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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
女神と魔王と賢者と終焉
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女神と魔王と賢者と終焉③

 「まったく! あーたは此処に何しに来たのかしら?」



 呆れたようにフルフットさん言われて、やっとメリッサちゃんの狂喜に満ちたでれでれに緩んだ顔がびしっと引き締まる。



 「こほん! 失礼いたしました。 Rお嬢様のあまりの愛らしさに我を忘れておりました」



 メリッサちゃんは、いつの間にかドレスをしまい気を取り直してその手に鎖のついた鉄球を構え体に雷撃を走らせた。



 「魔王様の恩為、ひいてはRお嬢様の為、ここで倒れて下さいませ。 勇者様!」



 カツンと、白亜の地面を鳴らしメリッサちゃんが一気に私に間合いを詰める!


 

 早っ!


 体に電流を流して脚力を増幅してるんだ!



 私は剣を____ピリ。


 ?


 それは微かな痺れ。


 手の甲、あれ?


 ここってさっき……。


 

 手の違和感に一瞬反応の遅れた隙をメリッサちゃんが見逃す訳もなく、眼前に鉄球が迫る!



 「コード:459973 ボディパンプアップ」



 ばこっ!


 

 飛び出す白い影が、その尾で鉄球を砕く!

 

 「Rお嬢様!」


 「めーりーねぇねぇの相手はおでなんだな!」


 

 すたっと、地面におり『ふんす!』と鼻息を荒くする自分の小さな主の愛らしさにメリッサちゃんは鼻血をこらえながらも困惑する。



 「何故です? 何故、魔王様の敵である勇者様にそこまで肩入れを?」


 「めーりーねぇねぇになんかに教えてあげないんだな!」



 キッと睨むRの視線に、悶えながらもメリッサちゃんは武器を召喚しなおす。



 「ふぐっつ! なんと可愛らしいぃい! Rお嬢様の狙いは、わたくしめを萌え死なす事でしょうか? であったとしても、このメリッサめは武装メイド! お連れするようにとお母上様から命ぜられております故、手は抜きません! いざ____」



 ふわっ。


 

 身構えた武装メイドの前に歩み出た柔らかなグレーの毛並み。



 「あーるのあいて、ガリィがするの!」



 その空のような明るい青は、キッと目の前の宝石のような赤を睨みつける。



 「が、ガリィちゃん! おで、ガリィちゃんとは戦えないんだな!」


 「じゃ、ちゃんとお城のかえるの! ぱぁぱぁもまんまもみんな待ってるの!」


 ふーーー! っと、しかりつける双子の姉に思わず耳を畳んだRだったけどぷるぷると首を振って『いやだ』と一歩下がった。



 「なんで!? なんでこんな事するの? そんなに、そんなに、ねぇねぇと一緒がいいの? ガリィの事キライになったの?」


 「ちがっつ! 違うんだな!!」


 大きくてくりんとした青い瞳からぽろぽろと涙が落ち、慌てたRが駆け寄ろうと一歩踏み出したけどその瞬間にはあたりの空気が一変した!



 ピキン。


 ピキッツピキキキッツ!



 踏み出したRの足元に広がる霜。


 それは、一気に周囲の大気が氷点下まで下がった事を意味する! 



 「わっ、寒っつ?!」


 

 先程までの温暖な気候からの氷点直下に私が震えると、フルフットさんがどこから用意したのかふわりと背後からもこもこあったかローブをかけてくれた。



 「んふ♪ まだ幼いのにこれほどの魔力……流石、賢者様のお血筋だわ~」


 呆れるような引きつるような笑みを浮かべて『どれくらい被害が出るかしら……大聖堂の結界もつから』っと、フルフットさんがため息をつく。



 「ぐすっ、み"っ"み"ゅ"ぐっ、」


 「みゃっつ! が、ガリィちゃん泣かないでなんだな! おで、おでがねぇねぇといるのはこの世界を皆を助けたいからなんだな! この世界を救えるのはねぇねぇだけなんだな! だから____」



 ピキッツピキキキ!


 

 踏み出していたRの足が、膝まで一瞬にして氷におおわれた!



