表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
時の羅針盤
43/54

時の羅針盤⑨

 痛い。


 苦しい。


 体をバラバラにされて、別の何かに組み替えられるような感覚。


 別の何か?


 それは正しくはない……私は……元の姿に戻るだけ?


 え?


 何言ってるの?!


 違う!


 そんなわけない!


 私は!


 私は、キリカ……普通の高校生で、お父さんお母さん弟との4人家族で……。


 それは間違いない筈なのに、ちゃんと私の中には『比嘉霧香』としての記憶が刻まれているのに。


 どうしてこんな事に?


 切斗……私の弟。


 ねぇ、私は、切斗の姉さんだよ…!


 「へー……ぜる……?」


 そのまま寝てればよかったのに、タイミング悪くレンブランさんが目を覚ましその月の瞳を見開く。



 その瞳が捉えるのは、白銀の髪に赤い瞳とその背に6枚の翼をもつ女神の姿。



 <アップデート完了のお知らせ:アップデートが完了しました。 追加機能、女神クロノスの使用できる世界線の管理者権限及び属性範囲の解放。 詳細を参照しますか?>


 ……黙れ!


 <アップデート完了のお知らせ:では、案内を終了いたします。 女神クロノスは、歴史に乗っ取り現状の保持に勤めてください>


 聞きたくない言葉が、耳を塞いでもなだれ込む!



 「ヘーゼル? 君、本当にヘーゼルかい? 一体何が……けほっ、けほっ、その姿は?」



 私にエネルギーの大半を吸われて、ふらつくレンブランさんは訝し気に見上げて次の瞬間その瞳に憎悪が宿る。



 「騙したのか……? 僕やリコッタや隊の皆を……!」



 違う!


 騙してなんかない!


 私は!!



 『ふふ……』


 私の唇からもれたのはゾッとするような笑み。



 「お前は、何者だ!」


 

 目の前のよく太った猫科の獣人は、残りカスのような雷の魔力を纏って牙を剥く。


 コレはあの男の子孫。


 あの男。


 異世界から突然現れた少年。


 何の魔力も持たない代わりに、すべての影響を受けない化け物。


 小山田浩二。


 私のすべてを狂わせて、『私』を奪い私の世界を横取りした。


 この子豚のような猫にはその男の血が流れている……そして、この形質はあの猫のイレギュラーと同じもの。



 やっと……。



 『私は女神クロノス……コレは世界を救う為のプロセス、貴方には此処で死んでもらいます』



 私は救いたい。






 それは、あまりに簡単であっと言うまだった。





 『なんて、たあいのない』



 なけなしの魔力を使い果たした狂戦士は、膝をつき浅く息をして私を睨む。


 何て脆い。


 例え、枯渇した魔力がもし復活していたとしてもこの狂戦士は私には指一本触れることは出来なかっただろう。



 「くそっ……! こ、こんな……こんな事がっ……!」



 ついに膝をつく事すらもままならなくなったそのふとましい体は、地面に倒れようとバランスを崩す。



 どさっ。


  

 「っ……!」


 倒れ込む体を私はさっと抱き留め腕の中で、赤子を抱くようにそっと転がす。


 

 腕の中から私を見上げるレンブランさんは、悔しそうにギッと睨んで唇を噛む。



 『レンブラン・K・オヤマダ。 既存の歴史にのっとり貴方にはここで死んでもらわなければならない』


 「ふざけるな……僕は……?」



 牙を剥き、月の瞳を憎悪に染めていたレンブランさんが眉を寄せる。



 「……なぜ、泣く? やっぱり君は……?」

 

 傷だらけになってしまったふくふくしい手が、無意識に流していた涙をぬぐう。



 『ごめんなさい……こうするしかないの』



 私は、そっと手でレンブランさんの目を覆った。


 それは、ほんの数秒その程度。



 <チュートリアル:狂戦士の力の封印及び記憶の消去並びに必要データの習得に成功しました>



 作業の成功を確認して、私はレンブランさんから目を覆っていた手をどける。



 ぼんやりと虚空を見つめるライトグリーン瞳。


 これが、本来のレンブランさんの瞳の色。



 『狂戦士レンブラン・K・オヤマダは削除された……これで』



 <警告:改ざんの回避が不十分です。 個体の破壊を推奨します>



 私は『0』の警告を無視して、そっと地面にレンブランさんを寝かせて転移陣を展開する。


 レンブランさんの記憶を消去するとき読み取った中にあった女性。


 幸いな事に、レンブランさんは彼女に自分が狂戦士である事を明かしてはいなかったようだ。


 全ては魔王を倒した後、告白とプロポーズをしようと決めていた……けれど、私はその思いも最愛の人との思いですらも全て消去した。


 そうしなければ、救えなかったから。


 だいから、せめて最愛の人の元へ……それに、このままここに置いておいては発見される。



 それでは意味がない。


 

 『ごめんなさい』



 私は転移陣を発動させる。


 これは、まったくもって私の身勝手だ。


 記憶を全て失ったレンブランさんを彼女が受け入れるかどうかわからないし、レンブランさんだってどうなるかわからない。



 それでも。



 転移陣に飲まれそのふとましい体は消え失せる。



 後は……。



 <報告:連合軍後発部隊が、本陣の壊滅を受け進軍を開始しました。 闇の精霊獣との精霊契約の完了。 アップデート完了。 女神クロノスはこれより現時間軸離脱を開始してください>



 そうだ、帰ろう。


 ギャロもRもみんな待ってる。


 

 私は目を閉じ意識を集中する。


 

 <お知らせ:この度は、『0』のサポートサービスをご利用いただきありがとうございました。 まだご利用期間が残っておりますが、ミッションコンプリートしたためサポートを終了いたします。 期日前のコンプリート特典付与がございますので_______>



 『0』がなにかのたまうけれど、そのほとんどが耳に入らない。


 

 ギャロ……ギャロに会いたい。




 混沌の無に立ち尽くしていた女神の姿は、静寂の中にふっと消えた。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