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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
フェアリア・ノース
27/54

フェアリア・ノース ④

 漆黒のリリィは、背中の羽を大きく開く!



 『魔王様の魔力を帯びた羽を喰らえ! 勇者キリカ!』



 広げた翼からは、さっきの棘のようなものが複数出現し私に狙いを定めて放たれる!



 風を切る音さえも最小限の無数の棘って、あたったら痛いんだろうなぁ……。



 「……はぁ」



 すぱぁん!



 私は剣を軽く振った。


 それだけで事足りた。 



 『……!』



 漆黒のリリィは、その紫の目を見開く。



 「……そんなもので私に敵うと思ったの?」



 じゃりっと、地面に落ちた砕けた棘を私は踏みつける。



 『化け物……!』


 漆黒のリリィは、身構え鋭く睨む。

 

 震えている?


 微かにその翼の先が震えているのを私の視線が捉える。


 「……無理しちゃだめだよ……さっきの当たったでしょ? その脇腹に」

 

 『!』


 そう。


 その脇腹、私に悟られないように引き抜く間もなく目立つ部分をへし折って魔法で応急処置をしたそれ。

 

 「だいぶ深く刺さってるでしょ? 早く引き抜いてちゃんと治療しなきゃ……ねぇ?」


 見抜かれていた事が悔しかったのか、漆黒のリリィはギリッと唇を噛む。


 怒りと憎悪に染まる瞳。


 それは、醜く歪むけど彼女が大事に思う人を…魔王を守りたいという思いが伝わる。


 そう、貴女はそんなにも……。


 けれど、私は勇者だ……その思いに沿う訳にはいかない!


 『渡さない……貴様なんかに!』


 漆黒のリリィは、更に翼から無数の棘を放つ!


 「無駄だよ」

 

 スパァン!


  キキィン!


 聖剣に掛かれはまるで小枝でも払っているようなもので、もはやこれはほとんど捨て身としか思えない攻撃。



 「もうやめて! 貴女じゃ私に勝てるわけな______」



 『ライトニング!』


 「?!」



 大量の棘が一気にまるでカメラのフラッシュのように光って、一瞬だけ視界が奪われる!



 「______しまっ」



 閉じた暗闇に感じる頬に触れる冷たい手の感触!



 『存在したことを後悔して二度と目覚めるな』



 _________呪われてあれ_________

 

 

 重ねられた唇が呪う。



 ようやく開けた瞼に映ったのは、紫の瞳。



 すぐに振りほどこうとしたのに、体が動かない。

 

 視界が霞んで真っ暗になって……私は闇に沈んだ。




------------------------------



 『かはっ! けほっ! ビチャビャ…』



 内臓がぐちゃぐちゃになったような感覚…肺からこみ上げる血の味。


 体勢を保てず地面に落ちる……やった……でも長くはもたない……!


 ワタシは、辛うじて意識を保ちぼやける焦点を合わせて横たわる白銀の翼と地面に広がるその髪を睨みつける。



 勇者キリカ。


 

 捕らえた……このワタシが……!



 『早く……とどめを……!』



 ワタシは、羽を一枚抜き魔力で棘に変化させそのうつぶせに倒れる背中から心臓を一突き出来るように振りかぶる!



 ああ……この時をどれだけ待ち望んだ事だろう……これでようやく魔王様……ご主人様を解放してさしあげられるのね……!



 『コレで終わり……!』



 どん!


 

 『?!』



 振り下ろそうとした側面からの激しい衝撃にワタシの体が弾き飛ばされ、近くの木に衝突する!



