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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
時の羅針盤
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時の羅針盤⑤

 「記憶を失った君にとっては、いきなり魔王と戦えなんて怖いだろうに……」


 「そ、そんな! 私は!」


 「若くてもやっぱり所帯持ちは違うね~……僕もこの戦いが終わったら彼女にプロポーズしなきゃ!」


 レンブランさんは、照れくさそうに笑いながら腕から外していた不格好な木の腕輪を愛おしそうに見つめてぬぎゅっとふとましい手首にはめた。


 「さ、ヘーゼル! 君は、リコッタの所へお戻り。 彼女は君の事を一番気にかけているから早く行って安心させておあげ」


 椅子から立ち上がったレンブランさんは、いつの間にか元位置でぺしょんとしていた耳を片っ方だけぴんと立てた。



 「ああ、もうこんな時間か」


 「え?」


 レンブランさんがぼそりというと、幕が微かに揺れその向こうの影が敬礼する。

 


 「報告します! 円卓会議の準備整いました!」


 「分かった、今行くよ~」



 そう言うと、レンブランさんはくっと伸びをした。


 

 「それじゃ、僕は明日の作戦会議だ……大丈夫……みんなで生きて帰ろう!」



 そう言って、レンブランさんは太陽のように微笑んだ。





 決戦の日。


 私達は、この虚無の砂漠デッドスフォールにある魔王のいる空間への入り口と思われる場所に陣地を移しその場で指示があるまでの待機を命じられていた。




 <定期確認:帰還予定まであと4日、現在滞在は3日目となります。 探索の方はお進みでしょうか? ユーザーキリカ?>



 私の頭の中で、無機質な抑揚のない声が心なしか咎めるように問う。


 

 (まだ時間はある……)


 <定期確認:この行動は探索行動に関連のあるものでは無いと判断します>


 (だまって!)



 ぽん。



 「ひゃっ?!」


 

 私は、不意に肩を叩かれビックっと尻尾の毛を逆立てた!



 「どうしたヘーゼル? 背後の意識が疎かになっているぞ?」


 「す、すみません!」


 装備をオリハルコンで固めたリコッタ隊長が、呆れたようにため息をつく。



 「我々は魔王への道が開けば最初に突入する部隊なんだ、開戦の初手…最初の流れを掴むと言っても過言ではない! しっかりしろ!」


 「は、はい!」


 しゅんと、うな垂れた私の頭にぽすんと何かが被される。


 「え?」


 「私のヘッドセットだ、これ以上頭がやられたのでは溜まらんだろう? 貸してやる」



 リコッタ隊長は、ニッと笑うと私の頭に乗せたヘッドセットをカチャカチャと調整しはじめた。



 「あ、そんな! 大丈夫です!」


 「命令だ、大人しく受け取れ」


 優しくも有無を言わせないリコッタ隊長の命令に、私は『ありがとうございます』と答えるのがやっと。



 私がここに至るまで、他の兵士の皆も私の事を心配してくれた……ここの人たちはみんな優しい。


 聞けば、確かにみんな精鋭ぞろいだけどこんな危険な任についたのは一重にこの世界を家族を守りたいという思いから志願してきた人ばかりだった。



 この人を死なせたくない。


 私の中にあったのはその思い。


 レンブランさんとあのノートに書かれ賢者オヤマダの言葉を信じるなら、今の魔王はまだ弱い。


 それをもし、今日仕留められるなら……!


 

 ドゴゴゴゴゴゴゴ……。



 「いよいよか……!」


 砂地の奥深くから震えるような地響きがせり上がる中、リコッタ隊長が腰に差していた二刀のダガーを抜き腕を高く上げる。




ドクン……ドクン……。


  ドクン……ドクン……。




 兵士達に緊張が走り、水をうったように静まり返った空気に心臓の音だけが振れて私の耳にチリチリとしたむず痒さがこみ上げた。



 5分?


 30分?


 どのくらいそうしていただろう?



 それは突然訪れた!



