第199話 演芸を始める
ベネトの、とある運河を、華やかに楽器を演奏しながら、旅芸人の一座が通る。
「さあさあ『劇団ソレイユ』だよ!
新装開店。新しい劇場での演目だ!
踊り子スーの公演は、今まで通り『波乗亭』で演じるよ!
みなさん、見に来てくださいねー!!」
キレイに飾った先頭のゴンドラでは、
スー、アーシャ、ニディ、メイジャが舞台の役柄に扮して、
にこやかに挨拶している。
左右のゴンドラにはマドレーヌとソニアがいて、花を撒き散らす。
オレは後ろのゴンドラで楽器を奏でながら大声で宣伝し、
一緒に乗ったラシュマ、マオ、ヤンが楽器を奏でて景気をつける。
劇場公演に先立ち、プラディシュの本部に増員を要請する。
借りた店舗が思ったより広く、人数的に使い切れない。
歌劇団・音楽団は、プラディシュ・公国でも人気が出てきていて、
各地で、公演の要請が相次いでいる。
メンバーが全然足りない中、なんとかやり繰りしてもらって都合をつける。
貸し屋敷は、1階が店舗、2階~4階が居住階、屋上付きの、中々な建物だ。
オレは
1階を劇場・売店。
2階を練習場。
3・4階を居住階。
に改装してもらい、劇団ソレイユの本拠地とする。
短い期間であったが最初の借家に別れを告げて、店舗に移る。
新たに到着したメンバーは、
劇団員が、バハティ、ラクシュミ、ルビー、スーピリヤ、アリサ。
音楽員が、バーニー、ネーラム、アトゥル、アーロン、ナヤック。
全員1期生で、先行4人とは顔なじみである。
オレは、公演を始めるにあたって、新たにシナリオを、かなりの数、書き足した。
書いている最中、バーニーとバハティがやって来てシナリオを見た。
オレは作家名『ルーカス』でシナリオを書いているが、名前を見て2人同時に
『団長が書いてたんですか!!』
現在、歌劇団には3人のシナリオライターがいて、
オレ、ネーハさん、イシータさんが書いている。
ネーハさんは宗教色が強く、舞踊中心でアーティスティック、
イシータさんは郷土色が豊かで叙情的な、しっとりとした演目が多い。
オレは最初から『楽しければいい』と思って書いているから、
いちばんイージーである。
今回ベネトへ来たメンバーは、全員『ルーカス』のシナリオが好きで、
練習でも『ルーカス』ばかり演っていたらしい。
さすがネーハさん。よく見ている。
劇団5人・音楽団5人が新たに参加。
演目の練習を経て、『劇団ソレイユ』の本格公演が始まった。
隔週ごとに演目を変えて、観客に飽きが来ないように考えて運営する。
『ルーカス』の演劇は、オレの公国・獣人国での生活が色濃く反映している。
オレは宗教色を出さずに、あくまで『楽しむ』ことを前提に、
王族の生活・庶民の生活・冒険の物語・恋愛ストーリーを軽快に奏でる。
基本は楽しく。
ときには悲しく。
ある時は雄大に。
現世とは、まったくの別世界を、舞台に構築する。
ベネトでの人気が高まるに従って、
オレは団員各員の、演目における裁量を増やしてゆく。
バーニーとバハティはシナリオライター志望なので、シナリオ作り。
ラクシュミとネーラムは作詞作曲志望なので、曲作り。
アトゥル、アーロン、ナヤックは演奏家志望なので、そのまま。
ルビー、スーピリヤ、アリサは歌手・舞踊志望。
ネーハさんは、選んで送り込んでくれている。
先発4人と違って、次発10人は、明らかに芸術家肌だった。
劇団ソレイユの演劇は、午後1回・夜1回の計2回。
売店のあるロビーで軽食・スナック・飲み物を食べてもらい、
椅子のある劇場部分へ移動して見てもらう。
演目時間は、大体90分。
短いものを2つ3つか、長いものを1つかは、その時々で違う。
プラディシュでもそうだと言っていたが、ベネトの観客も、じっと見てはいない。
音楽が始まると、手拍子足拍子はもちろん、好きな曲になると、一緒に歌い出す。
役者と一緒に歓び、悲しみ、ヤジを飛ばす。
最後は大団円で、観客総立ちの拍手で物語を終わる。
街を歩くと、オレ達の演目が、
ベネトの生活に少しずつ影響を与えていることを実感できる。
劇中で歌われている曲を、結構な数の人が歌っている。
着ている服の感じが、劇っぽい感じになる。
劇の主人公、あるいは脇役がこう言っていたとか言って、
言葉遣いがそれっぽくなる。
これとは別に、スーが率いる舞踊チームは大人に人気が高い。
「ベネトの夜を楽しみたかったら『波乗亭』に行くべし」
こちらは舞踊劇中心のチームになっており、夕方から夜に活動する。
踊り子2から3人。演奏2から3人。雑用2人で運営する。
演目が終わると夜のお誘いがすごいらしいが、波乗亭の協力もあり、
うまく立ち回っている。
ある休演日の午後。
「団員が全然足りない。」
オレは悩んでいた。
今の状態を維持するためには、人数が、もう10人欲しい。
しかし、さすがにこれ以上の追加を頼むわけにはいかなかった。
外に出てみると、劇場前には追っかけがウロウロしている。
お目当てのタレントが出てこないかと、四六時中待っているのだ。
今のオレは、アゴヒゲを生やして頭モサモサの変装をしているので、
さすがに寄っては来ない。
・・・大体、劇には出ないしw
劇場の角の、橋の袂でボーッと広場を見ていると、
子供がオレ達の劇の主人公に扮して遊んでいる。
セリフをよく憶えていて、しっかりと演じていた。
「あ、・・・団員募集と演劇学校やればいいか♪」
思いついたら、実行できるように調整するべしだ。
オレは早速実現するべく、行動を開始した。
成人の日。
新成人の方、おめでとうございます。
天気は下り坂とのこと。
雨対策をバッチリして、楽しんでください。




