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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
炎と炎
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炎と炎


------------------------------

 

 「オラは煮込みがが旨ぇをおもうだ!」


 「あ"? ふざけろ! この肉は焼きだと決まってる!」


 「はぁ? おめぇに任せたらみんな生肉に塩ふったもんになっちめーだ! 鬼っ子や緑っ子がまーた腹くだすべ!」


 「焼き過ぎたパサついた肉など食えるか!」



 一日2回。


 食事の仕込みは、こんな感じでギャロとダッチェスは喧嘩してる。


 ギャロは基本肉食で、生肉大好きだから火を通してもレア。


 ダッチェスやリフレは野菜も肉もおk。


 だけど、アンバーは意外にお腹が弱くてダッチェスはギャロが食事当番だと気が気じゃないって感じ。 

 

 厳しい戦いのつかの間の休息。


 私は食べられ無かったけど、この時間がとても好きだった。

------------------------------



 ぐぎゅるるるる~~~~。



 「う”……」



 いつでもどんな時でも、緊張感無く本能に従って空腹を知らせる私の腹の虫はこんな状況下に置いても自分の主張を曲げる気などないようだ。



 ぎゅぎゅぎゅるるる~~~。


   ぎゅるるるる~~~~ぐぎゅっきゅぅううう。



 「あーもう! うるせぇな!!」


 

 明るく燃えるようなオレンジの短髪を逆立て、今にもブチ切れそうな月の瞳が殺気に染まって私を睨む。


 「だっ、だって! お腹空いたのは仕方ないじゃない!」


 「ちっ! 緊張感のねー女だな! 気合で黙らせろ!」


 「無理だよぉ!」


 「はぁ? ふざけろ餓鬼だって我慢できるぞ?? それでもアンタ勇者かよ??」



 ううう……そんな面と向かって言われると落ち込む。



 「ったく! 兄上はこんなのの何処が良いんだ?」


 「なによ! 全裸にこしみの一丁のガイル君に言われたくない!」


 「なっ!? う、うるせぇ! こ、こしみのの何が悪い! 見えてなきゃいいんだよ! 見えなきゃ!」


 「開きなおったって駄目なんだから! 見えてるの! ちらちらしてるの!!」


 そう私が言い放つと、ガイル君は岩のように固まったかと思うと首を絞められた鶏みたいにか細い声で『マジで?』って聞いて来た。


 「うん。 可愛いのがっ……て! 何言わすのよ! 大体そんな紐にそこら辺の草縛っただけの物じゃどうぞ見てくださいって言ってるじゃない!」


 「み、見んな変態! つーか、その目ぇえぐる!」


 「なにその理不尽!? てゆーか、今はそれどころじゃないでしょう?!」


 私はグランドリオンを抜いて、丁度真上に迫ったそれを見すえる!


 「ちっ、めんどくせぇな……!」


 ガイル君は、こしみのから覗くポンポンみたいにもるっとしたオレンジの綿毛のような尻尾を不機嫌そうにふりっとしてそっぽを向くとその体に魔力の炎をまとわせる。


 ギャロと同じ炎。


 心無かガイル君の炎が暗く感じるのは、やっぱり『魔王』の影響があるんだろうか?



 「アンタは間違っても手を出すなよ」

 

 呻るような声。


 不機嫌な時のギャロにそっくり……やっぱり兄弟ね。


 その、なにもかもギャロに瓜二つのその視線の先。


 そこにそびえる『火の神アグニ』…その幻影は二つある顔で私達を見下ろしていた。




 『火の神アグニの幻影』



 本物の『火の神アグニ』を模したらしいその15mはありそうな巨体の赤色の体に炎の衣を纏い二面二臂で七枚の舌を持つもはや魔物としか言いようの無い『神』の姿に、私は絶句した。


 なにあれ?


 もはや、事前に神だと知らなければ疑うことなく駆逐対象なくらい怖すぎる!


 一体誰がデザインしたらこんな悪趣味な姿になれるんだろう?


 そんな『火の神アグニの幻影』は、私とガイル君をまるで親の仇のように追いかけまわす。


 ……それもこれもぜーーーんぶガイル君が悪いんだからね!




