第54話 教会の陰謀
ー3日間の休暇の某日ー
「イヴリン様がお見えになりました。」
「・・。通せ。」
ここは、聖光正教会アンタルヤ支部。
その中の『内赦院・ 秘書官房』に、イヴリンは訪れていた。
部屋は簡素というより、大きな書斎机と椅子以外、何もない。
そこで男・・・司教が、何か書き物をしている。
「イヴリン、参りました。」ひざまずき、一礼する。
「うむ。」書き物をしたまま、司教が言った。
司教は、イヴリンを見もせずに、書き物を続けている。
しばらく書く音だけがしていた。
いい加減経って、司教は顔を上げた。
「取り出す目処は立ったか?」
「司教様。その件ですが、取り出す必要があるのですか?」
「・・・」
「ワタシは、β-89の洞窟で『破壊神の魂』を見ました。
その時、破片から浮かび上がったイメージは、『永遠の暗黒』です。
あれは地上に破壊しか、もたらしません。」
司教は『ギシッ』という音をさせて、椅子にもたれて、
「私は『目処は立ったか』と聞いた。」
「しかし、ワタシは、・・・」
立ち上がりながら、司教は、
「貴様の意見は聞いていない。」
司教は、イヴリンの正面に立って、
「さて、イヴリン。」
「はい。」
「かねてからの案件であった、例のダンジョンに眠る『破壊神の魂』。
それを回収する任務を与える。」
「・・・」
「開拓者ギルドへの発注は、すでに済ませた。
お前たちのパーティが侵入する手はずも整えてある。
最奥の部屋にある魂を取ってこい。」
さらに近づいて、
「ああ、もう一つ。貴様に仕事を与えてやろう。」
イヴリンの足元に、一振りの鞘入り短剣を放り投げる。
「その短剣には、猛毒が塗ってある。」
「・・・」
「目的の物を取得した後、『ケンター』を殺害せよ。」
『!? そ・それは!!』
「なぁ、イヴリン。お前はどこの所属だ?」
「・・内赦院・ 秘書官房です。」
「そこでの使命は?」
「『異端者を取り締まり、必要あらば抹殺』です。」
「ならば、何の疑問もあるまい。」
「本部からの命令である。『ケンター』を殺害せよ。」
司教は言うことは言ったのか、後ろを向いて席に戻りつつ、
手をヒラヒラさせて『去れ』とアピールする。
イヴリンは、迷った。
「し、司教様。」
何か言わなければ。
司教は後ろを向いたまま、静かに、
「イヴリン。私を失望させるな。」
『ビクッ!』として、言葉が止まる。
「お前は幼少時から催淫魔法が出て、人を惑わした。
そんなお前を、親も見捨て、預けられたどこの教会でも、
トラブルしかもたらさない厄介者だった。
そんなお前に、衣食住を与えて、曲がりなりにも仕事を与え、
生活させてやったのは、誰だ?」
「・・・司教様です。」
「途中でお前の才能を見抜き、
神秘部に派遣して、生き残る技術を学ばせたのは誰だ?」
「司教様です。」
「なぁ、イヴリン。あのままお前が生きていても、
良くて、どこぞの僧院の奥で、性欲の余った僧侶達の捌け口に使われるか、
淫売宿で、娼婦になるしかなかったはずだ。」
「・・・」
「それを私は、お前を、あの絶望から脱出させ、
育て上げ、教会でも上位の階級まで抜擢した。」
「・・・」
「私の顔に、泥を塗ってくれるなよ。」
司教は、イヴリン見て、
「去れ。目的を達成せよ。」
再び書き物に戻った。
もう司教は、目的を達成するまで、イヴリンに声をかけることはないだろう。
それが分かっているイヴリンは、深く一礼して、部屋を退出した。




