第25話 ゴブリンレイド(3)
現在、4日目の午後。
戦況は、ほぼ硬直してしまっていた。
お互いに引く気はまったく無い。
今では、味方のはずのベネト共和国からの軍隊も、
開拓者ギルドとの関係は、すっかり悪化しているとのこと。
フフフ。オレにチャンスあるかも♪
ハモンから受け継いだオレの『勘』が、「参加しろ」と囁く。
オレは『ビックイベント』に参加できる可能性を考えていた。
まずは、『何が』あるかだ。
現状では、少しずつ戦況に綻びが出始めていた。
オレはパウとポウを情報探索に使い、侵入地点を探していた。
ところで『開拓者レイドグループ』だが、早速、物資が不足してきていた。
みんな疲労もしてきている。
オレは休憩時間に、砦の後方に出来た『市場』に、物資を調達しに行くことにした。
この世界では、ある程度の部隊が移動して戦闘する場合、
『輜重隊』という、補給用に、商人・職人の一群が付いてくる。
これは『酒保商人』を中心とした商人の集団で、
鍛冶屋・甲冑屋・錬金術士といった、職人も多い。
通常の商売と異なり、戦地なので、同じものでも高く売れ、また緊急性も高いので、
修理なども、吹っ掛け値で仕事できる。
この連中が、戦場から、ちょっと離れた所で、商売を始めているのである。
これとは別に、賭博士、娼婦という『いかがわしい』職業の人達も付いてきて、
一緒に営業し、気分転換で訪れる開拓者によって、活況を呈する。
今回のように数千人規模の人間が活動している場合、
一つの街が移動してきたのと同じ規模で、『市場』ができている。
このような状況だと、治安も悪い。盗人、強盗など、当然のように入り込んでいた。
そのため、憲兵なども出ており、そこかしこで、騒ぎが起きていた。
「お兄さ~ん、寄ってかな~い?」
「ダンナ、今、盛り上がってますゼ!」
娼婦や香具師が、呼び込みに忙しい。
そんな中、必要物資を見ていたオレは、腰のあたりに違和感を感じた。
大したもので、しっかり閉じておいたポーチの紐を開けて、中を探っている手がある。
オレは、サイフを盗っていこうとする手を逆手に捻りあげて、盗賊を捕まえようとした。
その瞬間、下から突き上げてくるナイフ!
ナイフを避けつつ、逆手に絡めた手は離さず、更に捻りあげると、
「ナイフを捨てろ。」と脅した。
盗賊は、なおもナイフで攻撃してきたので、
逆手に持った手首をさらに捻って脱臼させてやった。
相手は激痛を感じて、ナイフを取り落とす。
そのまま脱臼した腕を引っ張り、
「言うこと聞いて付いてこい。でないと、二度と腕が使えないようにしてやる。」
と、脅した。
人気の無い場所へ連れて行って観察する。
若い女の盗賊だった。
脱臼した手首を抑えながら、うずくまり、燃えるような目でオレを睨みつけて、
「チクショウ! 殺してやる!」と息巻いている。
彼女は、女性と言うより『娘』という方が近いかなという印象だ。
高校生くらいなんだろう。
茶色い黒髪に、髪型は『うちまきパッツン』と言われるスタイルだ。
卵型のフェイスラインに、クリッとした眼。
小振りな鼻。
やや厚ぼったいオレンジがかったピンクの唇が可愛らしい。
躰は、思ったより発達しているのが、ピッチリした服装から分かる。
意外に大きいバスト。
対照的に、キュッと小振りなヒップ。
スラッと伸びた肢体が、健康的だ。
『将来が楽しみ♡』って感じだ。
オレは、女を立たせ、「服を脱げ」と命令する。
「この変態野郎め!」
「早くしろ。 下着は脱がなくていい。」
「腕が動かなくて、脱げるか!」
仕方ないので、オレが脱がせることにする。
ほぼ裸になった女の体を、武器と、体のどこかに入れ墨がないか、素早くチェックする。
特徴のある入れ墨があるヤツは、大概、ボスの『お手付き』で、窃盗団の手下だ。
一ヶ所、太腿内側に、入れ墨を消した後があった。
「これは?」
「ウルセエな! 変態野郎!!」
反抗的なヤツだ。
チェックが終わったので、武器を解除しながら服を着せた。
相変わらず手首は脱臼したままだ。そろそろ直さないとクセになる。
「このハンカチを噛め。」
「?」
「いいから、噛んで我慢しろ。」
オレは脱臼した腕を抱えて、「しっかり噛んでろよ」と言いつつ、
