・そうか。『時が来た』んだな。」
「・・・。」
「ネーハさんに『今までありがとう。』と言っておいてくれ。」
「分かった。」
オレ達は、ヨガで精神統一した後、額を合わせた。
彼女の心地好い魂が、オレの心に寄り添ってくる。
オレ達は、互いの心を1つに合わせた。
翌朝より、オレは馬車から馬上に戻った。
これからしばらくは、片手での操作に慣れないといけない。
介助はすべて、ラーヴァが行った。
自らの主人が誰なのかを、はっきりさせるかのようであった。
オレ達は、次の目的地へ向かった。




