第4話 オレの従者らしい
気が付くと、岩だらけの場所に倒れていた。
・・オレ、死んでない。
涙があふれた。
オレ、エライ。
よくあんな状況の中で生き残った。
「あ! アイツ追いかけてきてるかも!?」
慌てて近くで隠れられる場所にワタワタと駆け込む。
寒さと恐怖で、涙がポロポロあふれた。
オレは、そこで1時間くらい、静かに隠れていた。
状況に変化が無いことを確認して、
さて、どうしよう?
ただでさえボロだった着衣は、すでにパンイチと言っていい状態となっている。
金も食料もない。
細い雨が、シトシトと降っている。
「腹減った・・」
たたずんでいるだけじゃ、飢え死んじまう。
持ち物は・・、ほぼパンイチ。
まわりは全然見覚えのない世界。
気が付いて、自分の体を見回す。
履いていた靴じゃない。
体格が違う。全然、自分の体という感じがしない。
大体、肌の色が違う。
何があった?
落ち着け。
状況を、1回整理してみよう。
2回爆発があった。
1回目は、いきなり泥の中にいた。
2回目は、知らない女に攻撃された。
『転移します♡』という声があって、気が付いたら、ここにいた。
なぜオレはここにいるのか。
こんな状況になっているのか。
全然、解らない。
「ああ困った。誰か教えてくれないかなぁ。」
そうつぶやいたら、
『御用ですか? ご主人様』
ハモった声が聞こえた。
おおっ!?
足元を見ると、高さ15センチくらいの2匹のネズミがいる。
マント着けて剣持った1匹と、同じ格好で杖持ったのが1匹。
じっと見ていると、
『御用ですか?御主人様。』
またまたハモった声。
「君たち、何?」
『・・・』
ネズミは、お互いに顔を見合わせて、
「憶えてない?」
「憶えてないみたい。」
腕組んで、ハモって、
『う~ん。困ったね。』
ここで今さらなんだけど、言葉が解ることに気が付いた。
ここって日本語圏?
ネズミと会話できる?
待て待てw
今はそれどころじゃない!
「君たちは誰?」
「あーっ、やっぱり憶えてないんだ。」
「困ったなぁ。」
剣持った方が、ピッと人差し指を立てて
「まずは最初に。私達は、あなたの従者です。」
「わたしはパウ。」
「ボクはポウ。」
「パウは剣士。」
「ポウは魔術師。」
『よろしくお願いします。』
ハモって、丁寧に頭下げられた。
オレは、
「パウにポウ。オレは今までの記憶がない。
一体どうなっていのか、説明をしてくれ。」
2匹は顔を見合わせて、
「やっぱり転移魔法を引っ張りすぎたんだ!」
「あんな距離、いっぺんに飛ぼうとするからw」
パウが、
「あなたは、自分が誰かは憶えている?」
「全然。オレって誰?」
ポウが、
「ちょっと待ってて。今、調べてみる。」
しばらくして、
「あーっ、マズいなぁ。レベルゲージが全部『1』になってる。
記憶も初期状態みたい。脳波が全然違う。」
パウが、
「じゃあ、ほぼ別人?」
ポウが、
「別人だと思う。」
まわりをバタバタしながら、
『うわーーーーっ!! 困った!!』
ハモって言われてもねぇw
2匹が落ち着いたところで、オレは、
「パウにポウ。もう一度ちゃんと状況説明!」
『了解!』
「改めて初めまして。私達は、あなたの従者です。」
パウが、
「あなたはハモン様。この世界では、すごい魔法使いの1人と言われています。」
ポウが、
「ただし、色々な事情があって、今は逃亡中。」
「オレって、何やったの?」
パウが、
「主に人間性の問題で、すっごく不誠実なことやった。」
ポウが、
「その後、怒った人に『無礼だ!』って魔法攻撃して、すっごい迷惑かけた。」
ハモって、
『ダメだよね~。』
パウが、
「議会から処罰宣告されたら、『この国滅ぼしてやる!』なんて叫んで、
刑を執行しようとした人達に魔法攻撃して、国の中、ムチャクチャにした。」
ハモって、
『ダメだよね~。』
うーーーーーーんw
オレは頭抱えた。
オレって人間のクズ?
