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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
精霊獣の見る夢は
17/54

精霊獣の見る夢は③


 「うにゃ!? ぱぁぱぁ! なんでおいてくの?? みんなでお城に帰ろうよ! やぁ!!」



 魔法陣が光り輝くと、抱えられたガリィちゃんがいやいやと尻尾を膨らませて足じたばたさせたけどそんなのお構いなしに二人の姿は光の中に包まれていく。




 「…嫌い! ねぇねぇなんか大嫌い! 絶対に許さないんだから!」




 眩い光に包まれる瞬間、スカイブルーの泣き腫らした瞳がギッと私を睨んでフッ消えた。


 

 「ぁ_____」


 

 伸ばされた小さな手が虚空をかく。



 「泣くな…自分で決めたことだろう?」


 

 ギャロの大きなてが小さな肩に乗ると、卵はくっと唇をかみしめてコクンと頷く。 



 どうしてこんな事に?



 

 私はこの世界を救くいたい。


 そのためには魔王を倒さなくてはならない。


 だから________。




 『本当にそれでいいの? きっと後悔するよ?』



 コポッっと腹底から声がする声はすべてを知ってるそんな口調。



 「キリカ? どうした? 気に病んでいるなら_____」


 

 ぼーっとしていた私の眼前に心配そうな月。



 「ギャロっ、私、」



 あんな小さな子が涙をこらえて振るえているのに、喉が詰まって言葉が出ない。


 ああ…私ってなんて________。



 「ふぉんと、なっさけないわねー☆」

 


 椅子に腰かけ優雅に足をくみ紅茶のティーカップに触れる真っ赤な唇が、微笑する。



 「フルフット! 貴様!」


 「だぁって、ホントの事じゃない? 『前』の勇者ちゃんだったらこんな小さな子に悲痛な決断をさせるなんて考えられないわ~」



 牙をむき出すギャロにさも面白いとフルフットさんは笑う。



 「前の私…?」



 「ええそう、貴女が初めてこの世界に来た頃…記憶を失う前の『勇者キリカ』彼女は自他ともに誰もが認める『真の勇者』だったわん☆」



 「真の勇者…同じ私なのに…!」



 「あーしから言わせれば、今の勇者ちゃんと前の勇者ちゃんは別人よ」



 カチャン。


 っと、ティーカップを置いた真っ赤なマニキュアの指が頬づえをついて見上げる。


 その深緑の瞳はまるで、私の事を本物かどうか疑うよに上から下まで探るように見られて無意識に体は身震いした。



 別人…私は…今の私には記憶がない。


 と言うか、私の『勇者キリカ』としての過ごしたらしい記憶は『賢者』によって封印されていてほとんど何も思い出せないのが現状。


 

 ウンディーネの話しぶりによれば、私の中にいる彼らの力を借る事が出来れば少しづつは『思い出せる』……そう…思う…そうすれば…。



 私は、ねぶるようなような深緑の瞳を正面から見据える。



 「私は_______」



 くらり。



 あ。



 「キリカ!」



 目眩がしてふらついた私に、すかさず伸びばされた腕が抱き留める。



 「あらぁ? またかしら? 不安定な肉体に無理に雑な婚姻契約なんかするからよ? こんなんで世界なんて救えるのかしら?」



 何もかもが未熟だ、と真っ赤なルージュの唇があざ笑う。



 不安定とか婚姻契約の事については、よくわからないけど言い返せない…今の私はきっと前の私には遠く及ばないんだから…!



 「全くこれだから_____」



 フルフットさんが容赦なく言葉を続けようとしたとき、その優雅に腰掛ける傍らにてくてくと卵が歩みよった。



 「やめるんだな」



 少し腫れたルビーの瞳が、目いっぱいキッとフルフットさんの深緑の瞳を睨みつける。



 「あら?」


 

 フルフットさんの唇がニッとあがって目を細めると、椅子から立ち上がってそのままフワリと膝をついて頭を垂れた。



 「はい、お心のままに小さな賢者様」



 「…!」



 『小さな賢者』そう呼ばれた卵は、びくっと体を震わせる。


 そんな卵の様子に顔を上げたフルフットさんは、ワザとらしく小首をかしげてほほ笑む。



 「んふ☆ 驚くことじゃありませんわ賢者様、我らリーフベルがお仕えするのは千年も前から【賢者オヤマダ】ただ一人…その力を受け継ぐあなたにも同じ忠誠を誓いますわ☆」



 そういうと、軽くウインクしたフルフットさんは床から立ち上がりざまに卵の小さな手をとった。



 「わっ! なんなんだな??」


 「何って…お召替え…というかお洋服をと思って? んまぁ、あーしとしてはそのすっぽんぽんのお姿も愛らしくて好物だけどそのまんまじゃお風邪を召されましてよ?」


 「すっぽん?」


 「取りあえず今は息子の小さかった頃の服を出しますわん☆」


 そう言って、フルフットさんは卵の手を引いて茫然と立ち尽くす私のそばをサッとすり抜けていく。



 「ぁ…」



 すり抜けるローブの裾の感触に、思わずびくりとした私の耳元で声がする。



 「思い出しなさい。 自分が何者なのかを何をすべきなのかを」

 


 そのまま、二人連れだってドアから出ようとする背中。



 「…フルフット!」


 

