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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
フェアリア・ノース
26/54

フェアリア・ノース③

 巨人……?



 その男は、まるで子供のころ切斗に読んであげた童話の中に出てくる巨人をそのまま具現化したような大男。


 メキメキと巻き戻される木々に肩を並べるその大きさは4mを越えてる!



 「はなせっつ! はなすんだなっ!!」



 摘まれたままのRは、めちゃくちゃに暴れて尻尾も使ってべちばちとその大きな腕を叩く!



 「おうおう~粋がいいなぁ! やっぱ、娘っ子はこんくらい元気な方がめんこいべ~」



 からからと気風うよく笑った人のよさそうな顔。


 あ。


 多分この人悪い人ではない。


 私は、どこか見覚えのあるその雰囲気に少し肩の力が抜ける。



 「ん~、めんこいな~♪ おめぇ、いい女になるぞ?」



 大男はまるで小動物にするように、デレデレとRのぷにぷにほっぺをつつこうと太い指を差し伸べる。



 「ふぅうううう!! ガリッツ!!」


 「お?」



 毛を逆立てたRは、迫るその指先に喰らい付き牙を突き立てる!



 「ふぉでは、ぼんなじがうんだなっ! おろごになるんだなっつ!!(おで、女ちがうんだなっ! 男になるんだなっつ!!)」


 ふーふーっと、激おこなRに噛まれたままの指から血が溢れようというのに痛覚などまるでないのか大男は更にでれでれと口元を緩める。



 「ん~いいぞぉ? 腹減ってんのか? おらの指うまいか?」


 「ふぅううう!!」


 全く話の噛み合ってしない大男とRの様子に、ため息をついたギャロが背後からそっと私の肩に触れて下がるように言った。


 「やっぱりお前が来たか、ダッチェス」


 「ああ……久しぶりだな赤耳」


 Rに自分の指を喰らい付かせたまま、大男___ダッチェスは答える。


 「……来ると思ったよ、アンバーの隣にお前がいない筈はないからな……」


 ギャロの言葉にようやく顔を上げたダッチェスは、首を軽くコキンとならして私をじっと見た。


 「赤耳。 おめぇが付いててなんてぇ様だ?」


 ダッチェスはかぶりつくRの口から指をぬいて下してやると、乱れていた癖の強い栗色の髪を首から下げていた革の紐で無造作に束ねスッと目を閉じる。


 「どうしてもやるのか?」


 「ああ、こーなっちまたんだ……おめぇらは……『勇者』は殺す」


 ギャロの問いに、見開いた栗色の瞳は先程までRに向けていた優し気な光はない。


 なんて殺気!


 思わず剣を握る手に力が入っちゃう……!



 「下がれ、キリカ……コイツは俺がやる」


 「ちょと! なんで?? 私だって____」


 

 そう言いかけて、はっとする!



 「もしかして……彼方も、私の……仲間なの……?」



 そう問う私に、ダッチェスは顔を曇らせる。



 「こりゃ~噂は本当だったか……本当になんもかんも忘れちまったのか勇者? おめぇはそれでいいのかよ赤耳!」



 「……うるせぇ!」



 ギャロは、ダッチェスの問いになど答えず地を蹴りその顔面に炎を乗せた拳を打ち込む!



 問答無用の不意打ち。


 顔面を襲った爆発した炎の衝撃は、まともに喰らったらその首を吹き飛ばしてもおかしくない……筈だった。



 ぎりっ!


 ギャロの腕を掴む巨人の大きな手。


 あの逞しいギャロのうでも、巨人の手の中ではまるで小枝のよう。



 「ちっ、ぐっ!」



 掴まれた腕は、ぎりぎりとその握力で締め上げられてギャロの顔に苦痛が浮かぶ!



 「ギャロ!!」


 「手ぇ出すな!!」



 一歩踏み出そうとしたところで、間髪入れずギャロが吼える!


 「でもっ!」


 「そこで大人しくしてろ!」


 

 じりっと踏み出した私に、声を荒げ金の瞳が睨みつけた……ギャロ?


 どうしたんだろう?


 さっきから動きにキレがないし、表情に余裕がない?



