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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
時の羅針盤
35/54

時の羅針盤①

--------------------------------------


 姉さん。


 僕の姉さん。


 何処にいるの?


 今度こそしくじったりしない……必ず見つけて連れて帰る……。


 勿論、あの馬鹿も一緒だ。


 コレは決定事項。


 どんなに嫌がったって許さないし、覆らない……もしアレが邪魔をするというなら僕はこの存在の全てをかけソレに抗う!


 絶対に諦めはしない……!


--------------------------------------


 「げほっ! げほっ! ……う"う"う"……」


 「ねえねぇ! 無理はいけないんだな!」



 ドワーフの国:グラン。


 大地の玉座のあった場所のごつごつとした岩場に膝をつき、こみ上げる吐き気と乱れ溢れそうになる魔力を抑え込んで咀嚼する。



 「キリカ! 玉座無しで精霊獣の負担を全て負うなど無茶だ!」


 解放し、加護を与えまた戻す…玉座という聖域無で壊さない様にそれを行うにはこの方法しかない……震えが止まらない私の体をギャロの逞しい腕が包んで息苦しい程に抱きしめた。



 「……」


 首筋から伝わる熱が、それ以上なにも出来ない事に苛立ち詫びる。



 「……大丈夫……このくらい!」


 私は、ギャロを押しのけて気丈に立って見せようとしたけど_______とん。



 「ぁ」


 立ち上がった私の腹の辺りを、小さな手が押した。


 それだけなのに私の足がカクンと力が抜けたようになってどすんと岩にお尻を打ち付けちゃう!



 「だいじょばないんだな」


 可愛い声がピシャリという。


 「おいたん、一度リーフベルに戻るんだな」


 心なしか濃く見える真っ赤な瞳が、どこか冷たく見えた。








 情勢は?


 最悪ね……してやられたわ~……あちらさんもそれだけ必死ってとこね★


 



 閉じた瞼の向こう。


 ドアを挟むくぐもった聞き覚えのある声が、舌打つ。



 「ねぇねぇ、おきたんだな?」


 冷たい小さな手が、熱を持った額にのる。


 ……冷たくてきもちぃ……。



 「ここ何処……? 私どのくらい寝てた?」


 「また三日ねてたんだな……その間においたんの鳳凰で三日とんでリーフベルに戻ったんだな」



 りーふ……ベル……に?


 「ねぇねぇは、精霊獣の痛いの全部引き受けちゃうから痛くて三日もねちゃうから精霊獣のみんな心配でおこなんだな」



 ごぽごぽごぽ!



 ああ……下腹が不機嫌そうに泡立つ。



 「……ごめんね……みんな、心配させて……」



 そっと下腹に手を置くと激しく蹴り返してくる……私を心配だと、無理をするなと……どうして?


 おぼろげに蘇る彼女の記憶で見る限り、あなた達は無理矢理に狩られ無慈悲に残酷に喰らわれているようにしか見えないのに……。


 

 ごめんね。


 こんな私をそんなに心配してくれるのはありがたいけれど……止まるわけにはいかない……!


 あなた達の為にもこの世界を今度こそ救う為にも_____私の弟を救う為にも!



 「ねぇねぇ……何とかしたいんだな?」


 「R?」


 「おいたんとフルフットが話してたんだな……他の三つの玉座も魔王軍にもってかれたって言ってたんだな」


 「……分かってる……この子達が教えてくれた……でも! 私が頑張れば、玉座が無くても出来ない事はないよ」


 Rは、そう言った私の額からぬるくなった手をそっとどける。



 「でも、あの精霊獣だけは無理なんだな」



 え?



 「ねぇねぇも気が付いてるんだな?」


 

 ごぽり。


 っと、下腹が蠢きをとめる。


 

 「闇の精霊獣……あれだけは他と違ってねぇねぇなんか大嫌いなんだな」



 私の中の奥。


 精霊たちの集まるそこにいる闇の精霊獣。


 

 他の精霊達によってその動きを封じられているその子は、精霊獣たちの中で唯一私を『憎んでいる』。


 「どうしてそれを……?」


 ようやく瞼を開けた私を見下ろしていたのは、まるで血のように濃く赤い瞳。


 「なんとかしたんだな?」


 そう問う声は、いつもの可愛らしい声なのに冷たく響いて…懐かしい。


 「Rは、その方法を知っているの?」


 血のような瞳は、意地悪そうにつり上がってかぶせられたタオルケットの上から小さな手を私の下腹に置く。


 「女神クロノス……その羅針盤を使え」


 ぞっとするほど冷たい声。


 誰?


 そこにいるのはR……じゃない……?


 「さぁ、お得意の巻き戻しの応用だ! そうだな場所と時間はあそこが良い……」


 「?」


 ざわりと全身に走る悪寒・吐き気・腹の中をこねられる内臓の音。


 「ァぐ!」


 「まぁ、これはちょっとしたタイムトラベルみたいなものだと思ってくれ……肉体はそのままここに置いて精神だけ飛ぶみたいな?」


 「まっ、まって……うぷっ! 何しようとっ??」


 「所要時間はだいたい一週間くらいで良いかな? 過去にある闇の精霊獣の玉座でちゃんと仲直りしな…なんとしても精霊獣全てを掌握して力を取り戻せ」


 

 容赦なく内臓をまさぐられ、その手は何かを捕まえる。


 やめて!


 それに触らないで!


 勝手に回さないで!


 無理やりつまみを回される凄まじい痛みが全身を貫いて、悲鳴すらあげられない!


 流れる時を逆流させられてる苦痛。


 嫌だ!


  痛い!


 痛いよ!



