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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
フェアリア・ノース
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フェアリア・ノース⑥

 精霊達は私に対して怒っている。


 ……彼らの守護神たる光の精霊獣を奪った事を。


 結局、世界を救えていない事を。


 腹の底を温めるこの子は、心配そうにしているけど大丈夫……私は今度こそこの世界も弟も救って見せるんだから!


 「キリカ、取りあえず先にRを連れて退避してくれ俺が奴らを」


 「ううん……私がやる」



 私は怯えるRをギャロに押す。



 「おい、キリカ! 一体なにをする気だ?」


 「『前』に聞いたあの子達の願いを叶える……今はその位しかしてあげられないから」


 「は!? 願いを!? あの願いを叶えるだと?? そんな事……出来るとしても今は止めて置け! せめて全てが終わってからでも構わないだろう?」


 「……だめ、もう約束を破れないから」



 うず高く天まで届きそうなくらいに伸びた『渦』それがぐにゃりと曲がって『口』が私を飲み込む為にこっちへ落ちてくる。



 「R、離れるぞ!」


 「み"み"っ! おいたん! ねぇねぇが、渦の口に入っちゃうんだなっ!??」



 ギャロは騒ぐRを連れて、あっという間に私の前から走り去る。


 ……ふふ……。


 渦巻き迫る淡やかなカラフルな光のパステルカラーの憎悪。


 ああ、この世界の民にとって世界を救うのに失敗した今の私はとんだ裏切り者に過ぎない。


 それは、とても悲しい事なのに私の心には別の欲求が支配する。


 「ああ……久々に……おもいっきり魔力が使える……!」 


 発散したくてしたくてたまらない!


 Rのパパさん相手には使えなかったし、ウンディーネの水脈では物足りずすぐに枯渇してしまったから。


 だから、私、いまとっても、フラストレーションが溜まってるの。



 私の髪が白銀に染まる。


 背の翼がひらくのがわかる。


 下腹が熱くなる。



 あふれてきちゃう……。



 私は、剣を地面に突き立て詠唱する。

 


 「時と時空を司る女神クロノスの羅針盤、遡れ在りし日の時へ! レェトゥラアクティヴ!」



 その瞬間、白の魔法陣が一気に広がって覆い尽くす。


 この場所を、このフェアリアの大地を白銀に染めて飲み込む。



 遡れ。

 精霊達の望む在りし日の姿へ。



 羅針盤が逆さに回り出す。



 どこかで悲鳴が聞こえた気がしたけど、ソレは遠くてよく聞こえない。








 「うわぁ……すごいんだなぁ……」



 Rは、その言葉とは裏腹にその尾をくるりと巻いて怯える。



 フェアリア・ノースにいる全ての精霊たちが生まれいずる神木・生命樹。


 キリカの指示に従いこの大陸で一番高いこの巨木のてっぺんで、俺はRを抱きかかえたまま『勇者キリカ』の起こす奇跡を目の当たりにする。


 

 大地がまるで悲鳴を上げているかのように激しい地揺れと轟音を響かせその失った部分を取り戻す。



 「ぁ、おいたん! あっちにもまた陸が『増えた』んだな!? どんどん海から生えてきているんだな??」

 


 「いや、増えたんじゃない……あれは千年前に失われたフェアリアの南側の陸……それがキリカの力によって時を越えて戻されている」


 「う"? 千年前なんだな?」


 相変わらず尾をまいたままのRだったが、好奇心と恐怖が入り混じったように伏せた耳をぴこぴこさせ俺を見上げる。



 「そうだな……お前も我が一族の一員なのだから知っておく必要があるだろう……」


 俺は、眼下に広がるまるで破壊するように『巻き戻される』陸地を見下ろす。


 「う? み"? 千年前になにかあったんだな?」


 「……お前はまだ読んだことが無いだろうが、我ら一族の祖先であり千年前に勇者に同行していた『賢者オヤマダ』によって書き残された『古文書』にこのフェアリア・ノースに立ち寄ったとの記述がある。 それによれば、当時このフェアリアは今の二倍の面積と雄大な木々に囲まれた精霊達の楽園だったらしいがその半分が『賢者オヤマダ』によって破壊され藻屑と消え残った地表もその原型を失ったそうだ」