『ゴキッ☆』と関節を入れる。
「!?!!!」
女は一瞬真っ赤な顔になって、その後、真っ青な顔になる。
さて、と。
オレは、盗賊の武器をまとめて自分のポーチに放り込むと、
フラフラして立っている盗賊の腕を掴んでニッコリ笑って、
「さて、行こうか。」
女はオレを見上げて、「オマエ、オレを憲兵に差し出す気か!?」
オレは首を横に振り、「チョイと相談がある。」
市場に開いていた、小汚いが、まぁ落ち着けそうな店で、目立たない席に座った。
「オマエ、ソロだな。」と確認する。
「ソロならどうした?」彼女は、ジロッと睨みを効かす。
「エールお待ちっ!」と店員が2人分持ってくる。
店員がいなくなってから、オレは、
「デカい金儲けの話がある。」
と切り出した。
「!?」
「儲けは頭割り。人数増えると儲けが減るから、ソロのヤツを探している。」
女はエールのジョッキを持ち上げようとして「イテッ!」と手をおさえた。
オレは立ち上がって、脱臼した方の手首を両手で覆い、回復魔法を照射する。
女はビックリした顔をして、手首をグルグル回す。
「痛くないw」
オレは座り直して、
「オマエ盗賊だろ? レベルいくつだ? 隠密索敵とかできるか?」
「盗賊だが、レベルは判らん。隠密索敵は使えるゼ。」得意そうに答えた。
「今回のヤマは、マジでデカい。ただ、まず困っているのが、
そのデカいブツが『何』なのかが解らんことだ。」
「はあっ!? わからんもの、デカいかどうか解んねぇじゃないか。」
「デカいブツなのは解ってる。
何せ、ゴブリンキング・ベネト共和国・開拓者ギルドが三つ巴で狙っているんだから。」
「!? この戦争か!?」
オレはフフフッと笑って、軽くエールを飲む。
「普通なら、開拓者と共和国の軍隊が一緒に戦ってゴブリン討伐。
3日もあれば終わる。それが4日目にして膠着。
ゴブリンキングは兵力増強して撤退しない。
開拓者も共和国も各自徹底抗戦。探ってみたところ、ダンジョンに何かあるらしい。」
「それなら、ダンジョン入っていって、盗ってくればいいじゃないか。」
「バーカ。大きさも状態も解っていないもの、どうやって持ってくる?」
「あ、そうか。」
「オレは、レイドに参加してるから動けない。で、オマエだ。調べてこい。」
「ちょっと待った。」盗賊は手を挙げて、
「何にも確約無しで、そんな危ないクチに乗れねえよ。」
オレは、ポーチの中に手を入れ、思わせぶりにあたりを見回し、
「手を出せ。」
「?」
「いいから、手を出せ。」
テーブルの上に置いた彼女の手に、握るようにして、金貨10枚を渡した。
「!?」
「手付金だ。それと、『協力者』を付ける。」
テーブルの上、2匹のネズミが表れた。
『ハーイ♪』
「!?」
「パウとポウという。オレの従者だ。」
「お姉ちゃん、よろしく♪」「よろしくお願いします。」
「詳しいことは、この2匹から聞け。オマエが調べるのは、『何が』あるかだ。
次に、開拓者ギルドの今回のスポンサーがどこか。そこまでは調べてくれ。
ただし、ダンジョンの中に入って調べたり、命に係わる危ない橋は、絶対にわたるな。
もし判れば捕らわれた上、凌辱されて拷問・虐殺なんてなりかねん。
ヤバかったら撤退しろ。期限は、このレイドが、この次動き出すまで。」
「り・了解。」
「それと、これは『保険』だ。」
オレは、首輪状のネックレスを取り出す。
「首を出せ。」
「?」
彼女は首を出す。
『パチッ☆』とはめると、
「これはオマエがどこにいるか、どんな状況かが解る、マジックアイテムだ。
逃げても判るぞ。無理に外そうとすると、死ぬぞ。
もし命にかかわる状況になったら、ここを抑えて『助けて』って言え。
オレが助けに行く。」
武器を返す時になって、一番大事なことを聞いていなかったことに気づく。
「お前の名前は?」
女盗賊はニッと笑って、
「ギルリアン。」
「了解、ギルリアン。オレは『ポンセー』。魔法士レベル32だ。
ギルリアン、期待してるぞ。連絡はネズミを通して行え。では、行け。」
偶然かつ不確実ではあったが、探索者を送り込むことができた。
後は、『何』かが、いつ解るかだな・・・