 「ねぇねぇ!」


 私の側に、解放されたRが駆け寄る。


 

 「R! 大丈夫だった?」


 「ん! おではだいじょぶなんだな! それより、おいたんが……」



 Rは、なにか迷っているのか口をあうあうとさせながら私を見上げた。


 

 「なに? ギャロがどうし_____」




 どごぉおおおん!



 凄まじい轟音。



 Rに気を取られてた私が慌ててそちらを見ると、そこには地面を割りそこに拳を突き立てる巨人の姿…まさか!



 「動きが鈍ぃぞ? 赤耳~!」



 巨人ダッチェスは、突き立てた拳に向かって話しかける!



 そんな……あの拳の下にギャロが!?


 此方からは姿が見えない…ひび割れた地面にめり込んでいるとしか思えない!


 変だ。


 このダッチェスと言う人、確かに魔力も高いしあの体の大きさ……強い。


 それは間違いない……でも、ガイル君には及ばない筈なのに!



 魔王と婚姻してその魔王の力を少なからず扱える狂戦士であるギャロの弟のガイル君。


 勇者である私と婚姻したギャロは、そのガイル君と互角以上に渡り合えるくらい強いはずなのに何でこんな苦戦を?



 「どうした赤耳~? 得意の狂戦士にはならねぇだか? オラも舐められたもんだぁ」



 ダッチェスは、地面にめり込ませた拳を引き抜き空いた穴にさらに拳を振り下ろす!



 「ギャロっ!」

 「だめっ! ねぇねぇ!」


 駆け寄ろうとした私の足にRがしがみつく!



 「ぁ、R! 放して! 危ないよ!」


 「だめなんだな! いまのねぇねぇが行っちゃう方があぶないんだなっ!」



 ぎゅーっと、しがみつくRの所為でうかつに動けない!


 

 そうこうしている間にも、ダッチェスの拳が何発も大地の罅に打ち込まれ衝撃でこっちにまで大きくひずむ!



 「いい加減にして! このままじゃギャロが! ギャロ! どうして狂戦士にならないの!!」



 「ならないんじゃなくて、なれないんだな! いま、ねぇねぇぶわーってしてるからおいたんとリンクが不安定になってるんだな!」


 必死なRの顔。


 ぶ、ぶわー? 


 リンク?


 不安定?


 よく分からない事をいうRに私は困惑する!



 「おいたん、いま狂戦士になったら暴走するんだな! そんなんじゃあのデカブツ倒せないしきっと……そんなことしたら殺されるまで止まらないんだな!」



 「そんな、それならなおさら私が戦わなきゃ! とにかく止めないと!」


 「いま、ねぇねぇは強すぎるんだな! 全開なんだな! 二人とも殺しちゃうんだな!!」



 殺す?


 私が二人を…ギャロを?


 「ねぇねぇ! 聞いて! 今この世界でねぇねぇより強い存在はないんだな! 誰もねぇねぇには敵わないんだな! だからねぇねぇは自分の力ちゃんとコントロールしないと、みんなみんな殺しちゃうんだな!」



 私より強い存在はいない。


 それは、以前ギャロも言っていた事。


 強すぎる。


 だから、戦わせない。


 力をコントロールできない私は____殺してしまうから。



 ギャロの大事な人を。



 ガイル君やダッチェスやアンバーを。


 「ねぇねぇ、ここはおいたんにまかせて行くんだな!」


 「い……く?」


 小さな手が私のスカートのすそを引く。


 「精霊獣とこいくんだな! ねぇねぇはその為にここにきたんだな!」 



 ルビーの瞳は力強く見上げる。



 「でも……」


 「……今のねぇねぇは、おいたんの助けにはならないんだな」



 なにも言い返せなかった。



 Rの言う通りだ、どんなに力があっても使いこなせず害にしかならないのら意味がない…ギャロを苦しめるだけ…!



 精霊獣。



 私の中のこの仔達を解放できたなら、この力をコントロールできたなら、ギャロにあんな苦しそうな顔をせずにすむだろうか?