 ______それは振り返る事半日くらい前_____



 ギャロと合流した私とRは、火の精霊獣のある場所へとアンバーの用意した転移陣を使って無事到着する事が出来た訳なんだけど……。

 


 「……驚いたな……まさか本当に玉座の眼前に転移できるとは……」


 そう、ギャロの言う通り転移した場所は正に火の精霊獣の玉座の真ん前だった。


 「アンバーって、すごい……超らくちん」


 「ねぇねぇ! 早くやっちゃうんだな!」


 私は、Rに手を引かれて玉座の前に歩き出す。


 そこからはいつもの通り……目を閉じ、腹の底に眠る火の精霊獣を呼んで解放する。


 痛烈は吐き気。


 胸に煌めく精霊石。


 口づけと私の加護を与えて私の庇護を_________ばつん!


 

 それは、あまりにも唐突だった。



 火の精霊獣。


 その、ギャロの呼び出す鳳凰によく似た鳥を象ったその姿が飛散して消える!


 

 「え____?」


 「避けろ! キリカ!」



 ギャロの声に勝手に反応した私の足が、咄嗟に後方に飛ぶ!


 ざしゅ!


 私の鼻先で空を切る鋭利な音と、舌打ち。


 私捕らえ、殺気に染まった眼光が間髪入れず次の攻撃に入る!

 

 「させるか!」

 

 奔る煉獄。

 

 二つの炎がぶつかり、あたりの温度が一気に上昇し一瞬にし熱を帯びた空気が喉を焼く! 

 

 間違いない!


 誰だなんて野暮な事は言わない、あの燃えるようなオレンジに見慣れた瓜二つの顔はギャロの弟のガイル君だ!


 あの混沌の闇に叩き落された心配だったけど、うん、怪我もなさそうだし元気そう!


 ……ただし、その姿は全裸にこしみの胸にはどうみてもブラジャーにしか見えない当て布をしていたけれど。



 「けほっ、けほっ! ねぇねぇ!」


 ぶつかりあう炎に見とれていた私のスカートの裾を、息苦しそうにせき込んむRがつかむ。


 「R? 苦しいの?! 大変、早く離れなきゃ______」


 私はこの場から離れようと手を引くけれど、Rは激しく首をふる。


 「ちがっ、取られたんだなっ!」


 え?


 「おいたんに……ガイルおいたんに、精霊獣取られちゃったんだなっ!」


 「えええ?!」



 取られる?



 勇者以外に精霊獣を扱う事なんてできない筈だ、それがガイル君に?


 そんなはずないと、意識を腹の底に集中する……うそっ!


 いない?


 感じない!


 私の中に有ったはずの一つが、ぽっかりあなが空いたように冷えて冷たい。


 「ウソ……かっ、返して! 返してよ!!」


 「けほっ? ねぇねぇ?」



 剣を抜く私にRの耳が畳んで震えるけれど、そんなの構っていられない!


 あの子は私のものだ、渡さない!


 奪うと言うなら、例えガイル君でも許さないんだから!



 「ねぇねぇ?? わ! おいたん達逃げるんだな!!」



 声を荒げたRに、組み合う二人が振り返る。


 「き、キリカ!?」

 「ちっ!」


 私の姿を見た二人の月の瞳が色めき、弾かれた様に離れて二手に散った!


 だけど、追うほうは決まってる!

 


 シャコン!


 振りぬた剣の切っ先は、パラリとオレンジの毛先を宙にまわせその衝撃は玉座の置かれていた砂地を大きく消し飛ばす!


 「くそっ!」


 吹き飛ぶ砂にまみれながら忌々しいと舌打ちをするガイル君に、私は間髪入れず斬撃を加える!


 「ガイル!」


 「だめ! ねぇねぇ!」



 私の剣の軌道がガイル君の首筋を捉え振り抜こうとした瞬間、すさまじい衝撃が背中に走って思わずバランスを崩した体制がそのまま勢いに任せて前のめりにガイル君を巻き込んで砂地にめり込む!


 「けほっ! なっ……」


 コレは雷撃……ギャロ??


