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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
女神と魔王と賢者と終焉
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女神と魔王と賢者と終焉⑨

 世界。


 私の新しい世界。



 ジャプ。


 

 歩をすすめ、手を伸ばす。



 心の奥底が震えて、私じゃない誰かが涙を流してフッと消えた。



 お休みなさい……クロノス……もう一人の私。



 「ジジジ……クロノス、この世界をどうするかは君に委ねられた。 これでジジジジ俺ジジジ安しジジ……逝ける」



 新たな世界に触れる私を見て安心したように微笑む浩二。


 

 けれど、その姿はもうノイズばかりで言葉すらも途切れて遠い。



 「浩二!」


 

 私は、弾かれたように浩二に駆け寄るけどその手は体をすり抜け無様に淀んだ海に転ぶ。



 「ジジジジ……もう実体は保ってられない……泣くなよ、コレは小山田浩二の意思だ」

 

 「駄目……駄目だよ浩二……こんなの、あの二人にどう説明すればいいの? それだけじゃない『私』を守ってくれてたのは貴方なのに……私は……私は……!」



 ああ、どんどん浩二の体が透けていく。



 駄目!


 駄目……こんなの_______!


 「ダメだよ。 じぃじ」


 聞き覚えのあある声に、私は淀みの中から顔あげる!


 今にも消えそうな浩二の目の前。


 白銀の光に包まれながら手をつなぐ赤と青の瞳の幼子がふわりと宙に浮いて佇む。



 「お前らは……ジジジ……やってジジジまで来……」


 

 訝しがる浩二に、幼子たちは顔を見合わせて笑う。



 「ね、R? じぃじ、変な喋り方なの、ボケちゃったの?」


 「ん、じぃじ、おとしよりだから仕方ないんだな」



 くすくすと笑う双子は、ふわりと淀んだ湖面の上に降り立つけど不思議と沈みはしない。


 あの光に守られているんだろうか?



 「じぃじ、何勝手に消えようとしてるんだな?」


 「そだよ、じぃじ! 消えるのは駄目だよ!」



 二人の小さな歩みは、浩二の目の前までずいずいと迫る。



 「いや、コレは……」



 困惑する浩二が、私に助けを求める視線を向けた。


 

 「じぃじ、ひどぉおおい! ガリィ達の事忘れちゃったの?」


 「じぃじ、頭の中まで根っこに食べられちゃってるんだな? 馬鹿なんだなぁ~」



 なんとも的外れで失礼な事をみゃあみゃあと言い放つ二人に、浩二はたじたじになる。


 「あー! じぃじ、逃げるの悪い子なんだぁ~」


 「じぃじ、おでなんて体貸してあげたんだな! もう! 酷いんだな!」


 「ちょ、助けてよ! クロノス____てか、誰が、忘れるって!? 忘れる訳ねーだろ! お前らはこの俺の大事な____」



 自分の可愛い子孫である幼子二人の圧に気圧された統合世界の概念は、ばしゃっと淀みの中を一歩下がって困惑するのがやっとだ。

 


 「ね、R……」


 「ん、しかたないんだな……魔王様と勇者のねぇねぇとの約束なんだな……」



 手をつなぐ二人を包む光が強くなり、バチバチとまるで小さな稲妻が走り電光石火のごとく動いた瞬間、薄く透けてた浩二の首元にぎゅっと二人がしがみつく。



 ガリッ!


  ガリッツ!



 浩二は、両方の首筋に食い込む小さな牙の痛みに眼鏡の向こうの黒の瞳を見開く!



 「っ! お、まえらっ!」



 ばしゃん!



 幼子達の突拍子ない行動に、反応する間もなく浩二の体は喰らい付く二人ごと淀んだ湖面にダイブする。



 「ちょ!? R! ガリィちゃん!?」



 私は、三人が沈んだ場所に駆け寄る!


 だって、この淀みは私達には無害だけどRやガリィちゃんにどんな影響があるか分からない!


 

 ばしゃ!

  

  ばしゃ!



 私は、必死に淀みに手を突っ込んで探す!


