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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
賢者の卵
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賢者の卵①

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 聞こえる…聞こえるんだなっ!


 世界のコワレル音。


 崩れる音。


 コワイ!


  コワイんだなっつ!


 ヤなんだなっ!


 誰もいなくなって、考えるのしなくなった世界は混沌に溶けてなくなっちゃううんだなっ…。


 

 だから、おで、ここから出ないんだなっ!


 絶対に!


 絶対に出ないんだなっつ!!!

------------------------------





 「よいっしょ…っと」


 

 私はだだっ広いどこまでも続く果ての見えない草原を、狂戦士ギャロウェイを担いで歩く。


 

 あのガイル君との一件いらい丸1日立つというのに、狂戦士ギャロウェイは目を覚まさないでいた。


 

 「まだ…まだ、つかないの~?」


 誰に問うでもなく呟いた私の声に腹の底がゴポッと申し訳なさそうに鳴る。



 「あ、違うの! ウンディーネに言ったんじゃないの…でも、ホントに方向はこっちでいいの? 全然見えてこないよ?」


 

 私の2.0の視力を持っていしても、この草原の先に目的地は見えてこない。



 目的地。


 そう、私は今この果てのない草原をただひたすらに『エルフ領リーフベル』へと向かって歩みを進める。


 そこは、名前の通りエルフさんの国らしくてなんでそこへ向かっているかと言うと…。



 ぐきゅるるるるるるるぅう~~~…。



 限界を超えた腹の蟲が悲鳴を上げ、背中の男を喰えと督促する!



 駄目、それだけはっつ!


 今そんなことしたこの人死んじゃう!


 死なせるのは駄目だって!


 死んじゃったら私の食べるのが無くなるじゃない…!



 ずるっ。


 

 私の肩に引っかかっていた頭が滑ってガクンってなる。



 「おっと、っいしょっと!」



 私は、体制が崩れたのでおぶり直すため背中から狂戦士ギャロウェイをそっと地面に降ろす…日が暮れいる前には何とかって…たぶん無理なんだろうけれど…。


 それにしても不思議…私、空手とかしてたから結構筋力には自信があるんだけど大の男一人担いでここまでかなり歩いてきたのに気味悪いくらいに平気…疲労もないし息もきれいない…。


  

 横たえる彼の頭を膝にのせた私は、自分の手の平を口もとに寄せる。



 「ウンディーネ、お水」


 手の平にわき出すような冷たい感触。


 でも、上手く口に入っていかなくて、仕方ないから指を口に突っ込む。


 

 「ゴクッ ゴクッ…ゲホッ! ガハッ!」


 「あっ、ごめん!」



 私は慌てて口から指を引っこ抜く。


 けど、咳き込んだだけで狂戦士ギャロウェイは目を覚ます気配が無くまたすーすーと寝息を立て始めた。


 逞しい肉体の割にどこか可愛らしい寝顔。


 ソレに、今なら本当に何をしても起き無さそうなくらい深い眠り。



 「ふふ…眠り姫みたい…」


 私は、その顔にかかった艶のある深紅の髪をそっと払う。


 真っ白な顔。


 あの狂戦士になるのはかなりの体力と、魔力を消費するみたい…私の…私の為に…。



 「もう少し頑張って…今度は私が守るから…」

 


 ソレにしても、ホントに大丈夫なんだろうか?


 ウンディーネが言うには、『エルフ領リーフベル』へ向かってそこにいる大司教様というのにあえればこのぐっすり寝こけているお姫様を救う事ができるって…?


  

 ううん!


 こんな所で考え込んでたって始まらない!


 ウンディーネの案内で、この草原の地下を通る水脈を辿って行けばエルフ領リーフベルへたどり着けるはず!



 私は、もう一度彼を抱き起して背中に背負おうと_______。




 かっかどぅどぅどぅ~。


   かっかどぅどぅどぅ~。



 蒼天の空に響き渡る何だか聞き覚えのある『鳴き声』。


 太陽の光を遮ったソレを私は見あげる!


 

 え?



 逆光でシルエットしか解らないけど、間違いない。


 

 ん?


 でも、ちょっとおかしくない??



 青空の彼方より迫るのはどう見てもニワトリだった。



 うん…正確には巨大なニワトリ…お馴染みの白いボディに赤いトサカ。


 よくスーパーなんかで売ってる鶏の肉はこの種で間違いない…けど、けどね?


 

 それは全長8mはある超大物って…アレって何人前の肉が取れることだろう…。



 いつの間にか手には剣。


 今の私には、食べれない…分かってる…分かっているけど…!



 ぐぎゅるるるるるるるるるるぅうううう~…。



 今まで味わった事のない空腹で、気が変になりそう…もう駄目!



 「くえっつ?! ぴきゃあああああああ???」



 私と目の合った巨大ニワトリの顔が引きつって天へと踵を返す!



 「逃すかっつ! 鳥肉うううううううううううううううう!!」


 

 発光する白銀の切っ先、行ける! 


 一刀両断に_______



 「うに"ゃああああああ!!! まって! まってよおおおおおおお!!」



 狙いをさだめた巨大ニワトリの背に涙ぐむ…お、女の子!?



 背に乗る女の子に気付いて剣を下げると、旋回し不時着した巨大ニワトリの背から飛び降りたその子は小さな体にも関わらず私を押しのけて牙をむく!

 

 「ふしゃーーーー!」


 か、可愛い!