 私を支えるギャロが低く唸りながらギラリとその背中を睨みつけると、フルフットさんはちらりとギャロを見て微笑する。



 「ギャロちゃん、この際だから言うけどちゃーんと勇者ちゃんとお話なさい。 妻として夫を思うのは分かるけど婚姻契約も完璧じゃないんだからね☆」

 


 バタン。



 ピンク色のドアが閉まり、フリルにぬいぐるみだらけの部屋には私とギャロが取り残される。



 「…ギャロ…」



 そう。


 私は、自分が勇者であること以外この世界の事もこれまでのことも何も知らない。



 じっと見上げると、月の瞳は視線をそらし『取りあえず座れ』と私の手を引いてティーテーブルの席につかせた。




 「さて…どこから話したもんか…」



 カップに紅茶をそそぎ、シュガーポッドのキャンディを進めながらギャロは正面にドカッど座りその長い深紅の髪をかき上げながらため息をつく。



 「…全部、ギャロが知ってる事全部教えて…!」


 

 喉がカラカラで絞り出す声にギャロは少し眉を寄せる。



 「なんて顔してんだよ…そんなに不安か?」


 「…だって…!」


 

 自分のの預かり知らない所で色々な事が起こり過ぎて、とてもじゃないけどついていけない…もはや自分が勇者である事にも自信が持てないよ…。



 情けない言葉がこぼれそうで、私はきつく唇を噛んだ。




 ガタン。



 四人掛けとはいえ、紅茶を飲むだけの狭い丸テーブル。



 その真正面に座るギャロが、その中央に手をつきこっちに身を乗り出す_______ちゅ。



 きつく閉ざした私の唇に、そっとギャロのが触れた瞬間。




 ぐぎゅうるるるるる~…。



 腹の虫が条件反射とばかりに盛大に鳴き叫ぶ!



 「ぁ ぅ…」



 キス。


 この世界での私の唯一の食事。  



 白米を食すがごとく事務的に行われるはずだったその行為は、先程の愛の告白で別の意味が追加されてしまっている!



 これまでになくらいの心拍数の上昇。


 動悸、息切れ。



 もう、恥ずかしいやら空腹だわで私の顔はとても切斗にお見せできる状態ではない!

 


 「な…なにすんのおおおおおお!!???」



 思わず召喚したグランドリオンを見るなりギャロが脱兎のごとく飛びのく!



 「わっ! なにすんだ!?」


 「アンタが何してんのっつ!!」


 

 切っ先を向けて睨む私にギャロはカクンと首をかしげて耳をぴこぴこさせる。



 「は? 妻が夫に口づけして何が悪い? それにもう昼だ、腹が減っているだろう?」



 訝し気に尻尾をふりっとして、さも当然と眉を潜めるギャロ。



 「だって、いきなりって…妻って、だからその、いや、それ以前にキスとか、それ、好きな人同士がね」



 心拍数が上がり過ぎて頭に血が上った所に空腹が止めをさして目眩がする!


 

 ああ、どうしよう!


 これから食事のたびにこんな思いを??


 こんなのある意味命がけじゃない!!



 じっと見据える月の瞳。


 只それだけでわかる…ギャロは、『勇者キリカ』を本当に愛している。


 けれど、それは『私』に向けられているものではない。



 「やめてよ…そんな目で見ないで!」


 「まぁ、落ち付けキリカ。 ほら、もっと喰っていいぞ? 空腹だといろいろマイナス思考になる」


 

 そういうと、ギャロはあっと言う間に間合いを詰め剣を構えていた私の手にそっと大きな手をかさねた。



 「こっち来ないでってば!!」


 「愛してる」



 振り払おうとした耳元で声。



 ざわっ、っと背中に悪寒が奔って私は押しのけられた手首を回転させ思わず剣の柄でギャロの顎を捉える!



 ガツンっと、鈍い音と共にのげぞったギャロに胴回し蹴りを加えるとその体は部屋の隅まで吹き飛びぬいぐるみと壁にめりこんでしまう。



 「はっ! しまっ_____ギャロ!」



 殆ど反射的に…いや、私は自分の中に湧いた明らかな『嫌悪感』でギャロを攻撃してしまった…!



 私は兎に角駆け寄り、瓦礫とぬいぐるみの雪崩の中を掘り返す。



 「ギャロ! ギャロぉ!」



 少し掘り返せば、すぐにその鮮やかな深紅の尾にたどり着いた!



 「…ごめん」


 「いや、別にいい」



 ギャロ尾は、少し不機嫌そうにふりっとしてその体をぬいぐるみと瓦礫の中ら起こす。



 「…そうだな…まずは話をしよう…」



 視線をそらした月は、立ち上がって私の手を引きティーテーブルの席へと連れ戻した。



 「さて…何から話したもんか…」



 真正面に座り直したギャロは、ひっくり返ったカップを取り換えて作り直した紅茶をそそいでから大きくため息をついて髪をかき上げる。



 ほこほこ湯気を立てる暖かな紅茶からは、鮮やかなドンドルゴの甘い香り。



 「キリカはコレが好きだったろ?」


 

 あれ? そうだっけ?


 うん、そうだった気がする。 



 「甘味だけでも味わう事ができるのは不幸中の幸いだったな」



 それだけいうと、ギャロはそらしていた視線を私に合わせた。



 「これから話すのは、お前が忘れてしまった部分あたる『勇者キリカ』の話だ」



 コポッ。



 その言葉に耳をそばだてるように私の腹の底で何かが蠢いた気がした。

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