第55話 謎のダンジョンに挑む(1)
3日間の休息が終わってアンタルヤの開拓者ギルドへ行くと、
いつものダンジョンの他に、見慣れないダンジョンの募集が入っていた。
「こんなダンジョンあったのか?」
オレは受付のお姉さんに尋ねた。
「ああ。これはちょっと特殊なダンジョンでして、たまに出現するんです。
出てくるアイテムは、かなり値打ちが高い物が多いです。
今、出現してますから、入ってみたらいかがですか?」
「難易度は?」
「レベル32-40だったと思います。」
おー♪ 行けるじゃないですか。
この後、ギルドで色々なチェックを行い、達成できる感触を掴んだオレは、
商会へ戻り、みんなと相談することにした。
他のメンバーも、仕事を探してきたので、比較検討しながら、絞り込んでいく。
その中で、新しいダンジョンが、やっぱり面白いんじゃないかということになる。
「・・と言う訳なんだけど、どうでしょう。」
オレはギルドで調査した内容を話す。
「そのダンジョン、突然消えるとか、しないの?」
メルが尋ねる。
「帰還魔法を付けておけば、大丈夫と言っていた。」
「うーん。ホントぉ?」
「ヤスミンさんは、『案内できます。』と言ってた。」
「ヤスミンさんが言うんだから、まぁ、安全なのかな?」
「帰還さえできれば、万一マズかったとしても、帰ってくればいいことだし。」
マリー、ラーヴァ、スーとも、色々意見を交換する。
その中でイヴリンが、なぜか静かにしていた。
「イヴ、具合悪い?」
メルが心配して言う。
「あ? いえ、大丈夫。 ボーッとしてただけ。」
それにしちゃ、顔色悪いぞ。
「イヴ、何か気になることでもあるのか?」
「・・・いいえ。 ケン、少し、いいですか?」
「いいよ。」
オレとイヴは、外に出て、話をすることにした。
外廊下に出ると、イヴはオレを見て、
「実はワタシ、このダンジョンを最後に、ケンのパーティを離れようと思っています。」
「・・・。」
「驚きませんね。」
「何となくだが、そんな感じはしていてね。
差し支えなければ、理由を聞いてもいいかな?」
「・・・。 一身上の都合では、ダメですか?」
オレはイヴを見ながら、ため息をついた。
「なぁ、イヴ。 教団に戻って、お前、何するつもりだ。」
「?」
「少なくとも、オレと一緒にいる間は、お前の特性は抑えて、
いや、別の形に変容させて、用いることが可能だ。」
「・・」
「教団だと、多分、お前の能力は発揮できない。『悪い』方にしか利用できない。」
「・・」
「それに、常時出ている呪法は、周りの人に影響を及ぼす。
オレが修正しないと、お前の周りには、長い間は、人は立ち入れない。」
「・・」
「また1人に戻るのか?」
中庭に面した3階の外廊下で、下を行き交う商会の従業員を見ながら、
しばらく2人で黙って佇んでいた。
少し経って、イヴは、ポツリと、
「・・・ケン。」
「ん?」
「もしワタシがパーティに残ると言ったら、ずっと面倒を見てくれますか?」
「いいよ。」
アッサリと言う。
イヴはビックリして、オレを見て、
「そんな簡単に言っていいんですの!?」
「今だって問題無いよ?」
「だって・・・だって・・・」
「なぁ、イヴ。
少なくともここはオレのパーティで、
オレが『問題無い』っていえば、問題は無い。
イヴの働きについては不満は無いし、周囲とのトラブルもない。
なぜ去ろうとする?」
イヴは両手を固く握りしめて、叱られた子のようにオレを見て、
「・・・迷惑になってない?」
「なってない。」
「邪魔になってない?」
「なってない。」
「ホントに?」
オレは、イヴの頬を、両手で優しく挟んで、額に軽くキスをする。
『!』
イヴの目を見つめて、
「メルも、マリーもラーヴァもスーも、お前がいなくなると、寂しがるぞ。」
「・・・」
「マオとマドレーヌには、庇護者が必要だ。
お前も一緒になって、育ててくれないか?」
「・・」
「オレは、イヴがいないと寂しい。
お前の笑顔を見ているのが、笑い声を聞くのが大好きだ。
お前は、オレから生きる楽しみを失わせるつもりか?」
イヴは、胸で両手を祈るように結んで、何かにすがるように、
「だって・・・だって・・・」
オレは、イヴを後ろから、そっと抱きしめる。
「アッ♡」
イヴから吐息が漏れる。
そして、耳元で囁いた。
「イヴリンの支配者たるケンターが命ずる。 一緒にいろ。」
目を閉じたイヴリンは、涙が溢れた顔で、後ろ手にオレの顔を抱きしめながら、
「・・・はい。」
「それと・・・、」
オレは後ろを振り返って、
「のぞき見してる4人。出てきていいぞ。」
「イヴ姉、パーティ離れちゃうの?」スーが言う。
「・・離れるのはヤメました。」
「もう、心配させないでよ。」
「ヒーラーがケンだけだと、すごい不安でなぁ。」
「イヴよ。ケン以外の場所で、居心地の良い場所を探すというのは、
中々難儀だと思うぞ。」
・・・何気にオレのこと、ディスってない?
何はともあれ一安心というところで、部屋に帰って、相談を続ける。
イヴが、
「このダンジョンについては、報告することがあります。」
一息ついて、
「この中に『破壊神の魂』があります。」
『!?』・・・2つ目がここにあるのか。
「ワタシは教団より、『魂』を回収する任務を命じられてます。」
さらに続けて、
「言いにくいことなんですが、もう1つの命令も受けました。」
『破壊神の魂を回収後、ケンを殺害せよ。』
うつむいたイヴは、
「すいません。ワタシには、逆らえませんでした。」
オレにとっては、ああ、やっぱりねという感じだ。
イヴの所属するのは『聖光正教会』。
ランデンブルク神聖王国の国教である。
連中は、オレが魂を狙っているのを知っている。
邪魔者は、排除してくるだろう。
「イヴ、気にするな。予想の範囲内だ。」
「しかし、殺害指令が出ているのだぞ。いいのか?」
マリーが心配する。
「『破壊神の魂』狙った時点で、
神聖王国と共和国から、殺害指令出てもおかしくないからな。」
もともと命狙われているオレだ。今更の感がある。
「でも、ケン。教団は、ワタシが裏切ったということが分かった時点で、
複数の刺客を送ってくるはずです。」
イヴが真面目な顔をして言う。
オレは、人差し指をチッチッと揺らしながら、
「もう来てる。」
『!?』
「ここら辺は、ラーヴァを通じて、情報が来ていてね。
『内赦院・ 秘書官房』だっけ? そこから複数来るってさ。」
「では、逃げないと!」
フフンと笑って、
「逃げるもんか。プロの刺客が来るのなら、どこ逃げたって、確実に殺しに来る。
それならこっちは、ダンジョン内で、混戦に持ち込んでやる。
連中は、殺しのプロかもしれないが、ダンジョンのプロじゃない。
オレ達とモンスター相手にして、どこまで行けるか、見てやろうじゃないか。」
オレの後ろにいたラーヴァが、オレの肩に手を置いた。
オレはそれを握って、
「こっちも色々と、新兵器があるしねぇ♪」
ラーヴァと目を合わせて、ニッコリと笑った。
「『聖光正教会内赦院・ 秘書官房』。お手並み拝見といこうじゃないか!」