 

 「みぎゃ?! じぃじがそんな事したんだな??」


 「ああ、賢者と言えば言わずと知れたこの世界を勇者と共に救いその後も世界の発展とその基礎となる倫理の構築や発明などで名をはせたが、大分自己中心的で自由奔放で独善的な一面があったらしい……といっても、フェアリアの件について言えばその原因は妻で狂戦士だったガラリア・ガルガレイが当時のエルフの大司教によって尾を傷つけられた事に激高し我を失った結果とされているがな」


 「じぃじ……怒すると、こわいんだな……でも、おでもガリィちゃんに痛い事されたらそいつを殺すんだな! じぃじの気持ちもわかるんだな!」


 ふんす! ふんす! と、鼻息を荒くし殺すなどと同調するこの小さな甥か姪に俺は少しだけ不安を覚える。


 

 我が先祖の事とはいえ、己の怒り一つで大陸の半分を事実上消滅させたなど幼かった俺が初めて姉上から聞かされたときには一晩眠れないくらいには怯えたもんだが……こんな小さなうちからこの気質……叔父として将来が心配だ。



 「んで、じぃじがばーんってしたのと、ねぇねぇが戻すのは何か関係があるんだな?」



 「ああ、俺達が『前』に此処に来たとき守護神である光の精霊獣を喰らう代わりにキリカが精霊達に誓約したんだ『魔王を倒したのち失われた大陸をあるべき姿に戻す』とな」 



 だが……。



 俺は、あの時の結果を思い起こし唇を噛む。



 賢者オヤマダ。


 我が祖よ、彼方は一体何を考えている?



 いや、彼方がなにを考えていようと俺は今度こそキリカを守る。


 ……泣いて嫌がろうとも決して手放さない……!



 「おいたん?」



 ぼんやりと、悲鳴を上げる大地を見下ろす俺の顔をRが覗きこむ。



 「いや……」



 俺はそっと熱を帯びた自分の首筋に触れる……なんて熱だ。


 不完全な婚姻呪でも、こんなに感じるなんて…凄まじい…流石は我が夫。


 Rの安全の為、こんな遥か高い木の上にいるためまじかでその姿を見ることが出来ないのが口惜しい。


 ああ、キリカが最も美しいのは鬼神のごとく血しぶきを浴び破壊と狂喜に彩られる瞬間だというのに。

 

 「お……おいたん?」


 気付けば、Rが何故か頬を赤らめて俺を見上げる。


 「どうしたR? 熱でも出たか?」


 思えば、卵から孵ってから殆ど休みなしに連れまわしている。


 ……しかもRはアルビノだ、キリカの血を受けているとは言え少し無理が出てきたのか……。


 「違うんだな! おいたん、いま、とってもおいしそうな顔したんだな…」


 ん?


 「でも、おいたんはねぇねぇのだからおで食べたりしないんだな!」


 んん?


 「おでが食べるのは、ガリィちゃんだから安心してほしいんだな!」


 んんん?


 Rは、俺の胸にもぐりゴロゴロと喉を鳴らす。


 ……こんな時、我が祖ののこせし『古文書』の一文を引用するならこうなるだろう。


 『俺に抱きつきながら双子の姉を喰う(たぶん性的)とか言い始めた甥か姪の将来が心配過ぎる件についてw』

------------------------------ 







 すり鉢状の中央。


 玉座の隣で大の字になって見上げる蒼天の空を覆いつくす程にあふれる光の玉が埋め尽くす。



 コレは、完全に包囲されているね。



 「あは? ふふ……」



 魔力を使い切って、じんわりとした恍惚の疲れが気持ちぃ。


 こんな感覚は、部活で体力を使い切った時とにてるけど段違い……もう、何もかもがどうでも良くなるくらいの充実感。


 

 ……なんてそうも行かないけれど。



 「……くっ……はぁ……はぁ!」



 私は、鉛みたいに重い体を起こして突き立てた剣を頼りに奮い立つ。

 

 

 「……こんな事で、約束を破った事…許されるとは思わない…けど、今はこのくらいしかしてあげられない……」



 私は、光の渦を見上げ睨む。

 


 「私には、やるべきことがある……もし、これ以上、私の邪魔をすると言うなら……身勝手だけれど容赦はしない!」


その言葉に、光の渦を形成している輝きが次々に『ぱん!』と音を立て割れその中から多種多様の精霊たちがその姿を現す!