 思わず振り返って睨みつけたその表情は、『しまった』っと顔を歪めるけれど、今はそれどころじゃない!


 私は、砂にまみれながらも組み伏せた形になったガイル君に視線を戻す。


 

 「返しなさい!」


 「はっ! 誰が!」


 苦し紛れににやつく顔……許さない!



 「ダメ! 殺すは駄目なんだな! いま、ガイルおいたんを殺したら精霊獣も道ずれなんだな!」


 Rの叫びに、私は突き立てようと振り上げた切っ先をその心臓の真上で留める。


 「なっ!」


 凍りついたように動きを止めた私を見て不敵に笑みを浮かべたガイル君……そんな______とん。



 え?



 不意に脇腹に感じた熱。


 そこに添えられたガイル君の手の平が、漆黒の炎を纏って爆ぜる!



 「かはっつ!?」



 まるで胎内が焼けつくような苦痛!


 息が……!


 漆黒の炎……魔王の魔力。


 『私』を否定する力。


 不覚にも、一瞬意識が遠のいた所でガイル君の容赦ない足蹴りが私の肺を捉え衝撃で体が砂地の上を激しく転がる!



 「ちっ……アンタ、さっき、もし兄上がオレと同じ方向に逃げてたら殺す気だったな……婚姻相手に血も涙もねぇなんざ飛んでもねぇ女だ……狂戦士も真っ青だぜ?」


 衝撃と熱で呼吸が出来ず、地面に這いつくばる私を冷たい月の瞳が蔑むように見下す。


 殺す?


 私がギャロを?


 私の頭からサッと、血の気が引く。


 まただ……私、普通にガイル君をギャロを殺そうとした!


 「死ね、勇者!」


 憎悪を含む低い声。


 茫然としていた私の頭上に向けられたガイル君の手に、漆黒の炎が圧縮される。


 

 「キリカ!」

 

 「ねぇねぇ!!」


 ギャロとRの声が不協和音みたいに騒々しい。


 ねぇ?


 そんなに心配しなくていいよ?


 だって、この程度で『私』を殺すなんて無理だよ?


 ……何故なら、この世界で私より強いものなんていないから。



 それなのになぜだろう?


 見上げたその顔……酷く不愉快だ。


 まるで『私』を馬鹿にしたようなそんな顔。


 『邪魔なら殺せばいい』


 それは、余りに自然に当然だと言いたげに脳裏に思考し手の平が剣を握って一瞬にしてその首に斬り込む!


 ガイル君の目には私の姿が、かき消えたように見えた事だろう。


 後は、その首を薙ぐ_______ダメ! 止めて!


 その薄皮に触れた剣は、私の手の中で消滅する!


 「なっつ!?」


 私の姿が消えると同時に襲った、首の出血。


 それは、ガイル君にとって一瞬の出来事だったはず。


 「くそっ!」


 忌々しいと、首を抑え距離を取ったガイル君の瞳が捉えたのは紅蓮の業火。


 眼前に迫るギャロの拳を寸前の所で避けたガイル君は、その手首を捕まえ肉迫する!



 「めぇ覚ませ! あの女、オレは兎も角、兄上まで手に掛けようとした! アレは……もう……!」


 「黙れ!」


 

 炎と炎がぶつかり煉獄となって、地面の砂地を炭化させ玉座も全てを灰塵と化す。



 「兄上! 奴は、もう兄上の勇者とは違う! 諦めてくれ!」


 「……断る……俺は! 今のキリカも……今だからこそ決して離れない!」


 自分と同じ兄の瞳を映すその瞳は、苦痛に歪んて黒く染まる。


 「兄上、オレを恨んでくれ」


 「ガイル?」



 その時、あれ程までに二人を取り巻いていた煉獄の炎が消し飛ぶ!



 「おいたん! ガイルおいたんの手ほどくんだな!!」


 

 Rが叫ぶ!


 けど、それは余りに遅すぎた。



 「かはっ……?」



 その、喉笛に喰らい付く牙。


 もはや呼吸すら許さない躊躇の無い圧迫が、もがく暇も与えずギャロの意識を奪う。



 「ぁ……や……ギャロ!!」



 私の首筋から熱が引く……そんな!

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