 「しらない」


 止まらない涙は、ほほを滑り落ちて地面にカツンと音を立てて砕け散る。

  


 「セカイなんて知らないもん! ガリィはあーるのねぇねぇなの! ふたつはひとつなの! セカイの、守るのためにあーるが遠くにいくのダメだもん!」



     ピキッツピキキキ!

 ピキッツピキキキ!



 ガリィちゃんが叫ぶと、足からせり上がるように氷がRの体を覆ってその凍てつく魔力は大聖堂を巻き込んですべてを氷結させる!



 「がりぃ、あーるがいればセカイなんて壊れちゃってもいいもん……がりぃとあーるが一緒じゃないセカイなんて魔王様に壊されちゃえばいいんだ!」

 


 ピキィン。


 大聖堂のすべてが凍り付く。


 「う"み"ゅ"っ、え"ぐっ、み"ゃっ……グスッ」



 凍り付いたRにガリィちゃんがぎゅっとしがみついて、みゃぁみゃぁと鳴く。



 切斗……。



 ボロボロ泣くガリィちゃんの姿に弟が重なる。


 切斗とガリィちゃんは同じだ。


 全てを投げ打ってでも自分の大切な人を取り戻す為ならそれをいとわない。


 

 その願いは、純真で純粋でどこまでも冷酷非道で残酷だ。


 きっと、今の切斗はこの世界を全て否定して私を……『比嘉霧香』と『小山田浩二』を取り返そうとする。


 けれど、その対価は余りにも多くの犠牲を必要としてしまうだろう。


 それは許されない。


 私は、女神として愛しい弟のその純粋で純真なその願いを許す訳にはいかない。


 

 本来なら。



 けれど、今の私は『女神クロノス』の記憶とその意思を持ってはいるけれど、私は私。


 

 女神とは違う。


 かと言って、『勇者キリカ』かと問われてもその記憶を持つだけで、私は私。



 それ以上でもそれ以下でもない。


 だからこそ、私は____がきぃん!



 「よそ見はいけませんね、勇者様!」


 ほぼ、反射的に抜いた剣は鉄球を切り裂く!



 「止めて。 メリッサちゃん」


 「貴女様は、我が主を泣かせました。 魔王様の恩為がなくとも、万死に値します」



 破壊した鉄球は、あっという間に再召喚されて私に向かって襲い掛かる。



 けど。



 ガキィイン!


 いくら本人が知らずにレンブランさんの血を引いていても、私との力差は歴然としている……それが分からない訳ではない所を見ると覚悟の上ってことか……。




 「メリッサちゃん。 私と貴女じゃ勝負にならないよ? 分かるでしょ?」


 「くっ!」


 グリーブの踵が凍った地面を鳴らし、問答無用に鉄球が舞う。



 隙の無い攻撃だけど、こっちは問題ない……あるとすれば……!



 私は、メリッサちゃんの攻撃を受け流しながら小さな二人に視線を移す。


 

 氷漬けにされたR。


 普段ならきっとこんな簡単に攻撃されなかっただろうし、あの賢者の力を使えばすぐにでもその氷くらい突破できそうなのにRはじっとして動かない。



 死んではいないと思うけど、あのままではどんどん体力を奪われる事に変わりはない。


 しかも。


 氷漬けに抱き付くガリィちゃんを中心に、零れる涙が凍てつく魔力を媒介して下手に触れようもんなら指くらい凍り付いてばらばらに砕けてしまう。


 「み"ゅ"ぐっ、み"や"ぁっ、ズズズ」


 子猫が泣くたび、その噴き出すような魔力は更に渦を巻き本来ならば全ての災厄の影響を受けない筈の聖域である大聖堂を凍らせていく。



 一国を氷漬けに出来る程のコントロール不能の魔力の暴走。



 この魔力の被害が大聖堂のみにとどまっているのは、今無言で結界を張り続けているフルフットさんのお蔭だけどそれも長くは持たなそう。

 


 ……ここは、私の中の精霊獣を使って建物全体の氷だけでも溶かして____う、でも、私、細かい魔力調整苦手だからなぁ~大聖堂ごと燃やすかもだし……。


 

 「ゆーしゃちゃーーーん! アタシもーだめかもーーーー!」



 フルフットさんがついにねを上げる!