 『それが、貴女の本心ですか?』



 腹の底がごぽりと疼く。


 精霊たちは、まるで鳥の大群のように旋回しシュバッと一瞬にして散って木々の枝や岩肌に陣取り警戒する。


 『待たせてごめんなさい』

 

 無意識に私の口からもれる声。


 その声に、精霊たちの羽は震えある者は涙を流す。


 『失われし大陸はもどった、だからどうかこの場を収めてほしい』


 私以外の誰かが言葉を紡ぐ……けれど!


 精霊たちは一斉に羽を震わせる…コレは威嚇だ…!


 ダメ……!


 ここはもう切り抜けるしかない!


 私は剣を握る手を強める。


 前の私がしてしまった事……その事で彼らに買った怒り。


 きっと、それは大陸を巻き戻した程度では許してくれる気はない……私は認める私の過ちを。



 けれど、今はとまっていられないから…立ちふさがるなら______斬る!



 私の空気が変わったのが精霊達にも伝わったのか、羽の騒めきが大きくなり魔力が集中し始める。


 ふふ……大分魔力を使い果たしてしまったけど、この状態でもあなた達を消し飛ばすくらい問題ない。


 ああそうだ。




 ______今度こそ誰にも邪魔なんてさせない____




 「そう……もう誰にも……」



 手にした剣に魔力が走る。


 ……感の良い数匹が飛び去っていく……遅いよ……?



 私は魔力の行き渡った剣を_____




 「コード:22032214-プリンズンチェーン!」



 その聞きなれた声は、私の頭上から焦ったように叫ぶ。



 「ぇ?」



 ジャリリリリリリリリリリリリリリ!!



 一瞬だけ展開されたされた魔法陣から無数の鎖が生えて、私を拘束しギリッっと締め上げた!



 「ねぇねぇ! 正気にもどるんだな!」



 ずざざっと、地面に着地したRがギッと私を睨む。



 正気?


 あはは、やだなぁ……私はちゃんとしているよ?



 「しっかりするんだな! いま、ねぇねぇはとっても酷い事しようとしたんだな! のまれるのは駄目なんだな!!」



 潤む瞳。


 震える尾。


 泣いてる……R……泣かないで?


 零れる涙に弟が重なって、ぼやけた意識がはっきりする……え?



 「私……今、なにを? ……何しようと……?」



 さっきまで、やろうとしていた事が当然だと思って肯定していた行為が恐怖となって体を震わせる!


 私、殺そうとした______この精霊たちを。


 

 死んで当然だから、私の邪魔するからって!


これ、あの時と同じ……ギャロの弟、ガイル君の時と……殺しても構わない自分が正しいんだって疑いもしなかった!



 「ねぇねぇ、も、だいじょうぶなんだな! おでこと見て、そう…そんな感じなんだな」


 

 いつの間にか鎖の拘束が解かれて、呆然とへたり込む私の膝元から見上げるルビーの瞳…不思議。


 この瞳は私を安心させる。


 まるで、茹ったような魔力の熱を吸い取ってくれるみたい。


 けど……。



 「Rっ、一人……ギャロは……?」


 「ん、ちょっとまてて!」


 

 Rの細い指が、まるで小さな子供にでもするみたいに私の涙をぬぐって____とくん____。



 あれ?


 

 胸が熱くなる。


 もっと撫でてほしい……そんな風に思って膝から離れるその背を追いたくなる。



 「やい! 精霊達、聞くんだな!」 



 こちらに背を向け、Rは小さいなりに精一杯声を低く精霊達にうなった。



 「これ以上、ねぇねぇをいじめるとおでのおいたんがお前らの大事な木燃やしちゃうんだな!」

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