 『かふっ!? はぁ……はぁ……! 蹴り……飛ばされた……?』


 

 ふわり。



 倒れる勇者キリカを守るように佇む白のローブに白髪の赤い瞳の小さな子供。


 『……その尾……その鱗……リザードマンのハーフ……アルビノか……!』



 この世界において多種多様な種族との婚姻が珍しくないとは言え、あまりにもかけ離れた種との交雑はなにかと不都合も多い……その一つがこのように色素を失ってしまうアルビノと言う現象だ。


 アルビノは体中の色素が抜けるだけでなく、母体で体を成すことも出来ぬこともあるくらいに生命力も弱く脆い。


 ……恐らく、この子が欠損も無く体を成せたのは運が良かったほうだろう。


 さっきから気にはなっていたけど、何故こんな小さな子が勇者にくっついているの?



 でも、そんなの関係ない……邪魔をするなら容赦なんてしない……!



 『そこをどきなさい……!』



 「……」



 アルビノの子供は、こちらの言葉など無視して横たわる勇者に縋り付く。



 『どけと言ってるの……! いう事が聞けないならまとめて殺すわ! ワタシは本気よ!』


 「……」



 身じろぎすらせずこちらに背を向ける子供に、ワタシ痛む体と吐き気をこらえ羽を広げて見せる!



 『コレは冗談じゃないの!』


 「……」


 勇者の傍らでへたり込んでいた子供は、無言のまますっと立ち上がってこちらに振りむいた。



 『……君……!』



 暗く深い赤い瞳。


 子供らしからぬ妖艶な笑みを浮かべるその子に向け、私はなけなしの魔力を翼に集め広げる!



 「『呪い』とは考えたな……精神の不安定なところにコレはキツイ」


 

 笑みを浮かべる可愛らしい声は、その見た目より大人びた口調でそう言うと一歩また一歩とその歩をこちらにすすめる。



 『……お前は……まさか!』



 あり得ない!


 そんな筈はない!


 いくらそう思い込もうとしても、目の前の脅威は微笑みながら歩てい来る。


 

 「お前らと来たら、そろいもそろって邪魔ばかりしやがって」


 『消し飛べ!』



 私は、魔力を乗せた羽を無数の棘に変え勇者もろとも蜂の巣にすつもりで放つ!



 「コード:3320622」


 小さな口がそう唱えると、無数の棘はふっとその存在が跡形もなく立ち消える。


 まるでそこに、初めからそんなものが無かったみたいに。


 『……その力は……どうして彼方がここに! それにその姿は!』


 「コイツはうちの双子のニューフェイスだ___可愛いだろ?」

 


 その人は、愛しそうに自分の体を抱きしめる。


 「あはは~なんだよリリィたん~久しぶりだってのにつれねぇ顔しちゃってさぁ、虐めたくなるじゃねーか?」


 

 ああ、間違いない。


 この、まるで人を小ばかにしたような喋り方に唇の左端が先に釣りあがる特徴的な笑み。


 もう二度と会いたくないと心の底から願っていた忌々しいあの男。


 あり得ない。


 いいや、あり得ない事など成し得ない事などこの男にはない。


 ……忌々しいほどに白々しく、我々と世界は等しくその手の平で踊らされているに過ぎないのだ。


 

 『……ごほっ! コプッ!』



 私の口から鮮血だ零れ、膝をつく。


 「あっ! ほら、無理するから~お前の力じゃ勇者に立てつくなんて無理だよ……例えその命を対価に呪いをかけたって無駄だ」



 丸みを帯びた顎でしゃくって見せた先の勇者キリカの髪が、白銀から黒へ背中の羽も徐々に引っ込み暴走していた魔力も成りを潜める。


 

 「凄いな……精神を崩壊させるくらいの悪夢を見せられている感じだと思うのに、もう持ち直すのか……ハイパーポジティブ過ぎてテラワロスww」


 けらけら笑うあどけない横顔が次第にぼやけ始める……呪いを勇者は乗り越えた……対価として私の命は尽きる……もはやこれまで……。


 地面に倒れる私の体から魔力が枯渇して、精霊本来の姿をさらしてしまう。


 「お? なんだよ、やっぱそっちのが可愛いじゃん? 無理してでかく見せなくてもさ~」


 ひょいと拾われ、さも着せ替え人形でも扱うみたいに手の平に乗せられる。


 

 そう、これが私の本来の姿。



 普段は、ご主人様の隣に並びたくて人型と同じ大きさに見せていただけ。



 『……はっ……』


 息が詰まる。


 ……呼吸が儘ならない……視界が霞んで色を無くす。


 ご主人様……。



 ____うちゅ。




 柔らかな感触。


 ソレに触れられた瞬間、遠のきかけた意識が一気に覚醒する!



