第61話 魂魄をつなぐ(2)
ルディヤーナーに2日間滞在している。
オレの体力が、まだ回復していないせいだ。
オレが倒れている間の話は、メルから聞いた。
仕方なかった事とはいえ、心配させたことを後悔する。
この件で、一番影響を受けたのがイヴで、幼児退行してしまっていた。
服を掴んで、オレのそばを離れようとしない。
ただ、ジッとオレを見ている。
時々撫でたりすると、とても喜んだ。
自分のせいで、オレがこうなったと思って、
胸が押しつぶされそうな思いだったんだろう。
どうせ休んでいるから、一緒にいるのは、どうということも無いが、
イヴのような妙齢の女性が、すがり付く様にベッタリとくっ付いているのは、
精神衛生上、非常にストレスを感じる。
ラーヴァに頼んで、イヴが寝ている間に精神鍛錬の訓練をしてもらう。
額を合わせて間もなく、ラーヴァが「フゥッ♡」と言って、ひっくり返ってしまった。
「・・・。」
その時、婆さんが入ってきて、
「やはりな。」
ニヤッと笑って、
「婿殿。私とやりますぞ。」
と言って、額を合わせてきた。
オレは同じように精神を集中する。
「オウオウ♡」
婆さんが歓声を上げる。
「これでは、ヤロスでは無理だわい。」
『?』
「集中を崩すでない。教えられた通りにせよ。」
婆さんに叱られる。
しばらくやっていると、少しスッキリした気分になる。
「フウッ♡」
と言って、婆さんは、額を離した。
「ンッ!?」
今更ながら、ラーヴァが気づく。
茶をもらいながら、婆さんから説明された。
「婿殿は、『常世』から帰ってきて、まだ間もない。
影響を受けていて、額を接した相手に与えるエネルギーが、半端無いのじゃよ。」
ホッホッと笑いながら説明を続ける。
「通常なら、ヤロスで充分受け止められるんじゃが、
あれだけの『愛』を注がれてはのう。」
ラーヴァを見て、
「すごかったろう?」
ラーヴァは、両頬を押さえて、頬を赤らめて、
「ホンに♡」
ポーッとしている。
「始祖様が、最初そうじゃった。
調節して頂けるまで、何回もひっくり返ったものじゃ。」
「始祖様が。」
「そう。じゃから、お前も、婿殿から存分に『愛』を注ぎ込んでもらえ。
世界が変わるぞ。」
・・・婿殿ですか。
「のう、婿殿。」
婆さんが言う。
「しばらくは、私と鍛錬しなさい。
注ぐ『愛』の量が適正になったら、ヤロスに代わりましょう。」
オレは婆さんに、丁寧に一礼して、
「私はケンターと申します。 確か・・『Neha』さんですよね?」
「覚えていてくださったか。」
ニコニコして、婆さんが言う。
「確かお名前は5大国共用語で訳すと、『愛』ではなかったかと。」
「フフッ♡ まだ始祖様が残ってらっしゃるご様子。」
「ラブラブだったと憶えております。」
「ハーッハッハッ☆」
婆さんは、突然大声で笑いだした。
「その通り! 始祖様と私は、相思相愛の中であった。
いいや。今でも愛していますとも!」
横で、ラーヴァが、ウンザリした顔でいる。
「なんぞ文句でも、あるのかい?」
婆さんが言った。
ラーヴァは、
「婆様が、その話すると、長いw」
「長いもんか。」
「人の『ノロケ話』は、聞いてて嫌なのw」
「そう言えば、始祖ということは、ネーハさんって、御幾つなんです?」
「失礼ですが」と、後で付け加えた。
「ケン。この婆さんは、200年以上生きてるよ。」
ラーヴァが教えてくれる。
「と、言うことは、ラーヴァのご先祖様?」
「そう。私の婆さんの母さんの、そのまた母さんの母さん。」
「ラミアって、そんなに長生きなの!?」
「いいや。普通は人間と変わらない。この人が特別なんだ。」
「?」
「ヤロス。私が説明する。」
「・・・。」
「私も本来なら、他の者達と変わりない年数しか生きられないと思う。
ただ、始祖様から存分に『愛』を注がれ、それが残っておる。
そのせいで長寿なんであろうよ。」
あの鍛錬法に、そんな副次効果があるなんて思わなかった。
「まぁ、それだけではない。
なんといっても、始祖様とは『夫婦』であったからのぅ♡」
「婆様、待った! それ以上はいい。 聞いてて恥ずかしくなるw」
・・・随分、オープンな、ご家庭のようで。
「ネーハさん。一つご相談があります。」
オレは言う。
「私のメンバーのイヴリンですが、
どうも『幼児退行』を起こしているように見受けられます。
どうしたらいいでしょうか?」
「フッフッフッ♪」
「?」
「何百年ぶりに、名前で呼ばれたわい。こそばゆいのう。」
「失礼しました。」
「いやいや。できれば、これからも呼んでくれると嬉しいですじゃ。」
「かの者は、中々の生い立ちと、育ち方をしたと見える。
魂の、中も外もポロポロとしておる。
のう、婿殿。
少々早いかも知れぬが、かの者に、『鍛錬』してみてはどうかの?」
ああ、そういえば、イヴも、相当の精神感応力があったっけ。
戻ってみると、イヴはまだ寝ていた。
婆さんは、「そのままやってごらん。」と言うので、額を合わせて集中する。
スッとイヴの頭の中に入ったような気がする。
「あぁ、哀しみで一杯だ。」
オレはつぶやく。
オレは、ラーヴァ教えられた通りに集中して、徐々に出力を上げていく。
イヴのすごいのは、『愛』を、どんどん吸収してしまうところだ。
ネーハさんに言われるまでもなく、まだタップリと余っているので、
存分に注ぎ込んでいく。
「婆様、この量、マズくないか?」
「うむ。そろそろ止めないと・・」
そう言っている間に、オレの中で明かりが灯ったので、額を離した。
・・幾分、スッキリした感じがする。
ラーヴァが心配して、額を合わせてきた。
「・・。オオッ♡ 良い感じになってる♪」
「余剰分が、幾分削れたみたいじゃの。」
イヴを見てみてると、なぜか寝ながらニヤニヤしていた。
「婿殿の『愛』が、心地好いのであろうよ。
あと1、2回、注ぎ込んでやりなさい。多分、良くなることじゃろうて。」
この後もう2日、オレ達はルディーヤーナーに留まり、オレの体力の回復を待った。
その間、オレは、ネーハさんと鍛錬を行い、イヴとも鍛錬した。
幸い、イヴは、ネーハさんの言った通り、2回の鍛錬で、かなり改善したみたいだ。
オレの容態が落ち着いたのを見計らって、
オレ達は、聖都『ヴァーラーナシー』を目指した。