 

 ローブすらも凍り付き、禿げあがった頭に霜が降りてたフルフットさんはもはや涙目だ!


 

 「えええ!? 頑張れませんか?? 私、今手が離せなくてっつ!」



 「もーだめーーー!」



 メリッサちゃんの攻撃を捌きながら考えあぐねるけど、参ったな。


 もう、私が手をくだすしか!


 

 もう駄目だと、私が魔力を集め始めた時だった。



 「小さな子猫ちゃん? そんなに泣いてどうしたの?」



 それは、不意に聞こえた少年の声。



 「みゅぐ?」


 

 氷に抱き付き泣いていたガリィちゃんが、その声に振り向く。



 そこにいたのは、脳天に何故か木の枝のようなものをくっつけて腰まで届く深緑の長い髪に深くて暗い緑の瞳をした耳の尖った14・5の男の子。



 だぼだぼのローブを着た恐らくエルフと思われる男の子は、ぽろぽろ涙をこぼす青い瞳の縁を細い指でそっと撫でる。



 「こんなに泣いて、折角の美人が台無しだよ~?」



 なんだかふわふわとして頼りない喋り方だけれど、屈託ないその笑顔に人見知りなはずのガリィちゃんはその指先にされるがまま顎から首のラインを撫ぜられて気持ちよさそうに目を細める。



 ピシッツ!




 「ふにゃっ!」


 

 突然、氷に亀裂が入るとガリィちゃんは夢の心地から呼び戻されあっと言う間にRの氷の向こうに逃げ込む。


448ページ



 「みゃっつ! だ、だれなの??」



 くるっと尾を巻いたガリィちゃんは、少年を見上げて耳をたたんでぷるぷると震えているけどその顔はなぜか赤い。



 「ボク? ボクは、リフレだよ? この大聖堂に住んでるんだ~君のお名前は?」


 

 自然の伸びた手は、ふわふわのグレーの髪に触れて耳を撫ぜる。


 「ふにゃぁ……が、ガリィ……ガリィだよっ」


 「ふふふ、可愛いね」


 「うにゃぁ! こしょこしょ……もっと、耳のこと」


 「いーよーほうら、こしょこしょこしょこしょ……」


 「ふにゃぁあああん!」



 リフレ。


 リフレ・リーフベル。



 フルフットさんの息子。


 あの子も私の……『勇者キリカ』の仲間。


 大きくなって……前はまだまだ子供って感じだったけど、なんか妙な色気がでてなんだかガリィちゃんを撫でる手も心なしかエロい。

  

 「ほらほら~ここかなぁ?」


 「みゃん! うにゃぁん!」


 リフレの手が、良い所に当たってガリィちゃんの巻いてた尾がぴんぴんに立ってぶわっと逆立つ毛。



 かりっつ。


 「うにゃっ!? みゅぅううん~!」



 細く繊細な指が、そこを掻くともう立ってられないと脚をガクガクさせたガリィちゃんをぽふんとローブに受け止めたリフレがほほ笑む。



 「ぁ、氷が!」



  みるみるうちに暴走したガリィちゃんの魔力はなりを潜め、大聖堂を覆っていた氷も溶け氷点下に下がっていた気温も一気にもとに戻っていく。



 「ごぶしゅ!? はぁあああああん!? ガリィお嬢様ぁああ!!」



 ガリィちゃんの痴態に鼻血を滝のように噴き出したメリッサちゃんが、戦線を放棄して悶える。


 

 「ふぅ~その手があったわねん♪ 流石、アタシの息子だわん♪」



 ほぅっと、息をついたフルフットさんが結界への魔力供給を解除しへなへなと地面にへたり込む。



 「リフレ、リフレなんだよね?」


 「はわわ~! ゆーしゃ様だぁ~!」



 ガリィちゃんを撫でる手を緩めないままリフレがぽや~っと笑う。


 

 あれ?



 リフレってこんな緩そうな子だっけ?


 前はもっと、こう、突っ込み役というか、年の割にはしっかりした感じだったような気がしたはずなんだけど?



 ソレに、その脳天に生えてる木の棒みたいなのは何だろう?

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