フェアリア・ノース②
「ねぇねぇ!?」
「大丈夫!」
私は、脱力するギャロの腕を手繰ってその逞しい腰のあたりを抱きしめた!
「どこがだいじょぶなんだな!? いろんな意味で微塵んもだいじょばないんだなっつ!!」
Rに言われてはっとする。
そうだった!
確かに、コレで着地点の精霊達への被害は免れたけど今度は私達がヤバいって言う!
「ど、どうするんだなっ! やばいんだなっ!」
「まって! 考えてるからっ! しっかりつかまってて!!」
みぎゃああ! っと、Rが叫びながら私の足にしがみ付き尻尾まで巻きつける!
どうしょう!
どうしょう!
そ、そうだ!
私の中いる仔の中で、誰か手伝えそうな精霊獣がいないか聞けば!
落下する中、目を閉じて集中する。
……誰か……ウンディーネ?
答えてくれるのはやっぱりウンディーネだけ……私は兎に角なんとかならないか、他の精霊獣の力が借りれないか聞くけど……!
「だめなんだな! 今、ねぇねぇが話せるの、ウンディーネだけなんだなっ!」
しがみついたままのRが、声を荒げる。
「昨日、おで、言ったんだな! ウンディーネ以外はみんな寝てるんだな!」
そうだった。
私の中の精霊獣たちは、ウンディーネを除き全員が眠っている。
それらを起こし解放して、その力と精霊石を集めるって、その為に属性ごとの聖域へむかってたんじゃない!?
ぁ、でも、確か、炎と雷は力だけは辛うじてつながった筈……!
炎と雷と水。
なんとか取り出せるこの三つの属性でこの落下の衝撃を和らげる術を考える!
爆発を……こまめに爆発を……でも私の魔法って、精霊獣に頼るから力だけつながった状態で何処までコントロールできるか分からない!
危険だ!
ウンディーネで水を張ってその中に飛び込むことも考えたけど、この速度では水面に接触したときの衝撃に体が持たない……Rが!
そう考えると、必然的にギャロのやろうとした方法に辿り着く!
……そんな……それしか方法が無いの!?
「ねぇねぇ! それでいいんだな! 水に飛び込むやつ!」
まるで……ううん、私の考えていることが分かっているっぽいRが叫ぶ!
「飛び込んで、おでがこわれたら『巻き戻して』ほしいんだな!」
その言葉に私の頭がフリーズする。
「ねぇねぇは、女神とおなじのできるんだな! おでがぐちゃってしたらすぐに巻き戻してくれたらいいんだな!」
は?
ぐちゃ?
こわれる?
『巻き戻す』?
私の脳裏に、水面に叩きつけられて赤いジャムになって溶けて染まるRの姿が浮かぶ!
「ぁ R !」
「だいじょぶ! ねぇねぇならうまく戻せるんだな!」
赤い瞳には何の恐れも浮かべていない……どうして?
どうしてそんな信じ切った目で、私を見れるの?
私は……私は君が思っているような勇者じゃない『彼女』とは違う!
「ちょっと、痛いだけなんだな! おで、男になるからこれくらいがまん出来るんだな!」
「黙って! 上手く戻せるとかそんな問題じゃないから!」
「……ねぇねぇ」
怒鳴った私に、Rはぎょっとして顔を伏せる。
怒鳴ってごめん……けど!
私はギャロの腰から徐々に腕をずらして、上半身まで移動して抱え込む。
ギャロ。
きっとギャロだって、精霊を吹き飛ばすのは気が引けたんだろうけど私やRの為にしようとしてたんだよね?
「ごめんなさい……!」
左の首筋の婚姻を示す印から強制的に魔力を吸い上げられて昏睡している青白い顔が_____どくん。
あれ?
その顔を見た瞬間、私の心臓が一回だけ強く鼓動する。
やだ、私ったらこんな時までお腹が空いて_____ジジジ。
ぇ……?
一瞬、視界にノイズが入ったみたいに画像が?
ジジジジジジジジジジジジジジジ!
見つめるギャロの顔に、それは重なるように映り込む。
黒く短い髪。
まるで生気のないうつろな黒い瞳。
見覚えのある白いシャツを血に染めたその顔はギャロやガイル君より幼く見えたが、まるでコピーでもしたみたいに同じもの。
「ぁ……やぁ……!」
湧き上がる感情。
『また』この人を失ってしまうかもしれないと言う、『恐怖』が自分では抑え込めない『絶望』が心を支配する!
「やっ、やだああああああああああああ!!」
迫る地面に私は、ギャロを抱えて_______ばさっ!
地面に激突するはずだった体が、激しい力でガクンと上へと突き上げられその瞬間あたりの木々が凄まじい力でなぎ倒されたと思ったものつかの間。
私達は地面に叩きつけられる……けどそれは十分に勢いを殺されたもの。
ズザッツ!
「いったっ! R! R! 大丈夫!?」
私は、抱えていたギャロを放り出して足にへばりつくRを確認する!
「うう、ん! だいじょぶなんだな……」
Rは足と腕を擦りむいたらしく、血がにじんでいるけど……良かった無事だ……!
私はRの小さな体を抱きしめる。
「良かった、本当に……!」
ふわり。
その時、白いふわふわのRの髪に一枚の羽根が乗る。
鳥の羽?
私は、羽を拾おうと手を伸ばした_____パン。
指が触れた瞬間、羽はまるでシャボン玉でも割るみたいに弾けて消えた。
『次は、じぶんでやるんだよ?』
それは頭の中に響く、声とは判別しがたい何か。
「ねぇねぇ! 見て!」
ぎゅうぎゅうの腕の中から、ようやく顔を上げたRが指を差す。
それは羽。
空から大量の羽がなぎ倒された木々の上に降り注ぎ、それが枝に触れると…。
べきっつ。
ばきっつ。
ぼこっつ。
倒れていた木々は、まるで生物のように蠢きはじめ無残に土の上に放り出された根がうねりもう一度大地に突き刺さる!