んっ!?
ちょっと待て。
「逃亡中ってことは、ここは余所の国?」
「そう。」
「ハモン様、そこら中から憎まれて、追跡振り切って逃げる途中。」
「ものすごい距離を転移魔法で飛んで、一挙に引き離す計画立ててた。」
「それ言われても憶えてないけど、具体的には、オレは何をやった?」
腕を組みながら、
「パウが憶えてるのは、追手を振り切るために、
思いっきり遠い場所に転移魔法の座標を置いて、
持っていた魔力全部つぎ込んで1回で転移しようとしてた。」
「ポウが憶えているのは、あまりに無茶な距離だったから、
魔法が誤爆して、2回に分けて飛んじゃって、
1回目の爆発で、ハモン様はボロボロになって、頭から泥に突っ込んだ。
2回目の爆発で、今いる地点まで移動した。」
ハモって、
『あんなことやれば、普通なら死ぬよね~。』
状況は解った。
つまり無謀な転移魔法を使って誤爆。
1回目の爆発の時に、ハモンとオレの意識が入れ替わる。
2回目の爆発で、ここに移動した、と。
ところで入れ替わったハモンの意識は、どこ行ったんだ?
「ハモン様、自分のこと覚えてないの?」
「全然。」
「じゃ、名前も?」
「知らん。」
『・・・。』
パウが、
「記憶もない、力もない。」
ポウが、
「おまけに何も持っていない。」
2匹ハモってオレを指差しながら、
『だったらハモン様、今のあなたは名無しの貧乏人!』
「・・・。」
そうですか。
いかん。冷え込んできた。
このままパンイチでいたら、風邪引くぞおっ!
「何か着るものって、持ってない?」
パウが『仕方ないな~w』っていう態度を隠そうともしないで、
「ポウ。ハモン様用で、今のレベルで使える、非常用のもの持ってる?」
「少しなら。パウは?」
「私は今のハモン様じゃ、かなりレベルアップしないと持てないものばっかりw」
「じゃ、ボクが出すね。」
すいません。
「服は、これ。」
「着たら雨避けにマント羽織ってね。」
ポウがポシェットからゴソゴソと取り出す。
あんな小さいポシェットから、どうしてこんな大きいものが出てくるんだ!?
ビックリの連続だ。
続けて色々出してくれる。
「ベルトを着けて。」
「ポーチの中に、少しお金入ってる。」
もらったベルトについているポーチを探ってみる。
銀色と銅色・鉄色の硬貨が何枚か入っていた。
「それで何日かは生活可能。」
「なくなると、お金ないよ?」
パウが、
「それまでに稼いでね♪」
ここ、どこかも解ってないんだけどなぁ。
まずは街に行かないと。
「街、どこだろ?」
「待ってて。」
ポウが上に浮かんでいった。
喋って飛ぶ、ネズミの魔法使いね。
もう、少々のことでは驚かなくなってきた。
「上から見たら、あっちの方角に街がある。こっち真っすぐ出て、道。そこを左。」
了解。
おっといけない。
大事なことを、後1つ。
「どうやって稼げばいい?」
ネズミ達は少し考えて、
「街に着くと『開拓者ギルド』っていうのがあります。」
「そこで『開拓者』の登録して、稼いでください。」
「多分、それが一番簡単。」
「最後に注意事項。」
パウがピッ!とオレを指差して、
「ご主人様は、まだ全然レベルが低い。」
同じ格好で、ポウが、
「お金もなくて力も無い。もちろん魔法も使えない。」
「荷物も、最低限しか持てない。」
「だから、できるだけ早く、レベルを上げて。」
ハモって、
『じゃないと、敵に会ったら死ぬと思う。』
そうだよねぇ。
判るよ。
「だからねぇ、」
ハモって、親指立てて、
『がんばれ!』
応援されちゃった。
さて、準備ができた。
「では行こう。」
『了解!』
1人と2匹は、街へ行くことになった。