 

 「え? うそっ! ど、どこ??」

 


 おかしい……膝ほどの深さしかない筈なのに今そこに倒れたはずなのに!


 

 「R! ガリィちゃん! こ、浩二_____!」



 

 ぐん!



 淀みを探っていた腕が、誰かに捕まれる。



 「ぁ? がぼっつ!? がぼぼぼぼぼっつ??」



 引きずり込まれた。



 暗く冷たい淀みの中。



 目を開けても閉じてもその景色は変わらない。


 

 ただ分かるのは、掴まれた手がとても熱いと言う事。



 ゴポッ。



  ゴポッ。


 

 何処までも深く深く続く冷たい水。



 此処はまるで、私が自我を取り戻したあの場所に似ている。



 けれど、寂しくない。


 

 それは、しっかりと捕まれたこの小さな手のお蔭だ。


  


 が、不意にその手が離され私は闇の中に取り残される。



 「ゴポッツ、ゴポッ……」

 

 

 沈む。



 息が出来ないよ。



  

 苦しくて闇の中で伸ばした腕が、強くつかまれ上へと引かれる。




 どさっつ!



 「良かった! 間に合った!」



 熱い腕が私を息苦しく抱きよせ、濡れた深紅の髪と金色の瞳が涙を浮かべて。


 

 重ねられた唇はいつもの味だ。



 「ぎゃろ……?」



 ギャロは、呼吸がままならない程に私を抱きしめる。


 耳元では嗚咽。



 大の男がこんなに泣いて……私の為に_____。



 「おい」



 不意に背後からした不機嫌な声に、私の心臓が跳ねた!



 「ぇ?」



 がっちり抱すくめられ動けない体の代わりに目いっぱい首を回して声の主を確認する。



 「いちゃつくのは後にして、先にこっちに手を貸せ……女神クロノス」



 そこにいたのは、眉間にくっきりと皺を寄せる詰襟の学ラン姿の少年_____魔王……比嘉切斗。



 「手を貸す?」



 訝しがる私に、更に眉間の皺を深くした魔王は面倒くさいとため息をつきまるでゴミで見下ろすように此方を見る。



 「僕だって、お前に頼むのは本意じゃない……が、全ての力を失った現状で頼れるのはお前しかいないんだ」



 力を失った?



 「こら、ダメだよ切斗。 それがお願いする態度なの?」


 視線をそらし忌々しいと舌打ちする魔王の背後からその肩にそっと手を乗せる少女は、弟の態度をたしなめる。

   


 「弟が失礼な態度を……ごめんなさい」



 セーラー服に黒く長い髪に黒曜石のような瞳。



 見飽きる程度に見てきた私の顔が、済まなそうに言う。



 キリカ……比嘉霧香。



 私が_____正確にはもう眠っていしまったもう一つの私が創った私の勇者。



 「ギャロ、彼女を放して……」



 キリカの頼みにギャロはようやくその心地よい拘束を解く。



 「……キリカ……一体何が? ここは何処?」



 私の問いに、キリカが口を開く。



 「此処は、『賢者の墓』と呼ばれる場所だよ」


 「墓……?」



 そう言われてようやく見回せば、そこは円状の広い空間。



 分かりやすくいうなら、奴隷などを戦わせる闘技場のような場所だか通常の三倍くらいの広さはありまるですり鉢状に彫り下がった中央には高さ15m・幅10mはあろうかと言う強大で透明な氷のような物が鎮座する。


 それは、恐ろしく純度の高いクリスタルだ。


 それほど巨大なものは、現存する事すら『理』に反するだろう。



 それが大きなものを中心に、大小様々な大きさの物が寄り集まって一つの塊になっている。



 クリスタルの放っている光のお蔭か、階段付近とは違いこの空間は真昼のように明るい。



 「うん、これは賢者オヤマダが_____こっじが創ったものなの……」



 「……浩二……なんてもの……けど、何のために?」



 「よく見て」



 私はキリカに促され、巨大なクリスタルの中を覗き込む。



 「あ!?」



 輝くクリスタル奥。



 その中に見覚えのある少年が膝を抱えて眠る。



 「浩二……? ううん……これは、『小山田浩二』の……!」



 そっと、クリスタルに触れた私の足元を白い鱗の尾がするりと触った。



 「ん、じぃじは、自分が完全にユグドラシルに食べられる前に『核』のとこをこっちに隠したんだって言ってたんだな」


 

 「ぁ、R! 無事だったのね! ガリィちゃんも!」



 私は、Rとその後ろで警戒した目で見ていたガリィちゃんを力いっぱい抱きしめる!