 箒のようなしっぽがぶわっと膨らんで、ふわふわのグレーの綿毛のような髪が逆立ち軽く外側にカールした耳がぺしゃんとたたんで空のようなスカイブルーの瞳はもはや怯えて涙を溜めているけどそれでも必死に私に威嚇する。


 多分、年は5歳くらい。


 デニムみたいなホットパンツに白のタンクトップという動きやすそうな軽装で背中にはどういう訳か、自分の背中ほどはありそうな竹編みの籠を背負っているけど…うん、そんなのどうでもいいくらい愛らしい。


 「ギャロウェイおいたんに何したんだーーーー!」


 女の子が気丈に守ろうと立ちふさがるは、いまだ昏睡中の眠り姫の前。


 「ごめんね…?」

 「ふしゃーーーーー!」


  がりっ!


 撫でたい欲求に根負けして伸ばした手がめちゃ引っ掻かれて流血、でも可愛い!!


 私の事、怖くて堪らないくせにプルプル震えながら子供特有の短い両手をいっぱいに広げて必死にキッツと睨む。



 ああ、切斗も確かこのくらいの頃に二人で公園で遊んでいたら野良犬が近寄ってきて小さいくせに私を守ろうとして同じ様な事していたっけ…結局、吠えられて泣いちゃったのを私がおぶって帰ったのだけれど…。


 

 「ふぅううう!!」


 可愛い子猫の威嚇に私の意識が引き戻される。


 そうね、今はそれどころじゃない。



 「こんにちわ~…私は比嘉霧香っていうの、アナタのお名前は?」



 今すぐ抱きしめてもふもふしたい衝動を抑えて、優しく優しく話しかけるけど…。



 「ふしゃーーーーーーー!」



 ああ、やっぱり。


 私っていつもそう…小さい子に嫌われちゃうんだよね…何でだろう?


 赤ちゃんとか、小さい子、大好きなんだけど撫でたり抱っこでもしようもんならことごとく号泣されちゃうんだよね…それに比べて餓鬼なんて嫌いだって豪語する切斗はものすごく子供に好かれるんだよね…。


 もう!


 ホント羨ましぃ!


 同じ姉弟でどうしてこんなに違うんだろう?



 「ねぇ、お願い…私、彼をエルフ領リーフベルに連れて行かなきゃいけないの…だから…」


 「…ねぇねぇはリーフベルにいきたいの?」



 エルフ領リーフベル。


 その言葉を聞いた女の子のたたんでいた耳がピンと立つ。



 「そう、そうなの! そこでこの人を_____ギャロを助けてあげたい」


 「…」



 女の子の逆立った毛がふわっとおりて、キッと睨んでいた瞳もくりんとした可愛らしい物へと変わる。

 


 「ねぇねぇは勇者の人?」


 

 まだ少し警戒気味のスカイブルーの瞳が、不意にそう聞いて来て私は少したじろぐ…さっきのガイル君の事があって不用意に自分が勇者だと名乗るのは少し危険な気がす…でも、子供にうそをつくのは良くないよね!



 「う、うん。 そう私は勇者なんだけど…」



 ぐったりしている狂戦士…もとい、ギャロの傍から離れなかった女の子が今度はトコトコ私の方までやって来てじぃいいいいいい…っと眼前の真下からこっちをみあげてきた! 



 まるで、私を観察するような値踏みするようなそんな視線。



 もう、なによ!


 よ~し、私もじっくり見ちゃうんだから!



 じぃいいいい…。

   じぃいいいい…。



 くりんくりんのスカイブルー目が光を浴びて瞳孔を細く伸ばす。


 猫耳に尻尾…ギャロの事『おいたん』って、呼んでた所をみるとやっぱり姪っ子なのかな?



 それにしても…。


 私の視線は、その背中に背負っている籠の中身にうつる。


 うん。


 間違いない…女の子が背負っている籠の中にあるのは大きな卵。


 あの鶏の卵だろうか?


 大きさはきっとこの子がかがんだくらいはありそう…きっと大きな目玉焼きが出来そうね…じゅるっ。



 「う"にゃ!?」


 「ああ、ごめんごめん! なんでもないのっ! そ、それよりも早くギャロを連れて行かなきゃ…」



 ズザザッっと距離を取った女の子は、尻尾をぶわっとしてまた威嚇を始めようとしたけどその耳がピンと立って背後を振り向く______え?



 ドドドドド…。

   ドドドド…カタカタカタ…。



 地面が微かに揺れ初めて小石が足元で跳ねる…女の子が見ている方を見ると遠くから砂埃をあげてなにかが…何かがこっちにくる?



 目をこらすけど、砂埃が邪魔で…ん?


 なんだろう?


 砂埃の中に影…何個か見える、1、2、3…?



 「うに"ゃあ!?」


 不意に女の子が弾かれたようにギャロのほうに駆け出し、腕をひっぱる!



 「ギャロウェイおいたん! 起きて! 起きてよぉおお!!」


 「何!? どうしたの??」


 

 女の子がどんなに引っ張ってもぐったりするギャロは、まるで糸の切れた人形のようにカクカク揺れるだけ。



 「落ち着いて! 乱暴にしちゃ駄目だよ? ね?」


 「逃げなきゃなの! 早く、リーフベルまでいかなきゃ!」



 私は、ギャロに張り付いて迫りくる砂埃にふーふーと威嚇をする女の子の肩をぽんと叩く。


 

 「貸して、私が担ぐからアナタはあの鳥を呼んできてくれないかな?」


 

 そう言うと女の子は少し潤んだ目で私を見上げて『うん』と頷いて、少し離れて地面に座るニワトリの所まで走っていき何やら叫ぶけどニワトリは頑として動かない。


 と言うか、あのニワトリはどういう訳か私を見て怯えているように見える。

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