 <警告:前方1キロ先の地中より魔力反応、ユーザーキリカは安全の為この場を離脱してださい>



 頭の中で『0』が警告するけど、そんなの言われなくても感じる!



 「リコッタ隊長!」


 「よく分かったなヘーゼル! 全軍、突撃! 血路を開け!!」



 真っ直ぐ上がっていたリコッタ隊長の腕が降り下ろされると、それが合図となって我々突入部隊の約300の歩兵部隊は一気に砂漠をかけその場所を目指す!


 

 レンブランさん……!


 私は全身の毛が逆立つような膨大な魔力する方角へ、みんなと走る。


 今回の作戦について我々突入部隊に説明されたのは、事前に発見されていた魔王の空間へと続く扉をレンブランさんが破壊してそこへ突入し本隊の進軍に必要な突破口を作る事!



 けれど、リコッタ隊長の話によれば魔王の空間への門は重厚な結界によって守らていて勇者以外は突破できないって……そんなのどうやってレンブランさんは破壊するんだろう?


 

 そこはリコッタ隊長も知らないって言ってたけど……。


 

 「見えたぞーーーーー!!」


 むきっと大腿四頭筋をしならせながら号令したのは、俊足を誇るウサギ科の獣人の兵士チャベス・ヘペス3世。


 その指差す先に見えた物……それはまるで竜巻のように渦巻く魔力。


 あれが……あそこに魔王が……でも……?



 コレが魔王の魔力?



 ……なんか変……何と言って良いか……確かに大きくてそこの宿すのは怒りや憎しみに違いはないけれどやっぱりおかしい……?


 

 なんと言って良いのか……漠然としていて言葉にならない。



 「怯むな貴様ら!」


 余りに強大な魔力の塊を前に明らかに兵士たちの足が怯み速度を落とす中、リコッタ隊長の激が飛ぶ。


 が、動揺がひろがってて足並みの乱れ揃わない。


 

 タッ!


 「ヘーゼル?!」


 遅れる隊を飛び出し一人その渦に向かって駆け出した私に、すぐ傍にいた魚人のランブルが素っ頓狂な声をあげる!



 「はは! いいぞヘーゼル! 貴様らもヘーゼルに後れを取るな!」



 リコッタ隊長の激に怯んでいたみんなが『新兵に後れてなるものか!』っと、気力を取り戻し一気に加速を取り戻す!


 

 もう、魔力の渦は目の前……!


 あそこに飛び込めば_______ドクン!


 

 <緊急コマンド:03強制回避>


 

 ズザッツ!


 ズザザザザ!


 

 「?! ぶっつ?! ぺっ! ぺっ! な、なに!?」



 それは突然。


 走っていた筈の私は、まるでカメラが切り替わったみたいに砂地に顔面から突っ込む!?



 転んだ?!


 ううん……いきなり意識を奪われた……『0』に!



 「な、ぺっ! ぺっ! なにすんのよっ!」



<警告:測定不能の高圧縮の魔力衝撃が観測されたため緊急コマンドによる回避を図りましたユーザーキリカは現在の地点から退避して下さい>



 「ふざけないで! もう魔王は目の前なんだ! ここで倒す!」



 私は、立ち上がり足を踏み出そうと_____コツン。


 踏み出そうとしたブーツのつま先に何かが当たって、反射的に私の視線はそれを確認する。


 

 「ぇ」


 それは、砂地で輝くオリハルコンのショルダーパッド。


 あれ?


 私は、震える手でそれを拾おうと手を伸ばす。


 ……だってそれは、このヘッドセットと対になるものでついさっきまでリコッタ隊長が______カラン。


 ショルダーパッドを拾った。


 そしたら、カランって……砂地に落ちた白いの。


 「ぁ……ぇ? なに……?」



 <回答:不確定要素による攻撃によってリコッタ・ノーム氏は白骨化したものと推測されます。 なお、先程の攻撃の影響でこの隊におけるユーザーキリカの使用するこの肉体以外の生命反応は消失しました>



 頭の中で、無機質な声が淡々と知りたくもない現実のみを突きつける。


 ……私は、ゆっくりとあたりを見回した。


 いない?