 「時間軸にして前の『勇者キリカ』がこの世界に召喚される三年前、使用する肉体は……そうだな丁度死にたての鮮度のいいやつが……」


 「え"?」


 「向こうについたらあの子に宜しく……」


 それは、とても悲し気な瞳。


 

 ぐにゃり。



 回る。


 赤い瞳が回る。


 くるくるくるくる……。


 回る。


 羅針盤が逆さに回り出す。


 

 視野が狭くなって霞む。


 泡立つ腹の音も遠くなる。



 蹴破るドアの音も、ギャロの怒鳴り声もぶ厚い壁を隔てたように遠くなって_____どぷん。



 おちる。


 しずむ。


 くらい。


 つめたい。



 私はもがいてもがくけど、伸ばした筈の自分の手すら見えない。



 ヤダ…また暗いのはいや…もう一人はヤだ!



 ぽよん。


 めいいっぱい伸ばした腕に何かが触れる!


 私はそれを掴んでめいいっぱいの力で抱き付いた!



 「わあああああああ!!」


 「にぎゃあああああああ!!」


 悲鳴をあげなら抱きついたソレは、悲鳴を上げがら私をひっぺがそうとする!



 「きゃあ! い、やぁ! 放さないでっ!!」


 「にぎゃあ!! 放して! それ! 僕の尻っつって! 喰いこんでるっつ! 爪立てないでぇええええ!!」



 へ?


 尻?



 カッと見開いた目に飛び込んできたのは、なんともちもちな色白ビッグピーチ!



 「きゃああああああああ!!」


 私はへんな力が入ったままそのにぎにぎしていたもちもちをすっぱーーーんとビンタする!


 「ふにぎゃあああ?! なにその理不尽!?」



 叫び声をあげながら飛びのいたビッグピーチは、叩かれた左臀部をさすりながら怒れば泣けばいいのか戸惑っている様子でこっちを睨んできたけど私がそれどころじゃないっていう!



 「尻っ?! 尻って?? なに?! ここは誰?! 私は何処??」


 私は辺りを見回す!


 目に飛び込んできたのは辺り一面の砂、砂、砂…ソレと沢山の兵士?



 「そんな尻、尻って! 僕が用を足そうとしたところに君がって……良かった……まだ生存者がいたんだ……君、どこの部隊?」



 ビッグピーチをズボンの中にしまいながら、安堵したように微笑む丸々とした顔。



 部隊?


 生存者?


 何のこと??



 って!? 


 用を足す??



 シャコン!



 突然の事に茫然としている私のうなじにヒヤリとした刃物の感触。

 


 「貴様! 狂戦士様のまたぐらで何をしていた!? 問いに答えよ!」

 


 咎める怒号。


 ……ここが一体どこでなんで自分がこんな状況下にいるのか分からないけれど、まずはにげな_______って、またぐら?!



 「やめなよ」


 おっとりとした優しげな声。


 その声に従って、うなじに突きつけられた感触が離れる。


 「その鎧は前衛部隊の歩兵…新兵だね? ごめんね怖かったでしょ?」


 砂の上をどすどすとこちらに歩いて来たその人は、へたり込む私に視線を合わせてしゃがみふくふくとした手の平をそっと頭にのせて優しく撫でる。


 「ふぇ? あの……」


 「しー……動かないで」


 頭にのった手のひらからじんわりとあったかな温もり……コレは治癒魔法?



 ふわふわの綿毛のような金色の髪と穏やかなライトグリーンの瞳が『安心して』っと優しく私を見つめる……太ってはいるけれどどっちかと言えは相撲か柔道をしていそうなどっしりとした感じ……なんだろうこの人の種族は豚さんなのかな?


 「全身打撲に裂傷……だいぶ派手にやられたね……だからあんなに錯乱してたんだね」



 そう言われて初めて体に異様な痛みを感じたけど、それはすぐに治癒魔法によって取り除かれる。


 ……気持ちいぃ。 


 「これで良し!」


 ぼーっとしていた頭が優しくぽんとされ、私はようやく我に返った!


 「君、名前は?」


 「ぇ……あの……」



 名前と言われ、私は戸惑う。


 名乗って大丈夫だろうか?


 もしも、この人と周りの兵たちが魔王軍だったなら戦闘になってしまうかもしれない……そう思うと口ごもってしまう。



 「そうか……君も記憶が消失して……大丈夫、それは例の攻撃の後遺症だ安心おし、きっと思い出せるから」


 くしゃりと、ふくふくした手が私の頭をまた撫でる。


 優しい手……何故だろう、その手に撫でられているとすごく安心する……まるで_____。


 「可哀そうに……こんなに泣いて…取りあえず他の部隊に合流するまで僕の隊にいるといいよ」


 え?


 私……泣いて?



 「狂戦士様! この誇り高く威厳のある精鋭部隊にこんな新兵を加えるなど、例え一時の事でも士気にかかわります!」


 さっきの怒号が背後から抗議すると、周りの兵士たちにも俄かに声が広がった。

 

 「下らないね」


 頭上から語り掛けていた優し気な声が一変氷のように冷たくなる。


 「精鋭部隊? そんなの皆が勝手に決めた事でしょ? それに誇りだ威信ってヤツはたったひとり生き残った仲間をこんな危険な砂漠に放り出すってそんなものなの?」


 「い、いえ! そう言う意味では……!」


 「ならいいよね? 新兵一人くらいどうにかなるよね?」


 声の調子はおっとりしたままなのに、周りの兵士たちは明らかに畏れをなして起立する。


 どうしよう。


 状況がいまいち飲み込めないけれど、私はどうやらこの人たちの軍隊の兵士と勘違いされているみたい……でも、違うと言いたくてもちょっと空気的に言い出せない!

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