 「みゃっつ!?」


 「うにゅ! 苦しいんだな、ねぇねぇ~~」


 「もう! 無茶して! 心配したんだから!」

 


 ぎゅうぎゅう抱きしめると、みゃあみゃあとジタバタする二人が降ろしてとせがむので私は名残惜しかったけどそっと地面に放すとガリィちゃんはずざっと距離を取って『アイツに触られたなめなめしなきゃっ』っとばかりに毛づくろう。


 なにそれ。


 地味に傷つく。


  

 「ねぇねぇ、これ壊してほしんだな!」



 ぎゅっと私の手を掴んだRが、クリスタルを指さして言う。



 「え? 壊す? そ、そんな事して大丈夫なの?」


 「ん、もう時間が過ぎちゃってるんだな……だからもう、壊してでも早く出さなきゃ_____じぃじは……それでも駄目かもしれないんだな……」



 Rは、しゅんとうな垂れる。



 もう遅い。



 それは、浩二も言っていた……けど。



 「これ、『核』って……浩二がここに隠したって?」


 「ん、前にね、体を貸した時にじぃじが教えてくれたんだな……けど、じぃじね、どんどんいろんな事忘れてもうコレの事も忘れちゃったんだな」

 

 Rは、私の手をぎゅっと握る。


 「おで、ねぇねぇのことだまして、利用して、皆の暮らす世界を守らせようって、苦しい思いも悲しい思いもいっぱいいっぱいさせて、だけど、もう、ねぇねぇにしかお願いできないんだな……! じぃじを、今までたった一人で頑張ったじぃじを」



 『助けて』っと、私にすがったルビーの瞳はぽろぽろと涙を流す。



 「R……」


 泣いてしまったRに視線を合わせ頬の涙を拭っていると、じゃりっと地面をする靴が視線に入る。



 「女神クロノス」



 声変わりを迎えたハスキーな声が、くぐもりながら私の名を呼んで視線を地面に落とす。



 「頼む、僕と姉さんの力は全て『時の羅針盤』に回収されこの身は只の人間に戻された。 僕らにはもうソレを壊すだけの力はない」

 

 「……キリト」


 「私からもお願い! こんな事、頼めた立場じゃないけれど……今、この世界の統合思念は貴女だ! 貴女ならこっじの事、助けられる!」



 「キリカ……」



 並ぶ二人を見れば、その拳は破けて血がにじんでいる。



 私は、Rの側から離れてこの巨大なクリスタルを見上げた。



 『小山田浩二』


 

 きっと、貴方はこうなる事を予想して全てを仕組んだ。



 でなければ、こんな都合よく事は運ばない。



 子孫の中に自分に近い能力者が出現する事も見越してしなければ、あの混沌から自分を連れ去る手筈もこうして魔王と勇者と私が同じ場所に集うなんて事もなかった。



 神を。


 女神を。


 統合世界の概念たるユグドラシルを。


 この、時と時空を司るクロノスを。



 手玉に取ってまんまとクラスメイトとその姉を勇者と魔王の呪縛から解き放ち、今度はこの私に自分自身も救わせようとしている!



 「ふふ……あはははははは! 小山田浩二! ああ、すごい! 『賢者』の名は伊達じゃない!」



 ああ、ユグドラシル!



 貴方が何故に、彼を望んだか今ならよく分かる!



 突如として笑い転げた私に、周りが騒然となるけど構うもんか!



 私は、みんなに下がるように言ってその手に剣を模してエネルギーを具現化する。



 クリスタルに反射して映るギャロ。



 大丈夫。



 この状態の私には出来ない事の方が少ないから。

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