 何処?


 見渡す限りの砂地に立つのは私だけ。


 みんなはその着ていた服や防具だけを残して『白く』なっちゃた……?



「いやっ! どうして……?」


 <警告:心拍数が異常に上昇しています。 呼吸を整え現地点より退避して下さい。 生存を補足された場合追跡攻撃が予測されます>



 私は踏み出す。


 

 <警告:現地点より退避して下さい>



 許さない……。


 どうして……!


 わんわん頭に響く『0』の警告を無視し、私は砂の中を駆けその渦の中に飛び込んだ!







 静寂。


 暗い。


 重力すらあってないような曖昧。


 その中を私は下へ下へと『落ちる』。


 


 「ヘーゼル!! 目を覚まして!」



 ドクン!



 「?!」


 その声に私はやっと気が付いた!


 ぞわっと高い所から落ちるあの感覚が背骨から這い上がって、私は自分の状況をようやく理解する!



 くっ! 地面がもう眼前に!



 どさっ!


 落ちた私をふとましい腕と肉の詰まった胸板が受け止め、衝撃で地面に倒れ込む!



 「けほっ!」


 「れ、レンブランさっ! すみません!」



 私は受け止めてくれた胸板から飛びのき、レンブランさんをそっと起こす。


 

 「いや、びっくりしたけど……だいじょ、けほっ! けほっ!」


 「す、すいません! すいません!」


 

 レンブランさんは、少し咳き込みながらも『大丈夫』と手をひらひらさせる。



 「それよりも……」


 息を整えたレンブランさんは、キョロキョロと辺りを見回す。


 「ヘーゼル、君一人かい? ほかの皆は? リコッタはどうしたの?」


 「ぁ……」


 私は言葉を詰まらせる。


 言えない……隊が全滅したなんて、私しか残ってないなんて……!


 けど、隠しておけない……そんなのすぐに分かることだ!


 「ヘーゼル?」


 「……われ、我々、突入部隊300っ……は、未確認の敵の攻撃をうけてっ……私を除き全滅しましたっ!」


 報告を受けてレンブランさんの緑の瞳が一瞬みひらたけど、すぐにその表情はいつもの穏やかなものに戻る。



 「そう……君だけでも無事でよかった……」


 「あ、あのっ……私っ、私、な" な"に"も"っ……」 


 レンブランさんは、そっと私の肩に手を乗せ首を振ってほほ笑む。



 「今は忘れて……君はここで待機して、後はボクに任せて……ね?」



 立ちすくみ、泣きじゃくることしか出来ない新兵に優しく語り掛けるその口調とに似つかわしくない激情渦巻く魔力の胎動が肩に乗った手のひらから伝う。

 

 「僕はこのまま奥へ進む……君は本陣が到着したら状況を隊を率いている僕の父に伝えてほしい」



 レンブランさんはそれだけ言い残すと、そっと離れて暗闇に向かって歩き出す。



 『待ってください私も行きます』


 

 それだけの言葉が、のどに詰まったその言葉は遮られて音にならない。



 「0……どういうつもり?」


 <回答:これ以上の介入は歴史改ざんへつながると判断した為、危険要素のあるコメントをブロックしました>


 感情のない機械音は、抑揚なく回答する。


 「歴史、歴史って! これから一体何が起こるって言うの!?」


 私の問いは、上から照らす一筋の光のみの闇にこだます。



 <質問:ユーザーキリカは現在の歴史について回答を求めていますか?>


 

 「え?」


 不意な問いに、私は一瞬だけ呼吸を忘れてしまう。


 「……教えてくれるの……?」


 <回答:はい。 歴史についての質問は禁止事項ではありません>



 無機質に事務的に『0』は言う。



 歴史。


 私は、レンブランさんを追う為に一歩踏み出そうとするけど足が意思とは反して動かない。

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