崩壊した森が再生されている…?
ううん。
コレは巻き戻されている……魔法詠唱なしに私の指示なしに勝手に?
「うわぁ~!」
Rがするりと腕から抜け出して、ふわふわと舞う羽に手を伸ばす。
パン!
細い指先が羽に触れると、やはり羽は弾けて……あ!
Rの腕、肘から派手に擦りむけていたのにそれが一気に治る。
すごい……この羽、どこから?
舞う羽の中でまるで羽に合わせるようにくるくると踊るように回転していたRが、へたり込んでいた私の膝元にぴょいっと飛びつく。
「ねぇねぇ、綺麗……女神様みたいなんだな……」
うっとりとした顔で、私を見上げるR。
「ふぇ?」
突然、『綺麗』だなんて言われてちょっと声が裏返る。
…嬉しいけど、『女神様』なんて言いすぎじゃないかなっ!?
「あ、ありがとっ…けど女神は流石に_____」
がしっ!
その時、突然背後から私の肩を熱い手が掴む!
「何をしている!!」
え? ギャロ?
荒げる声に振り向けば、そこにいるのは当然ギャロだけど……どうしたんだろう?
「今すぐヤメロ!」
「え?」
ギャロは、私の肩を乱暴に揺らす。
「な、何? どうしたの? やめろって??」
「分からないのか?!」
その顔は、強張っているような……お、怒ってる?
「ちょ、ちょっと待って! 放してよっ!」
私はギャロの手を払い距離を___ん?
後ずさった時に、乱れた自分の髪が私の視界に入ったんだけどっ?!
私は、まさかと思って恐る恐る毛先を一つまみしてみる。
真っ白。
へ?
「うきゃああああ!!! 白髪!! 白髪になってるぅううう!!」
「落ち付けキリカ! 白髪じゃない! 属性の影響による変色だ!」
「そうなんだな! ねぇねぇのはきれいな白銀なんだな!」
テンパる私をギャロとRが諭す…は、白銀?
「とにかくヤメロ! 今すぐそれを引っ込めるんだ!」
髪が白くなったことなんて大した問題ではないと吐き捨てたギャロは、なおも私に言う。
「ぅ、ぁ、あの、一体、何をヤメロって?」
ポカンとする私にもとに、Rがやってきて見上げる。
「ねぇねぇ、ホントに気付いてないんだな?」
Rは、ふわふわと降る羽をちょんとつついて弾けさせた。
「この羽ね、ねぇねぇが背中に生やしてぶわってしてびゅんてしたからおで落ちたけどぐちゃってなんなかったんだな!」
は?
え? なんて??
私、髪を白銀に染めて自分の背中に羽生やして飛んだって事??
なにその、今日日アニメでもお目にかからなようなベタでご都合主義な展開!?
キリトが聞いたら鼻で笑われそうだよぉおお!?
羞恥心。
いくら私が異世界に召喚された勇者だからって、こんなベタな厨二設定を身をもってリアルに感じて身もだえた!
「コレは、『女神の翼』だ。 女神クロノスの祝福を受けた勇者に扱える力の一つ……だが……このままでは奴らに気付かれる!」
ギャロは鼻をひくつかせ、周囲を警戒し始める。
奴ら。
焦るギャロの口調から見るに、きっとこのフェアリア・ノースを実質支配している魔王の側近『漆黒のリリィ』とその配下になってしまった私の仲間『アンバー・ルル・メイヤ』の事だろう。
私の仲間。
彼女事は、ほとんど思い出せてはいないけど共に旅をしたであろう大切な仲間が道を踏み外したというなら私は勇者としてできる限り救いたい。
それは、アンバーの話を聞いた時にまるで湧き上がるみたにこみ上げた感情。
この気持ちは、『勇者キリカ』の物だろうか?
それとも……。
「ねぇねぇ! どうしたんだな?? どんどん魔力が溢れて羽がぶわってしてるんだな! 止めるんだな!」
Rに言われて私は自分の状況を把握する……背中、背中が熱い!
「キリカ!」
がくっと膝を着いた私を抱き留めたギャロは、背中から吹き出す様に羽を散らす翼を無言で捕まえる。
「ぎ ギャロ……?」
「キリカ、これへし折るぞ」
「ぇ?」
「俺が吸い上げるには魔力の量が多すぎる……大丈夫、コレは魔力で具現化している物だから痛くはないはずだ」
掴んだ翼の根本に力が込められ、ぎぎぎっと軋む……痛くはない。
……コレは、ギャロの言うとおり魔力で造られいるんだ……けどっ!
「やぁ……こわいよ!」
怖い。
まるで、小さな子供みたいにすがりついた私。
これは、私にとって痛くないからと腕や足を切るぞって言われているの同じだもん!
へし折るのがギャロだからって、どうぞやってなんて言えない!
「なーにやってんだぁ? 赤耳!」
メキメキと、音を立てながら巻き戻される木々の中から踏み出した男の声。
木のきしむ音にかき消されていたから、音にさといはずの獣人のギャロもその存在がこんなにも間近に迫っている何んて気がつかなかった。
「みぎゃああ!! おいたん! ねぇねぇ!!」
その大きな手が、小さなRのローブの襟首をまるで子猫でも摘むみたいにむんずと掴んでぷらぷらする!
「ぁ、R!」
私は、ギャロを押しのけ体制を立て直す!
「あんた誰!? Rを放して!!」
手のひらに聖剣を召還し、構えた私をぬっと見下ろす男は……え?
大きぃ。