 「早くなんだな!」



 そうだ……行かなくちゃ……。


 その為に私はここに来た…大丈夫、ギャロは死んではいない……感じるから。



 私は、右の首筋に触れる。


 熱を帯びるその婚姻呪は、伴侶が生きている証。


 

 「分かった、いこうR!」



 Rの手を引いて、私はすっかり『巻き戻された』森の中に飛び込む!



 「ね、ねぇねぇっ!」


 私の歩幅に合わせようと懸命に走るR…けど遅い!



 「R、おんぶしてあげる! 乗って!」


 「ん!」


 

 Rは私の背なかに飛びつき、ぎゅっと肩に手を回す!



 「ねぇねぇ! どこ行くかわかってるんだな?」



 「うん」



 私は答える。


 わかる……この感じ……あの水脈で……ウンディーネをみつけた時と同じ。



 こぽこぽと下腹が熱くなって教えてくれる……そう、そこがあなたのあった場所なのね?



 「ねぇねぇ____」



 耳元でRが何か言うけど、私はわき目もふらず森を駆け抜ける。



 急がなくちゃ、ギャロが、『彼女』が。



 「!?」



 駆け抜ける木々の隙間から殺気!



 ザシュ!



 キィン!



 「みぎゃっつ!?」



 精神がそれを認識する前に、反射的に私は回避する!



 「っ! 誰!?」



 飛びのいた地面には、30cmはありそうな黒光りする鋭い棘のような物!



 私は、背中のRが無事なのを確認しつつ私は辺りを見回する。


 ……静かだ。


 聞こえるのは、深緑の木々がさわさわと風に揺れる音……けど!


 微かに聞こえた風を斬る音!



 がしっ!



 私は、顔面目がけて飛んできた黒い棘を寸前の所で右手でつかみ飛んできた方へ思いっきり投げつける!


 当たった!


 手ごたえを感じで、私は剣を握る。



 『あの一撃を受け止めるなんて、やはり貴女は化け物ね』


 


 唐突に木々の合間に巻き起こる黒のつむじ風、その中に舞う漆黒の羽根の中からまるで空間に溶けるような声。



 「R、降りて……隠れていて!」


 「ん!」



 私は、つむじ風から目をそらさずそっとRを背から下して剣を構え直す。



 『その白銀の髪に翼、血のように赤い目……女神クロノスの力……忌々しい……』



 ふっと、舞い上がる渦が止みそれは私の前に姿を現す。



 女の子……?


 年の頃は切斗と同じくらい14・15と言った頃だろうか?


 

 褐色の肌に深い紫の瞳。


 少し癖のある黒髪をツインテールに分け、その背中には漆黒の6枚くらいはありそうな翼。


 見た目には優しく微笑していはいるが、その隠す気のない禍々しい魔力と私に対する敵意が私に彼女が何者なのかと容易に想像させる。

 


 ふわりと、まるでその子の辺りだけ重力を失っているかのように宙に浮く姿を見るに恐らくこの子は精霊の類だとは思うけど……!



 『何を驚いているのかしら?』


 

 妖艶に微笑するその姿に違和感。


 そう聞かれれば素直にそう言える。



 だって、目の前のその子の格好きたら露出の高い秋葉系メイドコスに身を包だガングロツインテールの小悪魔って感じなんだもん!



 『我が名はリリィ……勇者キリカ、我が主をたぶらかす貴様を今ここで殺す!』


 憎悪と殺意。


 その可愛らしい見た目に似合わない凄まじく禍々しい魔力が噴き出すのに、何だろうこのツンデレ系メイドカフェ感!


 リリィ。


 ギャロの言ってた魔王の側近『漆黒のリリィ』…アンバーを下僕にしてこのフェアリア・ノースを実質支配している。


 『許さない……我が主の害悪となる貴様が……それでもなお求められる貴様が!』


 可愛い見た目とは違って、人を下僕にしたり支配したり……やってる事はえげつないし私個人に対してもかなり含む所があるみたいだけど例のごとく私は何も思い出せない。


 だからなのかさっきらこの子が言ってる私に対する侮蔑の言葉や殺気を浴びてもいまいちぴんと来ないし、怒ってる顔とか不機嫌な時のガリィちゃんみたいで可愛いとさえ思う。

 

 『貴様だけは、我が主の目に触れる前にこの手で殺す! このリリィの命に代えても!』

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