炎と炎④
ギャロの服。
いつもは上半身なんてまっぱなのに、今日に限て上着を着ている。
……そう言えば、フルフットさんから貰ってたっけ?
はだける首元。
そこから見える私好みの良く筋肉のついた逞しい首筋。
そこを、大きく肩口まで露出させた姿にゴクリと咽喉が鳴る。
噛みたい。
噛みつきたい!
この前の味が食感が蘇って、焼けつくような飢餓が襲う。
「今回は、こんな方法を取らなくても条件は揃ってるから儀式をすれば______」
ちらりと私を見上げたギャロの顔がひくっと引きつって、諦めたようにため息をついて優しくほほ笑む。
「…おいで」
カクンと傾げた首筋に吸い込まれるように私は唇を這わせ_______ガリッ!
「____っ!」
口の中に広がる甘美で濃厚な味。
ガイル君のクソ不味い味でむせ返っていた口の中が、ようやく塗り替えられて吐き気が収まっていく。
「____我が属性の守護。 アグニの幻影を贄にこの契りを結ぶ」
ギャロが、何か言葉と魔法陣を展開してから私の首筋に唇を這わせざらりとなぜてぶつんと牙を突き立てた。
◆
「ひでぇな……あんなのまるで苛烈な死刑宣告だ」
「ガイルおいたん、そんなのまだ分かんないんだな!」
オレは、ふらつく体を無理やり起そうとしたがダメージがでかくてそのまま砂の大地に背中を預ける。
「コレで、魔王と勇者どっちかが確実に死ぬぜ? 下手すりゃ兄上だってほぼアウトだ……満足かよ?」
「……」
「見てんだろ? クソジジィが……こんなガキまで巻き込みやがって!」
「巻き込まれてなんかないんだな、おでは、自分で考えてねぇねぇについて来たんだな!」
「それならなおさらだ……この馬鹿が……!」
砂の上で悪態をつきながらオレは、この小さな甥か姪の色素の抜けた真っ赤な瞳を見上げ自分の不甲斐なさを呪う。
これだけは避けたかった。
例え世界が滅んでも、オレはお前とあの女を戦わせたくはなかった。
傷つく姿を見たくなかった。
けれど、婚姻契約が完遂された以上オレの力では兄上の守りを突破して尚且つまだ不完全とは言え最強の勇者を倒すのははっきり言って見込みがない。
こっからオレに出来るのは、あくまで時間稼ぎにしか過ぎない……全くあの害虫の言葉が本当になるなんてな。
「念には念を……全く次元の狭間からの脱出といい害虫に借りをつくっちまった」
「ガイルおいたん……?」
オレは今度こそどうにか体を起こして、ふらつく兄上を支えながらオレの目前に見下ろす勇者の漆黒の双眼を睨みつける。
「ガイル君」
ああ、やっぱり同じ目だ。
「私、ガイル君に聞きたいことがある」
「なんのお話でしょうかね? 義姉上」
「茶化さないで! 君が何をしたかこの子が教えてくれた!」
勇者は自分の下腹に手を当て、唸るように問う。
ちっ……火の精霊獣め、オレの情報を勇者に流したな……体内に入れるべきではなかったか……!
「なら聞かなくてもわかるっしょ?」
「信じられない……! 君、精霊獣達のこの子達の大事な玉座を奪ったの?! ……まさか、アンバーが私たちをこの火の玉座の前に送ったのって……!」
ふぅん、察しがいいな意外に馬鹿でもないらしい。
「その通り、アンタらがラッキーってなんて思っている間に害虫……漆黒のリリィは時空の狭間からオレを解放し残り玉座を今まさに根こそぎ回収し始めた」
「なんてことを!」
「どうする? こんな所でいちゃついてる場合じゃねーんじゃねーのw」
「……!」
勇者は、今にもオレを斬り殺さんばかりの殺気をぶつけてくるがその刃を引っ込め兄上を抱えたまま背を向ける。
「……ガイル君、君はギャロの弟だしお願いされているから殺したくない。 だからどうかこれ以上邪魔しないで」
「それは出来ないね、オレにだって守りたい奴がいる……この世界を投げ出しても構わないくらいのね」
漆黒の双眼は、射殺すほどの眼光を向けるが次の瞬間にはその背に白銀の翼を広げた。
「まって! ねぇねぇ!」
オレの傍らの白い綿毛が駆け出し、ぴょいとその足にしがみ付くのを待って翼は力強く羽ばたく。
その背中を眺めながらオレは、唇を噛んだ。
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