 『……! !!』



 逃れようにもがっちりと胴と翼を掴まれ身動きが取れず、その舌は口の中を弄ぶ!


 

 ガリッ!


 「っ___てぇ」


 『放せっ!』



 精一杯すごむ私。


 それを鼻で笑うと、彼はようやく私を解放する。


 飛びのき、距離を取る!


 体が軽い、魔力も回復して呪いの対価も解除されている……忌々しい!



 「この前、折角直してやったってのに粗末にしやがって! 自分を大事にしろよ? お前はアイツのお気に入りなんだから」



 光の無い暗く赤い瞳が笑う。


 

 「さっさと行けよ? 勇者が魔力のコントロールを取り戻したんだ、お前の下僕がいつまでもギャロウェイを足止め出来ると思うか?」


 『……その前に勇者を殺す!』



 私は旋回して、勇者もろとも吹き飛ばすつもりで魔力を_________!



 「あーそれ無理だぜ?」


 『そんなっ! どうしてっつ??』


 魔力が集まらない!


 いいえ、勇者に向けての攻撃が出来きない、何かが構築を阻害する!



 「悪いな、一次的に阻害させてもらう……俺も……うにゅ……ちょっとねむくてさぁ……」



 不意に頭をゆらゆらと揺らしだした彼は、うつらうつらともう殆ど意識を保てないのかぺたんとその場にへたり込んで『くぁあ~』っとあくびをして目をしばたかせた。



 「ぁ~……まだちっせぇのに……無理させたな……」



 ぶつぶつと呟くその顔は、先程までのしっかりしたものではなくあどけない子供の物へと『戻って』いく。


 『ねぇ、答えて……彼方はご主人様の事どうしたいの? 何故、勇者にばかり肩入れするの?』



 ワタシの問いに、明るさを帯び始めた赤の瞳は笑う。



 「俺は、魔王も勇者も俺の可愛い毛玉たちも……みーんな愛してるだけだよ? ……もちろんお前もさ」

 


 背筋が凍る。


 恐らくその言葉に嘘はない。


 ええそう、彼方は全てを愛している。


 ただそれは、決して全てを救えるのとは違う!



 『賢者……ワタシは、ご主人様を守る為ならたとえこの身をご主人様の手によって八つ裂きにされたって構わない……それが貴方の意思に背く事でこの世界が滅ぶとしてもあの方さえ無事ならかまわない』



 「……」



 辛うじて瞼を開けるのがやっとの幼子は、ふらふらと頭をふる。


 可愛らしい子。


 きっと、この子は賢者の血族の中でもっともソレに近い力をもっている……だからあの人がリンクした。



 倒れ込むその体を、私は咄嗟に姿を変えて支える。




 「……うにゅ……リリィたん……やさしぃ……」


 『別に彼方のためじゃない……勘違いしないで』


 「ホント……リリィたんのそゆとこ、あいつ好み」


 『黙って』


 言いたい事だけ言って、その瞳を閉じて寝息をたてるその子をそっと勇者の側に寝かせる。


 勇者キリカ。


 殺したい。


 今すぐに。


 ……けれど、もともと攻撃につかえる能力が殆ど無い私にとって魔力が封じられた状態では手が出せないし、出来れば子供を殺すような真似はしたくない。


 私は背を向け、飛びたつ。


 早く私の下僕を救いに行かねばあの盲目なまでに勇者を愛する狂戦士は、かつての仲間でも手にかけかねない。



 『忌々しい』



 所詮、こうなる事も彼方の手の内なのでしょう?


 賢者オヤマダ・コージ。

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