第5話 辺境都市β-124
歩いているうちに雨は上がった。
日が傾く頃、街に着く。
町名は、木のプレートに、
『辺境都市β-124』
まぁ、なんてビジネスライク。
通し番号なのね。
2匹のネズミは、街に入る前に『おやすみっ!』って言って、隠れてしまった。
門の番人より「歩いてきたのか?」と尋ねられる。
「途中で乗っていた馬がやられちゃってね。」
「ここらへんはモンスターが多いから、気を抜くと、すぐ死ぬぞ。」
と注意された。
「ありがとう。これから注意するよ。」
挨拶して、そのまま街に入る。
辺境都市β-124は、辺境の街という感じいっぱいだ。
舗装されていないドロ道。
雑然と並ぶ建物。
人は、結構いっぱいいるみたいだ。
「すいません。宿屋はどこでしょうか?」
通りがかりの1人に尋ねてみる。
その人は指差しながら、
「この道。真っすぐ歩いて中心の広場出て、そこでもう一度尋ねな。」
「ありがとう。」
しばらく歩くと、広場に出た。
何となく、教会かなと思われる建物と、商店かなと思う建物が、周りを取り囲んでいる。
もう一度、歩いている人に宿屋を尋ねる。
「そこ。」
アゴでしゃくって、教えてくれる。
「ありがとう。」
礼を言うと、そちらへ向かった。
宿の中に入ってみると、予想した通りの間取りだった。
入り口、ダッチドアの奥にはホールがあって、椅子と机が並んでいる。
奥にはカウンター。
その横には、階段があった。
多分、上は宿泊階だろう。
夕食には早いのだろうか、まだ人はいなかった。
「すいませーん。誰かいますか?」
声をかけてしばらくして、カウンター横の通路から男が一人出てきた。
「なんだい、少し早いが宿泊か?」
「そう。部屋はありますか?」
「部屋はある。今晩から泊まりか?」
「一番安い部屋と食事で、いくらですか?」
「1泊で鉄貨10枚。食事は1食、鉄貨5枚。」
「了解。まずは鉄貨5枚で食事を。」
手を出して、
「宿泊代と食事代。前払い。」
銀貨1枚渡すと、フンという感じで、オヤジは奥に行った。
「メシとおつり持ってくる。」
出てきた食事は、ポソポソのパンと薄いスープ、何の肉だか解らない焼いた肉で、
まぁ、腹は膨れるという代物だ。
今のオレには、これでもご馳走。文句言わずに食べることにした。
おつりは、銅貨8枚と鉄貨5枚。
つまり銀貨1枚が銅貨10枚。鉄貨だと100枚ということか。
食事が済んで、
「開拓者ギルドって、どこにありますか?」と尋ねると、
「向かい奥の建物だ。」と言われた。
行こうとすると、
「もう閉まる時間だぜ。」
仕方がない。
「明日、登録に行ってきます。」
「ほい、鍵。階段上がって右一番奥、左側の部屋だ。」
「ありがとう。」
階段上がる手前に、共同トイレがあって、その横に洗面所があった。
そこに、ものすごく曇って、ひん曲がって写る鏡があった。
オレは鏡をコスって少しキレイにして、自分の顔を映してみる。
やっぱり知らない顔だ。
日本人でもない。
誰だ、コイツw
ここは確かに自分の暮らしていた世界じゃない。
元の世界に帰ることはできるのか。
ムリだったとして、この世界で生きていけるのか。
誰かも知らない、何をやったかも分からない人間に変身してるし、不安でいっぱいだ。
部屋に入ると、オレはベッドに倒れ込んだ。
「あぁ、疲れた。」
まずはベッドに潜り込んで、寝よう。
問題は山積みだが、明日考えようぜ・・・。
オレは深い闇の中へ落ちていった。